Change Country/Area リコーグループ企業・IRサイト

リコーの取り組み 見えない危険をAIが可視化、PFUが挑む廃棄物処理の火災リスクと電池混入問題

2026年1月16日
  • 社会課題解決
  • AI
  • イノベーション
  • 地域・社会の発展

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

毎日のように使われるスマートフォンやモバイルバッテリー。しかし、そこに使われるリチウムイオン電池が、廃棄物処理の現場で火災の原因となるケースが全国で相次いでいる。ゴミに紛れ込んだまま破砕されることで発火し、施設の稼働停止や復旧コストを生み出しているのだ。

見えないところで広がるこの社会課題に、独自の光学技術とAIを組み合わせて立ち向かうのがPFUの「Raptor VISION BATTERY」だ。スキャナー開発で培った技術を基盤に、廃棄物処理の“安全”と“効率化”に新たな価値をもたらそうとしている。

なぜPFUはこの難題に挑んだのか。どのようにしてリチウムイオン電池検知という仕組みを実現したのか。事業を率いる事業開発本部 次世代事業開発室 RAPTOR事業開発部・部長の田畑登氏と、開発責任者である同・シニアマネージャーの本江雅信氏に、Raptor VISION誕生の裏側を聞いた。

読了時間

8分

社会や働く人の安全を揺るがす、リチウムイオン電池ゴミ混入問題

PFUの「Raptor VISION」は、再資源化や危険物除去を目的に生まれた廃棄物分別特化AIエンジンだ。その構想が始まったのは約5年前。開発を率いる本江雅信氏は、当時をこう振り返る。

「PFUが培ってきた光学技術や画像認識技術が、廃棄物処理の現場で役立つのではないか。その可能性に気づいたことが、開発の出発点でした。人手に頼る作業が多い現場で、安全性と効率化に貢献できると考えたのです」

PFU 事業開発本部 次世代事業開発室 RAPTOR事業開発部 シニアマネージャー
本江 雅信氏

最初に提供したのは、ビンの種類を自動で識別するエンジン。精度の高さが評価される一方で、現場からは「リチウムイオン電池を検知できないか」という声が相次いだ。廃棄物処理の現場では、その混入が大きなリスクになるためだ。

RAPTOR事業開発部 部長の田畑登氏は「現場の声を聞き、混入問題の切実さを改めて感じた」と語る。しかし、開発のハードルは高かったと本江氏は続ける。

「袋の中にあるリチウムイオン電池を見つけるには、可視光カメラだけでは不十分でした。形状も多様なため別の技術が必要でした。そこで、X線による透過画像を活用し、リチウムイオン電池を認識する方法へと発想を転換しました。IHI検査計測さんと協業して、X線計測の装置にRaptor VISIONのエンジンを搭載した、リチウムイオン電池検知システムの試作機がまず完成しました」(本江氏)。

透過画像と独自のAIエンジンでリチウムイオン電池を検知する仕組み

リチウムイオン電池を検知するための基本的な流れはこうだ。まず、袋ごとのゴミをベルトコンベアに載せ、装置内部のトンネルを通過させる。そこでX線による透過撮影を行い、その画像をAIエンジンが解析して電池の位置を特定する。検知した箇所には光を当て、作業者に知らせる仕組みだ。

「透過には、異なるエネルギーのX線を組み合わせて詳細な情報を得られる“デュアルエナジーX線”を採用しています。素材によってオレンジ・緑・青と色づく透過画像から、形や模様、色の濃淡といった特徴を独自アルゴリズムで判定し、リチウムイオン電池を認識します」(本江氏)。

電動シェーバー内部に含まれるリチウムイオン電池を、デュアルエナジーX線透過画像とAIエンジン解析により検知したイメージ(左:実際の電動シェーバー、右:透過画像上で電池位置を強調表示)
モバイルバッテリー内部のリチウムイオン電池を、デュアルエナジーX線透過画像とAIエンジン解析により検知したイメージ(左:実際のモバイルバッテリー、右:透過画像上で電池位置を強調表示)

AIエンジンによる画像検知イメージ

実際の現場で認識精度と運用性を確認するため、2024年9月に町田市バイオエネルギーセンターで試作機による実証実験を実施した。燃やせないゴミ1,562kgを対象に、袋の破損前後で計420回のテストを行い、検知率は破袋前87%、破袋後98%という高い結果が得られた。一方で、製品化に向けた課題も見つかった。

「現場で使うためには、防塵・防水性能、ゴミの重さに耐えるベルトコンベアの強度など、クリアすべき点がありました。また、検知できなかったケースを分析し、認識精度をさらに高める改善検討も進めました」(本江氏)。

