横尾 敬介
取締役会議長 社外取締役
2023年度の取締役会議長メッセージの冒頭、「取締役会議長として、取締役会の実効性向上に資するよう、議論の活性化に努める」と申し上げました。これを実践していくためには、①私自身が案件ごとのポイントや本質的な論点を理解し、しっかりと準備をすること、②事業執行者と社外取締役との間での情報レベルを同一にすることの2点が肝要と考えています。
①については、取締役会室が実施する議長事前ブリーフィングの内容を充実させました。具体的には、会社の考え方やポイントの所在の確認、議論しておかなければいけないであろう諸点に関する認識合わせなどです。②については、案件ごとに事業執行担当から事前にしっかり説明を受け、社外取締役の疑問点を極力減らしておくことが大切です。さらに社外取締役の経営会議の傍聴や事業現場への視察といった機会を継続的に設けることなどに注力してまいりました。もちろん、取締役から多様な意見を引き出せるよう発言を促すなど、発言しやすい雰囲気づくりも心がけました。
その結果として、社外取締役が示唆に富んだ発言や助言を積極的にするようになり、案件ごとに現状と今後の課題について議論が活性化するなど、取締役会の実効性向上を実感しています。
2023年度にスタートした企業価値向上プロジェクトは、構想段階から、取締役会が全体の枠組みを検討し、事業執行からの提案を踏まえ、多くの時間をかけて議論を尽くし、実行段階まで進めてきたものです。
抜本的な収益構造変革を押し進めていく本プロジェクトは、本社改革、事業の「選択と集中」の加速、オフィスプリンティング事業の構造改革、オフィスサービスの利益成長の加速、の4領域で、常に中長期の視点をもちながら取り組んでいます。
本プロジェクトで示した諸施策の実行を通じて成果を創出するためには、リコーグループの将来像をより鮮明化し、経営幹部を含む社員が同じ方向に向かって進むことが重要であると考えています。取締役会は今後も、本プロジェクトの実行を監督の立場で推進し、状況に応じて各事業執行とも議論して進めていく所存です。
取締役会議長としては、常に、リコーウェイの使命と目指す姿である、「“はたらく”に歓びを」が念頭にあります。その上で、特に重視していることは、ボードカルチャーが目指す「中長期的な企業価値の向上」につながる緊張感のある議論や意思決定であり、その実行を監督していくことです。
具体的なテーマとしては、デジタルサービスの会社への変革を進めていく中で、従来のオフィスプリンティング事業を主とした収益構造からの脱却を図り、収益性の向上に注力することが中心になります。言い換えれば、収益性を高めることにより株主資本利益率を改善し、企業価値(株主価値)向上を目指すということです。2024年度は、収益性の向上に焦点を当てた議題・議案に取締役会の多くの時間を使っていきたいと考えています。また、その実現のための人的資本をはじめとした経営資本の充実や組織体制の最適化なども肝要です。
今後、リコーグループが中長期的に企業価値を向上する上で、デジタルサービスの会社への変革は、取締役会としても正しい方向性であると確信しています。今まで以上にステークホルダーの皆様との対話も重視しながら変革に取り組んでいきます。
「デジタルサービスの会社への変革」の
解像度を高め、グループ全社員のエネルギーを結集
石黒 成直
社外取締役
武田 洋子
社外取締役
第21次中期経営戦略(21次中経)や企業価値向上プロジェクトを実行する上での課題、中長期的な成長や企業価値向上への期待について、2023年6月に社外取締役に就任した石黒成直氏、武田洋子氏による対談を行いました。
石黒:当社の取締役会は、社内取締役3人に対し、社外取締役が5人と、社外が過半数を占める構成です。バラエティーとダイバーシティに富んだ構成ながらも、人数はコンパクトで話しやすく、さまざまな角度から経営課題を浮き彫りにできる体制だと感じます。社外取締役の一人でもある横尾議長が、我々新任取締役を含め社内外すべての取締役が忌憚なく意見が言えるように議事進行してくださることも特筆すべき点です。議案の議決だけではなく、将来への課題認識や目指すべき方向性についても十分に議論がなされていると感じています。
