オフィスサービスにおける利益成長を軸に
デジタルサービスの会社への変革を加速させ、
企業価値の向上を目指す
大山 晃
代表取締役
社長執行役員 CEO
2025年9月5日
1986年 7月
株式会社リコー 入社
海外向けOEMおよび国内販売会社での営業に従事
その後、欧米で買収した企業のPMIなどに携わる
2011年 4月
RICOH EUROPE PLC 社長・COO
2012年 8月
株式会社リコー グループ執行役員
RICOH EUROPE PLC CEO
2014年 4月
常務執行役員
コーポレート統括本部 本部長
2015年 6月
取締役
2016年 6月
専務執行役員
2017年 4月
CFO
2021年 4月
コーポレート専務執行役員
リコーデジタルサービスビジネスユニット プレジデント
2021年 6月
取締役
2023年 4月
代表取締役 社長執行役員 CEO(現在)
リコーグループを取り巻く事業環境は、大きく変化し続けています。
国際情勢に目を向けると、各国での政策・法規制の変更、地政学リスクの高まりなどにより世界経済の先行きが一層不透明になっています。企業の投資抑制など、グローバルの景気動向に与える影響にも注視する必要があります。
人々の“はたらく”については、リモートワークやハイブリッドワークが普及し、副業や兼業も広がるなど、働く場所や働き方の選択肢が広がっています。紙を使ったワークフローもサイバー空間上への移行が進むなど、業務プロセス自体も、AIをはじめとした技術の進化により大きく変わってきています。
複合機などからのプリント出力は減少傾向にあるものの、紙文書や会議の音声、現場の状況など、人が知覚しているアナログ情報をデジタル化し、サイバー空間上でワークフローを効率化するといった、デジタルサービスの新たな需要を生み出しています。
リコーは、1936年の創業以来、常にお客様の“はたらく”に寄り添ってきました。オフィスに限らず、サイバー空間も含めたあらゆる働く場を「ワークプレイス」ととらえ、そこでの情報共有やコラボレーションをデジタルの力で支え、働く人の創造力を最大限引き出すことを目指しています。
創造力の発揮を支える上では、直接的・間接的なアプローチがあると考えています。「仕事の効率や生産性を向上し、それによって働く人がより創造的な仕事に向かう時間を生み出す」という間接的なものと、「さまざまなデータの活用や、働く人のコラボレーションを支え、創造力を高める」という直接的なものです。これにより、働く人の充足感・達成感・自己実現の実感につなげていくことで、リコーウェイに使命と目指す姿として掲げている「“はたらく”に歓びを」を具現化していきます。
デジタルサービスの会社への変革を進める上で、オフィスサービスの成長は不可欠です。これまでオフィスプリンティング事業に軸足を置いて成長してきたリコーグループは、世界140万社の顧客基盤を有しています。また、さまざまな業種・業務に携わるお客様が抱える課題を、蓄積してきた知識・ノウハウを活かして解決することで、グローバルの顧客接点で信頼関係を築いています。お客様のワークプレイスに対し、グローバルにサービスを提供できることは、リコーグループの大きな競争優位性の1つととらえています。さらに、お客様の課題に寄り添いながら開発してきたデバイスやソフトウエアなどの自社IPも強みです。
これらの強みに基づき、ワークプレイスサービスプロバイダーとして注力する3つの領域を定めています。
1つ目のプロセスオートメーションは、例えばAIを用いたデータ活用などを通じて業務プロセスを自動化し、より多くの時間を創造的な業務に充てられるよう支援する領域です。
2つ目のワークプレイスエクスペリエンスは、場所にとらわれない効果的なコミュニケーションやコラボレーションの場を提供します。働くお客様の創造力の発揮を支援する領域です。
3つ目のITサービスは、オフィスサービスの基盤となるものです。クラウド上での効率的なデータ運用やセキュリティ確保の支援など、柔軟な働き方を支え、安全かつ円滑に仕事を進められる環境を提供します。
オフィスサービスは、お客様のお困りごとに応じて複数のメニューを提案し、課題解決を積み重ねることで、お客様との取引を一層拡大することができるため、従来のオフィスプリンティング以上に広がりをもつビジネスであると言えます。
