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2025年01月

メッセージ「AIエージェントを使い倒す未来」

より創造的な仕事を生み出すために。国内トップクラスのLLMを開発するリコー生成AIの取り組み

#コラム

#インタビュー

#自然言語AI

"体験と対話"から生まれたお客様のアイデアや未来構想の具現化を支援するRICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)。来場者の方からいただくご相談の中でも特に多いのが、いかに生成AIを活用していくべきかということです。

「秘書のようなAIエージェントが一人ひとりの業務を支援することで、はたらく人は本業に集中することができ、より創造的な仕事ができるようになる」そう語るのは、21年にR&Dを行うデジタル技術開発センタを立ち上げ、さらに23年からはAIインテグレーションセンターの所長も務めるなど、リコーのAI開発およびAIビジネスを推進してきた梅津良昭です。

今回は梅津が、リコーのAI開発の軌跡から現在のAI開発における取り組み、そして今後の展望について語りました。

GPT-4クラスの日本語LLM開発に成功。業務支援を行うAIエージェントの活用など積極的なAI開発・活用に取り組んでいる

── まずは、これまでに梅津さんがリコーのAI開発にどのように携わってきたのかについて教えてください。

私自身は2015年にディープラーニングに出会い、前職で研究を始めました。そして2016年にリコーに入社したのですが、当時のリコーはAI開発に繋がる研究開発を行ってはいたものの、まだ全社として注力するほどではありませんでした。

リコーは、コピー機のドキュメントを利活用するというドキュメントソリューションを提供してきた会社です。当時はすでにクラウドストレージでどこからでも様々なドキュメントにアクセスできるようにはなっていましたが、それ以上の活用方法まではたどり着いていませんでした。
そこで過去に蓄積したドキュメントを使って新しい企画を生み出すといった、自然言語処理AIを用いたドキュメントの利活用を方針とし、リコー内でのAI開発の体制を少しずつ整え、LLMの開発に繋がっていきました。

AIは「見る」「聞く」「話す」ことができ、将来的には「考える」ということもできるようになるでしょうから、2018年頃からバーチャルヒューマンの実現に向けて構想を練っていました。

具体的には、営業活動を支援するAIエージェントがつくれないかと考えています。たとえば営業の代わりにメールを送ったり、お客様からの返答から最適なソリューションをレコメンドするといったものです。

こういった経緯から2021年にR&Dを進めていくデジタル戦略部を立ち上げ、リコーのAI開発を推進。24年にはGPT-4クラスの、しかも日本語のLLM開発に成功しており、AIエージェントの開発はもちろん、企業向けのプライベートLLMの開発などにも取り組んでいます。

リコー AIインテグレーションセンター 所長 兼デジタル技術開発センター 所長 梅津 良昭

── 現在、AIエージェント開発の取り組みがどういった状況であるのか教えてください。

いくつか実践事例として進めているテーマがありますが、その中でも大きなテーマが営業活動でのAI活用です。営業担当者は日々やらなければならない様々な業務があり、まず日々の業務を効率化をしなければ、AIツールを活用しきれません。

そこで秘書のように営業担当の業務をサポートするAIエージェントの開発に取り組んでいます。具体的にははたらく人に寄り添うAIソリューション「RICOH デジタルバディ」の開発およびサービス提供を行っています。
またデジタルバディはLLMを駆使することで、会話の内容を理解・分析し、音声発話で返事することも可能です。そのため、商談時にはデジタルバディを交えてお客様、営業担当の3者で商談をするということもできてしまいます。

2025年度からリコージャパンは、選抜された人材をAIエバンジェリストとして育成し、デジタルバディを用いてAI活用の社内実践の推進、そしてAIを活用したお客様への業務改善提案に取り組んでいく予定です。

デジタルバディ「アルフレッド」と会話をする梅津氏

ノーコードツールでAIの市民開発が加速。さらに企業の様々なドキュメントを解析するマルチモーダルLMMの開発にも着手

── AIを活用した業務支援に関しては、現在どういった構想を描かれているのでしょうか?

