多様な人材が活躍する現代のビジネス環境では、単に「平等に扱うだけ」ではすべての社員が持ち得る力を発揮できるとは限りません。そこで注目されているのが、「エクイティ(Equity)」という考え方です。
エクイティは、一人ひとりに合わせたサポートを提供することでそれぞれが専門性や生産性などを発揮できるようにする取り組みです。本記事では、エクイティの基本的な考え方や注目されている背景、そして具体的なメリットや国内の企業事例を紹介し、エクイティがどのように組織の成長につながるかを分かりやすく解説します。
近年、企業・組織の運営において「DEI」が重要視されています。DEIとは、ダイバーシティ(Diversity:多様性)、エクイティ(Equity:公平性)、そしてインクルージョン(Inclusion:包括性)の頭文字を取ったもので、すべての社員が公平に働きやすい環境をつくるための考え方を指す言葉です。
3つのワードの中で、とくにイメージしにくいのがエクイティ(Equity:公平性)かもしれません。エクイティとは、個々の社員が持ち得る力を最大限に発揮できるよう、公平な支援や機会を提供するという概念です。単に全員に同じ条件を「平等に」与えるのではなく、それぞれの社員の背景や状況に応じて「公平に」サポートを行うことを重視しています。
例えば、社内の昇進制度で国籍や男女の性別ごとに昇進の機会が異なれば、それは不公平です。しかし、国籍や性別、年齢に関係なく全社員に同じ昇進機会を提供することで、公平性が保たれ、すべての社員が同じ土台で能力を発揮できる環境が整います。このように、性別や年齢、国籍、個々の状況に応じて適切な支援や調整を行い、社員が公平に働けるようにする取り組みがエクイティです。
DEIについてはこちらの記事でも解説しています。
エクイティが「ダイバーシティ&インクルージョン」(D&I)に加わった背景には、平等に扱うだけでは解消できない格差や不公平が存在することが挙げられます。これまで、D&Iの考え方の下では「多様な人材を受け入れること」で企業の一体性を促進してきましたが、それだけでは十分ではないことが明らかになりました。
例えば、無意識に性別や役割に差が付けられたり、同じ機会が与えられても背景が異なるために公平に成果を出せなかったりする場合があります。
エクイティの概念では、こうした個々のニーズや状況に応じた支援を行い、「全社員が同じ土台で働ける環境を整えること」を目指します。エクイティが加わることで、社会的な格差や不平等が解消され、社員全員が公正に活躍できる企業風土が実現されるのです。
エクイティ(Equity)とイコーリティ(Equality)はしばしば混同される似た言葉ですが、両者の概念は異なります。
エクイティ(Equity)は、各人が置かれている状況に応じて必要なサポートを調整する「公平性」を重視する考え方です。一方のイコーリティ(Equality)はすべての人に同じ条件や機会を提供する「平等性」を指す言葉で、個々の状況や背景を考慮するというスタンスは含まれていません。
例えば、エクイティ(Equity)を重視する職場では、「男女が公平な条件で働けるようにする」という考え方から性差を考慮した「生理休暇」という着想が出てくるでしょう。しかし、イコーリティ(Equality)を重視する職場では全社員に同じ休暇制度を適用するという発想になるためそういったアイデアは出てこない(制度が認められない)かもしれません。
エクイティの考え方を取り入れ、DEIを推進することにより、企業はさまざまなメリットを得ることができます。ここでは、具体的なメリットをいくつかご紹介します。
エクイティを重視することで、企業は性別、年齢、国籍、宗教などの違いを超えて、多様な人材を確保しやすくなります。
日本では少子高齢化にともない、労働力不足が深刻な問題となっています。企業が持続的に成長するためには、従来の枠組みにとらわれず多様な人材を採用し、その能力を活かせる環境を提供することが欠かせません。エクイティを推進することは、多様なバックグラウンドを持つ人材を惹きつけ、競争力のある組織作りにつながるのです。
生産性の向上も、エクイティを取り入れることで期待できるメリットの一つです。
社員が自身の貢献に対して公正な評価を受けていると感じられれば、業務へのモチベーションが高まり、より積極的に取り組む姿勢が生まれます。一方、不公平感がある環境では「自らの努力が報われない」と感じる社員が増え、生産性が低下するでしょう。公平な評価がされることで、そうした不満は解消できます。
また、多様な意見が尊重される組織風土が形成されれば、心理的安全性が高まり、社員は自分の意見やアイデアを積極的に発言できるようになるでしょう。これにより組織内での連携・協力体制が強化され、全体的な生産性の向上にもつながるのです。
エクイティには、イノベーションの創出を促進する効果も期待できます。
