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イベントレポート 共創で切り拓く印刷の未来 インクジェット技術を核に成長を加速

2026年10月29日
  • 技術
  • イノベーション

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

デジタル化やペーパーレス化が進む中、印刷市場ではデジタル印刷へのシフトが進み、新たな成長機会が生まれている。リコーが成長領域と位置付けるリコーグラフィックコミュニケーションズ(RGC)も、インクジェット技術を核に事業領域を広げている。
2026年9月18日に開催されたRGC事業説明会では、顧客やパートナーとの共創による事業変革や、インクジェット技術を活用した新たな市場創出への挑戦が紹介された。商用印刷、産業印刷、機能印刷の3つの事業領域を通じて、RGCはどのような成長を目指しているのか。説明会で語られた戦略を追った。

情報を伝える会社から、モノづくりを変える会社へ

RGCは、商用印刷、産業印刷を事業の柱としながら、新たな成長領域として機能印刷の事業化に向けた開発を進めている。紙の印刷物を中心とした商用印刷に加え、多様な素材や製品への印刷を担う産業印刷、さらに印刷技術を応用した機能印刷へと、事業領域の拡大を目指している。

RGCの事業領域を示す図。商用印刷は「情報を伝える」、産業印刷は「製品をつくる」、機能印刷は「機能をつくる」領域として、印刷対象や主な顧客、RGCが提供する価値を整理している。機能印刷では、ペロブスカイト太陽電池などの技術開発・実証にも取り組んでいる。

RGCの事業領域

2025年度の売上高は2,840億円と、リコーグループ全体の約1割を占める。RGCは、世界中のデジタル印刷ニーズに応えながら、お客様の事業成長と持続可能な社会の実現に貢献することを目指している。紙への印刷だけでなく、多様なメディアへの印刷や新規事業にも取り組み、「“はたらく”の変革」や「脱炭素・循環型社会の実現」につながる価値創出を進めている。

説明会でRGCプレジデントの宮尾康士氏は、「リコーは長い歴史の中で、事業の軸足を移しながら成長してきた」と説明。変化する市場環境の中で競争力を高めるため、顧客やパートナーとの共創を通じてビジネストランスフォーメーションを推進していく考えを示した。

リコーグラフィックコミュニケーションズビジネスユニット プレジデント 宮尾康士氏

成長が続くデジタル印刷市場、その鍵を握るインクジェット技術

印刷市場では今、顧客ニーズの多様化や小ロット化が進んでいる。商用印刷の分野では、ペーパーレス化が進む一方で、必要な人に必要な情報を届けるパーソナライズDMなどへの需要が拡大。産業印刷においても、パッケージやラベルの多品種・小ロット生産が求められるようになっている。
こうしたニーズに応える手段として注目されているのがデジタル印刷だ。大量生産を得意とするアナログ印刷に対し、デジタル印刷は小ロットかつ柔軟な生産に対応できるため、市場での重要性が高まっている。

商用印刷と産業印刷のデジタル印刷市場の成長見通しを比較した図。2020~2029年の年間印刷量はともに増加傾向で、年平均成長率は商用印刷5.5%、産業印刷6.7%。インクジェット技術の進展によるデジタル印刷市場の拡大を示している。

環境認識:デジタル印刷の市場性とインクジェット技術の適合による成長機会

宮尾氏によると、Smithersの調査では、商用印刷市場は年平均5.5%、産業印刷市場は年平均6.7%で成長する見込みだという。中でも成長が期待されているのが、デジタル印刷を支えるインクジェット技術だ。RGCは、インクジェット技術を核に、顧客の課題解決を支援するとともに、さらなる成長に向けた投資を進めていく考えを示した。

3つの事業領域を進化させる具体策

続いて宮尾氏は、商用印刷、産業印刷、機能印刷の3事業における具体的な戦略を紹介した。収益基盤の強化から成長領域への投資まで、RGCが描く成長戦略の全体像が示された。

商用印刷:顧客との共創によってビジネスの転換を促す

商用印刷は、チラシやカタログ、請求書、書籍など、情報を伝える紙の印刷物に関する事業領域だ。主に印刷会社に向けて、デジタルプリンティングシステムやソフトウェア、関連ソリューションを提供している。商用印刷の成長戦略の軸となるのは、顧客のビジネストランスフォーメーションの支援だ。製品やサービスの品質向上に加え、顧客やパートナーとともに新たな価値を生み出す「Co-Innovation(共創)」を推進する。

企業にとって印刷設備への投資は選択肢が幅広く、導入から収益化までに時間を要する場合も少なくない。宮尾氏は、「だからこそ印刷会社の経営において、設備選定から導入後の運用、投資効果の実現まで伴走するパートナーが重要。そうしたニーズにお応えするためにも、RGCはCo-Innovationに注力していく」と語った。

グローバルなCo-Innovationで顧客の事業変革を支援

商用印刷における共創事例のひとつが、米国の印刷会社Amsive社との取り組みだ。同社は年間約20億通のダイレクトメールを扱うマーケティング企業。消費者の関心や属性に合わせたダイレクトメールを効果的に届けるためには、一通ごとに内容をカスタマイズできるデジタル印刷が不可欠だ。RGCは、高速印刷機の提供に加え、マーケティングから印刷、物流までをつなぐワークフローの構築を通じて、同社の事業変革を支えている。