よく例として挙げるのが製薬会社であるモデルナ社の取り組みです。同社は問い合わせ対応を自動化するAIツールなど、750以上の独自のGPTsを開発者だけでなく、一般社員が開発をしているそうです。
リコーとしても同じような状態を目指しており、ノーコードツールを用いて、誰もが業務効率化のためのAIツールを市民開発できるようにしてきたいと考えています。

すでに生成AIアプリ開発プラットフォーム『Dify』を用いたAIの市民開発の取り組みを進めていて、社内には「ナレッジ調査AI」や「財務状況調査AI」、「競争力調査AI」などのAIエージェントが複数存在しています。
こういった様々なAIエージェントを、司令塔となるAIエージェントが呼び出せるようにして、高度な業務課題を自動解決していくというところを現在目指しています。

[参考画像] 司令塔AIが専門のAIエージェントを束ねる様子

── リコーでAI開発に取り組まれてきた中で、あらためてリコーの強みはどういったところにあると感じられていますか?

リコーは長年ドキュメントを活用したソリューションを提供してきたため、自然言語処理に精通した技術者が多数存在していることが大きな強みであると感じています。

こうした強みが発揮されるのは、日本の、特に製造業の多くが持つ複雑な図表を用いたドキュメントを活用するシーンです。様々な企業がAIを用いたドキュメントソリューションを開発・提供しているものの、これらの図表をテキストとして正しくLLMに読み込ませる技術がないため、マニュアルのQ&A回答エージェントが正しく回答できない、というようなケースが出ています。
こういった課題を解決するため、リコーは企業の知の結晶である様々なドキュメント群を読み取る「マルチモーダルLLM」の本格的な開発に取り組んでいます。リコーが長年培ったOCRや文書解析の技術とAIを組み合わせることで生まれた技術は、経済産業省が推進する国内の生成AIの開発力強化を目的としたプロジェクト「GENIAC」にも採択されました。

GENIACの取り組みでは、参画企業から数千枚にも及ぶドキュメントが提供されることもあります。そうした膨大な量のドキュメントであっても、十分に対応できるノウハウや技術、さらに体制があることもリコーの強みといえます。

カスタマイズ可能なLLMの提供による企業知のデジタル化。はたらく人すべてがデジタルバディを活用できる未来を目指して

── 企業向けのプライベートLLMの開発にも取り組まれているとのことですが、具体的にはどういった課題解決に繋がっていくのでしょうか?

たとえば製造業のお客様からは、工場の監視カメラで事故防止や作業解析ができないかといったお話をいただくことがあります。しかし、最新のマルチモーダルAIを用いても完璧に解析することは難しいのが現状です。

精度を高めていくためには教師データをいかに収集するかが重要になるわけですが、多くの製造業にとってはそうした教師データとなる業務プロセス自体が資産でもありますから、クラウド上のLMMに社外秘の情報を出してしまうことに対して根強い懸念感を持っておられたりします。

そこで求められるのが、企業独自のプライベートLMMです。オンプレミス環境で活用できるプライベートLMMを用いることで、社外秘の情報を教師データとしてインプットできるため、セキュアに生成AIソリューションを活用することが可能です。

リコーではすでにお客様向けにプライベートLLMを提供しており、LLM自体もGPT-4相当のクラスでありますから、導入されているお客様からには大変喜んでいただけています。今後は、映像等の認識にも対応させたプライベートLMMも提供していきたいと考えています。

── 様々な生成AIへの取り組みが行われていますが、そうした中でどういった点にRICOH BIL TOKYOの意義を感じていますか?

23年にAWS™で基調講演をした際にも皆さまから驚かれるほど、まだまだリコーがLLM開発をしているという認知が低く、AIをビジネスとして進めていくときにどう展開していくかが大きな課題としてありました。

しかし、RICOH BIL TOKYOではどうやってAI活用を進めていくべきかといったことに悩まれている経営者の方々が来場されるため、お客様とリコーのAIサービスの重要な接点となっているということにRICOH BIL TOKYOの意義があると感じています。

── 最後に今後の展望をお聞かせください。

リコーグループは「"はたらく"に歓びを」というビジョンを掲げています。このビジョンの実現のために我々が提供していきたいのが、AIエージェントやバーチャルヒューマンです。その実現に向かって、昨年から今年にかけてまずは不足している日本語のカスタマイズ可能なLLMの開発に取り組んできました。

今後、様々な業界でAIエージェントの市民化が進んで、オンプレミスでもパブリックでも使い倒せるAIエージェントが生まれていき、様々な業務で生成AIを用いた効率化が実現できれば、非常に便利な世の中になっていくでしょう。

昨今は入社して10年目のベテラン社員であっても、秘書がつくというのは珍しい時代になりました。様々な業務をサポートしてくれる、秘書のような存在のデジタルバディが社員一人ひとりに支給されるようになれば、はたらく人は本業に集中することができるでしょうし、より創造的な仕事ができるようになると信じています。そうした未来が実現できるように尽力していきたいと考えています。