多様なバックグラウンドや価値観を持つ人材が公平に活躍できる環境では、異なる視点やアイデアが集まりやすくなります。そのため、従来の発想では生まれにくい新しいアプローチやビジネスモデルが生まれる可能性も高まるでしょう。
また、エクイティの実践によりすべての社員が公平に意見できる機会が与えられれば、より活発な議論が行われ、組織内で多角的な視点が培われていきます。そうした風土や文化を持つ企業組織なら、市場や顧客ニーズの目まぐるしい変化にも柔軟に対応できるはずです。
エクイティを取り入れることで、離職率の改善も期待できます。社員一人ひとりの事情やライフステージに合わせた柔軟な働き方を提供することで、仕事とプライベートのバランスを保ちやすくなり、離職のリスクが軽減されるからです。
例えば、育児や介護、家族の転勤といったライフイベントに対して柔軟な勤務制度や復帰支援プログラムを導入することで、社員がキャリアを中断することなく働き続けられる環境が整います。また、エクイティを重視することで社員は「貢献が正当に評価されている」と感じるため、会社への信頼感が高まります。結果として優秀な人材の定着率が向上し、企業の安定した成長が期待できるでしょう。
エクイティを重視することは、企業価値の向上にもつながります。多様な人材が公平に評価され活躍できる環境が整うことで優秀な人材の確保が容易になり、組織全体の競争力向上が期待できるでしょう。それは、持続的な成長に欠かせない要素と言えます。
さらに、エクイティを重視している企業は「ESG投資」の対象としても注目されやすく、ステークホルダーからの評価も高まります。結果として、企業の社会的評価や財務面での安定性が向上し、企業価値のさらなる向上をもたらすでしょう。
以下では、国内企業のエクイティに関する取り組み事例を2つご紹介します。
大手食品メーカーAでは、多様な人材が公平に活躍できる職場環境を整えるため、エクイティを重要な取り組みの一環としています。アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)に関する研修を全社員に実施し、公平な機会の提供を進めているのはその一例です。
また、世代や性別を問わず育児や介護との両立を支援する制度や社内保育所の設置なども実施。これにより、小さな子供を育てながら働く社員がパフォーマンスを発揮しやすい環境を提供しています。
また、2018年には「人財に関するグループポリシー」を改定、LGBTを理由とした差別の禁止を明記しました。2023年にはさらに「性的指向・性自認」と言う表現を加え、多様な性のあり方を尊重しながら「誰もが安心して働ける環境づくり」を進めています。
DEIを経営戦略の柱の一つとして位置付け、具体的な取り組みの一つとして多様な働き方を支える制度の充実を図っているのは、総合商社としても事業を展開する大手航空会社B。社員の兼業・副業を奨励し、社外での経験を通じた新たな知識・スキルの獲得やグループ内での兼業による多様な業務経験の機会提供を推進しています。
また、サバティカル休暇制度(長期勤続者に与えられる長期休暇)を導入し、最大2年間の休業・休職期間を選択可能にするとともに、目的を限定しない補助金も支給しています。さらに、客室乗務員向けに新たな短日数勤務制度を導入しており、約3,000名が利用しているのだとか。国内線・国際線のみの乗務選択や、通常の8割勤務、5割勤務の選択を可能にしました。
これらの取り組みにより、社員一人ひとりのライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を実現していると言います。
エクイティとは、社員一人ひとりの背景や状況に応じた「公平な支援や機会」を提供することを指す言葉です。すべての社員が同じ条件で働ける環境を整えることで、多様な人材がその能力を最大限に発揮できるようになり、組織全体の生産性向上やイノベーションの促進、離職率の改善、企業価値の向上などにもつながります。
リコーではDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の取り組みを強化しており、国際女性デーのイベントや各国のDEIカウンシルによる活動を通じ、多様な文化や環境に適応した施策をグローバルに展開しています。また、働き方や勤務時間に柔軟性を持たせる制度を整備し、全社員が公平にチャンスを得られるようエクイティを推進しています。
多様な人材が活躍できる環境づくりを目指すリコーの姿勢と取り組みについての詳細は、以下の記事でご覧いただけます。
1級ファイナンシャル・プランニング技能士。元銀行員として、金融商品を通じて多くの顧客のライフプランニングに携わった。現在は編集者として、金融機関を中心にWebコンテンツの執筆・編集業務を行う。社会の発展と財務リターンを両立できるESG投資はこれからの経営に重要なものだと考え、啓蒙に力を入れている