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特別対談

日本ガイシとリコーが目指す再生可能エネルギー×VPPの未来とは?

目次

NR-Power Lab株式会社は、日本ガイシ株式会社と株式会社リコーによる合弁会社。持続可能な社会の実現を目指し、環境課題を解決する事業を展開してきた日本ガイシとリコーがそれぞれの強みを持ち寄り、再生可能エネルギーの普及に向けた課題解決に挑戦するため2023年2月に設立した電力事業開発会社だ。

同社が事業化を目指すのは、VPPサービスと、発電・利用等のデータを活用した電力デジタルサービス。NR-Power Labが社会に提供していく価値や今後の展望について、NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長の中西祐一氏、シニアエンジニアの黒田幹朗氏、事業企画担当の松田喜勝氏に聞いた。

再生可能エネルギー普及の救世主・VPPとは?

VPP(バーチャルパワープラント=仮想発電所)とは、再生可能エネルギーや蓄電池を含む多種のエネルギーリソースをIoTの力で統合制御することで、電力の需給バランスの調整を行う仕組みだ。近年、日本でVPPが注目されている理由を、NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長の中西祐一氏はこう語る。

NR-Power Lab株式会社 代表取締役社長 中西祐一氏

「電力の供給には『同時同量』という原則があり、発電量(供給)と電気の消費量(需要)のバランスが常に一定に保たれる必要があります。今、化石燃料による発電を再生可能エネルギーに置き換えていく流れがありますが、火力発電は需給の調整がしやすい一方で、再生可能エネルギーは天候条件の変化に発電量が左右されます。たとえば太陽光発電は、太陽が照っている間はたくさん発電ができますが、曇ると発電量が落ちますよね。不安定な再エネを主力電源化するために、火力発電に替わって需給調整を行う機能として、VPPの技術が求められているのです」(中西氏)

VPPで、産業用の大きな蓄電池以外にもEVや家庭用蓄電池などの出力が小さいエネルギーリソースも束ねてコントロールすれば、電力をより幅広く活用できる。「たとえば、太陽光発電の電力量が少ない間は、蓄電池から貯めていた電気を放電する。反対に、今、使っている電気より多い電力を発電できた時はEVや蓄電池に充電するなどして、電力の需給バランスを調整できます」(中西氏)。

VPPの普及によって、発電の安定性が課題だった再生可能エネルギーの普及が進むだけでなく、電力関連の事業者や一般ユーザーにもメリットが生まれる。

VPPの事業化に向け、蓄電池メーカーや再エネ発電事業者との対話も重ねてきた事業企画担当の松田喜勝氏は、VPPが社会に与える価値について、こう話す。「VPPによって、たとえば、屋根上に小規模太陽光発電を持つ事業者の余剰電力をこれまで以上に有効的に活用することが可能になったり、蓄電池などを所有する事業者が、自社事業用に稼働させていない時間帯にVPPにそれを活用することで利益還元を得られたりします。また、その事業者にとっては、再エネ普及を支えるVPPに参画すること自体が、社会に対するESG経営のPRにつながるという効果も期待できます」。

電力の一般消費者も、所有している蓄電池や太陽光発電システムをVPPに活用することで、経済的なメリットを得られるという。「使っていない資産や埋もれた価値を活用するというのが、VPPのコンセプトのひとつ。出力が小さいエネルギーも数を束ねればひとつの巨大な電力になり、世の中で価値を発揮できます」(中西氏)。

日本ガイシ×リコーのタッグが実現するまで

NR-Power Lab設立の出発点は、日本ガイシが開発した蓄電池「NAS電池」の環境課題への活用だ。工場や大型ショッピングセンターなどNAS電池を有する事業所では、NAS電池を使っていない時間帯もあり、設備の有効活用や投資回収という観点からも、その有効活用が課題だった。

電力貯蔵用NAS電池

「私自身、もともと日本ガイシでNAS電池の営業の仕事をする中で、VPPの仕組みでNAS電池を活用できないかと考えていました。それを実現する上で日本ガイシに足りないのが、デジタルの部分。そのデジタル技術に長けたパートナー企業を探していたところ、リコーに出会いました」(中西氏)。

独自のブロックチェーン技術を中心としたデジタルサービスで、環境課題の解決に取り組んでいたリコーが目指す未来像と、日本ガイシのビジョンが重なった。ものづくりが出発点の会社であることや環境課題への意識といった共通点もあり、社風も似ていた2社のタッグが実現した。

左から、松田氏・中西氏・黒田氏

蓄電池の製品力と確かなデジタル技術で価値を提供

NR-Power Lab設立時に決まっていたのは、VPPと電力デジタルサービスという2本のビジネスを柱とした事業会社を目指すということのみ。中西氏は、設立当初をこう振り返る。

