※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。
人手不足が進む中、多くの企業で「生産性向上」は避けて通れないテーマになっている。
その中で、リコージャパン神奈川支社が挑んだのが、「業務の流れそのもの」を見直すプロセスDXだった。
プロセスDXの進め方の特徴は、業務の流れを可視化し、ムダや課題を洗い出したうえで、デジタルの力も活用しながら仕事の進め方そのものを変えていくことだ。
神奈川支社の営業部では、リコー ワークフロー革新センターと連携しながら、提案プロセスの可視化から最適化、デジタル化までを一気通貫で進めるプロセスDXに取り組んできた。
その取り組みは、営業現場における資料作成や情報収集の在り方に変化をもたらし、生成AIを活用した新たな業務スタイルの実践として広がり始めている。
今回、その中心人物である神奈川支社の高梨富雄氏と瓦亜衣氏(プロジェクト実施当時の所属)、そしてワークフロー革新センターから本プロジェクトを支援した大野智博氏に、取り組みの背景から工夫、得られた成果、そして今後の展望までを聞いた。
——まず、この取り組みはどのような背景から始まったのでしょうか。
瓦:「もっとお客様に向き合う時間を増やせないか」それが、今回のプロセスDXの出発点でした。
私が所属している営業部では、高い目標に挑戦する中で、日々の業務負荷が増していました。限られた人数の中で成果を出し続けるには、仕事の進め方そのものを見直す必要があると感じていました。
リコージャパン デジタルサービス営業本部 東京支社 東京DX第一営業部
千代田DXグループ
瓦 亜衣氏
高梨:まずは、現場で何にどれだけ時間がかかっているのかを把握する必要があると考え、前年度に業務の可視化を行いました。
そこで見えてきたのが、営業担当者が想像以上に、資料作成や提案準備といった業務に多くの時間を使っている実態でした。
営業活動そのものを強化していくためには、こうした業務の進め方を見直す必要があると感じ、「提案準備などの営業付帯業務にかかる時間を減らし、お客様に向き合う時間を増やす」ことをテーマに、プロセスDXに取り組むことにしました。
——実際には、どのようにプロセスDXを進めていったのでしょうか。
瓦:業務を可視化して終わりではなく、実際に仕事の進め方を変えるところまでつなげたいと考えていました。
現状の業務フローを整理した上で、「本来どうあるべきか」を描きながら、資料作成や情報収集にかかる負荷をどう減らしていくかを検討していきました。
この取り組みに伴走したのが、業務改善やプロセスDXを支援するワークフロー革新センターの大野氏だ。
大野:今回の活動では、営業部の現場と一緒にプロセスDXを実践しながら効果を検証し、その経験をお客様への提案にもつなげていくことを重視していました。実際の業務改善につながるよう、ツール導入まで含めて伴走する形で支援を行いました。
特に意識したのは、可視化した内容をもとに「業務のどこを、どう変えるべきか」をしっかり整理することでした。提案に必要な情報が経験や人頼みになっていたため、誰でも効率よく必要な情報を得られるプロセスに変えることを検討しました。この業務プロセスの最適化の検討を丁寧に行うことで、ツール導入の効果を最大化しています。
リコー DX本部 ワークフロー革新センター DXソリューション室
DXソリューション2グループ
大野 智博氏
——業務改善を進める中で、実際にはどのようなツールを導入していったのでしょうか。
大野:ツールを導入すること自体が目的ではなく、最適化した業務の形をどう実現するかという観点でデジタルを位置づけていきました。
今回導入したのは、生成AIを活用した業務支援アプリです。営業担当者が、情報収集や資料作成をより効率的に進められるようにすることを目指しました。
その開発基盤として選んだのが、ノーコードで生成AIアプリを開発できる「Dify」でした。いくつか選択肢はありましたが、将来的に現場の皆さんが自分たちで改善を続けられることを重視しました。Difyは、市民開発のような形で扱える点が大きく、営業部門自身が継続的に改善していける可能性があると考えました。
瓦:一番苦労したのは要件定義でした。最初は「何ができるか」「どんな機能が必要か」という話になりがちで、完成した画面を見ても「本当にこれで業務が楽になるのか?」という感覚が拭えませんでした。
