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2024年12月

インタビュー「部門全体のプロセスDX 実践事例」

わずか2ヶ月で1,000人規模の組織のDXを推進したリコー プロセスDX"GGプロジェクト"とは

#コラム

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#業務可視化

"体験と対話"から生まれたお客様のアイデアや未来構想の具現化を支援するRICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)では、来場者の方から、いかに企業でのDXを実現するかといったご相談をいただくことが多くあります。

そこでリコーの実践事例としてご紹介するのが、107部署・総勢約1,000人規模の組織でのDXを推進してきた業務量可視化・効率化のプロジェクト、通称GGプロジェクトです。

今回は実際にGGプロジェクトを推進してきたリコーデジタルサービスBU(RDS) 経営企画本部 本部長 鈴木 英司、そしてRICOH BIL TOKYOにてビジネスデザイナーを務める千代 直貴が、GGプロジェクトとは何なのか、また多くの企業でDXが進まない理由やDX推進のポイントについて語りました。

いかに107部署ものDX推進を2ヶ月で展開したのか。全部署平均で業務時間の約10%削減を実現できた裏側

── まずはGGプロジェクトが何なのか、またなぜGGプロジェクトに取り組むに至ったのか教えて下さい。

鈴木:GGプロジェクトは、リコーデジタルサービスユニット(以下、RDS)で取り組んでいる業務量可視化・業務効率化のプロジェクトです。頭文字をとってGGプロジェクトと呼ばれています。RDSの全146部署、約1,000人のメンバーの働いているプロセスや作業を可視化し、効率化のためのプラニングまでを2ヶ月で実施するというのがはじまりでした。

GGプロジェクトがはじまった理由は3つあります。リコーグループでは「プロセスオートメーション」と「ワークプレイスエクスペリエンス」の2つを成長領域と位置付けて注力しています。その中で、我々はこの2つの事業ドメインに本当に注力できているのか、無駄なことをしていないかといった課題意識が生まれたことが1つ目の理由です。

また、リコーグループは「"はたらく"に歓びを」というビジョンを掲げており、お客様のタスクを極小化し、お客様が本来やるべきこと・やりたいことに集中してより創造性を発揮することを支援することを事業の目的としています。

一方で、お客様に説得力をもって価値を提供するためには、我々自身がこれを実践できていないとお話になりません。だからこそ、まずは私達自身がしっかりと業務効率化を実践し創造性発揮へと舵を切ろうと考えたのが、2つ目の理由です。

もちろん、一般的に言われているように、社会課題である労働人口減少に対応するために効率化に取り組む必要もあります。これが3つ目の理由です。

リコー デジタルサービスBU 経営企画本部 本部長 鈴木 英司

── 1,000人規模の組織で、さらにわずか2ヶ月でDXをプランニング、実行していくことは非常に大変であったと思うのですが、どのように進めていったのでしょうか?

鈴木:2つのフェーズに分けて進行していきました。まず最初の1か月では、効果影響が大きい部署、特にそこでの効率化事例が他部署に横展開ができる可能性が高い部署を対象として実行しました。そして次の1ヶ月で、残りの部署に展開していくという進め方をしていきました。

元々リコーが全社で取り組んでいるプロセスDXという手法があり、業務可視化ツール「BPEC(※)」による業務量調査・分析ができるノウハウがあったたことも大きいです。これはお客様にも価値提供をしているノウハウなのですが、リコーのプロセスDXの専門人材がそれぞれ数部署ずつ担当して伴走し、BPECの手法を啓蒙しながらクイックに、統一したやり方で進めることができました。

※「BPEC」は株式会社Mt.SQUAREの登録商標です。

また、こうしたDXプロジェクトは、どの企業でも通常業務が忙しい現場メンバーから不満が生じてしまうことが大きな課題としてあります。そこで我々は、RDSのトップがメンバーに対して「提供価値の自らの実践を、全員で進めていこう」ということを様々な方法で繰り返し発信し、トップダウンでメンバー全員の納得度を高めていくということを行いました。

もちろん、ボトムアップで現場が主体的になって進めていくことが理想ではあります。しかし、大規模な組織であればあるほど、業務効率化に対してのモチベーションにはバラつきが生まれ、DXが進む部署、進まない部署というのが生まれてしまいかねません。

