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AIの普及やDXでビジネスの効率化や成果主義が進む一方、企業にはさらに、顧客に選ばれるための差別化や付加価値が求められている。そんな中でリコーが取り組むのが、顧客の“心で感じる価値”を高めるための社内変革プロジェクト「体感価値向上プログラム」だ。今回は、同プログラムを推進するデジタル戦略部の谷内大弐氏と、プログラムの支援を受けた財務統括部の山中麻由美氏に、体感価値向上プログラムの成果や、今後の展望について話してもらった。
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リコーのデジタルサービスのテーマのひとつである「体感価値」とは、サービスの利用を通じて顧客の心がどう動くかという「体感」に着目した考え方だ。統合報告書で経営(CTO)から発信されており、取り組みの広がりとともに、共通の指針として定着しつつある。体感価値は、機能性や効率性にとどまらず、「これが欲しかった」「なくてはならない」「人に勧めたい」と感じてもらえる感情までを含めて価値と捉え、競争力につなげていく。リコーのサービスデザインを実践・支援するデジタル戦略センター デジタルサービスデザイン室の谷内大弐氏は、体感価値という言葉が生まれた背景をこう話す。
「かねてよりリコーでは、デジタルサービスを展開するうえでの課題を抱えていました。機能の拡充や改善だけでは、お客様の継続利用や導入拡大につながりにくいというビジネス上の危機感です。そこで、お客様が心からうれしいと感じ心に残る“体感価値”をリコーグループ全体で高め続けることが重要だと考えました。」(谷内氏)。
特に開発現場などでは「価値を感じる人=ユーザー」を主語にした議論が抜け落ちやすいという課題もあった。AIが働き方やビジネスの形をアップデートし、求められる価値も変化する中で、「ユーザーを主語にした体感価値のあり方を絶え間なく検証し続けていくことが大事です」と谷内氏は話す。
デジタル戦略部 デジタル戦略センター デジタルサービスデザイン室 室長
谷内 大弐氏
リコーではすでに、社内研修において、ユーザー視点で製品やサービスの価値を創出し高める「デザイン思考」を2000人以上の社員が履修。それに伴い、学びを現場で発揮し、実践的な成果へとつなげていく期待が高まって行った。そこで谷内氏らデジタルサービスデザイン室は、育成と実践をつなぐことで体感価値を最大化する「体感価値向上プログラム」を発足。顧客接点を担うプロジェクトのリーダーを「体感価値リーダー」に認定し、プロジェクトをデジタルサービスデザイン室のメンバーが伴走支援する形で、体感価値向上の取り組みが始まった。
体感価値リーダーの認定要件は、プロジェクトの目標達成に責任と権限を持つリーダーであることと、デザイン思考やそれに準ずる手法を積極的に活用して顧客やユーザーが体感できる価値を最大化していること。体感価値リーダーの取り組み事例をロールモデルとして社内に浸透させて全社の行動変容を促すことも、体感価値向上プログラムの目的だ。
プログラムにおいては、体感価値の「面の広がり」も重視する。「各事業領域の『点』での事例が増えるだけではなく、取り組みが横につながることで、あらゆるお客様とのタッチポイントでの体感価値が総合的に高まることを目指しています。ゆくゆくは、リーダーが連携してお客様を幅広い形で支援できるように、できるだけ多様なプロジェクトを支援するよう意識しています」(谷内氏)
体感価値向上プログラムの支援を受けたプロジェクトのひとつが、「経理おたすけナビ」のUX/UI改善の取り組みだ。経理企画を担う財務統括部 フィナンシャルソリューションセンター 経理企画室 企画グループ リーダーの山中麻由美氏は、経理プロセスの最適化の施策として、プロセスDXを推進するワークフロー革新センターと共に、現場から経理への問い合わせ業務を、AIを活用して効率化する「経理おたすけナビ」を開発、2024年4月にリリースした。
開発にあたり、経理企画メンバーとワークフロー革新センターのビジネスアナリストや開発担当者を含むプロジェクトチームが重視したのは、ユーザー視点。ユーザーへの事前アンケートで収集した意見も活かし、スモールスタートで効果検証・方針転換も行った上で、経理おたすけナビを全社にリリースした。リリース後も週次で打ち合わせを行い、機能改善を進めてきた。しかし、リリース8ヵ月後にユーザーアンケートを実施したところ、利便性向上を課題とする声が多く寄せられた。
「『操作がわかりづらい』『質問欄が小さい』『検索中かフリーズか判別しづらい』など、UX/UIの課題に関する意見を多くいただきました。ユーザー視点に立って仕様検討を行いリリースしたつもりでしたが、実際のユーザーの感じ方を充分に想定できていませんでした。伴走を通じてこれを明らかにし改善に落とし込むことで、ユーザー価値を捉えなおす必要性を痛感しました」と山中氏は振り返る。
認識した課題を受けて、改修をスピーディに進めたかった山中氏は、谷内氏らにサポートを依頼。体感価値向上プログラムの支援のもと、改めてユーザー起点のUX/UI改善に着手した。
