ワークプレイスサービスプロバイダーとして
お客様と共に進化し続ける
大山 晃
代表取締役
社長執行役員 CEO
2024年9月6日
1986年 7月
株式会社リコー 入社
海外向けOEMおよび国内販売会社での営業に従事
その後、欧米で買収した企業のPMIなどに携わる
2011年 4月
RICOH EUROPE PLC 社長・COO
2012年 8月
株式会社リコー グループ執行役員
RICOH EUROPE PLC CEO
2014年 4月
常務執行役員
コーポレート統括本部 本部長
2015年 6月
取締役
2016年 6月
専務執行役員
2017年 4月
CFO
2021年 4月
コーポレート専務執行役員
リコーデジタルサービスビジネスユニット プレジデント
2021年 6月
取締役
2023年 4月
代表取締役 社長執行役員 CEO(現在)
リコーは今、全社の経営資源を集中して、OAメーカーからデジタルサービスの会社への変革を進めています。2023年4月に、「“はたらく”に歓びを」をリコーウェイの使命と目指す姿と定義し、第21次中期経営戦略(21次中経)を始動しました。社内カンパニー制への移⾏、各ビジネスユニットへのROIC(投下資本利益率)の導⼊、事業ポートフォリオマネジメントによる経営資源配分の最適化など、2022年度までの第20次中期経営計画で進めてきた改革をさらに加速させ、戦略を確実に実行する3カ年と位置づけています。
この1年を振り返ると、世界情勢は大きく変化し、特に生成AIの普及をはじめとした技術の進化は目覚ましいものでした。こうした最先端の技術を活用した、業務の自動化・最適化への期待は今後より一層高まることが予想されます。また、コロナ禍を経て、働く環境も働く人の価値観も大きく変化してきました。リモートワークやハイブリッドワークが普及すると同時に、雇用や組織の在り方の変化に伴い、副業や兼業など、働き方も多様化が進んでいます。このような変化を受けて、従来のオフィスに限らず、働く人がいるあらゆる場所や空間を「ワークプレイス」ととらえ、デジタルの力でワークプレイスにおける生産性を向上するとともに、質の高いコラボレーションを醸成する環境を整えることで、はたらく人の創造力の発揮を支えます。
2023年度はデジタルサービスの会社として収益を生み出すための基盤づくりを進めた1年でした。その結果、収益性改善の要となるオフィスサービスのストック売上は2桁成長し、デジタルサービスの売上高比率は、2025年度の目標60%超に対し48%と、事業成長に向けて勢いがついてきたと感じています。今後も変化の著しいワークプレイスを成長領域ととらえ、投資を集中させることで、ワークプレイスサービスプロバイダーとしての成長を図っていきます。
リコーの企業価値を持続的に向上させ未来につないでいくことは、社長である私の使命です。上場企業としてPBR 1倍というのは最低限の水準です。現状PBRが1倍に達していないことを重く受け止めており、収益性を上げてROEの改善を図ることが不可欠です。そのため、社長就任後すぐに、株主、投資家をはじめとする資本市場の皆様とコミュニケーションを重ね、さまざまな課題を再確認しました。それらの声も踏まえて、収益構造を改革し、中長期的な成長を実現することを目的とした「企業価値向上プロジェクト」を、自らがリーダーとなり、スタートさせました。デジタルサービスの会社としてふさわしい経営体質に変えていくことは急務であり、ただ単に体制をスリム化するのではなく、未来につながる改革として進めています。
具体的には、収益性向上に向けた抜本的な改革として、「オフィスサービス利益成長の加速」と、それを支える「本社改革」「事業の『選択と集中』の加速」「オフィスプリンティング事業の構造改革」の4本柱でプロジェクトを推進しています。そしてその効果として、2025年度には、2023年度比で600億円を超える効果を創出したいと考えています。
「本社改革」では、研究開発投資を成長領域に集中させて適正化することに取り組んでいます。事業化の確度が比較的低く、当社が将来進むべき方向性と必ずしも一致しないと判断したテーマの中止や、オープンイノベーションの積極的な活用により、2025年度までの2年間で、研究開発投資をキャッシュベースで300億円程度洗練化し、150億円程度の費用削減効果を創出します。
「事業の『選択と集中』の加速」に関しては、2025年度までの効果創出を目指し、収益性や将来の市場性に加え、当社の顧客基盤、顧客接点を活かせるか、さらには「ワークプレイスサービスプロバイダー」としての方向性と合致するかなど、さまざまな観点から検討しています。これらの方向性に合致しないと判断した場合は、該当事業のお客様やサプライヤーへの影響、および事業に携わる社員の将来について十分な検討を行いつつ、ベストオーナーへの譲渡・売却も選択肢の一つとしています。
