左から山下会長、大山社長
2025年2月6日、リコーは創業から89周年を迎えました。2017年4月に山下社長が就任してから毎年2月6日には創立記念日を祝うイベント『Foundation Day』を行っています。
8回目となる今年のテーマは「Passion(パッション)」。イベントの企画として、創立89周年を祝い、2025年1月に山下会長と大山社長対談を行いました。
山下(会長):大山さんが社長になってもうすぐ2年ですが、この2年間を振り返っての所感はいかがですか?
大山(社長):2020年に山下さんが「デジタルサービスの会社への変革」を宣言されてから、我々はそれに向かって必死に改革を進めてきました。社員の皆さんがパッションを持って取り組んでくれたので、成果として見えはじめた印象をうけています。もちろんもっと加速していかなければいけないですが。
山下:「社員のみんなが頑張ってくれている」というのを社長が自分の言葉で言えるのはすごく良いことですね。素直にそういう風に言えるのは、2年間で良い成果が出てきた結果なんじゃないかなと思います。
もちろん企業の成長というのはゴールがない旅みたいなもので、お客様の要望もどんどん変化する。それをウォッチしながら先手をとって変わっていくというのは企業にとって大事なこと。そうは言っても大山号が良いスタートを切ったなという印象を、私も持っていました。渡したバトンを引き継いで頑張ってくれて、非常にありがたいと思います。
大山:おっしゃるとおりで、常にゴールは変化していきますよね。ただ、その変化よりもちょっと先を進んでいくというのは非常に重要だと思います。
山下:2年経った今の時点で、大山さんが感じている社長としてのやりがいと、「ちょっとまだ足りてない」という部分も教えてもらえますか?
大山:やはりもっともっとスピードを上げていかないといけないなと思います。社員の皆さんが一緒になって新しい未来をつくるために一生懸命ついてきてくれているので、その期待を裏切らないように改革を加速させていくというのが不可欠ですね。
山下:やりがいの方はどうですか?
大山:責任も重いですが、それはそのままやりがいに繋がりますね。山下さんは社長になって最初の2年はどんな感じでしたか?
山下:本当に忘れたいぐらい大変でした。大山さんも一緒に取り組んでくれたた2年間でしたが、1年目は相当厳しい経営環境だったので、やりがいも何も、当時は生きている心地がしなかったです。
でも思い出すのは、福井事業所での出来事です。社長として会社の状況を説明するために工場を回ったりしていたときに、ある社員が「我々も一緒に頑張りますよ」と声をかけてくれた。それが本当に心に残っています。やっぱりそういうのがないと大変だと思います、社長という仕事は。
山下:リコーには、「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」という市村清が1946年に創業の精神として唱えた「三愛精神」がありますよね。これは現代でも古びることがないと思っていて、本当に不易流行、本質を捉えた考え方だと思っています。大山さんにとってこの「三愛精神」がどういうものか教えてもらえますか。
大山:非常に重要だなと思っているのは、三愛精神の中で「皆さんの利害をきちんと大切にしますよ」と言っている点です。もっと言えば、マルチステークホルダーを大切にすることを宣言している。誰かやどこかにしわ寄せをしながら会社が良くなっていっても、これは長続きしませんよね。環境に悪影響を与えたり、社員にしわ寄せをしながら利益を稼いでも長続きしない。本当に全ての方々の利害を考えてちゃんと経営しなければいけないということを言っているのが、三愛精神の非常に重要なポイントだと思いますね。山下さんはいかがですか?
山下:「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」私は「人を愛し」が一番に来るのが良いと思っています。勤めを愛することも大事だし、国を愛すること、今の時代だと「国」というよりは「地球」と言い換えた方が良いですかね。勤めを愛することも地球を愛することももちろん大事だけれども、結局いろいろなことを為すのは人であるわけじゃないですか。人と人のコミュニケーション、人同士がお互いを大事にする思いやりみたいなものが社会のベースだと思っているので。
大山:サステナビリティの理念、人的資本経営の考え方も全部入ってますよね。
山下:最近は大山さんがしっかり会社の舵取りをしてくれているので、おかげで私は社外の仕事をいろいろやらせてもらっていますが、そうすると「三愛精神って良い経営理念ですね」と言われることが多いんです。誇りに思いますね。
大山:山下さんはリコーの使命と目指す姿として「"はたらく"に歓びを」を発案、推進されてきましたが、その背景を改めて聞かせていただけますか?