まずは、アンケート結果から再びプロセスDXの視点で課題を整理。さらに、経理おたすけナビを初めて触る人の自然操作を観察する、ユーザビリティテストを実施した。初回は谷内氏が対象ユーザーをガイドするモデレーターを担当。ユーザーは、1回目は与えられた課題に応じて普段のありのままの操作をひと通り行ってもらい、2回目は1回目と同じ操作をしながらつまずいたり迷ったりした理由やその時感じた事を言いながら自己解説してもらうことで、ユーザーの操作中の感情や思考を観察した。
「システムを使い慣れた私たちには思いもよらないつまずきや、そもそも入力箇所がわからず作業が止まるポイントもありました。私たちが見落としていた点があると気付かされると同時に新鮮でもあり、改めて、ユーザーを主語に考えることの重要さを認識しました」(山中氏)。
財務統括部 フィナンシャルソリューションセンター 経理企画室 企画グループ リーダー
山中 麻由美氏
ユーザビリティテストの結果を受け、現場の声や実データも踏まえて改善方針を明確化。表現やレイアウトの見直し、重要情報の優先表示、FAQまでの導線短縮などの改善を、短いサイクルで実装と検証を繰り返しながら進めた。その後、再びユーザビリティテストを実施し、2回目のテストでは山中氏がモデレーターを務めた。そしてプロジェクトのスタートから3ヵ月後、新しい経理おたすけナビをリリースした。
直感的な操作が実現し、情報アクセスの利便性も向上。改修後のアンケートでは、「わかりやすくなった」「使いやすくなった」という回答の割合が上昇した。「経理関係の不明点や困りごとの解決にいつも利用し役立っている、引き続き利用したい」「便利になり助かっている」「おたすけナビを人にお勧めしたい、紹介している」といった喜びのコメントも寄せられ、感謝の声は、チームのモチベーション向上にもつながった。
プログラムは、チームにポジティブな変化ももたらした。「必要なタイミングで必要な粒度での支援をいただけたので、実践を通じてノウハウが身につきました。個人的には特にユーザビリティテストの経験を通じた学びが大きく、今回学んだユーザーを主語にした体感価値の考え方は別のテーマのUX/UIの改善にも役立てられそうな手応えがあります」(山中氏)。
プロジェクトメンバーに「ユーザーを主語で考えると」という姿勢が根付いたことも大きな収穫だった。「機能の決定にはさまざまな要素がありますが、最後は“ユーザーにとってどうか”という共通の基準に立ち返れるようになりチームの意思決定がしやすくなりました」と山中氏は話す。
また山中氏はプロジェクトを通じて、リコーの「部署横断メンバーが伴走しながら改善に取り組む仕組み」の可能性を実感したという。「UX/UI向上を目的に、DXソリューション室やデジタルサービスデザイン室など、これまで行ってきたプロセスDXの連携よりも多くの部署のメンバーが集まり、強固なチームワークで体感価値を向上できました。こうした部署横断の連携体制はリコーグループの強みであり、今回のようなプロセスDXと体感価値向上を組み合わせた型は他の領域でも活用できるはず。横展開を加速する仕掛けをしていくことで、リコーグループの標準モデルとして確立できると思っています」(山中氏)。
谷内氏も、事例を起点に体感価値向上の取り組みをスピーディに広げていきたいと話す。「他の領域でも扱いやすい型に落とし込むことで横展開を加速したい。オープンソース的な形で、みんなで良いものを作り共有できる環境を、プラットフォームとして整えていきたいです」と意気込む。
部署横断の体感価値向上プログラムの取り組みは、両氏の働きがいにもつながっている。「現場のプロジェクトに入り、メンバーと一緒にお客様の体感価値向上を目指すことにやりがいを感じます。やはり、みんなで試行錯誤することは楽しいですね。山中さんのような情熱的なリーダーと、CUSTOMER-CENTRICでイノベーティブなメンバーとスピード感を持って目的に向かう醍醐味は、私にとってとても魅力的です」(谷内氏)。
さまざまな部門の知恵やアイデアを集結して、“真のお客様の体感価値向上”に取り組むことにもやりがいを感じると山中氏。同時に他部門のノウハウや知見を吸収し、自分の成長を実感できることもモチベーションにつながっているという。「私が体験したこの楽しさを、より多くの人にも味わってほしい。そして、それを共有し、共感し合える仲間を増やしていきたいと考えています。横展開によって、自分の経験を特定のテーマや担当領域にとどめず、自組織での取り組みを起点に、将来的にリコーグループ全体に浸透させていくことが、グループ全体の価値向上につながると考えています。そのプロセスこそが、私自身の仕事のやりがいであり、はたらく歓びでもあります」。
体感価値向上プログラムは、リコーの企業理念「リコーウェイ」を体現する取り組みだと山中氏は言う。「体感価値の向上は、リコーウェイの価値観であるCUSTOMER-CENTRIC、TEAMWORK、GEMBAの集結で実現できると感じます。これらが揃うことで、はたらく歓びが生まれると、今回のプロジェクトで改めて実感しました。」
リコーに根付く価値観を土台に、体感価値の高みを目指す跳躍はこれからも続く。