GGプロジェクトを実行する理由から考えても『これは全員で取り組むべきだし、取り組んだ先にはメンバー全員のより創造的なはたらき方へのシフトが発生する。そこからお客様への価値提供の深化が起きてくるのだ』ということを伝えるためには、トップのフルコミットと継続的なメッセージ発信が必要でした。

そこで私自身も107部署全てのレビューに参加するなど、トップがハンズオンでやり切るというのを大切にして進めていき、部門長からトップに直接報告させるなど、仕組み化して推進力を高めていくことを意識して取り組んでいきました。

そして「廃止できる業務」「集約化できる業務」「代替化・自動化・簡素化できる業務」と分類して実行に取り組んでいった結果、4ヶ月で計画の約4割がすでに達成できており、業務時間は全体平均で10%の削減を実現できています。更に、抜本的なアイデアも各部署で議論してもらい、いくつかはRDS全体の効率化テーマとして推進が始まっています。

廃止・集約化・代替化などに分類し、削除時間数を可視化している

RICOH BIL TOKYOではAI活用で調査業務削減を実現。自ら実践した事例だからこそ、お客様に対しても具体的な価値提供ができる

── GGプロジェクトとRICOH BIL TOKYOの関係性について教えて下さい。

千代:GGプロジェクトの可視化・効率化対象としてRICOH BIL TOKYOも参画しました。RICOH BIL TOKYOにおける業務を構造化させ、課題を発見し、そこから業務プロセスの最適化していくということに現在も取り組んでいます。

RICOH BIL TOKYO ビジネスデザイナー 千代 直貴

千代:肌感覚では無駄だと思っていても、実際にどれだけの時間をその業務に割いていたのかが見える化すると、さすがにどうにかしなければならないという気づきは多くありました。またプロジェクトを通じて、たとえば社員教育に充てる時間が少なすぎるなど、可視化することで無駄な業務を発見できるだけでなく、何が足りていないかも発見することができることが大きな気付きでした。

そして発見した業務課題に対して、生成AIを用いた作業効率化にも取り組んでいます。現在実験的な取り組みとして行っているのが、技術的な知識がなくてもAIアプリケーションを簡単に作成できる生成AIアプリ開発プラットフォーム『Dify』の活用です。

RICOH BIL TOKYOでは来場されたお客様の多くが経営層の方々であり、当然ながら抱える課題というのも経営に直結する課題ばかり。そのため、お客様への提案精度を高めるために、事前にお客様の業界課題であったり、お客様はどういったところに課題を抱えているのかといったことを理解するべく、事前調査に多くの時間を要していました。例えば企業ホームページを隅々まで確認することから始まり、中期経営計画や統合報告書、来場される方のインタビュー記事なども読み込んでまとめる、といった業務です。

それがDifyを活用することで、インターネット上のWebページなどから自動的に企業情報を収集し、その情報からAIがお客様の想定課題と、リコーのアセットを用いた解決策案を出してくれるため、企業調査と仮設検討に要する時間を75.9%削減できました。そして削減できた時間を、営業サイドと提案をどう進めていくかなどの打ち合わせに充てられるようになるなど、より創造的な業務に時間を割けるようになりました。

調査から仮説検討の時間が大幅に削減

── RICOH BIL TOKYOに来場されるお客様には、DXの事例としてGGプロジェクトを紹介されることもあるかと思いますが、お客様からはどういった反応がありますか?

千代:やはり、経営層の皆さまはDXに取り組みたいという気持ちはあるものの、現場の業務可視化が難しく、DXを進める業務を特定できていないというケースがよくあります。そうした中、1,000人ものメンバーを巻き込み、2ヶ月で進めていったというGGプロジェクトの事例をお話すると、やはり驚かれますし、同じように自社でもやりたいとおっしゃっていただけます。

一部の業務の可視化・効率化といった事例はすでに多くあると思うのですが、GGプロジェクトのような大規模の事例はなかなかありません。さらに自分たちが実践した事例であるからこそ、何かしらのソリューションを提供するときもより細かな対応が可能です。

そして、もともと社内の取り組みとして行っていたことがお客様との会話に活かされ、共創プロジェクトに繋がっていくというのはRICOH BIL TOKYOならではの広がりだと感じています。

