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デジタル戦略部(梅沢、金崎)
リコーデジタルサービスBU(日原)

梅沢 知紀 / 金崎 克己 / 日原 健

リコーが2021年に開始した新サービス「仕事のAI」。文書や映像、画像、音声など、各企業特有の情報資産を自然言語処理AIで分析し、業務の効率化や新たな価値の創造を支援する。

まずは同年7月に、食品業界の大手・中堅企業向けに「RICOH 品質分析サービス Standard for 食品業」を発売した。コールセンターやヘルプデスクに集まる膨大な問い合わせ情報を自然言語処理AIで分析し、重要度順に表示することで、迅速な顧客対応や品質改善によるリスク低減などに貢献。今後は、さまざまな業種業務に対応したサービスを発売していく。

リコーグループは、お客さまへの提供価値を「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES」と定め、OA(オフィスオートメーション)メーカーからデジタルサービス会社への変革に取り組んでいるが、このサービスはその変革の象徴的なものの一つといえる。開発の舞台裏はどのようなものだったのか。本プロジェクトで、AI開発、システム開発、企画に携わった3人に話を聞いた。

DX推進に役立つ「仕事のAI」。いずれは海外展開も視野に

Q:まずはプロジェクトの内容を教えていただけますか?

金崎:企業から預かった文章や映像、画像、音声などのドキュメントを自然言語処理AIで分析して、業務の生産性向上を支援するプロジェクトです。サービスの第一弾として、食品業界に向けたものから始めました。

たとえば、企業の問い合わせ窓口には、お客さまからのさまざまな要望や意見が届きますよね。それをAIが文脈を理解したうえで集め、分類するというものです。これによって、経営リスクにつながる品質問題や新しいニーズを発見しやすくなります。

AI開発 金崎克己(1982年入社)
前述の内容を表した画像
AIを使うことで業務の効率化を実現。各担当者による判断のばらつきも抑えられる

Q:各担当者の業務内容を教えて下さい。

金崎:私は企業のデータを分類するAIエンジンのコアとなるアルゴリズムの開発や、そのためのモジュールの開発を担当しています。このプロジェクトが始まる前から、社内でAI関係のサービスを手がけようという動きがありました。私も組織の立ち上げに関わり、クライアントのところに訪問して、AIの導入が課題解決に役立つかヒアリングを行なっていました。

梅沢:私は、金崎のチームがつくったAIエンジンを組み込んだクラウドシステムの開発を行なっています。クラウド上のアーキテクチャの設計や実装、データベース設計など、幅広く担当しています。

システム開発 梅沢知紀(2011年入社)

日原:「PoC(Proof of Concept)」と呼ばれる概念実証をやっています。企業に「こういうことができそうですが、どうでしょうか」と提案に行き、悩みや課題をヒアリングします。そこで出た要望を機能仕様に反映することが主な業務です。

企画 日原健(2009年入社)

Q:クライアントからはどのような声があがっていますか?

日原:世間ではDXの風潮も強いので、多く引き合いをいただいています。「これまでのツールだとけっこう時間がかかっていた業務プロセスをAIに置き換えることによって、大幅に業務工数が削減できた」といった声があがっていますね。

Q:「RICOH 品質分析サービス Standard for 食品業」として、食品業界から展開した理由はなんですか?

金崎:「仕事のAI」がスタートする前、この2、3年で世界的に自然言語処理のブレークスルーがありました。それを受け、リコーは数字や文字などの情報を扱う会社なんだから自然言語処理を伸ばしていこうという動きがあったんです。サービスを始めるにあたって、まずは社内で自然言語処理が必要なところはないかニーズを探し、商品や製品の品質保証をする部門に辿り着きました。

リコーには、各サービスの担当者が対応してきた記録が大量にあるので、なにか問題が起きると過去に似たような事例がないか調べるんです。こうした品質保証を外部に提供できないかリサーチして、食品業界にあたりをつけました。

