お役立ちコラム ESGの「S」とは?企業の「ソーシャル(社会)」への関わり方と貢献活動事例

2025年4月30日
  • サステナビリティ
ESGの「S」は社会全体で解決すべき課題!国内企業の事例もチェック

近年、環境への配慮や持続可能性(サステナビリティ)に対する意識の高まりから、「ESG」という言葉を見たり聞いたりする場面が増えています。しかし、「E」「S」「G」のそれぞれが何を意味しているかは知っているという方でも、「S」について具体的なイメージを持っている、課題について詳しく説明できる、という方は意外に多くないかもしれません。

本記事では、そんな「ESG」の「S」について解説します。企業が取り組んでいる働きやすい職場環境づくりや人権の尊重、地域社会との連携などの社会貢献活動の事例についてもチェックしておきましょう。

ESGの「S」とは

ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」という3つのテーマからそれぞれの頭文字を取って組み合わせた言葉です。それぞれの課題に取り組むことで、社会問題の解決と企業の持続的な成長を同時に目指す概念と言えるでしょう。近年、このESGに積極的に取り組む企業を評価する「ESG投資」の考え方が拡大しており、世界的に見ても一般的な手法となりつつあります。

一般的に、ESGの「S」は、「社会全体で取り組むべき課題」を指します。具体的には、人権、強制労働、労働基準の遵守、ダイバーシティ推進、男女差別の解消といった課題です。これらの社会課題は企業の事業運営とも深く結び付いており、投資や経営判断においても重要な要素と位置付けられています。

以下、ESGの「S(社会)」に関連する具体的な課題を見ていきましょう。

なお、ESG投資全体の概要や成り立ちについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

社会課題1:働きやすい雇用環境と労使の関係性

従業員が安心して働ける環境を整備することは、ESGにおいて欠かせない取り組みです。福利厚生の充実や労働環境の改善を進めることで、従業員のモチベーションや生産性は向上します。また多様性を尊重し、性別や国籍、価値観などの違いを受け入れるためのDEI推進も重要です。

具体的な施策としては、育児・介護休業制度の導入や柔軟な働き方の提供などが挙げられます。これらの取り組みは従業員満足度の向上だけでなく、企業の持続可能な発展にもつながるものです。

社会課題2:サプライチェーンにおける人権への配慮

企業は、自社だけでなくサプライチェーン全体を管掌範囲として人権侵害リスクにも対応する責任があります。たとえば原料調達先や取引先での強制労働および児童労働、地域住民の権利侵害など、サプライチェーン内で起こり得る問題に当事者として目を向けることが必要です。

これらのリスクを放置すると、社会的信用の低下や不買運動などに発展する恐れもあります。そのため、サプライチェーン全体の透明性を高め、取引先とも密に連携しながら人権を守るアクションが求められます。

社会課題3:製品責任と消費者の安心を守る取り組み

企業は安全で質の高い製品やサービスを提供し、消費者の信頼と安心を守る責任を負っています。製品責任の範囲には、製品の安全性確保や適切な品質管理、顧客データの適切な保護、広告やマーケティングにおける倫理的な対応などが含まれます。

消費者満足度を高めるには、製品の品質向上や顧客のプライバシー保護が欠かせません。また、データセキュリティや製品ラベリングへの配慮も重要であり、これらの取り組みは企業の持続可能な成長と社会的責任の履行に直結します。

社会課題4:地域社会との関係づくりと貢献

「企業は社会の公器」という言葉があるように、企業は地域との連携を通じて持続可能な社会の実現に貢献する役割も担う存在です。具体的には、地方創生や震災復興支援、地域産業の育成、文化プログラムへの参加など、多岐にわたる取り組みが含まれます。

地域住民との関係性を強化し、教育プログラムや多様性推進活動を通して地域社会への信頼を築くことが可能です。こうした活動は企業の社会的評価を高めるだけでなく、地域全体の持続可能な発展にも寄与します。

社会課題5:公正な事業慣行とコンプライアンスの実践

公正な事業慣行とは、ビジネスにおける取引先や顧客、政府機関などとの関係において倫理的かつ透明性のある行動を指します。

具体的には、腐敗防止や調達プロセスの公正化、社会経済的影響の評価を含むコンプライアンス活動が挙げられます。また、苦情処理や人権の保護、製品責任の遵守といった広範な課題も、公正な事業運営の中で考慮されるべき重要事項と言えるでしょう。

企業におけるSocialの役割(社会的責任)

企業が社会的責任を果たすためには、ISO26000が示すCSRの7つの原則を参考にするのが有効と言えます。CSRとは「企業の社会的責任」を意味する「Corporate Social Responsibility」の略称で、企業も社会を構成する一員として多様な責任を負うべきという考え方です。

CSRの考え方に対する重要性は世界中で高まっています。しかし、ビジネスのグローバル化が進む中、国や地域によって重視されるポイントや向き合い方が異なることから、国際的なCSR基準が必要とされてきました。こうした背景から国際標準化機構(ISO)によって策定されたのが、CSRの国際規格である「ISO26000」です。

