※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。
経営戦略や、デジタルサービスの会社への変革の道のり、財務情報などを通してリコーの今とこれからを伝える「リコーグループ統合報告書」。9月に発行された2025年度版は、どのような想いや工夫のもとで制作されたのだろうか。今回は、制作に携わったリコー ESG戦略部の濱田 香氏、技術統括部の藤山 遼太郎氏、リコーデジタルサービスBUの向後 麻亜子氏、そして発行部門であるコミュニケーション戦略センターの阪本 美奈子氏に、その裏側を語り合ってもらった。
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——統合報告書の制作におけるそれぞれの役割と、制作に込めた想いを教えてください。
阪本:リコーは毎年、統合報告書を発行しており、私は統合報告書発行の事務局として、方針や構成の決定から全体の編集までを統括しました。2024年度版への投資家のフィードバックをふまえ、今年度は、短期・中長期のリコーの目指す姿を端的に示し、リコーの強みや財務と将来財務のつながりをより具体的に示すという方針を掲げ、特に戦略の具体性や情報の納得度を高めることに注力して制作を進めました。
具体性を高めるために重点的に取り組んだのが「特集」の事例記事です。お客様の導入事例や社員紹介を盛り込んだほか、各事業のパートでも事例を拡充しました。グローバルでの強みを伝えるため、世界各地域の事例を伝えることも意識しましたね。
向後:リコーデジタルサービスBU(RDS)として、主にデジタルサービス領域と事例の収集を担当しました。株価の推移やアナリストの評価を見ると、現在のリコーには“変革”が求められていると強く感じています。こうした期待に応えるため、リコーのデジタルサービスがどのように売上を創出し、リコーの戦略実現に貢献していくのかという“道筋”を統合報告書の中で明確に示すことを意識しました。
濱田:私はESG戦略や環境・社会など、サステナビリティ関連のページを担当しました。普段の情報開示業務でも投資家の声を大切にしているのですが、今回の統合報告書でもその意見を何より重視しています。リコーの環境・社会分野の取り組みは一定の評価をいただいていますが、一方で「ESGと財務のつながり」への関心が高まっています。そうした期待に応えるため、今年の統合報告書では両者の関係性をよりわかりやすく示すことを意識しました。
藤山:技術・知財戦略とデジタル戦略を担当しました。特に今年度は中期経営戦略の最終年度にあたるため、成果を明確に示すことを意識しました。担当した技術統括部とデジタル戦略部は、野水泰之CTOのもと、多様な機能を持つ2つの部門が連携しながら変革を推進しています。そのシナジーが同じ方向へ向かっていることを伝えることがテーマでした。
阪本:特集の制作では、まずは「どのような事例を掲載するか」という企画からスタートしました。リコーの顧客接点力やグローバル対応力、さらに技術や独自ソフトウェアといった強みが伝わる事例を、一から記事としてまとめ上げるのは大きな挑戦でした。加えて、事例にはお客様の協力も不可欠であるため、リコーグループの枠を超えた制作プロジェクトとなりました。
事例記事を作る上では、お客様の課題に対して、具体的にどう取り組んで、どのような効果が出たのか、また、それが社会的な課題解決にどうつながっていくかということが伝わる書き方を意識しました。
コミュニケーション戦略センター メディアデザイン室
阪本 美奈子氏
濱田:今年の統合報告書は具体的な事例が多く、読み応えがあると私たちの部内でもとても好評でした。
阪本:嬉しいです! 社内の若手社員からも、「自分が関わっているお客様の事例が載っていて嬉しかった」という声をいただきました。自分の仕事が社外に紹介されることが、社員のやりがいにもつながると実感しましたね。特集記事では変革を支える社員へのインタビュー記事も掲載しているので、こちらも身近に感じていただけるかと思います。
向後:デジタルサービスのパートでは、グローバルの状況や、多岐にわたるRDS領域の中の注力事業の状況、そしてお客様事例について情報を収集する必要があり、カウンターパートへの確認や整合性の調整などの作業量が多く苦戦しました。今年度は、ROIC(投下資本利益率)の施策との紐づけをより意識した報告にするため、例年とは違う方法で情報を記載する必要があった点も工夫が必要でしたね。情報収集は、部門内で詳しい担当者につないでもらうなど、連携して進めました。
リコーデジタルサービスBU 経営企画本部 経営戦略室
向後 麻亜子氏
濱田:サステナビリティのパートでは、特に重要な取り組みを中心にまとめ、詳細は「リコーグループサステナビリティレポート 2025」で開示する方針としました。限られたページの中で何を伝えるべきかを精査するのは大変でしたが、読み手の視点に立ち、リコーの考え方や方向性がシンプルに伝わる構成を意識しています。また、同時に制作していたサステナビリティレポートとの役割が重ならないよう調整したことで、双方の内容をより強化することができたと感じています。
そして、投資家が重視する「ESGの財務貢献」を分かりやすく示すために、お客様からのESG要求の高まりや、ESG取り組み支援が商談機会の拡大につながった具体的事例を掲載した点も、今回の工夫のひとつです。
ESG戦略部 ESGセンター
濱田 香氏
藤山:技術・知財戦略/デジタル戦略のパートでは、現場の思いがそのまま伝わるページになるように工夫しました。野水CTOや私たちが大切にしている「体感価値」という言葉がありますが、部内でインタビューを進める中で、この概念が現場にも浸透していることが分かりました。そこで、冒頭のCTOメッセージで体感価値を丁寧に説明し、まずその意味をしっかり理解してもらえる構成にしています。結果として、全体の読みやすさも向上したと感じています。
原稿の依頼方法にも工夫しました。枠や文字数の制限はあるものの、あえて完成版よりも多めの文字数で書いてもらうよう、関係部門に依頼しました。さらに「その分量を超えても構わないので、伝えたいことをすべて書いてください」とお願いしたんです。そのおかげで、これまで見えていなかった思いや事実が自由に出てきました。多くなった原稿は担当者と対話しながら調整し、重要なポイントを残しつつまとめました。現場の声を引き出す上で、良い方法になったと思いますね。
技術統括部 技術経営センター 技術統括室
藤山 遼太郎氏
——統合報告書の制作を通じて得られた収穫や学びはありましたか?
