※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。
リコーは、現場主体の「プロセスDX」を全社員参加型で展開し、業務改革や生産性向上において成果をあげている。その社内実践の成果を顧客に価値として提供するため、業務プロセスの可視化・最適化・デジタル化を支援する伴走サービスを展開。こうした社内外の「プロセスDX」の取り組みが生み出す"はたらく歓び"について、リコーデジタル戦略部 プロセス・IT・データ統括 統括長として全社のプロセスDXを主導する浅香孝司氏と、サービス展開を手がける同・ワークフロー革新センター DXソリューション室長の柳瀬寛氏に話を聞いた。
リコーは2018年から、オフィス業務の生産性向上を目的としてデジタル技術を活用した業務プロセス改革をスタート。その背景にあったオフィスワークの「3M」の存在について、リコーデジタル戦略部でプロセス・IT・データ統括部門を率いる浅香氏はこう話す。
リコーデジタル戦略部 プロセス・IT・データ統括 統括長
浅香 孝司氏
「生産現場の『3K(きつい・汚い・危険)』については解決する取り組みを継続している一方で、『面倒』『マンネリ』『ミスできない』というオフィスワークの『3M』が仕事の非効率を生んできました。手間のかかる仕事や繰り返し、そして単純だけどミスが許されない仕事、これらをなくすことで、社員がより活き活きと働けて、それがオペレーショナル・エクセレンスにつながるという思いから、プロセスDXを推進してきました」(浅香氏)。
まずは、RPAやAIを活用した業務プロセス改革が「社内デジタル革命」という名称でスタート。デジタルにとらわれない多様なツールや手法を活用した活動として2020年、リコーの「プロセスDX」が確立した。
プロセスDXは、業務可視化や業務モデリングなどの「可視化」→目的思考やプロセスの再設計などの手法を用いた「最適化」→自動化、業務アプリ開発、データ利活用などの「デジタル化」というステップで進める業務プロセス改革だ。その特徴は、自動化やデジタル化ありきの業務改革ではないこと。「正しく見えない業務は正しくカイゼンすることはできません。正しいデジタル実装のため、本質的な課題を発見するための業務やプロセスの可視化、プロセス最適化を先行して行うことにこだわりました」(浅香氏)。
プロセスDXの進め方
もうひとつの特徴は、全社員参加型として、現場をもっとも知る現場が手がけるプロジェクトであること。過去のリコーのデジタル化の取り組みの反省も生かしながら、現場主導のプロセスDXを進めている。
「過去にリコーは、アプリ開発や活用を現場が進めるエンドユーザー・コンピューティングの考え方でデジタル化を行いました。ただ、人材育成や現場の主体性向上につながった一方で、アプリの乱立や属人化などの課題もあったんです。その反省も活かし、ワークフロー革新センター内のCoEがセキュリティ対策やガバナンスを担い、現場の困りごとを現場が解決するプロセスDXを進めています」(浅香氏)。
CoE(センター・オブ・エクセレンス)は、プロセスDXの企画推進を担うと同時に、現場のサポートや人材育成を行い、また常に新しい手法や技術を習得して実践することで、全社のデジタル力の底上げや活動のスケールアップを目指している。またCoEは、プロセスDXを実践する人材の育成の仕組みも整備。社内向けポータルサイトでは、可視化・最適化・デジタル化に関する学習プログラムや社内事例などの情報を閲覧可能。社員は、いつでもeラーニングや動画で知識を学ぶことができる。
社内独自の認定制度もあり実践度に応じてステージが上がる。事例発表や表彰が行われるオープンカレッジや、社員がノウハウや技術力を高め合うアイディアソンも開催。目標にできるステージや仲間作りの場も設けている。「いつでも支援を受けられる体制を作ること。必要なスキルを明確にした上で、豊富な学習プログラムを用意すること。この両輪で、社員が自律的にプロセスDXに取り組める環境を整備しています」(浅香氏)。
認定制度や学習内容はビジネスアナリスト(BA)と市民開発者(CD)の人材タイプに沿って分かれている。学習プログラムも「可視化」「業務モデリング」などと細分化されていて、希望に合ったスキルを伸ばせる。DXソリューション室長の柳瀬氏は、「開発は苦手でも、業務の分析が得意な人もいます。いろいろな特性を持つ方が参加できるよう、BAとCDがチームで取り組める体制作りも推進してきました」と話す。
