「Tokyo Creative Salon」は、毎年3月に行われる国内最大級のファッションとクリエイティブの祭典。今年は「QUEST|さがそう〜創造性・美意識の探求〜」というテーマで都内10エリアで開催された。そのひとつ、羽田エリアの体感イベント「COLORFUL SKY」での地域の共創企画にリコーが参加。タッグに至った経緯や、イベントを通して広がった“はたらく歓び”について、羽田エリアのアートディレクターを務めた株式会社山本寛斎事務所の高谷健太氏と、株式会社リコー リコーグラフィックコミュニケーションBUの馬上勇人氏、越智崚太氏に聞いた。
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「Tokyo Creative Salon 2025 (羽田エリア)」(以下TCS)の今年のテーマは、「HANEDA SKY」。「世界と無限につながる空」をキーワードに、伝統芸能やファッション、サステナビリティなどを体感できる展示や体験型企画が6ヵ所で展開された。
会場のひとつが、羽田空港に隣接する複合施設・HANEDA INNOVATION CITY®だ。3月13日~23日の会期中を通した展示に加えて、3月22日には、フリーマーケットやBMXショー、ダンス等が楽しめる1日限りのイベント「COLORFUL SKY」が行われた。
リコーが参加したのは、会場のメインストリートに展示されるインスタレーション。羽田小学校の4年生の子どもたちが描いた「十人十色の空」の絵を印刷したTシャツが空にはためき、会場を彩った。22日のイベントでは、来場者が選んだデザインをその場でエコバッグにプリントしてプレゼントする「リコーライブプリント」も出店。Tシャツは、イベントでダンスを披露した羽田小学校の3年生も着用した。
TCS(羽田エリア)とリコーのタッグの始まりは、2024年末に遡る。アートディレクターを務めた山本寛斎事務所の高谷氏は、TCSの目的と、小学生との共創企画を立ち上げた理由をこう語る。
「TCSのリサーチによると、ニューヨーク、東京、ロンドン、パリ、ミラノの移住者に、『もっともクリエイティブだと思う都市』を聞いたところ、東京と答えた人の割合がニューヨークに次ぐ2位でした。一方、自分をクリエイティブだと思う在住者の数は、東京は26.4%で圧倒的に低い。日本の人々は、素晴らしい技術や創造性を持っているにも関わらず、クリエイティブに関する自信が乏しいんです。そうした問題意識からも、子どもたちに、自分が生んだものが想像を超える作品やファッションになるという体験を共創という形で提供することで、創造の喜びや誇りを感じてもらいたくて、この『十人十色の空』の企画を考えました」(高谷氏)。
株式会社山本寛斎事務所
高谷 健太氏
テック企業の開発拠点のほか、飲食店や足湯、ライブハウスもあるHANEDA INNOVATION CITY®の魅力を伝える目的もあったと高谷氏。大田区として意義のあるイベントで、大田区で生まれたグローバル企業のリコーとタッグを組みたいという思いが自然と湧いたという。「子どもたちに楽しんでもらうこの企画は、私たちの力だけでは実現できない。そこで、商業印刷の確かな技術をお持ちで、山本寛斎とも縁が深いリコーさんの力を借りたいという思いに至りました」(高谷氏)。
高谷氏のオファーを受け、印刷業向けのプリンターや、多様な媒体に対応する産業印刷事業を手がけるリコーグラフィックコミュニケーションズBUの越智氏と馬上氏がプロジェクトに参画した。「企画を聞いてとてもワクワクしました。私たちのプリント技術で子どもたちも含む共創に参加できることが、非常に嬉しかったです」と馬上氏は振り返る。
Tシャツとトートバッグの印刷には、DTF(Direct to Film)方式を採用したRICOH Pro D1600を使用。2024年にヨーロッパで発売した製品だ(日本では今秋発売予定)。販売を担当する越智氏は、その特徴をこう語る。「印刷シートを熱で転写して印刷します。インクジェットですので、異なるデザインを1点ずつ高速で印刷できて、再現性も高い。従来のアナログ印刷に比べて製版工程が不要なため、小ロット・多品種生産や短納期といったニーズにも柔軟に対応できプリントの耐久性も高く、まさにこの企画にぴったりの製品です」。