鈴木:こうしたGGプロジェクト、そしてRICOH BIL TOKYOでの取り組みは、リコーのアイデンティティそのもの。たとえばRICOH kintone plusDocuWareなどのソフトウェアを用いたワークフローの効率化や、ハイブリッドなコミュニケーションを円滑に進められるミーティングソリューションなど、お客様のはたらく歓びを支援する様々なソリューションをリコーは提供しています。つまりお客様のタスクを減らし、本来やりたいことに使える時間を増やして、より創造的に働けるようにするというのが我々の役目であるため、我々自身がGGプロジェクトのエキスパートになるというのは大きな強みだと考えています。

デジタル化に取り組む前に業務を可視化しなければ、DXは実現できない。いかにデータを収集していくかが重要なポイントに

── 千代さんはRICOH BIL TOKYOに来場されるお客様と日々対話される中で、あらためて企業のDXがなかなか進まない要因をどのようにお考えですか?

千代:業務の可視化・最適化をせずに、いきなり業務のデジタル化をやろうとしてしまうケースは多く見受けられます。本来は逆で、デジタル化に取り組む前に業務を可視化するのが先です。しかし、業務の可視化には現場の理解やノウハウが必要だったりと、簡単ではありません。なかなかそこに取り組むリソースがなかったり、メンバーを巻き込んで推進していくということができないというのは、よくある課題です。

また、そもそも様々な情報がデジタル化されておらず、紙ベースであったり、属人的な管理がされているということもよくあります。実際にRICOH BIL TOKYOでお話を伺う企業の多くは、いまだに紙ベースで様々なドキュメントを管理されていたりもします。

そして、ナレッジの可視化や技術伝承をしたいという場合に、ベテランの営業であれば「自分のノウハウがバレてしまう」といった心理が働き、ナレッジが属人化してしまうことも珍しくありません。そこで、ナレッジ共有でインセンティブを与えるなどの仕組みを考えることも重要です。

DXの実現で最も重要なのは、データを集めることです。特にAI活用においては、そもそもAIに学習させるデータが必要です。すでにAIを活用しているものの、AIのアウトプットの精度が低いという話はよく耳にしますが、それは学習させるデータが少なかったり、正しくなかったりすることが理由でもあります。
そこで私たちは、紙文書が多いのであればOCRをご提案したりと、長年リコーがやってきた様々なアセットを用いてデータ化の部分から伴走し、お客様のDX実現を支援しています。

鈴木:メンバーをどのように巻き込むかという点について、実践事例の重要性を改めて感じています。業務の可視化は単なる作業の連続であり、それだけでは現場のメンバーからの賛同は得られにくい。しかし、事例を通じて何がどのように改善され、どのような結果が生まれたのかを示すことで、メンバーの納得性もモチベーションも高まるでしょう。

DX推進は日々の業務プロセスを根本的に変えるため、DXを推進する側と現場との意思統一は常に課題となります。しかし一部署で成功事例が生まれれば、他部署への展開も容易になります。実際にRDSの事例からリコーグループ全体の業務効率化プロジェクトに繋がっており、うまく広がりを作り出せていると感じています

デジタル化に取り組む前に業務を可視化する

── 最後に、今後の展望をお聞かせください。

鈴木:GGプロジェクトを通じて、実際にタスクが減ってより少ない人数で業務を回せるようになった、と感謝の言葉をいただいたり、若手が集まってGGコミュニティという、AIを社内でどう使い倒していくかを検討するグループが生まれていたりと、ポジティブな反響が生まれています。

業務量可視化は、一過性のものにせず継続的に取り組んでいくことで効果を明確にしていきます。GGプロジェクトで生まれる社内実践をより増やし、RICOH BIL TOKYOを通じて我々の成功事例をより多くのお客様にお届けしたいと考えています。

千代:現在、RICOH BIL TOKYOでは業務効率化としてDifyを活用していますが、このDify活用の取り組み自体も事例としてお客様にご紹介しています。
そうすることで、AI活用イメージが具体的に伝わり、AI活用のアイデアが生まれやすくなります。
例えば、実際に営業がいる会社であれば、お客様先に訪問する前にDifyを使って企業情報の事前調査をすることで商談の質を高める、などです。
今後は、現在のDifyで出力されるお客様の想定課題と解決策は抽象度が高いため、より具体的な内容が出力されるように改善していきます。
そして、Dify活用含めてより多くの事例を生み出していき、様々な事例からお客様のDX推進をより具体的に支援していければと考えています。