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リコーのAI リコーのAI市民開発が本格化、ノーコード生成AIツール「Dify」の社内実践と展開

2025年10月24日
  • AI
  • DX

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

リコーは、業務改革「プロセスDX」の一環として、業務へのAI活用を推進。その活動を支えるツールが、生成AIアプリ開発プラットフォーム「Dify」だ。この記事では、Difyの特徴や社内実践の現状と、現場で得た知見を活かした顧客支援について、プロセスDXの推進担当メンバーにインタビュー。リコーデジタル戦略部 プロセスDX開発室室長の塩谷晴久氏、同・CoE推進グループの萩原智氏、プロセスDX推進室 アナリティクスグループの田島有芸人氏に話を聞いた。

サマリー

  1. リコーの「プロセスDX」の一環として、ノーコード生成AI開発ツール「Dify」による市民開発(社内実践)が進んでいる。
  2. 4000人の社員がDifyを活用。現場主体の市民開発が進み、開発したアプリを提供するなどの顧客支援にもつながっている。
  3. Difyによって市民開発の文化が根付いたリコーでは、今後も社内外の“はたらく歓び”創出のためAI活用を加速していく。

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現場主体のプロセスDXを加速するAIアプリ開発ツール「Dify」

リコーは2018年からデジタル技術を活用した業務改革の取り組みをスタートし、RPAなどを用いた現場主体のDXを進めてきた。現在はその一環として、生成AIアプリ開発プラットフォーム「Dify」による市民開発を推進。プロセスDX開発室室長として推進プロジェクトを率いる塩谷氏は、「Dify」の社内実践が始まった経緯について、こう語る。

「2020年頃、プロセスの重要性への意識から『プロセスDX』の取り組みを開始。さらに、ローコード開発プラットフォームも取り入れ、現場社員が自らアプリやRPAを作り業務課題を解決する市民開発を推進してきました。生成AIの活用も進めたいと思っていた2024年にDifyの開発元のLangGenius社とのパートナー契約が決まり、プロセスDXのツールとして活用するため、DifyのCoEの構築に着手しました」(塩谷氏)

  • CoE…専門知識を持つメンバーが、技術の習得や実践を行いながら現場の支援や人材育成など活動を推進するチーム。

デジタル戦略部 プロセス・IT・データ統括 ワークフロー革新センター プロセスDX開発室室長
塩谷晴久氏

Difyは、2024年末からデジタルサービスビジネスユニットでマーケティング支援等で活用され、2025年1月から、希望するユーザーによる先行の社内実践がスタートした。そして8月1日、社内向けにDify活用の活用事例を発表するオンラインイベント「Difyでできた!みんなのワクワク事例発表大会」を開催。1000人以上が参加し盛況に終わったこのイベントを皮切りに、Difyの全社展開がスタートした。2025年9月時点で、開発権限のあるアカウントを持つリコーグループの社員は約2000人にのぼり、アプリ使用のみの登録も含めると、約4300人の社員がDifyを業務に活用している。

ノーコードで業務にフィットしたAIアプリが作れる「Dify」の特徴

Difyは、プログラミングの専門知識を使わずに、ブロックをつなげるような感覚的な操作でAIアプリを作れる。プロセスDX推進室のアナリティクスグループに所属し、デジタル技術の導入や社内展開を進める田島氏は、Difyの活用メリットをこう話す。

「これまでプロセスDXで活用してきたOCRやRPAでは、定型業務の自動化はできるものの、問い合わせ対応や分析業務、報告書の作成といった非定型業務の効率化は困難でした。大規模言語モデル「LLM」の登場でその可能性が広がったものの、生成AIアプリを作るには専門知識や開発リソースが求められます。Difyは、ノーコードで生成AIアプリが作れるため、その壁を乗り越えられます。業務をもっともよく知る現場の方が、業務にフィットした生成AIアプリを柔軟に作れるのが、Difyの最大のメリットです」(田島氏)

  • LLM:ディープラーニング(深層学習)によって膨大なテキストデータを学習し、言語処理を行うAIの大規模言語モデル。

Dify画面でアプリを操作するアナリティクスグループの田島有芸人氏

8月の社内事例発表会では、社内審査エージェントアプリや、業界情報収集・共有アプリなどの開発事例が発表された。ツールの展開やシステム構築など、プロセスDXの環境整備を手がける萩原氏は、こうした社内の成功事例で、Difyが働き方の変革に寄与することを実感したという。

