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ビジネスや生活でも活用が進むAI。ChatGPTなどの生成AIを使ったサービスや商品も多く登場し、普及が広がっている。リコーは、業種業務に合わせて利用できるAIサービスの提供により、お客様のDXを支援している。そのひとつが、RICOH kintone plusの新機能「アプリ作成アシスタント」だ。開発の経緯や機能の魅力について、開発を手がけたデジタル戦略部ビジネスプラットフォーム開発センター・センター長の高津和典氏と、デジタルサービス開発本部の近藤誠一氏、そして、製品の企画を担うデジタルサービス事業本部の開田有紀子氏、デジタルサービス開発本部の永塚真吾氏に話を聞いた。
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RICOH kintone plusは、標準のkintoneの基本機能に、リコー独自開発の機能を追加した業務アプリケーションツール。プログラミングの専門知識がなくても、業種や業務に合わせて、効率化やDXに役立つアプリケーションを開発・活用できるプラットフォームだ。
このRICOH kintone plusに2024年7月、生成AIによる「アプリ作成アシスタント」機能が追加された。チャット形式で指示を出すと、AIがアシスタントとしてアプリを自動で作る。その具体的な使い方を、機能の開発を手がけたデジタルサービス開発本部の近藤誠一氏はこう話す。
リコーデジタルサービスBU デジタルサービス開発本部
近藤 誠一
「たとえば、『建設業界向けの日報アプリを作ってください』『この情報の管理アプリを作ってください』と依頼すると、AIが叩き台としてのアプリを作ってくれます。そこに、項目追加などのカスタマイズをしていくことで、ほしい業務アプリを作り上げていけます。一度の指示で完璧なアプリを作ることは難しいですが、最初に50点くらいの完成度のアプリが作れるのがポイント。まっさらな状態からではなく、まずフォーマットができることで、アプリ作成のハードルがぐっと下がります」(近藤氏)。
RICOH kintone plusアプリストアから利用可能
「アプリ作成アシスタント」機能は、kintoneを活用しきれていないユーザーにとって有益だ。企画を担当するデジタルサービス事業本部の開田有紀子氏は、今回の新機能が、担当者の知識やノウハウ不足をカバーすることで、企業のDX推進に寄与できると自信を持つ。
「RICOH kintone plusを活用してDXを進めるためには、実際の業務に沿ったアプリを作成することが大切です。ただ、社内のすべての部門の業務をDX推進担当の方が正しく理解するのは難しいと思います。一方で、業務の知識があっても、kintoneの使い方がわからなければアプリは作れません。今回の新機能では、AIがその部分を補足してくれます。kintoneは使えても業務の知識が少ない方、あるいは業務に詳しいけどアプリを作るのが苦手という方、どちらにとっても価値ある機能だと思っています」(開田氏)。
リコーデジタルサービスBU デジタルサービス事業本部
開田 有紀子
アプリ作成アシスタント機能の開発のスタート地点は約2年前。デジタルサービスを手がけるチーム内では、RICOH kintone plusを使っている顧客からの「導入したものの、本当に役立つアプリを作れる人が少ない」という声が共有されていた。また同時期、社会ではChatGPTなどの生成AIが話題になり、ユーザーが拡大。そんな中、メンバーが強く感じたのが「アプリ作成へのAI活用」への社会的ニーズだ。
そして2023年8月に近藤氏が、アプリ作成アシスタント機能のプロトタイプを作成。デモとして社内外に見せたところ高評価で、サイボウズ社が年に一度開催するクラウドサービスに関する展示会「Cybozu Days」や、セミナーの来場者に新機能を披露するに至った。
デジタル戦略部ビジネスプラットフォーム開発センター長の高津和典氏は、当時、デモで新機能を目にした来場者の反応を、こう振り返る。「デモを見てくださった方々が目をキラキラさせていたのが印象的でした。デモを楽しんで、とても興味を持ってくださる方が多かったです」(高津氏)。
デジタル戦略部 ビジネスプラットフォーム開発センター センター長
高津 和典
展示会やセミナーでは、ポジティブな反応に加えて、意外な気付きも得られた。企画を担当するデジタルサービス開発本部の永塚真吾氏も、セミナー登壇やデモを通じて人々の反応を肌で感じたひとりだ。
「『初めての業務システムとしてRICOH kintone plusを導入したものの何から手をつけていいかわからなかった』という方が、『このアシスタント機能で一歩目が踏み出せる』と話してくださいました。『現場でのアプリ作成が進むことでDXの裾野が広がって人材育成が進む』といった声もありましたね。一方で、『多くの人がアプリを作れるようになると、使われない"野良アプリ"が増えてDXの妨げになるのでは』と懸念される方もいました。そうした声も、開発のヒントになりました」(永塚氏)。
リコーデジタルサービスBU デジタルサービス開発本部
永塚 真吾
展示会やセミナーでの活動と併行して、ユーザーに試作版を使って開発に活かすための「パイロットプロジェクト」の実施を発表。モニター企業を募集したところすぐに3桁台の申し込みが入り、12月からパイロット版の提供をスタートした。