さらに、グローバルでの顧客基盤は重要な社会関係資本ととらえています。顧客接点でお客様ニーズを把握し、お客様と共にお困りごとを解決することで信頼関係を構築し、それを積み重ねることでお客様と共に私たちも進化してまいります。
企業価値向上プロジェクトの全体像
2023年4月のCEO就任後、私がまず取り組んだのは、株主や投資家の皆様との対話を重ねることでした。そこで浮かび上がった課題に対処するため、「企業価値向上プロジェクト」を始動しました。リコーグループの強みを踏まえ、今後の成長が見込まれる事業に⼈的資本を含む経営資源・資本をシフトし、収益構造の転換を図っています。
収益性向上に向けて、「本社改革」「事業の『選択と集中』の加速」「オフィスプリンティング事業の構造改革」、そして「オフィスサービス利益成長の加速」の4本柱による抜本的な改革を進めました。
「本社改革」では、間接機能の適正化のほか、研究開発投資を成長領域であるワークプレイス領域に集中させました。研究開発テーマについても、自社で進めるものとオープンイノベーションで進めるものとの組み合わせや研究開発テーマの見直しを通じて、最適化を図りました。
「事業の『選択と集中』の加速」では、オプティカル事業や米国でのRicoh eDiscovery事業の譲渡、新規事業として進めていた環境素材PLAiR事業の撤退などを、事業ポートフォリオマネジメントの観点から断行し、リソースをワークプレイス領域にシフトしています。
「オフィスプリンティング事業の構造改革」に関しては、市場が縮小するという認識のもと、売上高が減少しても収益を確保するための体質強化を進めています。2024年7月には東芝テックとの合弁会社であるエトリアを組成しました。また、2025年10月から沖電気工業の参画も予定しています。
エトリアは、参画企業間でエンジンの共通化を図ります。スケールメリットによって調達費や開発、生産に係るコストを低減する一方で、各社はソフトウエアやユーザーインターフェースで差別化を図り、独自に競争優位性を高めます。このビジネスモデルにより、コスト競争力を高めつつ、それぞれのお客様に適した独自の商品を市場に投入していくことが可能になります。
主にコスト構造改革につながるこれらの取り組みの利益効果額は2024年度には約200億円と、当初想定を上回り順調に進捗しました。2025年度までの2年間合計での利益効果見通しは520億円としており、さらに上積みできるよう取り組みを強化しています。
加えて、これらの取り組みで生み出されたリソースを成長領域へシフトして「オフィスサービスの利益成長の加速」を進めていきます。オフィスサービスでストック収益を積み上げることで、収益性の向上を図ります。ストック収益とは、製品やサービスの利用期間にわたって継続的に積み上がる収益のことです。利用契約数の拡大に向けた追加の資本投下は限定的であるため、契約を増やすことで資本収益性を大きく向上させることが可能です。2024年度は、既存のお客様へのオフィスサービス導入率増加に加え、新規のお客様も増え、ストック収益は前年度比14%伸長の3,975億円となりました。第21次中期経営戦略(21次中経)で最終年度(2025年度)の目標としていた3,800億円の水準を1年前倒しで達成しました。
一方で、積み残している課題は大きく2つあります。1つ目はオフィスプリンティング事業の売上が、ハードウエア・ノンハードウエアともに想定以上に減少したことです。特にハードウエアは、欧州における景気や需要の変動、さらには競合の影響に加え、米州でも働き方の変化に伴うオフィス機器の集約化が進んだことで、ハードウエアの販売台数が未達となり、ノンハードウエアにおいても想定に届きませんでした。
2つ目は、オフィスサービスの成長スピードが十分でないことです。ストック収益は着実に成長したものの、オフィスサービス全体の売上は、私たちが期待していた水準には達しませんでした。
これらの課題に対しては、付加価値の高いストック契約の獲得などを通じて、オフィスサービスにおける利益成長を図り、業績改善に取り組んでまいります。
