2024年10月
インタビュー 顧客と対話するAI技術者
技術を迅速に社会的価値に変換する、変化を楽しむ技術者のRICOH BIL TOKYOでの挑戦
2024年2月にリニューアルオープンした、リコーの共創施設であるRICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)。そのリニューアルにおける大きなポイントの一つが、リコーの技術者が直接お客様と対話し、新規事業の創出やDX促進を目指す場の拡大でした。
技術者が常駐することで、お客様との対話の中で表出する具体的な技術課題とその解決策をその場でディスカッションできたり、最先端の技術動向のアドバイスなどが実現します。プロトタイプも迅速に進められるので、アイデアや未来構想の具現化もスピードアップします。
「経営者と同じ目線で、技術を社会的価値に変える提案をしたい」と語るのは、リコーの技術者でありAIプランナーとして活動する関口さん(株式会社リコー 先端技術研究所 HDT研究センター ODS研究室 第二研究グループ所属)。
この場所で日々新たなアイデアを形にしている技術者達がどのようにお客様と向き合い、課題を解決していくのか、お話を伺いました。
お客様との対話で無限に広がる世界
── 関口さんの現在の役割について教えてください。
リコーでAIプランナーとして、お客様と直接接点をもち、顧客課題を引き出してAIを軸に最適なプランを立て、契約の締結から有償POC(Proof of Concept、新しいアイデアや技術、理論を実証すること)の完了までをサポートしています。
お客様のニーズを深く理解し、それに基づきカスタマイズされたAIソリューションを提案するプロセスが重要になりますが、このプロセスを通じて、お客様に新たな価値を提供し、ビジネスの成功をサポートしています。お客様との対話を通じ、技術者として最適なソリューションを提供することにやりがいを感じています。
── これまでの技術者としての働き方とRICOH BIL TOKYOでの活動は異なっているかと思いますが、良かったと思う点はありますか?
今まで顧客接点を持つために、所属しているODS(Optical Data Stream)研究室のメンバー自ら、自分たちでお客様を探すことなどしていました。RICOH BIL TOKYOでは営業の皆さんがお客様を連れて来てくださり、ファシリテートしてくれるビジネスデザイナーという役割のメンバーや営業の方と一緒に、お客様と間近で対話できる貴重な機会が増えました。
技術の開発ばかりやっていると実は外の世界があまり見えてこないのですが、ここでお客様と対話をすると、今まで見えていなかった世界がリアルに見えてきます。
お客様と話すということは、新しい視点や世界に触れられ、日本だけではなく世界に目が向きます。社内で閉じこもって考えるより、社外に目を向けるだけで視界が一気に広がります。
社外には様々なお客様がいて、それぞれ粒度の異なった課題を持っておられます。そういったお客様たちに、私たちがどんな提案をするか。提案の仕方によってもお客様が受け取る感じ方も変わり、いろいろな結果が生まれる可能性がある。つまり可能性が無限なんですよね。その無限であることに、私は今、非常に面白さを感じています。
例えば、先日お客様とのワークショップの中で、倉庫の現場のスタッフが荷物を積み上げてしまうために光が届かず、照明の意味がないという課題をお聞きしました。そこで倉庫構築時に3Dのデジタルツインに照明シミュレーションの機能を盛り込んだら面白いのではないか?という仮説をぶつけ、お客様がどういうリアクションをするか?どんなシナリオが合致するのか?お客様の喜ぶ顔が想像できたことがとても楽しかったですね。
無数にある提案の仕方、伝え方から選択した一つをぶつけてみることは、まさに無限の可能性の扉を開けることだと言えます。お客様に刺さるかどうかは別としても、気にせずに「言ってみる」ことが重要だと思っています。
経営者と同じ目線で、技術を価値に変える
── 技術とビジネスを結ぶ役割ですね。これまでどのようなキャリアを歩まれてきたのですか。
私は学生時代、半導体と光の相互作用に関する光物性研究を専攻していました。バリバリの物理屋さんです。光と半導体中の電子の相互作用を利用して、光を生成、検出、増幅、変調する機能を有するデバイスを光半導体と呼びます。光半導体は、LED、画像センサ、光通信、レーザーなどの光学的なアプリケーションに用いられます。例えば太陽電池とは、「半導体を利用して、光のエネルギーを直接的に電力に変えるもの」なので、同じ類です。
これをどんな分野に生かせるか?と考えた時に、レンズや画像処理技術などの光学分野に強いリコーなら、と入社を決めました。
入社後はまず、光ディスクの研究開発に5年間、その後は車載カメラなどの技術開発や研究開発に12年間携わり、車載魚眼カメラや車載ステレオカメラの製品化に成功しました。また研究開発で特に面白かったのは、ステレオカメラとLiDARを融合した高密度距離画像計算の開発でした。
3D空間の高精度化と高密度化を狙いとした、リコーならではのステレオカメラとLiDARの融合アルゴリズム事例
当時、光ディスクは将来的な製品の量産化が見込めないという話がありました。若かった自分はもっと新しい世界にチャレンジしたいという気持ちが強く、同じく光学を生かした車載カメラの分野に挑戦しました。
車載カメラに携わると、「自動運転をいかに成長させていくか」という業界の流れがあり、世の中の変化に対応していくには、技術者自らがお客様と接点を持ってPOCを進める必要があることを強く感じました。
── 技術知識を持ったマーケッターということですね。
はい。当時の部署で、技術者自らがお客様に接点を持ってPOCを進めるということをしていました。お客様に直接伝える機会をもつために、研究開発をしながら自分たちでお客様を探したり、営業さんに紹介してもらうなどしたりしてアプローチする活動をしていたんです。
そして、その過去の経験が活きて、現在でも接点確保から有償POC完了までの全てのプロセスを成功させた実績があり、その経験が今のAIプランナーとしての活動に繋がっています。
今は別の部署に所属しながら、社内副業制度を使って週に1〜2日ほどRICOH BIL TOKYOに来ています。ここは技術者としての自分が最も輝ける場所ですね。
お客様と直接対話し、作ってみたら面白いだろうなぁというモノやサービスを直接お客様と対話できるんです。しかもご来場者の8割が経営層の方々なので、責任重大ではありますが、やりがいがありますね。
── 経営層の方々との対話は、視野、視点の広さ、視座の高さなどが問われるのではないですか?