社内のプロセスDXの取り組みは、4200人を超える開発者の育成や、3500件※のアプリ稼働、各部門での工数時間削減といった成果をあげている。成功事例は社内で共有されるほか、社外にも発信され、活動の活性化につながっている。2024年12月には、経理企画室の社員がCoEと協働して業務モデリングとAI活用によって問い合わせ業務を省力化した事例が新聞で紹介された。各部で活用されている社内開発アプリの評価も高い。IT部門とCoE、社員開発者の連携によって、これまで外注していたシステムの内製化も進んでいる。
「省力化といった成果だけでなく、社員が充足感や達成感を感じるからこそ、プロセスDXへの意識が変わり、社内に浸透している」と柳瀬氏は話す。そんな中で、プロセスDXの経験・ノウハウをお客様への価値提供に活かしたいという機運が高まった。
もともとリコーはCIS(Customer Innovation Support service)の取り組みで、グループ内の実践事例やノウハウを顧客に共有している。それでも顧客の間では、デジタル化や業務改革に関して、「ツール導入が先行して本質的な業務改革が進んでいない」「デジタル化を進めたいが何から着手していいかわからない」という悩みも多く、営業現場では、そのような困りごとに寄り添う伴走支援が求められていた。
そんな企業の課題解決につながるのが、デジタル化の提案力を持つリコージャパンと、業務プロセスの可視化や最適化の社内実践をしてきたリコーのタッグだ。社内実践によって生まれた"はたらく"歓びを顧客にも体感してほしい。デジタルサービスの会社として、現場で価値を生み出す活動に伴走して支援したい。そんな思いから、2023年、リコーはプロセスDXの経験・ノウハウをもとにしたサービスを本格的にスタートした。
このサービスは、業務可視化や業務プロセス診断、最適化などの業務改善の上流ステップを支援。業務フロー作成やアプリ開発などのスキル学習支援も手がける。「リコーのプロセスDX支援の最大の強みは、社内実践の経験・ノウハウです。自社内での経験に基づいてお客様に寄り添い、課題解決に至るまで伴走します。デジタル化やツールありきではなく、まず現状の業務を理解する、プロセスを見直す、そこから始めるからこそ、真の課題と解決の方向性を見出しやすくなります」と柳瀬氏は語る。
ワークフロー革新センター DXソリューション室長
柳瀬 寛氏
顧客支援の担当者は、リコーのさまざまな部門で業務の経験を積んできているため、現場業務への理解が深い。「たとえば、人事部門で業務経験のあるリコー社員が人事部のお客様をご支援する際は、お困りごとをわかり合えるため、非常に打ち合わせが盛り上がります。現場業務の知識にプロセスDXの経験が重なっているからこそ、本質的なご支援ができる。お客様もそこにメリットを感じてくださって『リコーのプロセスDXと同じように社内展開を進めたい』とおっしゃってくださっています」(柳瀬氏)。
業務プロセスの見直しが人材育成体制や組織の再編につながった支援実績や、現場の業務可視化や開発スキル学習の支援で、顧客の現場主導のデジタル化が進んでいる事例もある。顧客からの評価だけでなく、支援を通じた自己成長も実感できるため、担当社員のエンゲージメントも高い。
浅香氏、柳瀬氏は今後も、高範囲でのプロセス自動化や、AIエージェントを活用したワークフロー自動化など、より高度で新しい取り組みにチャレンジしたいと語る。「リコー独自のプロセス構築力とデジタル化力を組み合わせて、お客様に展開するサービスを、我々がクライアントゼロとして先行活用して成功させたい。その成果を、より付加価値の高いお客様ご支援につなげていきたいです」(浅香氏)。
「業務改善は本来、ポジティブで楽しい活動」だと柳瀬氏。「業務改善の支援を通じてより多くのお客様にそれを実感してもらうため、我々のプロセスDXの考え方・進め方で共感できる点はどんどん取り入れていただきたいです。以前もお客様から、『3Mにひとつ足して4Mにして使っていいですか?』と聞かれました。アレンジも大歓迎です。私たちの経験がお客様の社内に浸透することで、生産性向上などの効果だけでなく"はたらく"歓びが広がると嬉しいです」(柳瀬氏)。
社内実践をした社員が自律的に顧客への価値提供を行い、お役立ちできることで、もっと大きな"はたらく"歓びが生まれる。リコーでは、そんな好循環を生み出すべく活動を続けている。
「プロセスDXは、『三方よし』を実現できる取り組みです。ご支援を通じてより多くのお客様の"はたらく"歓びを醸成する。リコー社員は、自らの業務経験にプロセスDXのスキルを加え、お客様の課題解決支援に役立てることで成長する。そして会社は、自律的に業務改革を実践したり、現場で価値を創出する企業体質になることで発展していく。プロセスDXの活動を通じて、この『三方よし』の効果をさらに広げていきたいです」(柳瀬氏)。