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スペシャル 「感謝が、挑戦を強くする」女流棋士・福間香奈が歩む、新たな一手

2025年11月21日
  • “はたらく”に歓びを

※所属・役職はすべて記事公開時点のものです。

女流将棋界の8大タイトルのひとつ、リコー杯女流王座戦。
リコーは、将棋の普及と、将棋文化の発展による創造性あふれる社会づくりに貢献するため、日本将棋連盟とともに本戦を主催してきた。第15期を迎える今期、王座を懸けた五番勝負で対局するのは、福間香奈女流王座と西山朋佳女流二冠のふたりだ。

リコーは、事業を通じて“はたらく”人の挑戦を後押ししてきた。そして、第15期女流王座戦を戦うふたりも、挑戦によって道を切り開き、女流棋界を牽引してきた存在だ。そこで今回は、12歳で女流棋士となり、史上初の女流六冠を達成するなど、数々の高い壁を打ち破ってきた福間香奈さんにインタビュー。彼女にとって、“挑戦”とは——。

読了時間

約7分

——将棋を始めたきっかけと女流棋士になろうと思った理由

幼稚園のときに、父が4歳上の兄に将棋を教えているのを見て、私も将棋を覚えました。兄と遊ぶことが多かったので、「一緒にやってみよう」という感じでしたね。それから兄と将棋道場に通うようになり、同世代の子たちと将棋を指していくうちに、負けるのが悔しくて、どんどんのめり込んでいきました。

女流棋士になろうと思ったのは、小学生の頃です。父と道場の先生に「挑戦してみる?」と言われて、「好きな将棋を続けたい」という思いから、女流棋士を目指すようになりました。当時はまだ小学生だったので、正直なところ、女流棋士がどういうものなのかあまり理解できておらず、「女流棋士になりたい」という強い思いがあったというより、「将棋をずっと続けたい」という気持ちが大きかったですね。むしろ、女流棋士になってから強い方と対局を重ねる中で、自分の力のなさを実感し、「もっと頑張らないといけないな」という自覚が芽生えていきました。

——12歳で女流棋士になって今に至るまでの大きな転機

19歳の時、棋士を目指すための奨励会に編入したのが大きな転機でした。当時は異例のことでしたが、奨励会と女流棋士をかけ持ちする時期があり、その時からより真剣に将棋に向き合うようになりました。奨励会に入ることは大きなチャレンジでしたが、もっと強い人と将棋を指したいという気持ちが強かったので、決断ができましたね。

私自身、不安はあまりなかったのですが、当時を振り返ると、周囲のほうが不安だったと思います。今は女流棋士と奨励会の重籍に関する規定がありますが、当時はまだなく、私は奨励会一本に絞るつもりでした。周りからは反対されましたし、「女流棋士の道を手放してまで奨励会に行くのか」と思う方もいたと思います。地元の島根から大阪に出てひとり暮らしを始めたこともあり、両親も不安だったと思いますね。当時は若かったからこそ、いろいろな難しいことを深く考えずに決断できたのかもしれません。でも、奨励会に挑戦できたことで後悔がなくなったので、決断してよかったです。

当時、女性が奨励会に入ることは珍しく、難しさを感じることもありましたが、編入して棋士になりたいという気持ちがブレなかったからこそ、大変な中でも、日々、継続して勉強ができていたのだと思います。将棋がすごく好きということも支えになっていたと思いますね。楽しいと思えないこともありましたが、将棋の真剣勝負の中でしか味わえないものや、得られるものがたくさんあるので、苦しい時間も含めて、すべての経験が今につながっていると思いますね。

——リコー杯女流王座戦への思い

2024年12月に出産したため、同年10月23日に行われた女流王座戦第1局は、臨月に近い時期でした。妊娠中は、タイトル戦に臨めるのかなという不安もありましたが、第2局以降の日程を調整していただいたことで、無事に女流王座戦を戦うことができました。そうした周りの方々の支えがあって、今期も五番勝負に挑めることをとても嬉しく思っています。

妊娠期間とキャリアのピークは重なりますが、両立してやっていけることがわかり、とてもありがたかったです。関係者の方々のおかげで私は将棋を指すことができるという思いで、今期の対局にも臨みました。