武田:私も全く同じ意見です。取締役会だけでなく、その事前説明や取締役会以外の検討会・社外役員会議などでも自由闊達に議論できていると感じます。また足元の課題に対する意思決定だけでなく、ボードカルチャーに基づいて、中長期的な視点で意見交換がなされています。執行側は日々の経営課題にどう対処するかを考えています。その重要な判断を私たち社外取締役が適切に監督することが必要です。同時に、企業価値向上に向けては、足元だけでなく、将来あるべき姿から必要な施策を大局的にバックキャスティングで問いかける議論も欠かせません。多様なバックグラウンドをもつ社外取締役からの指摘は客観的かつ的確であり、取締役会での議論が非常に活発になる一つの要素だと感じています。
石黒:同じ事象についても、それぞれの取締役が多様な視点で積極的に意見を述べることで、相互に気づきを与えています。私にとっても毎回の議論がとても新鮮であり、大いに刺激を受けています。
武田:また、グループ拠点の視察では、DXやサーキュラーエコノミーなどに向けて取り組む現場の社員とラウンドテーブルを行い、率直な意見を聴く機会もありました。皆さんの熱意を感じ、私も頑張らなければと強く思いました。
石黒:私は指名委員ですが、当社の指名委員会は、CEOの選任だけにとどまらず、選任後のパフォーマンスについても厳格な評価を行い、報酬委員会にバトンを渡しています。
CEOの評価においては、短期的な業績である財務パフォーマンスはもちろん、将来財務(ESG)にも焦点を当て、多面的な角度から評価している点に当社の特徴を感じます。
評価の項目や方法が明確で透明性も高く、それに基づいて指名委員会が評価までを担うことで任命責任を果たすことができていると考えています。
指名委員会では、時として言いにくいことも出てきますが、石村委員長が強いリーダーシップを発揮し、徹底的に議論がなされるようリードしてくださることが、委員会の活性化につながっていると感じます。
武田:私は報酬委員ですが、当社の報酬委員会は、本来あるべき報酬制度や、執行役員として果たすべき責任などについて、社外取締役と非執行取締役で客観的に議論をしています。2023年度に株式報酬制度を改定しましたが、企業価値向上のあるべき方向性と、過去からの経緯や実務面、さらには法的側面など、さまざまな角度から現実解を見出したと思います。
石黒:21次中経策定時にはまだ取締役に就任していませんでしたが、目指す方向性、改革の必要性、そして新たな成長に向けた種まきといった道筋はしっかりと理解しています。最も大事なのは「実行すること」、これに尽きると思います。実行する上で重要なことは、目指す方向性をより具体的に深掘りして明確化し、取締役会はもちろんグループの全社員に至るまで全エネルギーをそこに集中させていくこと、そして実行のスピードを上げていくことです。ここでいうスピードとは、「速い」と「早い」の違いで言うならば、後者の「早い」を意味します。将来を見据えて早期に物事に着手し、準備しておくことで、早くゴールに着くことができるということです。一方、「速い」ことにとらわれ過ぎると、仕事の品質の低下などを引き起こすリスクが高くなります。早く行動を起こせば、仮に失敗してもやり直すことができます。スピードを上げるために、私たち社外取締役も、相当に力を入れて後押ししていく必要があると思います。エネルギーを集中させることとより早くスタートすることで、デジタルサービスの会社への変革は必ず実現できると信じています。
武田:この1年を振り返って、私たち取締役は公式・非公式の場を問わず、非常に長い時間を21次中経と企業価値向上プロジェクトの実行に関する議論に費やしてきました。取締役会全体としてのエネルギーは十分あると思いますが、一方で私は3つの課題を感じています。
1つ目はデジタルサービスの会社に変革する方向性および将来像の解像度を上げることです。強みと目指す方向性を踏まえてどのようなゴールを目指すのかといった具体策を、ステークホルダーに示す必要があります。
2つ目は、「選択と集中」です。経済を見てきた立場から、構造改革には、コスト削減だけではなく、将来への投資が必要だと思っています。注力していく領域に研究開発や人材などの経営資源を集中して投下し、イノベーションを起こして成長していくという、前向きな姿をより強く発信していくべきです。
そして3つ目が、執行役員も社員も全員がこの方向性に共感し、それぞれがより高いモチベーションやエンゲージメントをもって取り組めるようにしていくことです。デジタルサービスの会社に生まれ変わるために、新しいことにもっとチャレンジしようという、明るい方向性を示し、人の力を最大限引き出すことが、企業価値向上プロジェクトの肝となります。