7つの原則の内容

ISO26000が示すCSRの7つの原則は以下のとおりです。

  • 説明責任
  • 透明性
  • 倫理的な行動
  • ステークホルダーの利害の尊重
  • 法の支配の尊重
  • 国際行動規範の尊重
  • 人権の尊重

これら7つの原則は、ESGの「S(社会)」に関連する課題への取り組み(社会貢献活動)を体系的に支える指針となっています。

最初の原則である「説明責任」は、製品やサービスの安全性、データセキュリティの確保といった消費者の信頼を得る行動に深く結び付きます。「透明性」を確保することは、サプライチェーン全体での人権リスクを軽減し、社会的信頼を高めるうえで重要です。

また「倫理的な行動」は、公正な事業慣行とコンプライアンスの実践に直結します。不正の防止や適切な調達手法の確立は、企業の倫理的な価値を示す基本的な取り組みです。「ステークホルダーの利害の尊重」は、多様性の推進や地域住民との連携といった、働きやすい雇用環境の整備や地域社会への貢献と密接に関連しています。

さらに、「法の支配の尊重」は公正な事業運営の基盤を形成します。企業が法令を遵守することは、社会からの信頼を得るために欠かせません。「国際行動規範の尊重」は、サプライチェーンにおける強制労働や児童労働の排除といったグローバルな課題に対応する際に求められる姿勢です。7つ目の「人権の尊重」は従業員や取引先の権利保護といった基本的な取り組みに関わるもので、他のすべての課題にも共通して求められる重要な理念と言えます。

国内企業が取り組む社会貢献活動例

最後に、国内企業が取り組む社会貢献活動の事例を3つご紹介します。

事例1:大手自動車メーカー

大手自動車メーカーA社は地域社会とのつながりを深めるため、社会貢献活動に力を入れています。交通安全の普及や次世代育成、地域の活性化を目的とした取り組みが特徴です。

例えば、子供たちを対象とした交通安全教室の開催や、地域イベントへの参加を通じた交流活動を実施。また、災害支援や環境教育プログラムの提供を通じて、持続可能な地域社会の構築にも注力しています。

これらの取り組みは、企業の社会的責任を果たすだけでなく、地域住民との信頼関係を築くうえで重要な役割を担っています。

事例2:大手化学メーカー

大手化学メーカーB社は持続可能な社会を目指し、「責任ある原材料調達」を推進しています。その一環として注力しているのがトレーサビリティの確保。トレーサビリティとは、製品や原材料の生産から消費に至るまでの各工程を追跡・管理できる状態を指し、品質や安全性の確保、問題発生時の迅速な対応などに役立ちます。

同企業は、パーム油や紙・パルプの調達において環境保護や人権尊重を重視し、サプライチェーン全体の透明性確保に注力。また、第三者認証の取得を推進し、労働環境の改善や森林保全を支援する取り組みも進めています。これらの活動を通じ、環境負荷の軽減だけでなく、公平で持続可能な調達体制の実現にも寄与しています。

事例3:大手通信企業

大手通信企業C社では、社員一人ひとりが自分らしく働きながら生産性を最大化できる環境づくりに取り組んでいます。

フレックスタイム制を活用し、コアタイムを撤廃することで、業務の状況に応じて自由に勤務時間を調整できる仕組みを導入しました。また出社、在宅勤務、サテライトオフィス勤務を柔軟に組み合わせた働き方を推進し、「全社一律の勤務形態」ではなく部門や個人の状況に応じた柔軟な勤務を可能にしています。

オフィス空間の活用にも工夫を凝らし、テクノロジーを活用したコミュニティ型ワークスペースを整備。こうした取り組みが部門間の交流やオープンイノベーションを促進し、社員が場所や時間にとらわれず効率的かつ創造的に働くという理想の実現につながっているのだそうです。

多様な社員が自身のパフォーマンスを最大限発揮して活躍できる環境の実現を目指すリコーの取り組み

リコーは、ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(DEI)やワークライフ・マネジメント(WLM)を経営戦略の一環として推進し、多様性を尊重しながら社員が最大限活躍できる環境を構築しています。

DEIではグローバルDEIカウンシルを設立し、「エクイティ」をテーマに多文化共生を深める取り組みを展開。国際女性デーでは世界同時イベントを開催し、DEIの理解促進を図っています。WLMではリモートワークや週4日勤務など柔軟な働き方を導入し、社員の自律性を重視。育児や介護との両立支援にも力を入れています。

リコーの取り組みについては、以下の記事でご確認いただけます。ぜひご覧ください。

赤上 直紀(あかがみ・なおき)

1級ファイナンシャル・プランニング技能士。元銀行員として、金融商品を通じて多くの顧客のライフプランニングに携わった。現在は編集者として、金融機関を中心にWebコンテンツの執筆・編集業務を行う。社会の発展と財務リターンを両立できるESG投資はこれからの経営に重要なものだと考え、啓蒙に力を入れている。

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