——気持ちを切り替えるためにやっていること

私、あまり趣味がないんですね。だから、気持ちを切り替えるために何かをするというよりは、将棋の勉強に打ち込んでいます。ただ、今は家族や子どもの存在がモチベーションになっていますね。結婚して子どもができるまでは、自分のためだけに将棋を指していましたが、今は家族のためにがんばろうという、とてもいい状態で将棋に向き合えています。子どもには、私の背中を見て育ってほしいですし、私自身、子どもに恥じない生き方をしたいなという思いもありますね。

子育てが将棋のリフレッシュになり、将棋が子育てのリフレッシュにもなっているため、とてもバランスがとれています。それに、家族のサポートのおかげで遠征にも行けますし、将棋に専念できています。これまでは、ひとりで将棋を指している感覚でしたが、今はそうではなく、周囲に支えられている分、より力の入った将棋を指さなければと自然に思えます。

妊娠中や休場中はあまり将棋の勉強ができず、復帰には不安もありましたが、生活環境が変わったこともあり、自分のペースで将棋に向き合うことが一番大事だとわかりました。復帰したときは、長い間、将棋に触れていなかった分、指すことがとても新鮮でしたね。復帰後は結果にも恵まれたところがありますが、「楽しい」という気持ちが、高い集中力につながったのかなと思います。

——将棋を指せる環境を作ってくれる周囲への感謝

タイトル戦は特に、主催の方や関係者の皆様に支えられて将棋を指せていることを実感できる場です。素晴らしい場所で対局させていただけますし、前日の検分や写真撮影の時間もありがたく、周囲の支えを実感しながら対局に入ることができます。感謝を胸に、真剣に盤に向かいたいと日々、思っています。

——「もっと強くなりたい」と願う未来の棋士たちへの思い

今年、子ども向けの将棋教室を始めました(大東こども将棋塾)。ある程度、強くなって有段者になった後に、棋力が伸び悩む時期があると思うのですが、それを乗り越えて、本当に真剣に強さを追い求める子どもたちに教えています。私自身が将棋を始めた頃は、地方だったこともあり、そういう将棋教室がほとんどありませんでした。だからこそ、「もっと強くなりたい」という子に少しでも何かを伝えられたらと思っています。

それに、将棋を指す上で、礼儀作法や挨拶は欠かせません。子どもたちが、将棋を続けても、続けなかったとしても、礼儀作法はその後の人生に生きてくると思うので、大切に伝えています。将棋で身につけられる礼儀や、自分の負けを認める経験は、ほかではなかなか得られないものだと思います。集中力や忍耐力などいろいろな力を養えることも、将棋を続けてきて実感しますね。

将棋教室では、私が教える側だと思っていたのに、教わることが多いです。やはり将棋は、純粋な「強くなりたい」という気持ちを持って取り組むことが大事だと、子どもたちが教えてくれます。将棋教室は、私に、将棋を始めた頃の気持ちを思い起こさせてくれる場所ですね。

——今の目標と、挑戦の経験をふまえて伝えたい“はたらく”人へのメッセージ

私は、やはり棋力向上を目標に将棋を指しているので、記録を目指すというよりも、強くなるために一生懸命取り組んでいきたいです。

皆さんにとっても、がんばってもなかなか結果が出ない期間はあると思います。目標を達成したいときは、結果をすぐに求めたくなるものですが、結果は1年後、2年後に少しずつ出てくるもの。とはいえ、努力をしなければ結果は絶対に出ません。だからこそ、コツコツ続けることが一番大事だと思います。その時はすごく苦しいけれど、そうした時間が自分を人間として成長させてくれるのだと思いますね。

今、挑戦している方や、これから挑戦しようとしている方にとって、その結果が成功でもそうでなくても、人生の中でその経験が自分を強くしてくれるはずです。つらいことがあっても、自分を信じてがんばっている方々を、私は応援したいですね。

2025年10月リコー杯女流王座戦 第1局前日 椿山荘にて

挑戦を愛そう

はたらくって、挑むこと。失敗も成功も、感謝も情熱も、そのひとつひとつが未来を動かすアクションになる。
これからもリコーは、世界中の"はたらく"を応援します。

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