「大きな方向性は定まっていたものの、具体的にどのようなサービスにするかというのは白紙。そこからビジネスのコンセプトを決めていくのはとても大変でした(笑)。1年目にメンバー全員で協力して最初の難しい一歩を踏み出し、実証に進める段階に至ったのは、大きな成果だと思っています」(中西氏)。

VPPシステムの開発を主導するシニアエンジニアの黒田幹朗氏は、日本ガイシとリコーのタッグだからこそ、この分野で強みを発揮できると語る。「大容量で長時間使えるNAS電池の製品力と、それを制御する高い技術力は日本ガイシの強み。そして、通信技術を活用し複合機を管理・制御してきたリコーは、ネットワークやセキュリティ技術に自信を持っています。電力の需給バランスの調整は、失敗すれば大規模停電にもつながる重要なシステムですから、その安定性も、VPPによる価値を提供する上で必要不可欠だと思っています」。

NR-Power Lab株式会社 シニアエンジニア 黒田幹朗氏

VPPに加えて、NR-Power Labが挑むもうひとつのビジネスが、電力デジタルサービスだ。発電や電力使用に関するデータを収集・分析・活用することで、再生可能エネルギーの普及や電力サービスに新たな付加価値を提供することを目指す。「ブロックチェーン技術によって、再生可能エネルギーの利用を証明する『再エネの見える化』を行うのも、試作を進めているサービスのひとつ。ほかにも、脱炭素の取り組みをクレジットとして取引する国の制度『J-クレジット』にデータを活用するなど、収集した電力データを基盤として複数の派生サービスを展開するつもりです」と黒田氏は意気込む。

電力デジタルサービスの会社として存在感を示したい

リコーならではの顧客接点力も、NR-Power Labの特徴だ。「リコーの販売会社であるリコージャパンが全国の顧客と作ってきた信頼関係も、NR-Power Labの強みです。リコー、日本ガイシという親会社のパートナーや顧客に対して、VPP単体ではなく、既存ビジネスと合わせて提案することで、シナジー効果も発揮できると考えています」(中西氏)。

設立後の基礎開発のフェーズを終え、2年目を迎えるNR-Power Lab。2024年の課題は、VPPサービスと電力デジタルサービスの商用化実証だ。現在は2026年の事業化を目指して、開発・実証を進めている。

開発を率いる黒田氏は、「協力会社と共にVPPのシステム開発を着実に進めるのが第一の課題」としつつ、電力デジタルサービス事業をより具体化していきたいと語る。「NR-Power Lab=デジタルサービスの会社」という認知を広げる成果を残すのが目標だ。

事業企画を担う松田氏としては、パートナー企業との出会いも今後のテーマだという。「蓄電池や再生可能エネルギーを所有する企業など、私たちによる機器の制御を許諾していただけるパートナーの存在なしにはVPPビジネスは成り立ちません。そうした方々と協業できるよう、VPPに参画する具体的なメリットを提示していくことも課題ですね」(松田氏)。

NR-Power Lab株式会社 事業企画担当 松田喜勝氏

ベンチャー精神で新規事業にチャレンジしていく

2023年12月には、全国16社の地域新電力会社との協業も発表。2024年4月から、電力の地産地消や、域内経済循環の促進に向けた取り組みをスタートする。「VPPおよび電力デジタルサービス事業化の課題のひとつが、商用化実証の進め方でした。システムを開発したものの、それをビジネスの現場で実際に試して検証しなければ結果的に良いサービスにはつながらないため、実証に協力いただけるパートナーを探してきました」と中西氏は振り返る。

「地域新電力は、社内で電気の調達や発電、販売といった電力ビジネスのプロセスをすべて行っています。そうした会社さんに実際にNR-Power Labのサービスを使っていただいてフィードバックを受け、サービスを精緻化してまた提供していくという作業を繰り返すことで、VPPと電力デジタルサービスの早期事業化を目指すとともに、地域新電力の発展や新サービス創出にも寄与したいと考えています」(中西氏)。

NR-Power Labのメンバーは、2026年の事業化の先も見据えている。「脱炭素社会の実現に向け、再生可能エネルギーの普及に向けた課題を解決していくのがNR-Power Labのミッション。ただ、両親会社にも貢献する新規事業にチャレンジしているので、ビジネスとして成功させることも目標です」と松田氏。同時に、電力業界におけるチャレンジャーとしての胸の高鳴りも隠せない。「とはいえ、絶対に成功するかどうかは誰にもわかりません。それでも、成功を信じるメンバーとジョイントベンチャーという形で挑戦しているこの時間の一瞬一瞬を楽しんで取り組みたいというのも、正直な気持ちですね」(松田氏)。

関連情報

NR-Power Lab株式会社公式サイト

日本ガイシとリコー、合弁会社「NR-Power Lab株式会社」の事業を開始

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