まさにそうです。経営層の皆様は会社や社会課題を解決していくという目線でいらっしゃるので、私も目先の技術だけでなく、その技術をどのようにお客様に提供し、価値を生み出すかを考え伝える力が求められます。
これはとても難しく、自分にまだまだ足りない部分だなと感じています。点での狭い領域だと、視野が広い方々には伝わりません。経営者と同じ目線で技術を価値に変える提案をできるレベルになるのが目標です。
これからの技術者に求められること
── 所属されているODS(Optical Data Stream)研究室について教えてください。
私が所属する先端技術研究所 HDT研究センター ODS研究室は、顧客接点を持ち、技術を社会的価値に変えることを主軸に活動する集団です。
私たちは“光”からさまざまな情報を捉え価値に変えていくことに長けたチームとして活動しています。個性豊かなメンバーが揃い、新しいアイデアを生み出す原動力となっています。
例えば、THETA(360°カメラ)の開発メンバーや、車載ステレオカメラ開発メンバーなどが所属し、エッジデバイスや、画像アルゴリズムを作るのが得意な集団です。メンバー全員が同じ方向を向いて活動しているので、私にとってはとてもやりやすい環境です。
── ご自身の研究で重要視していることはありますか?
私はずっと研究開発畑でやってきた人間なので実感しているのですが、日本では自社で開発したものを世に出していかなきゃダメな風潮が強かったのです。しかしそれだともうこの競争社会でやっていけない。
そのため、現在世の中で研究として芽生えているような領域を、自社にとどまらずお客様やパートナーなど外部と組んでやっていくことが重要ではないかと考えています。
リコーの技術革新を進めていく上でもそういう新しい考え方がとても大事。そういう意味では、RICOH BIL TOKYOはオープンイノベーションの場なので、非常に意味があると考えています。
── 関口さんのお仕事、研究テーマは社会にどのように役立つと思いますか?
3Dの技術は特に、建設業界のファシリティーマネージメントの分野での貢献が大きいと考えています。ある空間の中をデジタルで一括管理していく世界ですね。また、作成した3D空間の中で様々なシミュレーションが行えて、例えば現地に行かなくても事前に確認ができるなど、工場やプラントや物流倉庫などの事前の空間把握に役立つと考えています。
未来のシミュレーションの一例:3Dデジタル空間の中での経路シミュレーション
今までは人間がリアルの箱の中で自分の手で管理しなければならなかったところを、人ではなくデジタル空間上で同じことができるようになる。そうして人はもっと創造的なことができるようになればいいと思っています。
── これからの技術者に求められるスキルやマインドセットはどのようなものと考えますか?
これからの技術者に必要なのは、自分の携わる技術がどのような業種や業務に刺さりそうか、最終的にその技術をお届けする方にいかに喜んでいただけるかという視座を持つこと、使ってくれる人が喜ぶような価値を生み出せること、ですね。
単純に便利になるもの、役に立つものなら、ただ技術を尖らせれば実現することもあります。それよりもお客様が抱えている課題に対して、彼らの理想に到達できるようなストーリーを描くことが、これからの技術者にとって大事だと考えています。
── 学生や若い技術者の人へ一言お願いします。
「おじいちゃん達の意見に囚われるな」と言いたいですね。会社に入ると先輩方がたくさんいます。その先輩方は、その時代を背負ってきた考え方を持っていらっしゃいます。しかし、令和の時代の流れに沿って新しい斬新な研究を考えるのは、今の若い人にしかできないんですよ。
時代・ルール・しがらみにとらわれず、今、会社にない領域をどんどん自分の力で切り拓いていけるようなマインドセットを期待しています。
── 最後に、関口さんの今後の展望をお聞かせください。
新しい技術を持った若い人達に、仕事として面白く思ってもらえるような環境を作りたいですね。お客様との接点を持たせていただきながら経験値を積んでいるので、自分のコミュニケーション力を鍛えつつ伝承していきたいです。
今までずっと技術をやってきたので私自身のレベルアップとしては、今後はお客様が見据えるあるべき姿と現在地との間にある、お客様固有の課題を解決していけるシナリオが描けるように深く掘り下げられるAIプランナーを目指します。
── ありがとうございました。
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技術研究だけではなく、社会やはたらく人たちのよろこぶ姿を創造しながら、常に新しい挑戦を続ける関口さん。積極的にお客様とのコミュニケーションを楽しむ姿がとても印象的でした。RICOH BIL TOKYOでの共創活動を通じて技術を価値に変え、未来を創っていくことを期待しています。