2025年度のROE見通しが、21次中経で当初設定した9%超の目標には達していないことに対して、厳しいご指摘をいただいております。
この現状を真摯に受け止め、企業価値向上プロジェクトを通じた収益構造の転換を確実に実行します。また、中長期でROE10%を超えることを目指します。そのために、主に2つの施策で引き続きROEの改善に取り組みます。
1つ目は、ストック収益の成長を加速することです。ストック収益が拡大すればするほど、資本収益性が高まりROEは改善します。
オフィスサービスにおけるさらなる成長のため、主に欧州でM&Aを積極的に進めています。これまで買収した会社の多くは企業規模こそ小さいものの、付加価値の高いサービスを有しており、その地域における優良企業です。個々のサービス提供地域を欧州全体に広げていくことでシナジー創出を図ります。こうした地域拡大には、リコーグループ共通のプラットフォーム「RICOH Smart Integration」を有効活用し、収益性を向上させつつストック収益の積み上げを加速させます。
商用印刷においても、新製品の投入などによって着実に増えてきた市場稼働機が、安定したストック収益を生み出します。
一方で、ROE低下の要因となりうるオフィスプリンティング事業での収益減少を最小限にとどめる努力も継続していきます。
2つ目は、アセットライト経営による資本収益性の向上です。リコーグループがデジタルサービスへと軸足を移すにつれ、必要となる設備投資は減っていきます。DocuWareなどのSaaS*型ビジネスの比重を高めることで、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の改善を図り、アセットライト経営を実現して、資本収益性を高めていきます。そのためにも、事業ポートフォリオの見直しを一層進め、成長領域に経営資源・資本を集中させるとともに、デジタルサービスの会社にふさわしいアセットマネジメントの強化、バランスシートの最適化に取り組みます。
リコーグループは世の中に先駆けて、1998年に「環境経営」を提唱し、長年、環境保全と利益創出の同時実現に取り組んできました。環境や社会に負荷をかけて利益を上げる企業は永続できない、と確信しています。ESGに取り組み、サステナビリティを追求することは企業が持続的に成長していく上での大前提です。財務的な事業目標とESGの目標は対立するものではなく、同軸で結び付くことで相乗効果を生み出し、企業価値をスパイラルアップさせていくものととらえています。こうした考えから、私たちはESG目標を「非財務」指標ではなく、将来の財務効果を生み出す「将来財務」指標として位置付けています。
グローバルに事業を展開する顧客企業との商談において、ESGの取り組みが商談参加の前提条件となる、あるいは重要な評価基準となるケースが増えています。こうした背景から、ESG活動はお客様との商談機会を拡大する上でますます重要な要素となりつつあります。国内においてもESGを重視した購買の動きが公共機関に加え、民間の中小企業にも広がっており、リコーグループのESG活動がお客様の事業成長を支え、リコーグループの持続的な事業成長にもつながっています。
さらに、こうした活動に対して外部からも高い評価をいただいており、日々活動を続けている社員にとっても大変励みとなっています。
リコーグループがデジタルサービスの会社への変革を実現するために、非常に重要であると位置付けているのが人的資本です。リコーグループでは、「自律」「成長」、そして「“はたらく”に歓びを」を3つの柱として、人的資本強化に向けた施策を展開しています。
お客様の働く環境やニーズが変わり、技術が急激に進化するなか、お客様の変わりゆく“はたらく”にお応えするためには、社員一人ひとりが自律的に考えて行動する企業風土が必要不可欠です。その実現に向けてリコー式ジョブ型人事制度を2022年4月から運用し、組織の目標達成に必要なポジションと役割を公開した上で、実力と意欲を兼ね備えた人材を機動的に配置しています。
このような社員が自らスキルアップに努めることで、会社と個人の成長を同時に実現する仕組みを構築します。そして、事業成長によって得た資源を社員に再投資することで、成長をさらに加速させていきます。
