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株式会社リコー リコーグラフィックコミュニケーションズ BU(RGC)は9月1日、神奈川県海老名市のリコーテクノロジーセンターにて「商用・産業印刷事業説明会」を開催した。メディア関係者を招き、商用印刷・産業印刷事業の現状や今後の成長戦略を紹介。ビジネスユニットプレジデント・宮尾康士氏によるプレゼンテーションの後、同センター内の『リコーカスタマーエクスペリエンスセンター(CEC)』と『テクニカルサプライズワンダーランド(TSW)』を案内し、リコーの取り組みを紹介した。
株式会社リコー コーポレート上席執行役員 リコーグラフィックコミュニケーションズビジネスユニット プレジデント
宮尾康士氏
宮尾氏は冒頭、RGCがリコーグループの収益の太い柱として成長をけん引する存在であると説明した。
リコーグループの2024年度連結売上高は2兆5,278億円。そのうちRGCは約3,000億円を占め、海外比率は90%以上とグローバル市場を中心に展開している。事業領域は商用印刷と産業印刷の2分野で、一般的なカタログやポスター、チラシ類など紙の領域から、建材や外壁、サインディスプレイ、服飾など紙以外の素材を扱う領域まで幅広く対応している。
2024年度のRGCの業績は、売上高が前年同期比+11.6%増、営業利益231億円と好調だ。収益の柱としてグループの成長を支え、消耗品や保守サービスによる安定的なストック収益を確保。長年培った画像・光学・システム技術と、グローバルに広がる販売・サービスインフラが競合優位を生み、持続的成長を支えている。
商用印刷事業では、トナーベースから高速インクジェットまで幅広いプロダクションプリンターを展開し、印刷業や基幹系市場のさまざまなニーズに対応している。ワークフローやカラーマネジメントなどのデジタルサービスも提供し、印刷工程全体の効率化と品質向上を支援している。
産業印刷事業では、高耐久・高信頼性のインクジェットヘッドをはじめ、テキスタイルやサインディスプレイなど多様な分野に向けた製品を展開。多品種・小ロット化が進む市場で高い評価を得ている。
この中でも、「RICOH Pro C9000 Series」と「RICOH Pro 7000 Series」は世界一のシェアを誇る主力製品だ。さらに、ロール紙に連続印刷するインクジェット連帳機や、サイングラフィック市場向けインクジェットヘッドでもシェア2位を確保している。リコーは、インクジェットヘッドからインク、トナー、撮像技術までを自社で一貫開発できる体制を持ち、上流から下流までを開発できる能力を備えている。
調査会社によると、世界の印刷総需要はA4換算で約16兆ページと推測され、年率1.9%ずつ減少している。電子化によるペーパーレス化がその背景にあるが、その一方でデジタル印刷は逆に成長を続けている。
特にデジタルカラー印刷は2030年まで年平均約12%の成長が見込まれ、パーソナライズや高付加価値印刷への需要が追い風になっている。例えば、従来、同じ内容で何万部も印刷されていたダイレクトメールは、消費者それぞれの嗜好や購買行動に合わせて内容を変えることで価値が高まり、需要を増やすトレンドにある。
宮尾氏は「一枚ごとの価値を高めるデジタル印刷にこそ、成長の可能性を感じている」と語る。
実際、リコーのパートナー会社であるハイデルベルク社によると2027年時点では印刷量の90%がアナログ印刷と予測されるが、市場規模(売上ベース)ではデジタル印刷がアナログに並ぶと見られている。
一方、産業印刷市場は堅調に拡大しており、印刷総需要は毎年2.1%程度の増加傾向で、2025年にはA4換算で約12.5兆ページに達すると見られている。なかでもデジタル印刷は多品種・小ロット・環境対応を追い風に、2022年から2026年にかけて年平均約21%という高い成長率が予測されている。
リコーは2008年から産業用インクジェットヘッドを商品化し、サイングラフィックや3Dプリンティング、テキスタイル、ラベル・パッケージ、デコレーションなど多様なアプリケーションに対応してきた。こうした分野では用途が広がり続けており、多様な顧客ニーズに応える製品開発に取り組んでいる。
印刷業界は「多様化するニーズへの対応」「人手不足」「環境負荷の低減」など多くの課題を抱えている。デジタル印刷はオンデマンド性、損益可視化、自動化・無人化、省資源といった利点を持ち、業界変革の基盤技術となりつつある。
商用印刷事業では、高速インクジェット技術を軸に、これまで小ロットが中心だった領域から数千枚規模の中・大ロットへと事業を拡大している。技術革新によって生産性や画質、安定性、コストが大幅に向上し、従来オフセット印刷の領域とされていたボリュームでもデジタル化が現実的になってきた。
宮尾氏は「リコーの商用印刷分野における強みはまず技術力と製品力にある」と語る。リコーはインクジェットヘッドからインク、トナー、画像エンジンまで自社で開発し、幅広い製品ラインアップを展開している。また、顧客と価値を共創する"Co-innovation"に取り組むとともに、自動化・DX支援を通じた業務効率化にも力を入れ、印刷業界のデジタルシフトを後押ししている。
産業印刷事業では、リコーが強みを持つサイングラフィックや3Dプリンティングの分野を起点に、テキスタイルやラベル・パッケージといった成長市場へ技術とノウハウを水平展開している。用途の多様化に応じて、新たなアプリケーション開発も進めている。
宮尾氏は「リコーの産業印刷分野の強みは、何よりも顧客基盤の厚さにある」と語る。各アプリケーション市場のトップベンダーと長年にわたる信頼関係を築き、継続的な協業を行っている。さらに、直近では市場全体の2.2倍という成長スピードを実現しており、製品とサポート、そして新しい用途開発の両面で競争力を高めている。
リコーが推進する"Co-innovation"は、顧客が抱える課題を理解し、解決方法をともに考えることで新しい価値を創り出す取り組みだ。その実現に向けて、リコーは4つの活動を軸に共創を進めている。
宮尾氏は「印刷機は5年から10年といった長期でリターンを得ていく機器。だからこそ、長く信頼関係を築けるパートナーであることが何より大切だ」と語る。リコーは、顧客と共に歩みながら産業の変革を支える存在であり続けることを目指している。
宮尾氏のプレゼンテーションの後、メディア関係者はリコーテクノロジーセンター内にある2つの施設を訪れた。高速インクジェット機を体験できる『リコーカスタマーエクスペリエンスセンター(CEC)』と、顧客との価値共創を実践する『テクニカルサプライズワンダーランド(TSW)』である。
参加したメディア関係者からは、「リコーの商用・産業印刷事業の全体像を理解できた」「実機と共創の場を体感することで、説明内容がより具体的に感じられた」といった声が寄せられた。
CECでは、最新の技術やソリューションを提案するとともに、用紙検証をはじめとする顧客課題の解決策の提案、サードベンダーとの連携による共創、他社機連動などに取り組んでいる。
インクジェット・プリンティング・システム「RICOH Pro Z75」と「RICOH Pro VC80000」のデモの様子
TSWは、リコーがグローバルに展開する"Co-innovation"を体感できる場である。
顧客ニーズと製品機能のギャップを埋めるカスタマイズやツール開発を行い、30名を超えるエンジニアが世界中の顧客に向けて、技術サポート、自動化ソリューション提案、ソリューション開発、アプリケーション開発を展開している。
TSWから生み出されたソリューションとお客様の共創事例を紹介する様子