「オフィスプリンティング事業の構造改革」においては、2024年7月に、東芝テックとの合弁会社エトリア株式会社を発足させました。両社の技術の融合を進め、競争力の高いエンジンを開発、生産することで商品力の強化を図るとともに、スケールメリットを活かして調達や開発、生産コストの低減を図ります。デジタルでワークフローを効率化するためには、紙文書や会議の音声、現場の状況など、人が知覚しているアナログ情報をデジタル化する必要があります。そのためのデジタル情報の出入口となるのがデバイスです。デバイスを供給することでお客様との接点が生まれ、その顧客基盤を足掛かりにデジタルサービスを積み重ねて提供していくという点で、デバイスはリコーにとって、重要な役割を担っています。お客様からの要望が日増しに高まっている環境性能の向上についても、継続して取り組んでいきます。
「オフィスサービス利益成長の加速」においては、2024年4月に先進的なAI技術をもつ独企業natif.aiを買収するなど、この数年、積極的に投資を進めています。もちろんM&Aだけではなく、他社との提携やオープンイノベーションの活用を含めた複数の選択肢の中から最適解を見出しています。M&Aで重要なことは、シナジーの創出です。当社とM&A候補先の双方がイニシアチブをもって事業統合後のありたい姿を描き、お互いが納得いくまですり合わせることで、PMI*をスムーズに進めることができます。
これらの施策を着実に実行し、資本市場の皆様により納得感をもってご期待いただけるよう、変革への道筋の解像度を高めていきます。
デジタルサービスの会社に変革する上で最も重要なのが、オフィスサービスの成長です。当社の事業領域や顧客層は、世界的な大手IT企業が得意とするところとは異なります。当社は、オフィスプリンティング事業で培った世界140万社の顧客基盤に加え、お客様との信頼関係や業種・業務の知識を活かして課題解決を図る顧客接点をグローバルで有しており、これらはオフィスサービス事業の成長における大きな強みとなります。もちろん、多様な技術の蓄積である自社IP(知的財産)や、戦略を推進するデジタル人材も価値創造の源泉であることは言うまでもありません。ワークプレイスサービスプロバイダーとして、グローバルで均質なサービスを提供できることは、当社の競争優位性であると認識しています。
こうした顧客基盤、グローバルに広がる顧客接点、そして自社IPという強みを踏まえ、プロセスオートメーション(PA)*1、ワークプレイスエクスペリエンス(WE)*2、ITサービスの3つをワークプレイスにおける注力領域と定めました。働く人が人ならではの創造力を発揮する仕事に時間を使えるようにするには、AIなどの技術を活用して単純作業を極力自動化していくPAが必要です。また働く場所にとらわれることなく、人と人が有機的につながる効果的なコミュニケーションや質の高いコラボレーションを実現するためにはWEが重要になります。ITサービスはこうしたデジタルのワークプレイスを構築する上で基盤となるインフラです。この3つの注力領域に経営資源を集中していきます。
日本で展開している「スクラムパッケージ」は、特定の業種や業務向けの課題解決シナリオをお客様と共に生み出し、パッケージ化することで、付加価値の高いソリューションを効率的にお届けするものです。中小企業のお客様を中心に導入いただき、毎年売上高を伸ばしています。
こうしたパッケージ商品を同じお客様に複数導入いただくことで、ストック売上を地層のように積み上げていくことに加え、共通する課題をおもちの他のお客様にも水平展開し、導入企業数を増やしていく「One to Many」により、事業を拡大していきます。
このように、お客様のさまざまな課題に応えるサービスを顧客接点で開発し、多くのお客様に効率的に展開することにより、ストック売上が積み上がり、収益性が向上する。これが、当社の利益成長のメカニズムです。
事業成長の原動力となるのは、顧客価値を創造し続ける社員一人ひとりの思考と行動に他なりません。お客様に寄り添い、お客様も気づかない課題までも発掘し、お客様と共に価値を創出していく、そのような自律型人材が必要です。自律型人材とは、会社の方向性に合わせて自身のキャリアを設計し、必要なスキルを積極的に身につけようと挑戦する社員です。そのような社員を支援し、会社と社員がスパイラルアップしながら共に成長していくことが大切で、そうした人的資本への投資が今後ますます重要になっていきます。