自律的に学びながらキャリアを築いていく社員が、事業成長に貢献することにより、「はたらく歓び」、つまり充足感・達成感・自己実現を実感し、さらにスキルアップへの意欲を高めていくという循環を回しています。経済産業省などが作成した「デジタルスキル基準」を参考に定めたリコーグループのデジタル人材はすでに21次中経最終年度(2025年度)のESG目標である4,000人を大幅に上回り、2025年3月末時点で4,600人を超えています。
国際情勢やテクノロジーの進化など、事業環境を取り巻く状況は急速に変化しています。リコーグループでは、そうした変化に的確に対応し、その影響を最小限に抑えるべく、⽣産や販売部門が連携しきめ細かな対策を講じています。一企業ではコントロールできない外的要因に対しても、あらゆるケースを想定して備えておくことが必要です。電子部品の調達難など、これまでに直面してきた課題への対応経験を活かし、不測の事態への備えを一層強化してまいります。
Ricoh Malaysia(左)およびRicoh Taiwan(右)でのタウンホールミーティング
リコーを創業した市村清は、「三愛精神(人を愛し 国を愛し 勤めを愛す)」を掲げ、企業が永続していくためには、すべてのステークホルダーが豊かになることが大事だと説きました。この考え方は、私たちが日々、事業活動を行う上での原点となっています。
お客様、パートナー企業、株主の皆様、そして社員とその家族の皆様など、すべてのステークホルダーの方々と信頼関係を築くことは極めて重要です。
私はCEO就任以来、グローバルでタウンホールミーティングを継続的に実施し、社員との対話を深めてきました。回を重ねるごとにオープンで率直なコミュニケーションが増えてきたと感じています。私が常に社員に伝えているのは、「デジタルサービスの会社」への変革を進めるなかで、これまで築いてきた顧客基盤や顧客接点、自社IPといったリコーの強みを活かすことの重要性です。そして、目的は変わらなくても、世の中やお客様のニーズの変化に応じて、手段は柔軟に変えていく必要があるということも繰り返し伝えています。社員一人ひとりが変化に関心をもち、お客様の“はたらく”にどう寄り添い、どのような価値を提供できるかを考え、自律的にスキルを磨いていくことで、社員と会社が共に成長していけると私は信じています。
こうした活動を通じて、リコーグループが持続的に成長することで、株主・投資家の皆様に対して、投資に見合ったリターンを着実に創出できるよう、今後も企業価値の向上に全力で取り組んでまいります。ストック収益の積み上げを加速し、近い将来にROE10%以上を実現し、さらにその水準を安定的に維持できるよう、継続的に資本収益性の改善を図っていきます。
また、ステークホルダーの皆様にリコーグループの現状や将来に向けた取り組みをご理解・ご賛同いただけるよう、今後もコミュニケーションを重ねてまいります。リコーグループの取り組みへのご理解と、変わらぬご支援を賜りますようお願い申し上げます。
企業価値向上プロジェクトを完遂し、
ROE10%実現に向けた持続的成長の道筋を描く
川口 俊
取締役
コーポレート専務執行役員 CFO
2025年9月5日
1986年 3月
株式会社リコー 入社
入社以来、一貫して経理・財務業務に従事
2度にわたる長期の北米での勤務を経て、グループ各社のCFOを歴任
2007年 5月
InfoPrint Solutions LLC CFO
2010年 8月
Ricoh Americas Holdings, Inc. SVP(Senior Vice President)
2015年 10月
コーポレート統括本部 グローバルキャピタルマネジメントサポートセンター 企画部 部長
2018年 4月
経理法務本部 財務部 部長 兼 CEO室 室長
2018年 10月
リコーリース株式会社 執行役員 経営管理本部 本部長
2020年 4月
同社 取締役 専務執行役員
2021年 6月
財務統括部 部長(現在)
Ricoh Americas Holdings, Inc. 会長 兼 社長(現在)
2022年 4月
コーポレート執行役員
CFO(現在)
2023年 4月
コーポレート専務執行役員(現在)
2023年 6月
