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創造力を解き放つ リコーのAIがもたらす企業内の知識資産の再構築 ドキュメント類や熟練者のノウハウのような「企業の知」を活かすAI開発に取り組むリコー。その取り組みと実装事例とは。

2025年6月20日
  • AI

本記事は、日経BPの許可により日経クロステック2025年6月20日-7月19日に掲載した広告を転載したものです。
Ⓒ Nikkei Business Publications, Inc.
※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

生成AIが社会に浸透する中、業務の中核を担う「知識資産」、すなわちマニュアルや議事録などのドキュメント類や熟練者のノウハウのような企業内に蓄積された知見にどうアプローチするかが問われている。リコーは「企業の知」を活かすAI開発に取り組み、着実にその技術の実装を進めている。株式会社リコー リコーデジタルサービスBU AIサービス事業本部 本部長 梅津良昭氏にリコー独自の取り組みと実装事例について聞いた。

80年代から続く AI開発への挑戦

株式会社リコー リコーデジタルサービス AIサービス事業本部 本部長
梅津 良昭氏

リコーのAIへの取り組みは1980年代にまで遡る。当時の第二次AIブームの中で注目されたのは特定分野の専門家の知識や判断力をコンピューターに再現させたエキスパートシステムで、熟練者の知見をモデル化し業務支援に応用するアプローチだった。まだ「デジタル化」という言葉すら定着していなかった時代に、リコーはオフィスオートメーションの延長として、業務知識の活用にAIを導入しようとしていた。その技術の軸はドキュメントにあった。OCR(光学文字認識)、レイアウト認識、図表読解——リコーは日本企業特有の複雑なドキュメントを扱うことに強いこだわりを持ち続けてきた。このドキュメントへの姿勢は、現在のリコーのLLM開発にも色濃く反映されている。

2015年から画像認識技術を活かした深層学習AIの研究を本格化したリコーは、大規模言語モデル(LLM)にもいち早く着目して2023年3月には独自のLLMを開発。現在、リコーのLLMの最新モデルは、GPT-4oと同等の性能を備えつつ、コストと電力消費の大幅な抑制に成功している。2024年には経済産業省とNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が実施する国内生成AI開発力強化プロジェクト(GENIAC)に採択され、マルチモーダルLLMの本格開発にも乗り出した。

「GENIACで開発を進めているのが、テキストだけでなく図や表まで読み取ることができる大規模マルチモーダルモデル(LLM)です。日本企業の文書は独特で、段組みや図表、注釈が多く複雑という特徴がありますが、文書内にグラフやフローチャートがある場合は、それらの意味まで正しく理解できなければ、AIが正しく回答する事が出来ません。これまでのAIは、図表を解釈する性能を持っていませんでしたので、文書内の図や表に書いてあることをAIが理解できるようにテキストに書き下す必要がありました。リコーの開発しているLMMは、文書内の図表やグラフも含めて人間のように見て、質問に答える事が可能です。また、我々が開発したLMMでは、企業が保有する独自のフォーマットにも対応できるよう細かいチューニングができる設計にしています」と梅津氏は語る。

この先進的な開発を支えているのは、リコーが複合機ビジネスで磨き上げてきた高度なドキュメント技術だ。スキャン時の画像処理技術、文字の認識精度、図表の抽出能力を活かすことで、企業の「ドキュメント資産」を知識としてAIに読み込ませることが可能になる。加えて、リコーが注力するのが「暗黙知の見える化」、そしてAIを用いた利活用だ。

「暗黙知の見える化」は、いま多くの企業が直面している重要課題である。製造現場などには、熟練者による特殊技能や職人技が存在し、それが企業の競争力の核になっているケースも少なくない。こうした知識は往々にして属人的であるがゆえに、継承が難しい。また、過去に蓄積された情報が共有されずに眠っており、同じミスが繰り返されてしまうケースもある。そうした未整理の暗黙知をAIで構造化し、若手技術者が使えるツールにすれば、技術継承の裾野は広がり、習熟のスピードも飛躍的に高まるだろう。

「『あの人がいるから製品の品質が保たれている』というような現場があちこちにあります。そこにAIでどうアプローチできるかが、企業変革の起爆剤になると考えています」と梅津氏は語る。

この数年で多くの企業が業務プロセスのDXに取り組み、ムダの削減は大きく進んだ。リコーはそこから更に一歩進んで、ものづくりの現場にいまだに埋もれている知識を見える化し、AIによって未来へつなぐことを目指している。

多様な業界で進むAI実装

「企業の知」に寄り添うリコーのAIが、いま現場へと浸透し始めている。実際にリコーのAIが導入され、業務に変革をもたらしている3つの事例を紹介する。保険、医療、経営支援――いずれの領域においても共通するのは、従来の生成AIでは対応が難しかったドキュメントの複雑さに対応しており、それぞれの業務特有の文脈を読み取れていることだ。

CASE 1 :保険業務の複雑さを読み解く — 損保ジャパンとの共同開発

損保ジャパンとは、保険契約の解約条件や支払い条件など、専門用語が並ぶ難読な社内マニュアルの読解が可能なLMMを共同開発。法律用語に近い独特な表現や、複雑な表やフローチャートを含む文書を正確に理解し、従来の検索ベースでは困難だった熟練者のような回答を可能とすることを目標としている。