私は、社員向けのビデオメッセージや社員とのラウンドテーブル、タウンホールミーティングなどの機会を通じ、自律型人材の必要性について繰り返し話しています。成果というには道半ばではありますが、こうした対話を重ねる中で、積極的に発言する社員が増えていると実感しています。
また、多様性を尊重する企業風土も企業成長には欠かせません。私は海外で約20年間仕事をしてきましたが、特に17年間滞在した欧州は、国も違えば言葉も文化も異なります。そうした多様性に富んだ組織で侃々諤々と議論を尽くして意思決定し、ビジネスを前に進めるという経験を重ねてきました。この経験を通じ、多様性こそがイノベーションを生み出すということを確信しています。同質性を重んじ、上司の意見が絶対で意見もできない組織ではイノベーションは生まれません。自律型人材の育成と同時に、多様性を活かした組織づくりも推進していきたいと考えています。
創業者・市村清の掲げた「三愛精神」は、企業が永続していくためには、すべてのステークホルダーが豊かになることが大事だと説いており、この考え方は私たちが日々の活動において立ち返る原点です。誰かを犠牲にして別の誰かを立てるような二律背反的な企業経営は長続きしません。自社の事業成長と、持続可能な社会への貢献を両立していくことは、企業の重要な責務です。株主、投資家の皆様に対しては、当社が企業価値を向上させることで、投資に見合ったリターンを確実に生み出せるよう取り組んでまいります。
リコーは創業以来、常にお客様の“はたらく”に寄り添ってきました。寄り添うということは、お客様と共に新たな価値を創りあげるということです。そのためには、単に製品・サービスを提供するのではなく、お客様の課題を一緒に解決することが必要です。お客様の課題は常に変化しますし、その課題を解決するための技術や価値提供の仕方も変化していきます。その変化の中において生まれる新たな課題を解決するためには、お客様と共に進化し続けることが重要です。多様性を尊重する組織であれば、進化が止まることはありません。そうした常に進化し続ける会社であることが、私の描く未来のリコーであり、その実現に向けてまい進してまいります。
企業価値向上プロジェクトの進捗を示しながら
ステークホルダーとの信頼関係を醸成していく
川口 俊
取締役
コーポレート専務執行役員 CFO
2024年9月6日
1986年 3月
株式会社リコー 入社
入社以来、一貫して経理・財務業務に従事
2度にわたる長期の北米での勤務を経て、グループ各社のCFOを歴任
2007年 5月
InfoPrint Solutions LLC CFO
2010年 8月
Ricoh Americas Holdings, Inc. SVP(Senior Vice President)
2015年 10月
コーポレート統括本部 グローバルキャピタルマネジメントサポートセンター 企画部 部長
2018年 4月
経理法務本部 財務部 部長 兼 CEO室 室長
2018年 10月
リコーリース株式会社 執行役員 経営管理本部 本部長
2020年 4月
同社 取締役 専務執行役員
2021年 6月
財務統括部 部長(現在)
Ricoh Americas Holdings, Inc. 会長 兼 社長(現在)
2022年 4月
コーポレート執行役員
CFO(現在)
2023年 4月
コーポレート専務執行役員(現在)
2023年 6月
取締役 (現在)
世界経済がポストコロナにおいてゆるやかな回復を見せる中、当社においてはオフィスサービス事業が引き続き成長を牽引し、売上高は2桁増収の2兆3,489億円となりました。営業利益は、オフィスサービス事業の成長や体質強化の効果は見られたものの、オフィスプリンティング事業の生産調整や複合機の販売ミックスに加え、事業成長やインフレに伴う経費が増加し、前期から減益の620億円となりました。なお、前期での資産売却益などによる一過性の要因を除くと増益と試算されます。
デジタルサービスの会社としての成長を目指し、21次中経最終年度(2025年度)にROE9%超の財務目標を掲げました。その達成のための最大の課題は収益性の改善です。収益構造の変革に向けて、そしてデジタルサービスの会社に相応しい事業経営体質を構築するために、2023年4月に「企業価値向上プロジェクト」を始動し、11月以降、その進捗を四半期ごとに開示しています。これまで、取締役会や経営会議などで本プロジェクトについて議論を重ねたことに加え、社員に対しても現状の課題や危機感を繰り返し共有することで、改革の必要性を実感してもらい、全社の意識や推進力は確実に高まっていると感じています。
