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イベントレポート AI活用を成功させる3つの価値創造ステップとは?未来に続く企業の経営戦略 Gartner IT Symposium/Xpo™で、リコーの「人とAIが共創する未来のはたらき方」をテーマにセッションに登壇

2025年11月26日
  • AI
  • DX

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

2025年10月28日~30日、神奈川県横浜市で、経営層向けにITのトレンドやソリューションを発信する「Gartner IT Symposium/Xpo™ 2025」が開催された。リコーはこのイベントにブース出展しAIを中心とした最新のDXソリューションを紹介したほか、セッションにも登壇。10月28日は、株式会社リコー コーポレート上席執行役員の入佐孝宏氏が、「"はたらく"をもっと自由に、もっと創造的に —『知』を『成果』に繋げる経営戦略」をテーマに、人とAIの共創が実現する創造的なはたらき方について講演した。

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AI時代を生き抜く企業に必要なデータの資産化と生産性向上

リコーグループのデジタルサービスをグローバルで率いる入佐氏は、まず参加者に「10年後の"はたらく"にどのようなイメージをお持ちでしょうか?」と問いかけた。
入佐氏は続ける。「これからAIが生活やビジネスに深く浸透し、すべての人がその利便性を享受する時代が訪れます。仕事においてもAIの活用が進み、人の役割は再定義される。人が"つまらない仕事"をやることなく、人にしかできない創造的な仕事をする時代が到来するのです」。

そんなAI時代に日本企業が成長を続けるために必要なのは、「長寿企業の資産アップデート」「業務の効率化」「創造性の発揮」の3つだと入佐氏は語る。企業が保有するデータを資産として次世代に引き継ぐこと。テクノロジーの力で業務を効率化すること。そして社員が未来を切り拓く創造的な仕事に集中できるようにすること。この3つの要素を組み合わせることで、企業は持続的な成長を実現できるという。

「知を成果につなげる経営戦略」を示す図。長寿企業の資産をアップデートし、業務の効率化、創造性の発揮を経て、日本企業の持続可能な成長へとつなげる。各階層では、「暗黙知から形式知へ」「無価値業務の撲滅」「テクノロジーやAI活用」「自律型人材の育成」「組織のカルチャー変革」など、AIと人の力を組み合わせた成長プロセスを表している。

日本企業が抱える3つの課題 ——暗黙知・生産性・創造性

これらのテーマに取り組む上で注目すべきは、日本企業が抱える3つの課題だ。

  1. 膨大な暗黙知の資産を活用できていないという企業の課題、
  2. 生産性が低いという働き方の課題、
  3. 創造性を発揮できていないという社員の課題。

「日本の長寿企業はコロナ禍を経ても生き残る強靭性を持ちながら、保有するデータを十分に活用しきれていません」と入佐氏は語る。Gartner®社の調査によれば、企業データのうち70~90%が活用しにくい非構造化データだという。「非構造化データとは、ベテランのノウハウや勘などの暗黙知。ベテランの退職によって、そのナレッジが流出することに多くの企業が頭を悩ませています」と続けた。

また、日本の1人あたりの労働生産性はOECD加盟国38カ国中32位という低水準にとどまっている。AIへの投資が生産性向上に十分寄与していない現状もあり、「企業は生産性を高めると同時に、社員が創造性を発揮できる環境づくりに積極的に投資すべきです」と入佐氏は強調した。

事例1:プライベートLLMで機密情報も含むノウハウの継承に成功

入佐氏は、3つの課題の解決策を社内実践やお客様事例を通じて解説した。ひとつめの「膨大な暗黙知の資産を活用できていない」という課題について紹介したのは、製造業の長寿企業の事例だ。

グローバルに事業を展開するこの企業は、ベテラン社員の言語化されていないノウハウを社内に保持できていないという、事業継続上の重要課題を抱えていた。同社のノウハウには、製造に関わる秘匿情報や専門用語も含まれており、一般的なAIの利用では安全性や精度の面で対応が難しかった。リコーはこの課題に対し、顧客専用に最適化したプライベートLLM(大規模言語モデル)を構築。現場の知を安全に活用できる環境を整備し、デジタルの力で暗黙知を形式知化して資産化することに成功した。

次に生産性に関する課題について、入佐氏は「AIはどの段階から使うのがもっとも効果的か」と問いかけ、最適なデータ利活用プロセスを紹介。「構造化・非構造化データをインプット」→「データの格納・統合」「活用」というステップにおいてAIがもっとも効果を発揮するのは「活用」のステップだが、アウトプットの価値を高めるには、その前工程での取り組みが重要だと語った。

横軸にステップ、縦軸に業務価値をとったグラフ。ステップ①で業務最適化により無駄を圧縮し、ステップ②で生まれた余力をAI活用に充て、ステップ③でAIの利用によって新しいアウトプットを拡大する過程を示している。デジタル化による業務の効率化と、AI導入による価値創造を段階的に描いた図。

入佐氏が示した図は、縦軸が業務価値、横軸が仕事の流れを示す。「ステップ①でやるべきなのが業務の可視化です。ステップ②では、可視化による業務削減で生まれた余力を使い、AIを業務に取り込みます。ステップ③では、社員がAI活用による新しい価値を生み出します。AIが生き生きと動くためには、ステップ②と③につながる、ステップ①の業務可視化の工程が非常に重要です」と入佐氏は語る。

事例2:業務可視化の余力でAI活用を進め75%の時間を削減

リコーグループでは、ステップ①に該当する業務可視化・効率化の取り組みとして、115組織900人による"GG(業務量可視化・業務可視化)"プロジェクトを実施。「BPECという業務改善支援ツールを使って、部署ごとに業務構造化・業務量調査を実施。業務の仕分けや自動化によって、平均20%の業務削減を実現しました」。