取締役 (現在)
インフレやサプライチェーンの混乱など、世界経済の不安定な状況が続くなか、連結売上高は前期比7.6%増の2兆5,278億円となりました。オフィスプリンティングでは特に海外での売上が減少したものの、オフィスサービスではITサービス、アプリケーションサービスを中心に成長しました。加えて、販売サービス体制の見直しや合弁会社エトリアの立ち上げなど、企業価値向上プロジェクトを着実に実行したことで、営業利益は同2.9%増の638億円となりました。なお、同プロジェクトによる一時費用297億円と中国における仲裁判断に伴う一過性収益90億円を除いた実質ベースでは、約30%の増益となりました。
また、デジタルサービスの会社への変革も着実に進展しました。成長を続けるオフィスサービスは当初想定には届かなかったものの、重要視しているストック収益は前期比14%増の3,975億円と、2025年度目標の3,800億円を1年前倒しで達成しました。世界140万社のお客様におけるオフィスサービス導入率は36%まで伸長しています。今後、新規顧客を含め、さらに多くのお客様にオフィスサービスを導入いただけるチャンスがあるととらえており、さらなる伸長を目指します。
オフィスプリンティングについては、2024年度はハードウエア、ノンハードウエアともに、当初想定の売上を下回る結果となり、今後の対応として複合機のMIF(市場での設置台数)の維持・拡大に向けたマネジメントの強化の重要性を再認識しています。とりわけ米国では企業規模の大きなお客様が多く、リモートワークを取り入れたハイブリッドワークの浸透など働き方の多様化に伴い、オフィスでの設置台数を見直す動きが進んでいます。こうした地域ごとの市場特性や環境変化を踏まえ、商品・販売戦略、顧客ターゲティングをより緻密に展開し、収益性の高いMIFの維持・獲得に取り組みます。さらに、企業価値向上プロジェクトの効果刈り取りや販売・サービスの経費効率化なども進め、市場の縮小トレンドのなかでも減益影響を抑制していきます。
オフィスサービスでは、その構成要素である、プロセスオートメーション、ワークプレイスエクスペリエンス、ITサービスの3分野を包括的に組み合わせた提案を強化するとともに、買収企業とのシナジー創出にも注力することで、最重要課題であるストック収益の成長の加速を図ります。例えば、ワークプレイスエクスペリエンス領域においては、2020年に買収したドイツのDataVisionのデュッセルドルフ本社に、2025年7月からリコードイツの拠点を集約しました。相互の商材をクロスセルするなど、両社の販売・サービス部門の連携を深め、ストック契約数の拡大を図っていきます。
リコーグループは長年OAメーカーとして、本社主導で企画・開発したオフィス機器をグローバルに展開するビジネスモデルを推進してきました。現在では、オフィスサービスを成長の軸としており、業種や企業規模などにより異なるお客様ニーズを深く理解することが重要です。地域ごとに、最適な商材やサービスを現地で自律的に提供できるよう、社員のマインド変革を進めています。
私はCFOとして社員に対し会社が向かう方向性を説き続け、その戦略や施策の優先順位を明確にすることが重要な責務の1つだと考えています。2024年度は国内外の各拠点に赴き、地域の経営陣や社員と直接接することで、意識の変化を肌で感じることができました。また、2021年度のカンパニー制導入以降、資本収益性を重視したROIC経営の重要性を繰り返し伝えてきたことで、各ビジネスユニットでの重点施策やKPI*1設定の議論が年々活性化し意識が高まってきていると実感しています。今後もこうした説明や対話の場を積極的に増やすことで、会社の方向性の理解促進や納得感の醸成を図っていきます。
本社財務部門が、グループ約200社の事業計画に基づくキャッシュ・フロー予測を精査し、必要な資金を相互に合意した上で、必要最小限の借入枠を設定しています。資金需要に対しては、与信および滞留債権管理の強化と在庫・SCMの適正化などを通じて、キャッシュ・コンバージョン・サイクルの短縮を推進し、資金効率の向上を図っています。