当社では、財務規律のある手元流動性と最適資本構成の在り方をしっかり考慮しながら、バランスシートをコントロールしています。資金繰りの安定性とキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の適正性を追求し、手元流動性の目安を1,800億円程度に置いています。また、最適資本については、格付などさまざまな要素を検証した上で1兆円前後(為替調整勘定を除くと9,000億円)を中期的な目標としています。オフィスプリンティングなど収益の安定した事業には資本よりコストの低い借り入れを活用し、資本は比較的リスクの高い成長事業に配分します。成長投資については、2021年度から5年間で5,000億円の枠を設定しており、その結果、2025年度末時点でのネットD/Eレシオを0.25~0.35倍と試算しています。
また、ROICに基づく事業運営により、ビジネスユニットおよびその事業ごとに目標とするハードルレートを設定し、四半期ごとに管理を行うとともに、さらなる改善に向けてKPI・施策の継続的なアップデートを実施しています。
財務戦略の基礎となるのが、「グローバル・キャッシュ・マネジメント」や「グローバル・ネッティング」などを統括する社内銀行の仕組みです。
当社では、グループ会社の資金残高を日次でモニタリングし、余剰資金を本社財務機能に集中させるとともに、不足資金を適時に資金供給することで資金効率を高めています。また、グループ内で日々発生する債権・債務をネッティングし、グループ各社が自国通貨で必要資金を受払いできる仕組みを、ITを活用して運用しています。これにより、人的リソースの最適化と、銀行手数料や為替コストの削減、財務リスクの最小化を実現しています。グローバル・ネッティング体制の構築では、グループ間取引において支払いサイトをグローバルで統一しており、各国の諸規制にも対応しています。本社財務の一元管理により、個社ごとの為替取引も不要になり、為替管理がコスト面で優位性のある条件で実施され、非常に効率的なグループ資金管理体制を実現しています。
当社は、2025年度にデジタルサービスの売上比率60%超を目指しており、先述したように2025年度までに5,000億円の投資を計画しています。
M&Aなどの戦略的成長投資にあたっては、投資委員会でデューデリジェンス開始前の検討段階から入念に審議しています。私が投資委員長を務め、会計、財務、税務、経営企画、IT、法務、およびR&Dなど、専門的な知見をもつメンバーと共に審議をします。投資対象の調査分析プロセス開始前の1回目の委員会では投資の意思決定に必要な情報や多方面からの検討内容・プロセスを審議し、2回目の委員会では投資案件への客観的・専門的評価と交渉やPMIへの提案や意見を取りまとめ、提示します。その上で、経営会議へ諮問を行い、最終的な投資の是非は権限規定に基づき決定されます。投資委員会では、最低でもROE 8%超の利益が期待できることや、10年以内にROI(投資収益率)がプラスになることなど、多様な角度から投資基準を定めて審議しています。もちろん、スタートアップやAI関連の技術案件など、通常の評価・検討プロセスでは測れない案件もありますので、最終的な投資判断には広い視野が求められます。
2024年度は、リコーグループがデジタルサービスの会社としての事業経営体質を整えるために、収益構造変革に向けた各施策の「遂行」に最善を尽くす一年となります。CFOとしては、財務的な施策だけでなく、IT、ESG、セキュリティ、内部統制、広報および人的投資などについても目を配る必要があります。また、社員エンゲージメントの強化が重要であると認識し、海外も含め、タウンホールミーティングやパネルディスカッションなど、社員との対話の機会を増やしています。私たち経営陣がリコーグループの現状や課題、その先の将来の姿をどう描いているかを社員にもっと知ってもらい、経営の方向性に対する納得感を高めることが大きな役割であると考えています。
株主・投資家の皆様には、会社の現状や戦略、施策の進捗などについて、率直にお伝えしたいと考えています。足元の業績や今後の展望に課題があるなか、企業価値向上プロジェクトをしっかりとやり切るという意思とその実績をお示しすることが、中長期的な成長への信頼をいただくために不可欠です。CEOの大山や私をはじめ、全役員と社員が切磋琢磨して一枚岩で改革を進め、企業価値向上を実現できるよう、全力を注いでまいります。