「ステップ① 業務の最適化 GGプロジェクト(社内実践)」を紹介する図。115部署・930名を対象に1.5か月間実施し、業務内容を可視化した結果、平均20%の業務削減を達成。定量効果として業務改善プラン184件以上、定性効果として働き方の見直しやカルチャー変革への意識向上を示している。

効率化で生まれた時間を使って、ステップ②にあたる現場でのAI活用に取り組んだ。そのひとつが、マーケティング部門でのAI活用だ。それまでは、顧客の経営幹部に課題をヒアリングするための企業調査や仮説検討に、担当者が約5時間を要していたという。そこで、ベテランのノウハウを取り込んだAIエージェントを構築し、調査と仮説検討に活用。すると作業時間が約1時間にまで短縮し、75%の削減に成功した。「業務効率化に加えて、ベテランのスキル継承によって、若手や中堅社員も、お客様との面談や新たな価値を生むための時間を創出できる。これがAIのパワーです」と入佐氏は語った。

事例3:AIエージェントの営業支援で新人の成長と活躍を促進

営業現場でもAIは活用されている。リコージャパンでは全国で7000名の営業担当が500万点の商材とともに顧客に向き合っており、新入社員の商材知識の習得と戦力化が長年の課題だった。そこで、CRM(顧客管理)システムにAIエージェントを導入。顧客との商談内容を入力するとAIエージェントが顧客課題を理解し、トレンドもふまえた最適な商材を提案してくれる。こうしたレコメンド型支援が、若手の活躍や成長を促進しているという。

リコージャパンでは、AIによる請求書処理業務の自動化も進めている。毎月約4000件の請求書の処理には130万ほどのタスクが発生するが、AIによる自動化でタスクを75%削減できる見込みだ。「効率化だけでなく、正確性の向上やコスト削減にもつながります」と入佐氏は語る。

マーケティング部門でのAI活用による業務効率化を示す図。AIエージェントが企業調査と仮説検討を自動化し、作業時間を4.82時間から1.16時間に短縮。業務時間を約75.9パーセント削減し、ベテラン営業のスキル継承と効率化を実現。社員は削減した時間を顧客価値の創出に活用していることを表している。

事例4:社員が自らAIを創り出すノーコード開発プラットフォーム「Dify」の活用

リコーグループでは、社員による自律的なAI活用のため、ノーコードでAIアプリを開発できるプラットフォーム・Difyを導入し、現場の市民開発を推進している。「リコーが目指すのは、すべての社員がAIを相棒に持って、自分は創造性を発揮するというはたらき方。Dify導入2ヶ月で、2100人のAIアプリ開発者が4500のAIアプリ・AIエージェントを作成し、稼働させています。AIを当たり前に活用できる環境作りによって、我々の想定を上回るアウトプットが生まれています」と入佐氏は語った。

「社員による自律的な業務改善(社内実践)」を紹介する図。誰でも簡単にAIアプリを開発できるツール「Dify」を活用し、433部門・2,100名の市民開発者が約4,500のAIアプリ・AIエージェントを構築。活動を通じて社員のAI活用意識が高まり、AIで業務改善を進める文化が社内に定着している様子を示している。

事例5:AIとの共創で生まれる"創造的な会議"、社員が自ら描く新しいはたらき方

「社員が創造性を発揮できていない」という課題に関して入佐氏は、リコーのカルチャー変革の取り組みを紹介。「製造業の会社として創業したリコーは、以前は決められた仕事を着実に進めるというカルチャーが根強くチャレンジできる風土がなかった」という。そんなリコーは2017年から、変革の一環として働き方改革に着手。デジタルツールの整備や社内起業プログラム、スキルアップ支援などの取り組みを通じて意識・風土改革に取り組んだ結果、社員のエンゲージメントが向上。チャレンジングで、創造性を発揮できる組織風土に変わりつつあると入佐氏は語った。

次に、創造性を発揮できる環境作りの具体策として入佐氏が紹介したのが会議の改革だ。会議の生産性に課題感を抱いたリコーの社員が、AIとの共創による新しい会議のあり方を提案。リコーのデジタルヒューマンなどの各種ツールなどを組み合わせ、人の創造性を引き出す会議スペースを自律的に構築した。AIが、課題の層別や選択肢の提示などを支援することで、人は議論や意思決定に集中できる。リコー社内でも導入され、時間短縮や議論の質向上といった効果があがっている。このソリューションは、顧客に提供する準備も進んでいるという。

AI活用の成功を支える"人"の力

入佐氏は最後に、AI活用を成功に導く鍵は「環境づくり」と「人」にあると語った。
「非構造化データの整理や業務の可視化によって余剰時間を生み、AIを活用しやすい環境を整えることが大切です。適切なステップを踏むことで、社員が自律的に価値を創造し、企業を成長させることができます」。

さらに入佐氏は、日本企業が持つ可能性についても言及した。
「日本企業の強みである膨大なデータを、デジタルの力で資産へとアップデートすること。そして、単調な仕事はAIに任せ、人は創造的に働くこと。それこそが、未来へ続く企業にとって不可欠な条件です」。

1936年の創業以来、リコーは一貫して"はたらく"に寄り添ってきた。「5年後、10年後には、また新しいテクノロジーが登場するでしょう。リコーはそのたびに、自ら使い倒しながら、お客様に価値を提供し、課題解決に貢献してまいります」。入佐氏はそう語り、セッションを締めくくった。

  • 出典:AI-Readyデータに備えるCIO向けガイド 7 April 2025 - ID G00822869 By: Tatsuya Ichihsi
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