各国の関税政策など外部要因によるキャッシュ・フローの変動に対しては、状況に応じて柔軟に借入枠を見直すことに加え、緊急的な資金需要には本社が迅速に資金供給することで、グループ会社が事業に専念できる環境を整えています。
グループ全体の最適資本は2025年度に1兆円(為替調整を除くと9,000億円)という目標を設定しています。また、手元流動性は1,800億円を基本としながら、期中はリスクや資金ポジションに応じて2,000億円程度までは柔軟に変動させる運用を行っています。
本プロジェクトでは2024年度に前倒しの効果が表れており、2025年度までの2年間累計で520億円の効果創出を見込んでいますが、この水準は必達目標として位置付けており、さらなる効果の上積みを目指して施策の点検と改善や施策の追加を進めています。「事業の『選択と集中』の加速」については、収益性、市場性、デジタルサービスとの親和性の3つの観点で、対象事業の継続や縮小、撤退、売却を判断しています。事業の撤退や売却においては関係するステークホルダーとの調整が必要になるため一定の時間を要しますが、2024年度は計画どおりに進捗しており、2025年度も着実に成果を上げていきます。
また、「SCMの最適化」においては、ロジスティックスの改革に加えて、施策の一例としてオフィスサービスでの仕入れ商品についてグローバルでの集中購買を強化していきます。これにより、購入コストの低減に加え、メンテナンスサービスの効率化や収益性改善も期待できます。
ROEについては、中期的に10%以上の実現を目指し、経営基盤の変革を進めます。ROEの計算式の分子である収益性の向上には、固定費削減はもとより、オフィスサービスでのストック収益の積み上げが重要です。DocuWare*2が、natif.ai*3のAI技術を活用して商品力を高めているように、もちうるリソースの強みをさらに伸ばし、オフィスプリンティングで築いた世界140万社の顧客基盤に対するオフィスサービス導入率の向上を図ります。
株主還元については、総還元性向の目安を50%としながらも、2025年度の配当性向見通しは40.7%にとどまっています。現時点では各国の関税政策の影響など不確定要素が多く、慎重に状況を見極めているところですが、方向性が固まった段階で、その時点のキャッシュ・フローの状況や成長投資の進捗に応じ、追加の還元施策を機動的に実行する考えです。
2020年にグループ入りしたドイツのDataVision幹部とのディスカッション
リコーグループでは「Cash Belongs to Corporate」と「Treasury Centralization」をグループ財務方針として掲げ、グローバルでの資金管理を最適化しています。資金調達や為替戦略などの財務機能を集約することで、柔軟性とコスト優位性を確保しながら、財務部門はグローバルレベルで「社内銀行」としてグループ会社に金融サービスを提供しています。これにより、グループ全体の資金規律を強化し、金融コスト低減を図っています。
これらのグローバル財務オペレーションは、本社財務部門が主管する英国金融子会社が担っており、地域財務機能と連携しながら、専門知見に基づく高度な財務プロセスを推進しています。
デジタルサービスの会社への変革に向けて、リスク評価に基づいた適切な資本構成を目指しています。投資原資として借入を積極的に活用し、負債と資本をバランス良く事業に投資していきます。オフィスプリンティング事業などの成熟し安定した収益を生む事業には負債を積極的に活用し、リスクの比較的高い成長事業には資本を中心に配分する考えです。
事業投資によって創出された営業キャッシュ・フローは、さらなる成長に向けた投資と株主還元に計画的に活用していきます。デジタルサービスの会社への変革に向け、ワークプレイスエクスペリエンス領域やアプリケーションサービス領域でのM&A投資など、財務規律を重視しながら、企業価値最大化に向けた成長投資を継続します。投資原資には、営業キャッシュ・フローを中心に有利子負債も戦略的に活用していきます。
2025年度は、経営環境の不確実性を踏まえ、格付や資金調達リスクを鑑み、成長のための資本を確保します。そして、成長投資の進捗や事業構造の変化に応じて、柔軟かつ最適な資本構成の調整を行っていく考えです。
| 20次中計 2021~2022年度の2年間の実績 |
