リコーの取り組み 「"はたらく"の変革」で社会課題の解決に貢献 リコーが提供する「使える・使いこなせるAI」とは(日経電子版特集)

2025年3月10日
  • AI
  • サステナビリティ
  • 社会課題解決

※本コンテンツは日経ビジネス「2025年3月10日号」に掲載された内容を一部再編集した形で掲載しています。
※著作・制作 日本経済新聞社 (2025年日経電子版広告特集)。
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「“はたらく”に歓びを」を使命と目指す姿に掲げるリコーは、マテリアリティ(重要社会課題)の一つに「“はたらく”の変革」を設定。顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支えるサービス提供により、日本が抱える労働人口減少や人手不足、多様な人材の活躍といった社会課題の解決に貢献している。特に人工知能(AI)を活用したDXに注力。「AIの民主化」に向け、自らもAI活用を積極的に行い、そこで培ったノウハウを顧客に提供することで、「ESG(環境・社会・企業統治)と事業成長の同軸化」に挑んでいる。

リコーは創業以来、顧客の“はたらく”に寄り添ってビジネスを展開してきた。1977年にはオフィスオートメーション(OA)を提唱。「機械にできることは機械に任せ、人はより創造的な仕事をする」ことを実現するために“はたらく”の変革に取り組んできた。

2020年には働く人の創造力を支える「デジタルサービスの会社」への変革を宣言。情報技術(IT)サービスや各種デバイスを組み合わせ、企業が取り組むDXを支援している。

生成AIの出現でDXは新たなフェーズに入った。リコーが得意とする画像処理技術だけでなく、生成AIに必要な大量のデータと深層学習(ディープラーニング)により構築された独自の大規模言語モデル(LLM)の開発にも力を入れている。

AIの可能性に期待が高まる一方で、実際の業務での活用はまだまだ十分に進んでいないのが現状である。リコーグループでは自らの業務の中でAI活用を進めてユースケースづくりに取り組み、そのノウハウを顧客に提供。顧客の課題やその先にある社会課題の解決に貢献しながら事業成長を図っている。

日本企業に最適化したLLM AI提案強化へ認定制度を始動

株式会社リコー リコーデジタルサービスBU AIインテグレーションセンター副所長 兼
リコージャパン株式会社 デジタルサービス企画本部 AIソリューションセンター所長
児玉 哲氏

企業ごとのカスタマイズを容易に行える700億パラメータのLLMの提供を24年に開始したリコー。リコージャパン AIソリューションセンター所長の児玉氏は「日本企業が持つ情報資産の活用に適したモデルを実現した」と説明する。多くの日本企業が必要とする日本語・英語・中国語に特化し、日本語に関しては日本の文書特有の表や図を含む複雑な文書構造に関する処理能力を強化している。

AIを実際の業務に適用するには、企業固有の用語や言い回しなどを含む大量のテキストデータをLLMに学習させ、その企業独自のAIモデル(プライベートLLM)を作成する必要がある。AIモデルを作成するカスタマイズ(チューニング)には専門の知識が必要なため、開発を外部委託する際のデータの秘匿性がAI導入の懸念材料になっている。

リコーのLLMはクラウド環境だけでなく、企業が自社運用するオンプレミスにも対応して高いセキュリティを維持でき、機密情報も扱えるようにしたのも大きな特徴だ。特別な知識がなくてもデータをアップロードするだけでAIに学習させられるノーコードのAI開発ツールも提供している。他のLLMと比較して低消費電力で動作が可能で、カーボンニュートラル実現に向けて消費電力の削減を進めている企業にとっても使いやすいLLMだ。

主な対象としているのは製造業や金融業、サービス業の顧客だ。特に経理部門への問い合わせのような社内からの問い合わせにAIを活用して業務を効率化したいという要望は多い。他にも社内規定をLLMに学習させて、社員からの質問に自動回答するシステムの導入も増えている。

24年12月には生成AIアプリ開発プラットフォーム「Dify(ディファイ)」を提供する米LangGeniusと販売・構築パートナー契約を締結した。Difyは、プログラミングの専門知識がなくても、現場の担当者が業務に即したAIを自ら開発できる。特定のタスクや目的を達成するために動作するAIエージェントや、複雑な処理を行うAIモデルをノーコードで作れる。リコーは全社でAI活用を加速することで「AIの民主化(市民開発)」を実現し、業務効率化やイノベーションの創出につなげることを目指している。

販売会社のリコージャパンは、顧客に対してAI活用による業務改善を提案できるよう、AIのスペシャリストを育成する「AIエバンジェリスト」育成制度を開始した。職務や役職を問わず、自ら手を挙げた約1400人(従業員全体の約8%)を候補者として育成プログラムを開始し、2025年度には300人のAIエバンジェリスト認定を目指している。

児玉氏は「AIは人の仕事を奪うのではなく、人をサポートする役割として全てのサービスに組み込まれるだろう。AI活用を促進するには『AIの民主化』が重要だ。『“はたらく”に歓びを』を実現するため、まずAI活用の社内実践を進め、そこで培ったノウハウを含めて『使える・使いこなせるAI』サービスを顧客に届けていく」と話す。