山下:リコーが「オフィスオートメーション」というコンセプトを提唱したのは1977年なので、そこから50年近く経ちます。オフィスオートメーションという言葉の起源を紐解いてみると、「機械ができるような仕事はできるだけ機械に任せて、人はもっと創造的な仕事をしよう」ということだったんです。これは時代によって変わることのない本質ですよね。この「機械にできるような仕事は機械に任せて」の部分で業務の生産性向上に対して、機械を開発したりソフトウェアを開発したりしながらお役に立ってきたのがこの50年弱だったのかなと思います。
そんな中で2017年に社長に就任したのですが、その頃は「リコーはずっとこのままじゃいけないよね」と思っていました。リコーが2036年に100歳になったときに、このまま101歳を迎えられるだろうかと、すごく不安になったんです。
ではどう変われば良いんだろうということを考えたときに、今後さらに機械にできることが増えてくると、「もっと人は創造的な仕事をしようじゃないか」という方向に世の中が益々変わっていくはずだと。「そうであるならリコーが先陣を切って変えていかねばならない」と思いました。
そんな想いで、2020年に「"はたらく"に歓びを」という言葉を、リコーが創業100年となる2036年に向けたビジョンとして掲げました。その時点から100歳になるまでの15、6年かけて、創造力の発揮をお手伝いする会社になる準備をしないといけないなというのが思っていたところですかね。
働く人の創造力の発揮を支える企業として100歳を迎えれば、長続きしますよ。この会社は。
山下:お客様のはたらく歓びを支えるには、まず自分たち自身がはたらく歓びを感じるということが起点になるのではないかなと思っていて。リコーで2年間社長をやってきて、そういう視点で見るとどうですか?
大山:これはまさに2025年の創立記念イベントテーマである「パッション」が大事なんですよね。パッションを持って仕事をしないとはたらく歓びは生まれないと思います。でもパッションって、「パッションを持て」といって持てるものではないですよね。
そのための仕掛けというのも山下さんが社長の時代から進めていて、自律型のキャリア設計の後押しもその一つですよね。「自分がこういうことをやって社会に貢献したい、会社を通して社会に貢献したい」ということを社員の皆さんに考えてもらい、そのために必要なスキルを得るためのプログラムや機会を会社が提供する。
パッションがある方がちゃんと新たな価値をつくれるように、会社としてもそういった方を価値創造できる役割につける。そこで価値を生み出してもらって、その創出した価値に対して、会社もその人にお返しをする。そうすると、その人はまたパッションを持って仕事に取り組める。
どっちが先ということではなくてそういった"関係性"が回り続けるように、会社としていろいろな仕掛けをしていく。なので、社員の皆さんも「会社は何かを与えてくれる場所」と捉えるのではなく、自ら自律型のキャリア設計をしてもらうというところがとても重要だなと思います。
山下:そこに公平な評価みたいなものは必要ですよね。今でいうとリコー式のジョブ型人事制度の中で、中間管理職も含めて成長していかないといけない。そういう意味では制度自体の改善も進めながら、大山さんが言う“関係性”がうまく回ってくると、これは強い会社になりますよ。
山下:大山さんにとって「はたらく歓び」を感じるのはどんなときですか?
大山:若いときだと、自分のやりたいことがやれると充実感を覚えましたが、今は社員の皆さんが嬉々として発言してくれたり、充実感を持って働いてくれているみたいなことがわかると、非常に嬉しいですね。
山下:私も同じですね。2024年末に、『すべての“はたらく”に歓びを』という本を出させていただいたんですが、その中ですごく影響を受けた何冊かの本を紹介しています。その一つが、チョークをつくる会社を創設された大山泰弘さんという方の『働く幸せ』という本です。その中で、人間の幸せは、次の4つが満足されれば良いということが書かれています。
一つは人に愛されること。これはちょっと置いておいて、2つ目に、人に感謝される。3つ目が人の役に立つ。4つ目が人に必要とされる。だから、「2つ目以降は働くことで得られるんだ」って書いてあって。そうだなと思いました。
私の場合は「リコーのおかげでほんと助かったよ」「リコーがいなきゃ困るよ」などとお客様や他のステークホルダーの方に言っていただけたときに歓びを感じますね。これは社長の頃から変わりません。
大山:山下さんは2025年をどういう年にしたいですか。
山下:リコーの創業者の市村清って、68歳で亡くなっているんです。そして今年、私も68歳を迎えます。なので、心身の健康を維持することがまずは一番大事ですね。
次に、リコーの経営は大山さんに任せられるし、幹部もきっちりやってくれるし、もっと言えば社員も自分の持ち場以上のことを進めてくれるような会社になってきている。となると、少しでも社会とか日本に役に立つことをもう少し進めていけたらなと思います。
企業を通して社会に貢献するという意味では、リコーの取締役のほかに去年からいくつかの社外取締役も拝命しています。その会社を通しても社会に貢献する。もっと言えば、そこで学んだことを大山さんやリコーの経営陣にフィードバックするということも大切だと思っています。最後に、ちょっと業界は違いますが、卓球日本リーグの会長もやっているので、ラグビーでもお世話になっているスポーツ界にも役に立てれば嬉しいですね。
大山さんはどうですか?
大山:私は月並みですが、会社を成長軌道に乗せて、山下さんから預かったたすきを将来の皆さんに繋いでいく。そのために、もっともっと変革を加速して未来につなげるということを今年やっていきたいです。
山下:たすきはもらったときから次渡すまでに、ちょっとでも光らせておきたいと思うものですよね。私が渡したときより相当光ってきているから大丈夫ですね。
大山:頑張ります。引き続きご指導をお願いします。
山下:ありがとうございました。