また、オフセット印刷機の世界的メーカーであるドイツのハイデルベルグ社とは、2011年から戦略的な協業を継続。アナログ印刷とデジタル印刷、それぞれの強みを持つ両社の連携によって、顧客に、さまざまな受注にフレキシブルに対応できる印刷工程「ハイブリッドワークフロー」を提供している。宮尾氏は、「グローバルの共創を進め、顧客のビジネストランスフォーメーションの支援をさらに強化していく」と話した。

ハイデルベルグ社との戦略的協業

産業印刷:次世代工場の建設で事業成長を加速

産業印刷事業では、インクジェットヘッドの生産能力強化と、AI活用による次世代のモノづくり基盤の構築を進める。その戦略の中核となるのが、神奈川・厚木事業所に建設する新棟だ。
新棟は2026年11月に着工し、2028年度上期の竣工を予定している。RGCはこの新棟を、拡大する需要に対応するインクジェットヘッドの中核生産拠点であると同時に、AI活用を含む次世代のモノづくりを実現する拠点として位置付けている。

新棟のコンセプトは、「人とAIが共創する次世代工場」。これまで厚木事業所の複数の建物に分かれていた機能を、新棟に集約する。リコー独自の精密な技術や品質力を基盤に、高い生産性と柔軟性を備えたモノづくりを実現することで、競争優位性を確保する。また、熟練技術者の知見や技能をデータ化し、組織全体で活用できる形へと標準化することで、労働人口の減少という社会課題への対応も進める。

さらに、新棟ではフィジカルAIを活用した定型業務の省力化も推進する。宮尾氏は、世界トップレベルの技術をさらに磨きながら人とAIの共創を進め、「24時間安定稼働」「高品質と安定供給の両立」「人が創造的に働ける環境」の実現を通じて、次世代の生産体制を構築していく考えを示した。

機能印刷:インクジェット技術を生かした新たな成長領域への投資

続いて宮尾氏が説明したのは、機能印刷の投資戦略だ。機能印刷は、インクジェット技術を活用して、絶縁性や熱伝導性などの機能を持つ材料を精密に塗布することで、新たな価値を生み出す事業領域である。
宮尾氏は、「リコーの印刷技術を応用した新規事業への投資によって、新たな成長の柱を育成する」と説明。商用印刷や産業印刷で培った技術を活用しながら、新たな市場の創出に取り組む方針を示した。

次世代太陽電池による社会課題の解決

RGCの機能印刷事業のひとつが、次世代太陽電池として注目されるペロブスカイト太陽電池だ。従来のシリコン系太陽電池は厚くて重いため設置場所が限られるが、ペロブスカイト太陽電池は薄くて軽いフィルム状のため、既存の建物や壁面にも設置しやすい。平地が限られる日本においては、既存の建物を活用して再生可能エネルギーを生み出せることが大きな特長だ。また、主な材料であるヨウ素について日本は世界有数の生産国であり、宮尾氏は「国内サプライチェーンの構築や、経済安全保障の観点からも期待される技術」と説明した。

リコーは、このペロブスカイト太陽電池の製造にインクジェット技術を応用する。従来の太陽電池は、何層もの薄膜を塗布した後にパターンを削り出して製造するため、大型で高価な生産設備が必要となる。一方、インクジェット技術は必要な場所に必要な量の材料を精密に塗布でき、従来は削り出しが必要なパターニング工程を印刷で行うことが出来るため、生産設備の小型化や材料・エネルギーのロス削減につながる。

インクジェット技術を応用したペロブスカイト太陽電池

宮尾氏は、この技術によって「建物を、エネルギーを消費する場所からエネルギーを生み出す場所へと変える、その実現に寄与できる」と語る。現在は、大和ハウス工業、NTTアノードエナジーとのコンソーシアムによる実証実験が進められており、2030年の事業化を目指している。

リコーは、商用印刷や産業印刷で培ったインクジェット技術を応用し、こうした社会課題の解決につながる新たな成長領域の創出を目指している。

リコープリンティングイノベーションセンターで印刷の価値を体感

説明会の後には、リコープリンティングイノベーションセンターで、印刷サンプルや活用事例の紹介が行われた。
参加者は、最新技術を活用した印刷物に実際に触れながら、その品質や訴求力を実感。デジタル印刷ニーズやペロブスカイト太陽電池の活用法などに関する具体的な質問が交わされたほか、RGCの事業担当者と来場者が活発に意見を交わすシーンも多く見られた。

リコープリンティングイノベーションセンター

「印刷」は今や、紙の上だけで価値を生み出す技術ではない。商用印刷で培った顧客基盤と技術を生かし、成長するデジタル印刷市場を捉える。インクジェット技術を産業印刷や機能印刷へと広げ、新たな市場を創出する――。今回の説明会からは、RGCが既存事業の競争力強化と将来の成長領域への投資を同時に進める姿が見えてきた。共創とインクジェット技術を強みに、RGCはリコーグループの次の成長を支える事業へ。その挑戦は、さらに広がろうとしている。

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