パイロットプロジェクトの主な目的は、ニーズの把握と、開発の優先順位の決定だ。「RICOH kintone plusは多くの機能があるので、より効果的に使っていただくため、どの部分のサポートを優先して開発するか判断すべく、実際に使っていただいて要望をお聞きしました」と高津氏。パイロットプロジェクトを経て、プロンプト(指示)入力の方法にも工夫が必要だとわかった。「指示を出す際に、ブラウザでの検索のように、スペースで区切って単語を入れる方が多い、という発見もありました。サンプルの文章を出したり、選択式で指示を出せるようにするなど、使いやすさ向上のための修正を入れました」(高津氏)。
アプリ作成アシスタントのモニター募集サイト
そして、パイロットプロジェクトで得たユーザーの声やデータを反映して開発した正式版を2024年7月にリリース。RICOH kintone plusに、アシスタントをイメージした顔のような雲のアイコンで「AIと対話して作成」という機能が追加された。2024年9月時点で、1800を超えるアプリがこの機能を活用して作られている。アプリ作成アシスタント機能を決め手にRICOH kintone plusを導入した企業もあり、活用が進んでいる。
パイロット版、正式版、そして今もなお続く開発の過程においてもっとも苦戦したのは、「AIの出力に対する評価」の部分だと近藤氏は語る。
「アシスタント機能の開発では、簡単に言うと、生成AIに対して『RICOH kintone plusのアプリ作成のこういうサポートをしてください』とか、逆に『こういうことはやらないでください』という指示を出しています。その指示を追加することで、性能が良くなったのか、悪くなったのかを測るのが非常に難しい。それを自動で評価する仕組みを作るのが一番大変でした。エラーに対して、原因をひとつひとつ探して修正していくという、地道な作業にも苦労しました」(近藤氏)。
RICOH kintone plusの提案や、活用支援をするリコージャパンの営業担当も、アプリ作成アシスタント機能を高く評価している。
「これまで営業サイドには、『お客様にkintoneでアプリを作って見せながら提案したい』という希望や、『kintoneの使い方についての顧客の問い合わせにリソースがかかっている』などの課題がありました。今回の新機能で、営業自身が提案用に簡単にアプリを作れるし、アプリ作成が難しいというお客様にはアシスタント機能をおすすめしています。商談の効率化や負担軽減につながったと、営業担当にも喜んでもらえています」(永塚氏)。
RICOH kintone plusの利活用や業務効率化を推進する、アプリ作成アシスタント機能。しかし、アプリ作成は数あるRICOH kintone plusの機能の一部分にすぎない。近藤氏は、「AIがサポートできる範囲をさらに広げていって、RICOH kintone plusを、よりお客様のDXを支援できるサービスにしていきたい」と意気込む。
RICOH kintone plusの開発・企画メンバーは、アプリ作成アシスタントは、アプリが作りやすくなるということ以外にもさまざまな価値を生む機能だと考えている。そのひとつが、働き方の変革だ。
「私は、このアプリ作成アシスタント機能が、お客様の"はたらく"をよりアジャイルにすると思っています。これまでは、自分でできないことを誰かに頼むときは、手戻りが起きないようにやりたいことを体系立ててからお願いしたと思います。しかし、AIに頼むときは、体系立つ前のざっくりしたお願いでもがんばって形にしてくれます。その結果に対して、追加や修正のお願いを小出しで繰り返しても怒りませんしね(笑)。やりたいことがあった時、自分で手軽に一歩を踏み出せて、それにいつまでも寄り添ってくれるのがAIアシスタントの魅力です。目的地に最短距離で向かっていける、AIが働き方をそういう形に変えると思っています」(永塚氏)。
企画担当としての開田氏の今後のテーマは、新機能の浸透によってさらにRICOH kintone plusを使いこなせる顧客を増やすことだ。「企画として感じるのが、RICOH kintone plusを活用しきれていないお客様がまだいらっしゃること。だからこそ、今回の新機能をもっと使っていただくための活動に注力したいです。また、DX担当だけでなく、利用者の方がアプリを簡単に作れるようになると、DXの新しい課題が出てくると思います。そういったお客様のステップアップに沿った形でのご支援を続けていくことで、お客様の『"はたらく"に歓びを』の実現にもっと貢献していきたいです」(開田氏)。
高津氏は、仕事の「楽しい」を広げるAIの力に可能性を感じている。「RICOH kintone plusを導入しているある企業のDX推進担当の方が、RICOH kintone plusで業務改革をして社員たちが『便利になったね』と言ってくれるのがすごく楽しい、とおっしゃっていました。こうした『楽しい』を増やすことが"はたらく歓び"の実現につながります。これからも、みなさんの仕事を楽しくするAIサービスを提供していきたいです」(高津氏)。
RICOH kintone plus×AIは今もなお、機能改善を続けている。はたらく人に寄り添いながら、リコーが提供するAIサービスにより実現する「新しい働き方」の形に、今後も注目だ。