「保険業界のドキュメントは本当に難しいんです。表や図に情報が埋め込まれていて、そこが読み取れないと正しい利用ができない。そうした高度な読み解きまでAIができるようにしたのが本プロジェクトのポイントです」と梅津氏はいう。

CASE 2 :医療現場におけるセキュアな自動化 — 那須赤十字病院での導入

もう一つの注目事例が、那須赤十字病院へのオンプレミス環境で動作するLLMの導入だ。病院では、患者の退院時に医師が退院サマリーとよばれる文書を作成する業務がある。カルテや各種検査結果を読み込み、患者の状態や入院中の様子を要約して書き上げるこの作業は、忙しい医師にとって大きな負担となっていた。そこで、リコーが提供するプライベートLLMを使い、カルテから必要な情報を抽出・要約し、退院サマリーを下書きするプロセスを自動化。医療情報という機密性の高いデータを、クラウドではなく院内サーバーで処理できることで、高いセキュリティも確保している。

「GPT-4o並みの性能を持ちながら、オンプレミス環境で動作するLLMは非常に貴重です。実際に使った医師から他の診療科へ口コミで広がっています」と梅津氏は話す。

CASE 3 :創業者の思考を継承する「デジタルクローン」の可能性

リコーが提供した、株式会社久永の久永社長のデジタルクローンの3Dモデル

また、リコーが注力しているのが「人の知識」を伝承する「デジタルクローン」だ。これは創業者や経営者の思想・語り口、価値観をAIに学習させて3Dキャラクターとして再現する取り組みで、経営思想の伝承や講演などに活用され始めている。

建設DX事業を行う久永の事例では、実在の人物の写真から生成した3Dモデルと音声データを組み合わせ、その人の話し方や声に近い形で発話を実現。今後は、リコーが開発したLLMに過去の講演内容や関連ドキュメントを学習させることで、その人物らしい考え方で話すことができるようになっていく予定だ。このデジタルクローンには音声認識、音声対話、ドキュメントからの知識化、画像を3D化する技術などリコーの様々な技術が活かされており、将来的にはリアルタイムで社員や顧客と対話できるデジタルクローンへと進化することを見据えている。

「作業」から「創造」へ "はたらく歓び"の未来

開発の次の一手について、梅津氏は次のように語る。
「現在、生成AIが広く使われ始めていますが、質問の質によって回答の精度が大きく変わるなど、真に活用するには一定のITリテラシーが求められます。リコーはこうした『AIを使いこなせる人だけが恩恵を受ける時代』を終わらせ、誰もがストレスなくAIの利便性を享受できる未来を目指しています。その鍵となるのが、当社が開発を進める『デジタルバディ』という考え方。人と対話しながら課題解決を共に進めるAIエージェントで、誰にとっても頼れるパートナーとなる 『はたらく人に寄り添うAI』を作っていきたいです」

会話を通じて営業を支援するデジタルバディ「アルフレッド」

その構想の一つが、複数のAIが連携してタスクを遂行する「マルチAIエージェント」だ。
「例えば、複数のAIを統括するAI部長に『僕と打合せしたがっている人とアポをとって』と依頼すれば、その配下のメールAIエージェントが候補者を抽出し、営業支援エージェントがカレンダーを確認、最適な日程を提案してくれるような世界です。リコー社内ではすでに50以上のAIエージェントが開発されており、これらが役割ごとに自律的に連携し、複雑な業務も分担しながら進める仕組みが整いつつあります。こうした連携が、企業のDXやAX(AIトランスフォーメーション)を加速させていくでしょう」

もう一つの注目領域が「フィジカルAI」だ。リコーはかねてよりロボティックスにも取り組んできたが、今後は人型ロボットの領域にも積極的に展開していく方針だ。AIを搭載したロボットがオフィスや工場に導入され、機械操作や物理的な作業も担うようになる未来はすぐそこまできている。「あれを取って」と言えば、指先の動きを読み取り、対象物を把握して持ってきてくれる。プロンプトもキーボードも不要な、対話による真のAI活用の形が見えてくる。

「僕、料理でいうと野菜を切る作業は苦手なんです。煮込みの工程とか、創作の部分だけやりたい」。
梅津氏はAIと人の関係性を、そんな比喩で語る。事前調査や資料集めといった準備作業をAIが担えば、人間はもっと創造的な仕事に専念できる。それが、リコーの描く“はたらく歓び”の未来像だ。その実現のためにリコーが目指すのは「人に寄り添うAI」だ。「誰もが自然に使いこなせるようなインターフェースと、現場を理解した応答力を持ち合わせたデジタルバディが、日常の中に溶け込んでいく。AIのハードルを下げて、誰もがパートナーとしてAIを使いこなせる環境を創出したい」と梅津氏はいう。

AIが単なるツールから、職場の一員となる日も遠くない。人がAIと協働する環境こそが、人間本来の能力を発揮し、新たな価値を生み出す場になるだろう。リコーは、そうした共創の時代を支える技術を確実に築き上げている。

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