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「ESG投資」を分かりやすく解説!注目される理由や今後の動向は?

近年、環境問題や持続可能性(サステナビリティ)に対する各企業の関心が高まる中で、注目されているキーワードが「ESG投資」です。ESG投資の動きは単なるトレンドではなく、長期的な経済成長と社会的責任を結びつける重要な手段となっています。

しかし、ESG投資の要素を事業戦略にどのように組み込むかについては、明確になっていない企業も意外に多いのではないでしょうか。この記事では、ESG投資が注目される理由や具体的なアプローチ方法、そして今後の動向や展望について解説します。

目次

ESG投資とは?

ESG投資とは、損益計算書や貸借対照表などに記載される定量的な財務情報に加えて、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の3要素を考慮して行う投資のことです。ESGの価値基準を投資判断に組み込むことによって、企業は社会的責任を果たしながら経済的利益を追求することになります。

例えば、環境面では温室効果ガスの排出削減や資源の持続可能な利用、社会面では従業員の健康と安全を守る取り組みや公平な労働条件の提供などに配慮した事業活動を行っている企業、ガバナンス面では透明性の高い経営を実行している企業に対して投資を行うという考え方です。このようなESGに配慮した経営を行う企業への投資を通じて、投資家は「持続可能な発展」を促進し、長期的なリターンの確保を目指します。

ESG投資が注目される理由

「ESG投資」が注目される理由は、環境保護や社会的責任、良好なガバナンスへの意識の高まりにあります。根底にあるのは、1920年代にアメリカで形成された「SRI(社会的責任投資)」から発展した考え方です。「SRI」とは、投資の基準として財務的な側面だけでなく、社会的・倫理的な側面であるCSR(社会的責任)も踏まえて投資対象を選ぶことです。

21世紀に入ると、気候変動や社会的不平等などのグローバルな課題への意識が高まり、「これらの要素を投資判断に組み入れることが経済的利益にもつながる」との認識が広がりました。現代のビジネスでは、17にわたるSDGs(持続可能な開発目標)への貢献や、2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定の目標達成への連動など、環境と社会に配慮した経営が当たり前のものとして求められています。

このような背景のもと、ESG投資は単なる倫理的な選択ではなく、企業の長期的な成功に直結する戦略的な考え方となっているのです。

また、社会的責任の履行や良好なガバナンスは企業経営の持続可能性だけでなく、投資家にとっての魅力・価値を高める要因にもなります。このように、ESG投資は経済的リターンと社会的価値の両方を追求する手段として、その重要性がますます高まっていると言えるでしょう。

企業がESG投資をする4つのメリット

投資家の判断基準としてESGが重視されていることから、企業にもESGに配慮した経営が求められます。以下では、ESG投資に対応することで企業が得られる主なメリットを紹介します。

リスク管理を強化できる

現代のビジネス環境ではリスクが多様化しており、企業はESGの観点から予期せぬ問題に直面する可能性があります。例えば、気候変動や法改正によるリスクなどは、企業の評判や経済的成果に大きな影響を及ぼしかねません。

ESGの観点を経営に取り入れることで、このようなリスクを事前に察知できる可能性が高まるでしょう。結果として企業はリスクを効率的に管理しやすくなり、それが持続的な経営の実現につながります。

企業価値が向上する

環境保全や社会貢献といったミッションに取り組む過程で、企業自体の価値も自然と高まっていきます。例えば、資源の有効活用や廃棄物の減少は、事業運用コストの削減につながります。また、働きがいのある職場環境の構築・整備は従業員の満足度を高め、優秀な人材の確保や定着を促すでしょう。これにより製品やサービスの質が上がれば、消費者の満足度も向上します。

さらに、公正な取引や透明性のある経営は社会全体からの信頼を得ることにつながり、結果として企業に安定した成長をもたらすでしょう。

イノベーションや競争力アップを促進できる

ESGへの積極的な取り組みが、新たなビジネス機会の創出やイノベーションの促進を後押しする点も見逃せません。

環境や社会問題への貢献を目指すことで企業は自社の事業モデルを見直し、社会の要求に応える新しい商品やサービスを開発します。例えば、環境に優しい製品や社会的価値を提供するサービスは、市場での差別化を実現し、企業の競争力を向上させるでしょう。このように、ESG投資への対応は、企業が市場で優位に立つための戦略的なアプローチとなり得るのです。

投資家との信頼関係を築ける

ESGに対する積極的な姿勢を見せることによって、企業は投資家からの信頼を獲得しやすくなります。環境への配慮や社会貢献意欲、透明性の高いガバナンスは、現代の投資家が重視する要素です。これらの基準に沿った経営を実践する企業はリスクを効果的に低減し、投資家と将来のビジョンを共有できます。これは、企業と投資家の信頼関係を深めることにつながります。