「事例として共有された社内審査エージェントアプリは、生成AIに審査のステップや審査基準の情報を与えることで、さまざまな社内審査を自動化できるアプリです。審査業務は属人化しがちで、基準が不明瞭であったり、担当者が変わると基準が引き継がれなかったりして、公平さが失われやすい。生成AIアプリを使えば、省力化に加えて、公平な審査ができるようになり業務の質も向上します。業界の情報収集・共有ができるアプリも、人の手作業よりも、幅広くタイムリーな情報収集ができます。効率的に、鮮度の高い情報を得られるようになります」(萩原氏)

業務を知る現場から想像を超えたアイディアが生まれる

プロセスDXの活動において3人が一貫して重視しているのが「現場主体」だ。ものづくりの会社として品質にこだわってきたリコーだからこそ、現場主体の社内実践が成果につながっていると塩谷氏は話す。

「業務をもっともよく知るのが現場であり、解決のアイディアがあるのも現場です。以前、バックオフィスの自動化を目的にRPAを社内に展開した際、燃焼実験の効率化に活用した社員がいて、非常に驚きました。Difyに関しても、我々では想像ができなかった活用事例が生まれています。こうした現場起点のアイディアが、私たちリコーの強みです」(塩谷氏)。「ものづくりの会社ですから、『まずは自分でやってみよう』というマインドが浸透していると思います」と田島氏も続ける。

Difyの活用をさらに進めるために、社員同士がオンラインで情報交換ができる「コミュニティラウンジ」も設置された。「私たち推進担当者への問い合わせだけでなく、『アプリ開発でここをどうしたらいいか分からない』という疑問の解消や、『こういう機能のベースを作ったので活用してください』というような、ユーザー同士のコミュニケーションが自然と行われています」と萩原氏は話す。

プロセスDX開発室CoE推進グループ
萩原智氏

社内実践で得た価値で顧客の"はたらく歓び"を創出

リコーは、Difyエンタープライズ版の販売・構築パートナーとして、利用環境の構築や伴走支援といった顧客支援を展開している。リコージャパンの営業担当が開発した営業支援アプリを顧客にも提供して活用してもらうなど、社内実践の成果を活かした価値提供が進んでいる。今後も、「現場が自らアプリを作り、使って実感した価値や機能を顧客に届けていきたい」と塩谷氏は意気込む。

「私たちリコーグループが社内外の活動に共通して持っている価値観が"はたらくに歓びを"という理念。創造力を支えるワークプレイス変革に対する思いが社内に根付いていますので、その成果を社外にも提供して、お客様にも同様の“はたらく歓び”を実感してもらえたら嬉しいです」(塩谷氏)。

「生成AIという言葉は一般的になったものの、まだ業務に活用しきれていない人が多い」と萩原氏は言う。「Difyは、幅広い方に、AIに創造力が必要な仕事も任せられることを実感してもらえるツール。自分が作ったアプリで仕事をこんなに楽にできるという“歓び”を多くの人に感じてもらえると嬉しいですね」(萩原氏)。ものづくりが好きでリコーに入社したという田島氏は、「自分のアイディアを形にしたアプリでタスクを自動化して、やりたい仕事に集中できる環境を作れる。そんなワクワクするツールの推進に携われていることが、私自身のやりがいにもつながっています」と語った。

現場のチャレンジを止めないデジタル推進体制を整備

Difyの市民開発によって社内のコミュニケーションやコラボレーションも進んでいる。今まで接点がなかった社員同士がアプリの開発や活用で助け合うなど、Dify活用やコミュニティラウンジという場所が、社内の活気につながっているという。「業務改善のため、5年後、10年後にまた新しいツールを導入していく時に、今のような市民開発の文化があることでより活用が進むはず。Difyが、デジタルサービスの会社として発展していくための土台作りを進めたと思います」と萩原氏は話す。

Difyは、DXの考え方自体も刷新すると塩谷氏は言う。「DXの活動は今まで『工数の削減』というマイナスの発想で進められてきましたが、Difyは、業務の質を一段も二段も上げられるツール。Difyによって、クリエイティブに働くための業務改善が実現すると思っています」。

Difyによって社内外の"はたらく歓び"をさらに創出していくために、社内実践を支える「現場」の力を引き出す推進活動に注力したいと塩谷氏は話す。「現場の方々に、自由かつ安全にDifyを活用してもらえる環境整備を進めます。デジタル戦略担当として、ガードレールの整備や保守はしっかり行っていくので、社員の皆さんにはどんどんAI市民開発のアクセルを踏んでいただきたいですね」。

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