リコーグラフィックコミュニケーションBU 産業印刷事業本部
越智 崚太氏
RICOH Pro D1600
イベントの2ヶ月前には、羽田小学校で絵を描くワークショップを開催。高谷氏に加えて、プロのアーティストなどの有志が特別講師として参加し、子どもたちはA3ほどの画用紙にそれぞれの「空」を描いていった。高谷氏は「空にはいろんな色がある」と伝えることを大事にしたという。
「子どもたちはそれぞれ自分たちの『空』に向き合って、伸び伸びと描いていました。私は、大学や専門学校で教えたことはあるのですが、小学生のワークショップは初めて。最初は緊張しましたが、4コマのワークショップが終わる頃には、子どもたちに『ケンちゃん、また来てね!』と言われていました(笑)。とてもいいワークショップになりましたね」(高谷氏)
高谷氏は、子どもたちに「この絵は、ここ大田区で創業した日本を代表するグローバル企業のリコーがTシャツにプリントする」と伝えるなど、地域に対する誇りを感じてもらうためのコミュニケーションも大事にしたという。
プリントを担当するリコー側で、イベント準備でもっともこだわったのは、「子どもたちの描いた絵を正確に再現すること」だったと越智氏。色を塗っていない部分や薄い部分があると、Tシャツにプリントした際にイメージが変わってしまうため、ワークショップ中に注意点として子どもたちに伝えてもらった。その結果、高谷氏は「色も含めて絵は忠実にプリントされていました」と振り返る。
Tシャツに絵をプリントしていく過程で、越智氏と馬上氏は小学生たちの絵を見て驚いたという。「ひとりひとりが創造力を発揮していて、同じ『空』というテーマでこんなに広がりがあるんだと感動しました」(越智氏)。青だけではない、さまざまな色の空が描かれ、スケートボードに乗った人が空を跳んでいる絵や、母親が旅先で見たオーロラを、母の話から想像して描いた子どももいた。
会期中は雪も含む悪天候にも見舞われたが、「COLORFUL SKY」当日は青空が広がった。絵を描いた小どもたちや家族が集まり、青空にはためくTシャツのインスタレーションを見て歓声を上げた。「先生も一緒に、自分たちの絵がプリントされたTシャツを見つけて、感動していました。皆さん、Tシャツになるとはわかっていたけれど、こういう形でアートとして展示されるとはイメージできていなかったようで、驚いていらっしゃいましたね」(高谷氏)
イベント当日、リコーのスタッフたちは、来場者とのコミュニケーションも楽しんだ。「青空に十人十色のTシャツがとても映えていました。お父さん、お母さんに、『あれが自分の絵だよ!』と教える子どもたちの姿が、とても印象に残っています。ブースで私が着ていたTシャツを見て『これ、私の絵だ!』と言ってくれた子がいたので、その場で脱いで差し上げました(笑)」(馬上氏)。
リコーグラフィックコミュニケーションズBU グローバル販売本部
馬上 勇人氏
今回のTCSの共創を通じて高谷氏は、1点ものを1枚ずつ印刷できるインクジェット技術の重要性を改めて感じたという。「我々のファッションの世界でも、大量生産・大量消費の時代は終わったと思っています。今回のように、1枚1枚違う絵を小ロットでスピーディに印刷できるサービスは、これからもっと時代に求められていくと思いますね。」(高谷氏)。
馬上氏、越智氏は、プリントビジネスに携わる立場として、絵という大切な素材をプリントして直接ユーザーに届けるという今回の経験は、刺激が大きかったと振り返る。
「日々、仕事をしているとどうしても、プリンター製品をお客様にお届けすることに意識が集中してしまいます。ただ、今回の共創で、シートを印刷して、来場された方に直接手渡しをして喜んでいただくというところまでをひととおり経験したことで、プリンターを使う側や、印刷物を手に取るお客様の視点を、リコーのスタッフ全員が体感できました。そうした視点は、普段の仕事でも役立つと思います」(越智氏)
羽田小学校
渡部 理恵子校長先生
馬上氏も今回の共創を通じて、自分自身の"はたらく歓び"を実感したという。「私たちの製品や技術で、子どもたちの笑顔が見られたことは、自分の"はたらく歓び"や、仕事へのモチベーションにつながりました。後日、羽田小学校に訪問させていただいたのですが、校長先生と担任の先生方から、子供たちがいきいきと取り組んでいた様子をお聞きし、とても嬉しく思いました」。