日原:補足すると、企業が自社サービスに対して最初に対応しなければいけないのはやはり品質保証ですから、サービスの第一弾としても品質が健康に密接に関わる食品業界にアプローチしていこうと。

金崎:ヒアリングした食品業界の企業のご担当者が品質の健康面を管理しており、かつ、AIへの理解が深かったことも大きいですね。業務効率を改善する必要や、担当者が変わったときの引き継ぎを上手く行ないたいといったニーズをうかがえたので、業界全体の課題なのではと見通しを立ててスタートした面もあります。

日原:さらに「仕事のAI」は、「お客様の声(VOC)シリーズ」として、エンドユーザーであるお客さまのお問い合わせのなかから要望やニーズをAIで抽出するサービス展開を今後予定しています。

企業のコールセンターにはいろんなお問い合わせがきます。そのなかからお客さまの要望やニーズをすくいあげて、「こういうニーズがあるから商品開発しよう」「パッケージを変えよう」といったことに活かしていただけるサービスです。今後は海外展開も視野に入れてプロジェクトを進めています。

構想からローンチまで3か月。チーム全員が方向性を共有し団結

Q:「RICOH 品質分析サービス Standard for 食品業」は2021年7月にローンチしました。プロジェクトとしてはいつから動き出したのでしょうか?

日原:2020年12月ごろに事業構想が決まり、準備期間を経て、翌年の4月に正式に動き出しました。通常のリコーの商品開発には規定のプロセスがありますが、今回はスピードが求められる新規事業だったので、早期に進められるアジャイル開発で進めました。短期間での開発は難易度が高くなりますが、社内のリソースを考慮しながら柔軟なプロセスで進められたことが成功要因だったかなと。

Q:短期間での開発で工夫した面はありますか?

梅沢:システム開発の面では、われわれの部署が関わるメンバーはリコーのグループ会社の人が大多数で、開発をともにしたリコーITソリューションズの拠点は神奈川、東京、だけでなく鳥取や鹿児島にもあります。コロナ禍ということもあり、一度も会わずにずっとリモートで行なってきたのは印象的でした。

リモート環境で、コミュニケーション不足にならないか不安もありましたが、リコーは比較的早くリモートワークが浸透していたので問題ありませんでした。リアルで会わなくても、毎日数十分のオンラインミーティングを設定して、その日までの進捗やその日やることを逐一報告し、課題もすぐに抽出できる体制を取っていましたね。

オンラインでの文字のやりとりは、会話のキャッチボールでボールが落ちてしまい、誰がやるのかわからないタスクが出てきがちだと感じます。そういう不明瞭な点があると、どうしても開発スピードが落ちてしまうので、しつこく聞くこと、わかるまで聞くことを繰り返し、それぞれの担当業務を明確にするなど工夫しました。目的を共有できていたので、聞いて面倒くさがる人もいませんでしたね。

Q:プロジェクトで苦労したことや印象に残っていることは何ですか?

日原:まず一つはデータビジネスの契約書や約款に、明確なガイドラインがまだないことです。もちろん個人情報保護法などもありますが、企業のデータを預かるビジネスに対しての明確な法律というものはありません。

クライアントがデータ分析においてやってほしくないことの線引きも含め、法務や開発メンバーと協力して動いたことが印象に残っています。企業に提案しながら要望を随時反映するかたちで開発を進めていったので、開発とシステム設計のメンバーは度重なる仕様変更などの対応で苦労したと思いますし、よく頑張ってくれたと感謝しております。

さらに、そういうものを監査するとなると、やはり監査担当も大変だったと思います。営業や販売担当者にとっても、まだ実績のない新規事業のサービスを企業に提案するとなると、サービスの強みを説明しにくい。そういったなか、みんなで協力して一歩ずつ前に進めて商品化できたことは感慨深く、一つの方向性を持って連携できて良い経験になりました。