信頼が深まれば資金調達のチャンスが広がり、結果として投資家との信頼関係が企業の安定成長を支える強固な土台となるでしょう。

企業がESG投資をする際の注意点

社会的な利点だけでなく企業の経済活動の側面でもメリットの多いESG投資ですが、把握しておくべき注意点もいくつかあります。企業がESG投資に対応する際の注意点をしっかり押さえておきましょう。

初期投資や継続的なコストを要する

ESGへの対応では、初期投資や継続的なコストが不可欠です。例えば、エネルギー効率の優れた設備への切り替えや持続可能な素材への移行には、相応の費用がかかります。また、社会的責任を果たすための従業員研修や福利厚生の改善にもコストが発生するでしょう。

このような支出は、短期的には負担に感じるかもしれません。しかし、長期的に見れば企業のリスク軽減や顧客基盤の拡大に貢献し、結果的に投資回収につながることが期待できます。

効果が出るまで時間がかかる

ESGの取り組みは、すぐに効果が出るわけではありません。

例えば、エネルギー効率を高める設備投資への初期コストは高いものの、運用コストの削減という形で効果が徐々に表れます。また、従業員への公正な待遇やダイバーシティ&インクルージョンの推進は企業文化の変化を少しずつ促し、時間をかけて従業員の満足度や生産性の向上に寄与します。

これらの取り組みは一朝一夕にはいかず、長期的な視野で計画し、着実に進めることが重要です。

【観点別】ESG投資の今後の動向予想

ESG投資は持続可能な経済成長への関心とともに、そのプレゼンスを高めています。そこで気になるのが、「今後の動向(これからどうなるのか)」でしょう。続いては、「市場規模」「テクノロジー」「地域」という3つの観点から、ESG投資の今後の展開を見ていきます。

「市場規模」は上昇の見込み

米国・ブルームバーグ社の分析によると、2025年までに世界の運用資産残高「140.5兆ドル」のうちESG資産はその約3分の1、つまり53兆ドルを超える見込みです。ESG投資の市場規模拡大は経営者にとって、環境配慮型のビジネスモデルへの転換が「ただの選択肢」ではなく「必要不可欠な戦略」になることを意味します。
出典:ブルームバーグ社「ESG資産、2025年には53兆ドルに達する可能性ー世界全体の運用資産の3分の1

このような市場の動向は、将来に向けた企業の持続可能性と成長戦略を考える上で重要な指標となるでしょう。

「テクノロジーの活用」による規模拡大

デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、ESG投資の透明性を向上させると期待されています。

技術の進化・発展により、サプライチェーンの詳細な追跡や、二酸化炭素排出量の正確な計測が可能になります。そのため、企業のESG関連活動の透明性が向上し、投資家は具体的なデータにもとづいて投資判断を下せるようになるでしょう。このような動向はESG投資の質を高め、また範囲を広げると予想できます。

地域別では「アジア」の躍進に注目

英国の国際NGO「Climate Bonds Initiative」が公開したデータを三菱総合研究所が参照・分析した情報によると、欧州は世界のESG投資でトップを走り続けています。一方、経済規模に比較した金額はまだまだ小さいものの、アジア太平洋地域では特に中国でESG投資の動きが目立ち始めています。

中国では名目GDPが日本の約3倍であるにもかかわらず、グリーン投資(環境に配慮した経済活動への投資)額は日本の5倍に達しています。日本では建物や輸送の分野でグリーン投資の割合が高くなっていますが、経済規模ほどESG投資が進んでいないのが実情です。
出典:三菱総合研究所「世界と日本のESG投資動向 GX推進を契機にESG投資の拡大へ

このような地域別の動向を踏まえると、ESG投資は今後も世界中でその重要性を増していくと考えられます。

ESG投資に対応して企業価値を高めよう

ESG投資は、「環境」「社会」「ガバナンス」の3要素をベースに、持続可能な経済成長と社会的責任の実現を目指す重要な手段です。ESG投資の市場規模は世界的にますます拡大すると見込まれており、企業にとってESG対応はトレンドや単なる選択肢ではなく、「生き残るために必要な戦略」へと変わりつつあります。

世界約200の国と地域に8万人以上の従業員を擁するリコーでは、ESGを中心とした企業変革によりイノベーションが生まれるという経験を実際にしてきました。2023年11月には、代表取締役会長の山下良則が世界的な社会課題に関するグローバルフォーラム「Reuters NEXT 2023」でそのストーリーをもとに講演を行っています。当イベントのレポートは、以下の記事にてご覧いただけます。

世界的な社会課題に関するグローバルフォーラム「Reuters NEXT 2023」に参画

リコーのサステナビリティ

監修者

赤上 直紀(あかがみ・なおき)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士。元銀行員として、金融商品を通じて多くの顧客のライフプランニングに携わった。現在は編集者として、金融機関を中心にWebコンテンツの執筆・編集業務を行う。社会の発展と財務リターンを両立できるESG投資はこれからの経営に重要なものだと考え、啓蒙に力を入れている

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