※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。
リコーグループは早くからオフィスの価値に着目し、働く人の創造性を引き出すオフィスづくりに取り組んできた。その取り組みをさらに進化させ、グローバルで展開しているのがRICOH Spacesである。人を中心に据えた設計思想のもと、オフィスのデジタル化と最適化を進めるこのプラットフォームは、世界中の企業で“新しい働く体験”を実現している。今回は、開発を率いたリコーヨーロッパ イノベーションディレクターのネイサン・トーマス氏に、RICOH Spaces誕生の背景と「人を支えるワークプレイス」のあり方を聞いた。
ネイサン氏にとってオフィスとは、人とアイデア、そして目的をつなぐ"生きた環境"だ。「テクノロジーは人の邪魔をせず、静かに支える存在であるべきです。RICOH Spacesが目指すのは、人がもっと自然に、自分らしく働ける環境をつくることなのです。」ネイサン氏は語る。
リコーヨーロッパ イノベーションディレクター
ネイサン・トーマス氏
RICOH Spacesが目指すのは、働く人の動きやニーズを捉え、自然に進化し続けるオフィスをつくること。空間・デバイス・データを有機的につなぎ、会議室の利用状況や温度・照度、CO₂濃度までリアルタイムで把握し、働く人が最も集中しやすい状態をつくり出す ——それがRICOH Spacesの根底にある思想だ。
「新しい発想は、現場の小さな気づきから生まれます」とネイサン氏は語る。ネイサン氏の発想は、ある日常の観察から始まった。ある顧客企業を訪れた際、同氏は受付ロビーで人の動きを静かに見つめていた。来客対応、社員の出入り、電話応対。どの場面にも、オフィスを支える人の工夫があった。
「受付の方が電話を受けるたびにメモを取り、関係者に伝えていました。それは一見、何でもないことのようですが、オフィスの流れを支える大切な動きです。もしこの"日々の中に潜む、ささやかな非効率やストレス"を取り除けたら、人はもっと時間と集中を取り戻せる。オフィスは、働く人に寄り添う場所へと変わっていくのです。」
ネイサン氏は続ける。「"人が何を言っているか"ではなく、"実際に何をしているか"を観察することが大切です。その違いを理解しないと、本当の課題は見えてきません。」
イギリス・バーミンガムにあるリコーのオフィスを拠点に、ネイサン氏は約45名のチームを率いている。「新しい発想を形にし、未来を描くことが自分の仕事です」と彼は話す。
RICOH Spacesは、リコーが提案する次世代の働く環境を実現するプラットフォームだ。デジタルの力で、場所にとらわれない円滑なコミュニケーションと質の高いコラボレーションを実現し、最適な働く環境を提供する。クラウド上で動作し、世界中のオフィスをつなぎながら、柔軟でスムーズな働き方を支える。社員はデスクや会議室、駐車スペースなどをリアルタイムで予約でき、来客管理やケータリング、設備保守などのリクエストも一つの画面で完結する。IoTセンサーが空間の利用率を測定し、混雑を回避したり、環境データを分析して快適さを維持したりすることも可能だ。
RICOH Spacesにより、社員はオフィス空間を自由に予約し、サービスをリアルタイムで管理できる。
他社でも同様のソリューションは存在するが、ネイサン氏はRICOH Spacesが競合より優位に立っていると語る。「RICOH Spacesの強みは、世界規模で展開できるSaaSプラットフォームと、"人を起点にした考え方"にあります。私たちは、ただ技術を進化させるのではなく、課題の本質を捉え、形にすることを目指しました。」
RICOH Spacesのもう一つの特徴は、そのスピード感とスケーラビリティだ。パンデミックの影響で世界がリモートワークに急速にシフトした2020年、ネイサン氏のチームは開発を当初の計画よりも大幅に前倒しで進める必要に迫られた。
「私たち自身も在宅勤務で、チームとしての協働が難しい状況でした。それでも立ち止まるわけにはいきません。小さなアイデアをどうすればリコーの大規模なお客様に届けられるか ——その方法を必死に模索しました。サポートが必要だったのは、50名規模の企業ではなく、世界に20拠点を持ち、20の言語で事業を展開するようなグローバル企業です。だからこそ、私たちは素早く動き、柔軟に対応しながら、短期間で実装と展開を進めていきました。」
ネイサン氏とチームは顧客企業の現場を訪れ、実際に働く人々の声を直接聞きながら改良を重ねた。こうした現場の声に耳を傾け続ける姿勢が、RICOH Spacesの柔軟性と信頼性を生み出している。
その経験が今のRICOH Spacesを支え、同プラットフォームは現在も成長と進化を続けている。
RICOH Spacesの価値は、オフィスの効率化だけにとどまらない。利用状況の把握や環境データの分析といった定量的な改善だけでなく、働く人が「行きたい」と思える場所をどうつくるか ——その視点こそが重要だとネイサン氏は語る。
「RICOH Spacesにはできることはたくさんありますが、最も重要なのは、従業員が"行きたい"と思える場所をつくり、共に理解し、働ける環境を整えることです。人々が職場に行きたいと思えるようにできれば、より良い職場文化を築き、生産性を高め、定着率を上げることができます」と同氏は語る。
目指すのは、人々が自分の最も得意なことに集中できるようにすることだという。
「私たちは、人が持つ創造的な部分、そして人間だからこそ発揮できる力に集中できるよう支援できると思います。機械にできることは機械に任せ、人はより価値の高い仕事に注力するべきです。そのときこそ、人の創造性が解き放たれ、新しい働き方が生まれるのです。」
リコーのデジタルエクスペリエンスチーム
——RICOH Spacesを生み出し、リコーのワークプレイスエクスペリエンスの未来を切り拓くイノベーターたち。
空間から"はたらく"を変えていく。リコーは、人と空間が調和しながら進化する、そんなワークプレイスの実現を目指しています