梅沢:私はこれまで培ってきた知識と、今回のクラウドの知識が別ものだったので、一から勉強しながら開発することになりました。もちろん大変でしたが、私はわからないことに対して、手を動かしながらつくるのが性に合っていたので、苦労には感じませんでした。

チームにおいても、課題にぶちあたるほど燃えるメンバーが多かったです。とくに最近、リコーとしてもいままで以上にそのような雰囲気があり、個々のチャレンジが求められるようになってきていると感じます。

培ってきた企業との信頼を生かし、サービスの拡大へ

Q:リコーの企業カルチャーをどうプロジェクトに落とし込めたと感じますか?

金崎:AIのプロジェクトは大きくわけて、ベーシックなシステムをみんなで使うスタイルと、企業ごとに個別に開発を請け負うスタイルがあると思います。リコーが求められるのはその真ん中ぐらいかなという気もするんですね。

ベーシックなものではさまざまな企業に対応しきれない一方、個別にやると費用がかかりますから「それだけの予算はないよ」となる。そうなると、ある程度の汎用性があり、ちゃんと業種や業務にも対応できる専門性も兼ね備えたシステムが必要になります。リコーはドキュメント管理のときからずっとそういったことをやってきているので、新規事業でもやれるという面があるんです。

日原:リコーがこれまで培ってきた強みは、自然言語処理に加えて、やはり現場で顧客接点を重ねてきたことです。その両方がセットになっていることで安心していただけますし、いろんな業種・業務で活用いただけます。それがリコーらしさなのかなと思います。

梅沢:リコーはこれまでの取り引きの経験からクライアントと固い信頼関係を築けているので、企業の現場にスムーズに入っていける強さがあると思います。さらに技術面での「リコーらしさ」としては、リコーはクラウド上に構築するプラットフォームを持っているので、それを使うことで開発自体がスピード感をもってできました。

企業イメージを変える。社内で感じる「チャレンジ」への機運

Q:このプロジェクトをとおして、リコーで働くことにどのようなやりがいを感じましたか?

金崎:現在のリコーは、業態をどんどん変えていかなければという思いが強いです。リコーといえば「デジタル複合機」というイメージがありますが、「ずっとそれだけでやっているわけにもいかないよね」という考えは皆に浸透しています。それぞれの社員が企業イメージを変えるために、当事者意識を持って業務に取り組んでいるといえますね。「仕事のAI」以外にもいろんな新規事業が立ち上がってきていますし、会社全体としても面白い時期にあるんじゃないかなと。

梅沢:「新しいことにチャレンジしなさい」というメッセージは経営層からも頻繁に発信されていますね。私自身、昔は失敗したくない性格でしたが、現在は少しずつ失敗してもいいからやってみよう、という気持ちが高まっています。社員のさまざまな挑戦や失敗に対して、組織や上司が寛容なのは大きなメリットだと感じますね。

Q:最後にプロジェクトの今後や、将来的に目指すビジョンを教えてください。

金崎:AIに関していうと、いまは比較的効率化を求められていますが、企業のビジネスの拡大や、ビジネスモデルの変革にチャレンジしていきたいです。

日原:「仕事のAI」は、営業支援や文書作成支援など、今後さまざまなシリーズを出していく予定です。企業のなかに眠っているデータを使って、売り上げがアップしたりお客さまの満足度が向上したりといったことが実現できる商品をどんどん出して、企業価値を上げるためのお手伝いをしたいですね。

梅沢:いまは「リコーといえば複合機」ですが、今後は「リコーといえばAI」とまわりに言ってもらえるような、AIネイティブな会社にしていきたいです。今回の「仕事のAI」を横展開したり、別のサービスとくっつけてさらに価値のあるものを生み出し続けたりしていけば、いつかそれが叶うと信じています。

※インタビュー内容や社員の所属は取材当時(2021年11月)のものです。

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