実証実験の収穫をもとに改善を重ね認識精度が向上

1回目の実証実験の結果を踏まえ、装置とAI認識エンジンの改良を重ねた。中でも大きな見直しとなったのが、X線の照射方向だ。

「リチウムイオン電池は円筒型、角型、パウチ型の3種類に大きく分かれますが、X線を当てる角度によってはうまく特徴を捉えられないことがありました。そこで、従来の上下方向だけの照射に加え、左右からの照射も取り入れた2方向方式に変更しました。2軸の情報を解析するアルゴリズムによって認識精度が向上しています。今後、運用を通じて学習データが増えることで、さらに精度を高められる見込みです」(本江氏)。

改良を経て完成した装置を用い、2025年8月に町田市バイオエネルギーセンターで2回目の実証実験を実施。より厳しい条件での検証となったが、1回目と同様に高い検知率を記録し、現場での使い勝手も向上した。

町田市バイオエネルギーセンターでの試作機による実証実験の様子

「現場のスタッフの方からも、『1回目では見つけにくかった電池も検知できるようになった』という声をいただきました。導入後の保守を含めた具体的な検討も進みましたし、関係メーカーやメディアの方にも見ていただくことで、多くの意見や刺激を得られたことも大きな収穫でした」(田畑氏)。

再資源化のベースにある「分別」で持続可能な社会に貢献

2025年10月31日、リチウムイオン電池検知AIエンジン「Raptor VISION BATTERY」を搭載した検知システムがリリースされた。

開発の中で特に苦労したのは、X線の選定とAIエンジンの精度向上だったと本江氏は振り返る。
「デュアルエナジーX線の採用を決めるまでは試行錯誤を繰り返しました。X線と可視画像を組み合わせるなど、いろいろな方法を試しながらAIエンジンの開発も進めて、たくさんの失敗を重ねましたね。厚みや形も多様なパウチ型リチウムイオン電池に対応するためのアルゴリズムを個別に作ったり、複数のエンジンを組み合わせたりして認識精度を上げていったことが、難易度が高く、工夫した点でもあります」。

今後は、Raptor VISIONの海外展開も進める予定だ。「リチウムイオン電池の混入問題は世界共通の課題です。来年度から北米での市場調査を始め、グローバル展開も視野に入れています」(田畑氏)。

PFU 事業開発本部 次世代事業開発室 RAPTOR事業開発部 部長
田畑 登氏

Raptor VISIONは、ゴミ処理のさまざまな問題を解決する可能性を持つ。
「世界中で再資源化の取り組みが活性化しています。ヨーロッパでは、製品のリサイクル素材の使用率が法律で定められていますし、リサイクル率を上げる動きはさらに加速していくはずです。そんなリサイクルを支えるのが、ゴミの正確な分別。Raptor VISIONは、世界の再資源化の取り組みを後押しし、持続可能な社会づくりにも貢献できる技術だと考えています」(田畑氏)。

Raptor VISIONは、廃棄物処理現場の働き方も変えることができると、本江氏は考えている。
「廃棄物処理の現場で実際にゴミを扱って実感するのは、ゴミの処理の仕事は本当に過酷だということ。衛生状態も悪く夏は熱さも厳しいですが、社会的に必要な仕事です。そういうつらい仕事は機械に任せて、人は人にしかできない仕事をしていくべきだと思います。人手でやっている危険物を取り除く作業を我々の技術がサポートすることで、人を過酷な仕事から解放できるのではないかと思っています」。

誰も正解がわからない新規事業で日々の成長を実感

社会課題の解決に挑むRaptor VISIONの取り組みは、田畑氏と本江氏にとって大きな働きがいにつながっている。初めての新規事業に携わる田畑氏は、こう語る。
「新規事業には正解がありません。自分たちで考え、PFUとは縁のなかった業界の方々ともネットワークを築きながら、Raptor VISIONを磨いてきました。刺激が多く、毎日成長を実感しています」(田畑氏)。

田畑氏がチームとして大事にしているのは、とにかく行動に移すことだという。
「新規事業に取り組んでわかったのは、動かなければ何も始まらないこと。動けば、失敗もするかもしれないけど、必ず何かの反応が得られます。だから『とにかくなんでもやってみよう』という姿勢を大事にしていますね。新規事業は、おいおい!って止められるぐらいの進め方がいいと思います」と田畑氏は笑う。

入社から約25年、スキャナーの技術研究開発に携わってきたという本江氏にとっても、新規事業は初めての経験だ。
「技術開発の仕事は、技術を狭く深く追求する仕事だったため、お客様とお話しする機会も、経営層に提案をする機会もありませんでした。製品開発の仕事も、技術開発とはまた違うやりがいがあります。社会的に注目されている事業であり、講演会への登壇などのいろいろなチャレンジも良い経験で、仕事のモチベーションにもつながっています」(本江氏)。

Raptor VISIONは、社会課題の解決に寄与するとともに、過酷な現場で働く人を支える技術でもある。
この新しい挑戦がどこまで広がっていくのか、今後の展開がますます期待される。

記事へのご感想

PAGE TOP