石黒:そうですね。デジタルサービスの会社がどんなに魅力的でワクワクするのか、具体的な事例で示すことで、頑張ろうというエネルギーが湧いてきますよね。まさに、「“はたらく”に歓びを」の神髄の部分です。そして、改革を進める上でリーダーにとって最も重要なことは、実行の主役である社員一人ひとりの心に、「やりたい」という火を灯すことです。
武田:そうですね。やはり人間は、前向きにならないとモチベーション高く取り組めません。そのための活動を継続していく必要があると思います。
石黒:もう一つ、実行のスピードを上げていくために重要なことは、新たにグループに加わった海外関連会社の優秀な社員も含めて世界中の人材を、企業を動かす力として活用していくことです。最前線でお客様と向き合い、市場の変化を日々感じている社員一人ひとりが当社をどう変えていくべきかを考え、自発的に取り組んでいく、そうした仕組みを構築していくことも課題の一つだと思います。
石黒:次の10年、20年といった長期視点で当社が目指すのは、デジタルができることはデジタルに任せ、人は人にしかできない創造的な仕事をするという世界を創り上げることです。そして、そのデジタルの部分を当社が引き受けてお客様にサービス提供することで、人にはもっと生き生きと価値のある仕事をしてもらいたいと思います。この世界を着実に創り上げていくことが何より大切なことと考えています。
武田:そうですね。私は当社には強みが3つあると思います。1つ目は人材です。私が社外取締役をお引き受けすることを決断した大きな理由は、リコーの創業の精神、つまり「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」という三愛精神の存在です。当社を支えているのは、この三愛精神に共感する多様な人材であり、何よりの財産だと思います。だからこそ、今後はこれまで以上に、グローバル人材の力、そして若い世代の力を引き出せるとよいと考えます。
2つ目の強みは、かつてOA(オフィスオートメーション)の概念を提唱した当社が、OAをベースに次のステージへの移行を目指し、デジタルサービスで「“はたらく”に歓びを」を提供しようとしている点です。目指す姿の解像度を上げれば、皆がそこに共感し、実行する。その力がある会社だと感じています。
3つ目は、サステナビリティへの取り組みです。今、地球環境をどう守るか、サステナビリティの実現がグローバル共通の喫緊の課題となる中で、当社はいち早くこの課題に取り組んできました。2023年2月には、プラスチック回収材を約50%使用した環境配慮型フルカラー複合機を発売しました。これは、サーキュラーエコノミー時代のモノづくりを実践しているということで、「地球環境大賞」の経済産業大臣賞を受賞しました。長年サステナビリティを重視して取り組みを続けてきたその姿勢も、私が当社に惹かれた大きな理由の一つです。一方で、高い付加価値をもたらしている取り組みであるにもかかわらず、アピールの仕方が謙虚な感じもします。昔から努力してきたことであるがゆえに、自らがその強みを当たり前のこととしてとらえているのかもしれません。こうした強みを訴求することが、企業価値を向上する具体的な取り組みとして株主・投資家の皆様からの期待に応えることにもつながりますし、何よりも、働いている社員の誇りにもなると思います。
石黒:当社の取締役会は、ボードカルチャーにおいてマルチステークホルダーの利益を重視することを謳っています。私たち取締役は、株主・投資家の皆様からの付託を受け、企業の成長の原動力を生み出す主役である社員と共に、デジタルサービスの会社への変革を後押ししていきたいと思います。
武田:当社は創業以来、常に環境変化に適応し、生まれ変わり成長し続けてきた企業だと思います。社員には、リコーウェイにあるように、人ならではの創造力を発揮してもらい、自信をもって持続可能な未来の社会づくりに取り組み続け、リコーグループでの「“はたらく”に歓びを」を感じてほしいと思います。そのような会社であれば、石黒さんのおっしゃる「速く」ではなく「早く」やろうという挑戦が生まれ、新たな製品・サービスが生まれるイノベーティブな企業になり、結果として企業価値が向上していくと考えています。私も社外取締役として、社員と共に企業価値の向上に真摯に取り組むことで、株主・投資家の皆様からの期待に応えてまいります。