製品・取り組み
2023.08.09
目次
業務の自動化やデジタル化が進む今、人にしかできない創造的な仕事や、「人中心のワークスタイル」が求められている。そんな中リコーは、自社のコア技術である光学、マイクロデバイス、AIなどを活用した空間演出によって、未来のワークスタイルを提案。チーム間のコミュニケーションを活性化するとともに、これまで仕事の場ではあまり顧みられなかった人の言動や感情をデジタル化することで、個人や組織の創造性を高める取り組みを進めている。
働く人の五感に働きかけることでチームの創造的な気持ちを高めるまったく新しい次世代会議空間が、RICOH PRISMだ。その開発秘話やサービスへ込めた思いを、プロジェクトを主導する株式会社リコー 未来デザインセンター はたらく歓び価値創造室の村田晴紀氏に聞いた。
RICOH PRISM(リコープリズム)とは、映像や音によって人の感情に働きかける演出や、チームのコミュニケーションをサポートする機能を搭載した、これまでにない会議空間だ。
会議の参加者は、エントランスからアトラクションへの通路のようなアプローチを抜けて、壁面と床がスクリーンになった5メートル四方ほどの真っ白な部屋へ。会議の目的に応じて、アーティストがデザインした空間を体験できる「旅する」、コミュニケーションをサポートする「交える」、心身をメンテナンスする「整える」の3つに分類されたアプリケーションを組み合わせて使用できる。
効率的かつ創造的な会議の実現につながるのが、アイディアの創出や合意形成をサポートする「交える」の領域のアプリケーションだ。没入感に満ちた空間で、映像や音に誘導され、参加者がブレインストーミングやディスカッションに集中できる。お互いのコミュニケーションスタイルへの理解を深める「PERSONA」、壁全体に映像を投影してプレゼンテーションができる「GALLERY」、共有や投票などの機能でアイディアを引き出し整理する「BRAIN WALL」などのアプリが会議をサポートする。
「RICOH PRISMは、参加者の創造性を引き出す会議室です」と話すのは、株式会社リコー 未来デザインセンター はたらく歓び価値創造室の村田晴紀氏。RICOH PRISMの立ち上げから、プロジェクトを主導してきた人物だ。
株式会社リコー 未来デザインセンター はたらく歓び価値創造室 村田晴紀氏
「カメラやマイク、装着デバイスが会議の参加者の人の振る舞いを検知して、それに応じた環境演出や会議の進め方の提案をリアルタイムにフィードバック。取得されたデータが会議の創造性を向上する効果として可視化されるので、安心して会議に集中できます」と村田氏は言う。
データをもとに、会議後に内容や成果を振り返ることも可能だ。「参加者の発話量や頷きの回数から、自分の話に対する周りの反応を分析できます。自分の言葉がどれくらい納得感を得られたのか、アイディアが受け入れられたのか、どのくらい会話が盛り上がったのかなどがわかるので、会議の進め方や自分の振る舞いを改善していくことができます」。
またRICOH PRISMは、継続して使うほど高い効果を発揮する。「参加者を登録して会議の回数を重ねていくと、その会議メンバーに適した空間演出や会議方法をRICOH PRISMが提案します。どんどん、自分たち好みの会議空間になっていくイメージです」。
こうした新しい会議空間を提供する背景には、働く人を支えてきたリコーの未来のオフィスのあり方への思いがある。「コロナ禍を経て今、オフィスという場所が、高い目的意識を持って来る場所になっています。その目的のひとつが会議です。人とリアルで会える時間が限られる中で、会議室で濃密な時間を過ごして成果を出し、残りの時間で、同僚との親交を深められる。RICOH PRISMは、そういうオフィスのあり方を実現できると思っています」。
次世代会議室のプロジェクトの起源は、6年前に遡る。山下良則会長が社長に就任した2017年、リコーの未来の姿を、次世代を担う若手社員が提案して事業化する『2030年シナリオ委員会』が発足。公募で集まった24人のメンバーと経営層によって、リコーの未来像をテーマにディスカッションが行われた。
「未来のビジネスを話し合う中で、これからデジタル化が進む中で『個』が台頭していくという答えに至りました。リコーの未来像をイメージするためにリコーの歴史も振り返ったのですが、これまでずっと働く人に価値を提供してきた会社であり、未来もそれを貫くべきだということが若手と経営層の間で一致したんです。そして、『"はたらく"に歓びを』というビジョンの実現へと動き始めました」
具体的な事業化へ向けて、2030年シナリオ委員会のメンバーの中から、4人の専任チームが誕生。村田氏らは、事業化へのヒントや具体策を探るため、取引先等にアポイントをとり話を聞いて回った。