大野:そこで途中から、「何を作るか」ではなく、「このツールによって仕事の進め方がどう変わるか」を軸に考えるようにしました。特に生成AIの場合、要件を満たしているだけでは評価が難しく、業務の中でどう使えるかを見ないと判断できないと感じました。そこで営業担当者が実際にどの場面で使うのかを具体的にイメージしながら検討を進めたことで、現場でも少しずつ納得感が生まれていきました。
瓦:営業の実際の利用シーンを具体的にイメージしてもらえるよう説明したことで、「これなら使えそうだよね」と合意を取れるようになりました。
——実際には、どのようなアプリを開発されたのでしょうか。
瓦:最終的に、営業の業務を支援する三つのアプリを開発しました。提案準備に必要な情報を整理しやすくするものや、社内情報を検索しやすくするものなどです。担当者が「すぐ使える」ことを意識して設計し、現場の声を取り入れながら改善を進めています。
名前やアイコンも、無機質なものではなく、親しみを持ってもらえるようにするため、AIを活用したキャラクターを作成しました。
——そのほかにも利用を促進するために工夫した点はありましたか。
瓦:展開フェーズでは、まず全員向けの勉強会を行い、なぜこの取り組みを行うのか、何を目指しているのかを丁寧に共有しました。
その後は、私と高梨さんで月1回のトピック配信も行いました。
など、単なる利用状況の共有だけではなく、営業に役立つ情報も添えて興味を持って見てもらえることを意識して発信していました。
——具体的な成果はどのように測られたのでしょうか。
瓦:アンケートでは、「困ったときにまず何を使うか」を、Copilot、Difyのアプリ、SharePoint検索、人に聞く、の4つの選択肢で聞きました。
その結果、「人に聞く」と回答した割合が全体平均で約4割減少しました。営業部内で、情報取得の行動がデジタルにシフトしている、一つの指標だと捉えています。
実態としては、毎日使う人もいれば、必要な場面で使う人もいる。利用にはまだばらつきがありますが、デジタルを活用しながら仕事を進める流れは確実に生まれてきていると感じています。
高梨:実際に業務の中で活用される場面も増えてきており、一定の手応えは感じています。また、今回の取り組み自体を、お客様への提案や会話の中で実践事例としてお伝えできるようになったことにも意味があると思っています。ただ、本当の意味で成果につながるかどうかは、これからだと感じています。
リコージャパン デジタルサービス営業本部 神奈川支社 神奈川LA営業部
産業1グループ
高梨 富雄氏
——すでに次の取り組みも始まっているそうですね。
高梨:今期は、さらに次のフェーズに入っています。営業に加え支援部門からもDifyのハンズオンに参加し、自分たちでアプリを作れる状態を目指しています。
現場の中でも「AIを仕事にどう活用するか」を自分たちで考え、その場で形にしていく動きが少しずつ始まっています。
現場主導で進められてきた今回のプロセスDX。我々リコーグループメンバーにとって、このような様々な取り組みが「はたらく歓び」につながっている。3名にそれぞれの想いを聞いた。
高梨:ここ数年で急激に業務にAIが取り込まれてきました。
今まではAIアプリを「使う」ことで自身の業務効率化を実現してきましたが、これからはAIアプリを「作る」ことで、組織の業務効率化を実現できると感じています。
AIに「委ねる」のではなく「操る」ことで、仕事の常識を変えていく。その取り組みが、私がこれから実現したい「はたらく歓び」です。
瓦:この記事を通して、「自分事として業務改善に取り組む」ことの大切さを感じて欲しいと思います。
この取り組みが半年後一年後になっても有用であり続けることよりも、常に自分たちの仕事に目を向け、違和感に着目してAIと共に改善を続ける大切さに気づいてアクションするきっかけになれば嬉しいです。これが、私が実現したい「はたらく歓び」です。
大野:業務改善から効果創出まで伴走支援することは大きなやりがいですが、現場が自ら改善し続けることも同じくらい大切だと感じています。
今回は営業区が主体的に活用を進めるだけでなく、新たな活動を含め自らツールの改修にも取り組まれており、改善が現場の中で回り始める変化をみることができました。こうした我々の支援が「自走する改善」のきっかけにつながることが私にとっての「はたらく歓び」です。
神奈川支社の取り組みは、生成AIを単なるツール導入で終わらせず、仕事の進め方そのものを見直す挑戦だった。
現場で使い、改善し、さらに自分たちで作っていく——。プロセスDXの取り組みは今、新たなフェーズへと進み始めている。