リコーデジタルサービスBU
ノーコードでAIアプリ開発を実践 現場主導で「AIの民主化」を加速

株式会社リコー リコーデジタルサービスBU 経営企画本部 経営戦略室 インテリジェンスグループ グループリーダー,
伊吹 砂織氏

株式会社リコー リコーデジタルサービスBU AIインテグレーションセンター ソリューション開発室 室長
井口 慎也氏

リコーデジタルサービス(RDS)BUは、業務量を可視化し、2割の業務量削減を目標にDXによる効率化を進める「GGプロジェクト」に取り組んでいる。その一環として、市場動向レポートの作成業務をAI活用で効率化するアプリケーションの開発を24年8月に始めた。

これまでは対象の27のWebサイトをスタッフが検索して3C(市場・顧客、競合、自社)の観点から重要と思われる情報を探し出し、影響分析を加えた市場レポートを月1回作成していたが、1回のレポート作成に約17時間/月の工数がかかっていた。さらにタイムリーな情報提供を実現するためにレポートを日次で配信するには、7時間/日、1,764時間/年以上の工数が必要になる。マーケティング専任者を一名フルタイムでアサインが必要となるため、これまでは月一回配信するのが限界だった。

この労働集約型の業務はDifyを活用して効率化した。Difyは、アプリを開発する上でコードを書く必要がなく、処理機能のブロックをつなげて視覚的にプログラムを組み立てられる直感的なインターフェースが特徴だ。

今回、開発したのは、検索した3C情報を自動で分類・抽出して日次で配信するアプリ。プロジェクト開始から1カ月たたずにプロトタイプが出来上がり、アプリの改良、セキュリティ監査の実施、テスト環境での配信を経て、24年12月からRDSの社員約1000人に配信を開始した。これまでは月1回の配信が限界だったが、AIを活用することで膨大なWeb検索情報の中から部門別の観点で厳選した情報を毎日配信できるようになった。

伊吹氏は「AIを使うことで人間の主観的な判断に頼らず、広範囲の情報を収集・分析できて経営・戦略展開に活用できるようになった。タイムリーな情報提供と大幅な業務の効率化を実現し、戦略・施策に関する議論など、より創造的な仕事に注力できるようになった」と効果を説明する。

3Cレポーティング支援AIアプリ配信までのフロー

①事前に登録した条件に該当する情報をWEB検索 ②AIが3C観点で各検索結果を評価 ③重要度が高い検索結果を選択 ④関連度順位、3Cの各項目に表示 ⑤AIが検索結果全体を分析し、記事の傾向、選定理由、急上昇KWを作成

AIがRDSのマーケティング担当として、WEB上で検索した有用記事をRDSの各ユーザー観点に基づいて3Cに分類・抽出。その日選定した3C記事の傾向や選定理由、急上昇キーワードを添えて日次でTeamsに配信する

これまで社内の業務システム開発は、課題を基に現場が要件を定義して社内の開発部門が作成してきた。井口氏は「専門家の手を借りずに社員一人ひとりが業務ツールを作れるようになった。Difyは、AI活用の社内実践を進めて『AIの民主化』を実現する重要なプラットフォームになる」と期待している。

リコージャパン
「AIのおすすめ」で提案力を強化 営業の"バディ"としてAIを活用

リコージャパン株式会社 デジタルサービス営業本部 マーケティングセンター CRM企画室 室長
池田 和弥氏

リコージャパンは、2024年8月に社内向け営業支援(SFA/CRM)システムを刷新した。

リコージャパンが顧客に提案できる自社とパートナーの商品・サービスは複合機などのハードウエアから文書管理やWeb会議システムなどのソフトウエアまで幅広く、500万品目に達する。これまでは、営業担当が顧客から課題を聞いてマネージャーや商品専任担当と相談しながら提案するものを決めてきた。

新たに開発したシステムでは、AIが顧客に適した商品やサービスを提示するレコメンド機能を実装した。営業担当が作成する日報や市場トレンド情報、顧客セグメントごとの販売実績や顧客ごとの購買履歴などから、顧客へのおすすめ商品やサービスをAIが提案する。SFAやCRMに日々蓄積、更新される膨大な顧客情報をAIが分析・学習することで、蓄積データを最大限活用した営業活動が可能になった。

社内SFA/CRMシステムのAIレコメンド機能について

AIでの最適な商品やサービスを提示するレコメンド機能により、蓄積データを最大限活用した営業活動が可能となった

池田氏は「ベテラン社員は、顧客の困り事を解決する商品やサービスを、経験や知識を基に的確に提案してきたが、経験の浅い若手社員でもAIが営業の相棒になって、同様の提案ができるようになってきた。AI活用で、営業担当者ごとにばらつきのあったスキルやノウハウの底上げを図っていく」と話す。AIが提示するレコメンドに付随する関連ニュースを顧客への情報提供に使い、商談のきっかけになったり、そこから案件創出につながったりする活用も見られるようになった。

一方、営業現場でAI活用を進める中で、営業担当の経験や置かれている状況によって、同じレコメンドでもその効果が変動することも分かってきた。今後はおすすめ精度の向上に加えて、AIに訪問先を提案させることや、マネージャーに代わり案件を進めるためのアドバイスをするなどの活用シーンの拡大も検討していく。

AIエージェントの商談支援の様子