「今思えば、提案書や商材もないのに、よく話を聞きに行けたなと思います(笑)。国内外のいろいろな会社の経営者や技術者の方、研究者にお会いして、『未来に働く人が幸せになる価値を生み出したいんです』『それってどういうこと?』というようなやりとりを繰り返しました。その結果、こうしてお会いしていること自体の価値がとても高く、私たちが考える未来においても人と会って何かを生み出すという仕事自体はなくならないだろう、それなら未来の会議室を作るのはどうかという感じで、企画が具体化していきました」
対話の結果、生まれたのが『デジタルアルコール』というテーマだ。「創造性を発揮するためには、思い込みや気分が大事。コンサート会場に行くだけで気分が上がるように、人は周りの環境によって高揚感を得られます。『自分ならできる』という感覚を持ち上げてくれる会議室があったらいいよね、ということで『ひらめく会議室』というラフコンセプトができ上がりました」。
発想が生まれるだけでなく、チームがまとまってひとつの結論に達することも「ひらめき」のひとつだと村田氏は言う。アイディアが浮かばない人や、合意形成ができないバラバラなチーム、つまり、「ひらめかない人」たちでもその部屋に入ると、会議がうまくいく。それが、「ひらめく会議室」だ。
2019年にコンセプトが決まると、プロジェクションマッピングや気持ちを高めるアプローチなどのアイディアから次世代会議室のイメージを膨らませて、実験もスタートした。2020年にコロナ禍に入り、会うことの意味が見直されたことも、プロジェクトの具体化を後押しした。
「会う時間の価値を高める取り組みを進めていたら、コロナ禍が訪れ、会うこと自体がリスクという時代になりました。当時、『それは本当に会ってやる必要があるの?』という議論が繰り返されましたよね。だからこそ、会うことでしか生まれないものを提供する必要性が高まったんです。この仕事を前に進めたいから、今日、会いに行くんだという会議の意義がはっきりしたことで、仲間も増え、開発も進みました。その頃、働く人の創造性を高める研究拠点であるリコーのワークプレイス『3L(サンエル)』も開設し、そこにRICOH PRISMを導入しました」
RICOH PRISMの根底には、「働く」の未来像を伝えたいというリコーの思いがある。「これから先、AIやIoTの普及で省力化が進む中、人にしかできない仕事を通じた達成感や充足感、歓びが不可欠です。だからこそこの先は、働くことを、苦役ではなく楽しいものに変えていく必要があります。誤解を恐れずに言うと、働くことは、これからエンタメ化されていきます」。
RICOH PRISMは、そんな未来の働き方を実現できる場所だ。「働く人に寄り添う商品と、価値を生む会議空間を提案してきたリコーだからこそ、こうした未来型の会議の形を提案できると思っています」と村田氏は言う。
RICOH PRISMは、「創造」という行為へのアプローチや価値観も変革する。村田氏は、「AIに不可能な創造的な仕事は、高いクリエイティブ能力を持つ人しかできないと思うかもしれませんが、そうではなく、人間のプリミティブな行為そのものが創造的です。デジタルの力があれば、創造は難しいことではないんです」と語る。
「たとえば、AIに提案されたアイディアでも、それを人間同士が話し合えば合意形成ができます。AIが候補を挙げたり、実現性が低いものを削ったりしてくれて、みんなで楽しく『これがいいよね』と語り合っているだけで仕事が進んでいく、そんなことも可能になります。この部屋でメンバーが気持ちよく過ごせば成果が出る、そんな会議室があれば、誰もが働きやすくなり、格差もなくせます。アイディア職人のような限られた人だけでなく、全員が創造的な仕事に参画できる世界を、RICOH PRISMで作りたいですね」。
村田氏が所属する「はたらく歓び価値創造室」の近い将来の目標は、RICOH PRISMをより多くの人に体感してもらうことだ。オフィスへのRICOH PRISMの導入には工事が必要だが、現在は、広いスペースや工事が不要で、ディスプレイが3面あればアプリケーションを使えるサービスを開発している。
「アプリの追加や機能の改善も含めて、RICOH PRISMをさらにお客様が使いやすいものにして、より広く価値を届けていきたいです」と村田氏。そして今後は、会議空間だけでなく、働く歓びを提供するサービスを幅広く提供していきたいと語る。
「『"はたらく"に歓びを』から生まれる価値は、さまざまな開かせ方があると思っています。社内外の方々と協力して、働く人に寄り添う価値をこれからも生み出し続けていきたいですね」