濱田:制作の過程で伺った、昨年の統合報告書に対する投資家の皆さんの声は、日々の業務にも大きな気づきを与えてくれました。投資判断に資する情報の重要性を改めて実感しましたし、財務と将来財務の取り組みの関係性や、成長戦略の道筋をより具体的に示すことが求められていると認識しました。こうした気づきが、今後の情報開示にも活かせると感じています。
また、統合報告書の制作を通じて、リコーは多様な事業を展開しながらも、グループ全体として同じ方向に進んでいることを実感しました。
向後:日頃からニュースリリースなどで個別の情報発信をする機会はありますが、リコーの事業をここまで包括的に伝える機会は意外と少ないことに気付きました。年に一度、統合報告書という形で全事業を改めて整理し、発信できる機会はとても貴重であり、統合報告書を社内外とのコミュニケーションにもっと活かしていきたいと感じました。
現場の思いに向き合い、それを統合報告書で表現していくプロセスは、私自身にとっても大きな学びでした。「お客様に寄り添い、創造性発揮を支援する」というRDSが大事にしている姿勢を改めて意識し、自分が仕事を通してどんな価値を提供すべきか考え直すきっかけになりました。
藤山:統合報告書に携わって3年になりますが、統合報告書はその年の会社をわかりやすくまとめた“辞書”のような存在だと感じています。広報業務として、外部講演資料の作成や取材対応、ウェブサイト制作など、さまざまな場面でも活用できます。掲載しているリコーのデータも、情報発信の際の重要な参照元になります。毎年5月頃から情報収集が始まるので、年度の早い段階から最新情報を本業に反映できる点も、とてもありがたいですね。
阪本:統合報告書は会社紹介とは違い、良いところだけでなく経営課題も正直に伝える役割を持っています。今回の制作を通じて、統合報告書が持つ“開示物としての重み”を改めて感じました。
また、多くの部門との連携や、国内外の従業員・お客様へのインタビューを通じて、世界中でリコーグループの社員がそれぞれの現場で努力していることを再確認できました。統合報告書で伝えている「一人ひとりが変革の主役」という言葉が、より実感を伴うものになり、私自身も今の業務を通じて社会に貢献していきたいと改めて思いましたね。
——統合報告書を、社内外でどのように活用してほしいですか?
向後:統合報告書には各事業の情報が網羅されており、リコーが今どこに向かっているのかがとてもよく分かります。社内の皆さんにも、自分の所属以外の仕事を知る読み物として、ぜひ気軽に読んでもらいたいですね。
濱田:統合報告書では、環境や社会についてコアな部分だけを掲載しているので、ESGの取り組みに関しては、ぜひサステナビリティレポートと併せて読んでいただけると嬉しいです。
藤山:統合報告書は社員が“立ち返る教科書”のような存在だと思っています。普段触れない事例や社員のストーリーも掲載しているので、社内外の多くの方に新たなリコーの一面を見つけてもらえるはずです。投資家の皆さんにとっても、これからのリコーの道標になる一冊になっていればと思います。
——統合報告書の制作という仕事を通じて皆さんが感じる「はたらく歓び」とは?
濱田:統合報告書を読んでくださった方々からのフィードバックは、何よりのやりがいであり、日々のモチベーションにつながっています。ESGの観点から情報開示を担う立場として、いただいたご意見を次の改善へとつなげ、情報開示の質をさらに高めていきたいと考えています。 今後も、ステークホルダーの皆さまの声をしっかり受け止めていきたいです。
藤山:私も濱田さんと同じく、情報発信に対して反応をいただけることが大きな「はたらく歓び」になっています。特に今年は、技術・知財戦略/デジタル戦略のパートにも直接フィードバックを得られるよう、外部の協力会社様と連携して、機関投資家の方とのヒアリングの際に質問を入れ込んでいただくなど、新しい取り組みに挑戦しました。どんな声が届くのか、返答を楽しみにしています。
向後:私はRDSの経営企画本部に所属しており、お客様の現場や、製品づくりの現場と少し距離があります。だからこそ、統合報告書の制作を通じて、リコーが大切にするお客様との関係性や、未来に向けた方向性を実感できたことが「はたらく歓び」につながりました。
阪本:統合報告書は社外に発信するものですので、とても大きな責任を伴います。ひとつひとつの言葉に対して、適切な表現であるかを精査する必要があるので、大変さはありますが、自分の仕事が社会とつながっている実感が、やりがいや「はたらく歓び」につながっていますね。