21次中経見通し 2023~2025年度の見通し |
2021~2025年度の 5年間の見通し |
事業成長のためのM&A投資 | 1,250 | 1,370 | 2,620 |
|---|---|---|---|
| 経営基盤の強化 | 400 | 530 | 930 |
| 新事業ドメイン創出への投資 | 250 | 300 | 550 |
| 合計 | 1,900 | 2,200 | 4,100 |
株主還元については、総還元性向50%を目安に、配当利回りにも配慮しながら、利益成長に応じた継続的な増配を図ります。自己株式取得などの追加還元策については、経営環境や成長投資の進捗を踏まえ、最適資本構成の考え方に基づき、機動的かつ適切なタイミングで実施することで、TSRの向上を実現していきます。
この方針に基づき、2024年2月7日から2024年8月30日の期間に300億円の自己株式取得を実施しました。内訳は、2023年度に75億円、2024年度に225億円となります。なお、2024年9月30日に当該自己株式の消却を実施しました。また、2024年12月3日に300億円の自己株式取得を実施し、2025年1月31日に消却を完了しました。2025年度の配当については、前年度から1株当たり2円増配し年間40円とする見通しです。
リコーグループは、ステークホルダーの皆様の期待に応えながら、株主価値・企業価値を最大化することを目指しています。専門家の意見も取り入れながら複数の手法・視点から資本コストを把握し、株主の皆様からお預かりした資本に対して、資本コストを上回るリターンの創出を追求しています。企業価値最大化の実現に向けては、厳正な事業ポートフォリオマネジメントを実施。各ビジネスユニットを投下資本利益率(ROIC)や市場性などの指標で評価し、合理的な判断・意思決定に基づき、経営資源配分の最適化に取り組んでいます。事業ポートフォリオマネジメントにおいては、従来の「収益性」「市場性」に加え、「デジタルサービス親和性」という新たな観点を加えた3つの軸で事業を客観的に評価しており、各事業を「成長加速」「収益最大化」「戦略転換」「事業再生」の4つに分類し、デジタルサービスの会社としての経営基盤強化を推進しています。
損益計算書(P/L)に加えて、貸借対照表(B/S)も意識したKPIを、個々の組織と全社の両視点で設定しています。
中長期的に目指すROE10%超を継続できる資本収益性の実現に向け、資本コストを上回る収益性を追求するため、各ビジネスユニット・部門にてROICツリーを用いた施策管理を実施しています。さらに、主要施策は全社レベルのROICツリーにも反映されており、財務数値化が難しいグループ本部の施策についてはKPIとして目指す内容を言語化し、将来財務につなげています。これを「リコー版ROICツリー」として定期的にモニタリングし、財務目標との関連性を明確にしながら、KGI*とKPIのマネジメントを実施しています。
総還元性向50%の方針は堅持し、継続的な増配と機動的な追加還元策によるTSRの向上を図ります。
2023年度通期決算発表(2024年5月7日)において2024年度営業利益の見通しが市場期待を下回ったことから株価は一時下落したものの、企業価値向上に向けた取り組みに関する株式市場での理解・浸透が進むなかで、株価は持ち直しの動きを見せました。
その後、2024年8月初旬には、日本銀行による政策金利引き上げ決定や追加利上げの示唆、米国景気減速への懸念、急速なドル安・円高の進行などの影響を受け、輸出・ハイテク関連銘柄を中心に市場全体で株価が大幅に下落しました。年末にかけては、企業価値向上プロジェクトの進捗やコスト構造改革への期待が高まり、リコーの株価は市場全体を上回る上昇を継続しました。2025年に入ると、米国新政権の経済・関税政策への警戒感などから株価はやや低下傾向となったものの、ほぼ一年を通じてTOPIXを上回る水準で推移しました。
| 保有期間 | 1年 | 3年 | 5年 |
|---|---|---|---|
| リコー(配当込み) | 132.0% | 148.4% | 166.5% |
| TOPIX(配当込み) | 118.8% | 149.7% | 192.1% |