ヨルダンの山羊 (4P/480KB) 東京工業大学 名誉教授/前学長 伊賀 健一
画素並列処理、巡回型A/Dコンバータなどの技術を適用することで、94MHzの高速動作が可能なオールインワンタイプの小画素系CMOSリニアイメージセンサを開発した。画素サイズは4.7μm×4.7μm、外形寸法は55mm×10.7mmである。また、複数のデバイス技術によりリニアイメージセンサ固有の画質課題を解消し、高画質化を実現した。
赤信号無視や急発進などの危険運転を検知、ドライバーに警告し、安全運転を支援するニーズが高まっている。ドライブレコーダーの録画解析によりドライバーの運転性向を診断するには、信号機認識と危険運転イベント検知技術は不可欠である。本稿は車載カメラにおける高精度の信号機認識、危険運転イベントを検知する方法を提案する。YUV色特徴により信号機の色を認識、信号候補領域を作成、面積の少ない領域で信号機の形状認識を行う。信号機の周囲特徴を用いて、誤認識を削除する。複雑な撮影背景の昼シーンと明かり外乱の多い夜シーンで共に誤認識の少ない高い認識率が得られる。信号機認識結果と車の加速度、速度の情報を組み合わせ、赤信号無視、急発進の危険運転イベントを検知する。日本とアメリカで実車テストをすることにより信号機認識性能評価を行った。その結果、高い認識率と低い誤認識率を得られ、提案手法の有効性を確認した。ドライブレコーダーの動画データで、危険運転イベント検知実験を行い、提案手法の有効性を確認した。
我々は、2011年に縦型の超短焦点プロジェクタである“IPSIO PJ WX 4130”を開発した。このプロジェクタは小型で超短距離からの投射が可能なことから好評を得ている。一方で、近年Full HD(1920×1080pixels)クラスの、より高解像度のディスプレイのニーズがますます高まっている。前述したIPSIO PJ WX4130はWXGA(1280×800pixels)までの解像度であり、十分ではなかった。
そこで我々は、Full HDに対応した超短焦点プロジェクタの小型の投射光学系を開発した。一般的に光学系を高解像度化するには光学系の大型化が避けられないが、以下3つの方法により、この課題を解決した。1) 屈折光学系に負の歪曲を持たせることで、収差補正に必要なレンズを配置する空間を確保する。2) 各画角の光束を十分に分離する。3) 屈折光学系で像面湾曲を補正し、自由曲面ミラーで歪曲収差を補正するように機能を分担させる。これらにより、小型でありながら、高解像度に対応した投射光学系を実現した。
本論文では、RGB-IRデュアル・バンド全方向カメラのキャリブレーション方法を紹介する。この方法は、高次多項式による非線形マッピングを使用し、撮影したIR画像をRGB画像にワープさせる。シミュレーションでは、ワープしたIR画像がRGB画像に完全にマッチすることを示した。さらに、ホモグラフィ変換によって得られた結果よりも優れていることを示した。
MFP(Multi Function Printer)回収センターでは、中古MFPが平積みで保管されており、1台1台を個別に管理している。そのため、MFPを出庫するときは、作業者が保管エリア内から出庫するMFPを目視で探し出す必要があり、「探索時間」の削減が課題となっている。
この課題を解決するために、天井に取り付けたカメラでMFP上部に貼付された新規に我々が開発したカラーコードであるCPCC(Comb-shaped Pattern Color Code)を認識することで在庫位置を管理するシステムを提案する。
本システムを実現するために開発したCPCCは、バーコードやQRコードのような矩形ではなく、くし型形状とした。これにより、「歪み耐性」が強く、「十分なID数」を表現可能で、「認識速度」が高速なシステム構築が可能となる。
本システムを運用した結果、作業者は作業効率を落とすことなく個々のMFPの位置を把握することが可能となり、従来必要であった1日あたり60分の「探索時間」を削減した。
PDF(Portable Document Format)は交換可能なドキュメントレイアウトとして設計された。PDFの使いやすさ、セキュリティ機能、さまざまな環境で作成できる特徴は、PDFの需要を高め、PDFはさまざまな産業分野で活用されている。印刷業界はこの10年にわたりPDFの利用により大きく発展してきた。PDFが印刷される場合にPDFに欠けているのは、PDFファイルをどのように印刷するかを定義する能力である。
JDF(Job Definition Format)が、PDFをどう印刷するかの指示を定義する業界標準となっている。JDFは独立したファイルであるため、印刷ワークフローでPDFファイルが変更された場合にPDFファイルとの同期がとれなくなり得る。本論文では、PDFファイルに対するアクション(ページ移動、ページ削除、ページ回転等)のリストを、他のプログラムによる変更を防ぎつつJDF(およびそのほかのメタデータ)がリアルタイムにデータと同期されるように処理するプロセスを詳述する。
このプロセスは、印刷時の正しい出力を保証するとともに、PDFファイルを操作する際のファイルI/Oを改善する。
現在オフィス機器メーカー各社において、お客様先に設置されたMFP(Multifunction Printer)とメーカーもしくは保守会社とをインターネットで接続し、遠隔保守をするサービスは広く普及している。近年は、遠隔保守サービスのいっそうの充実に向けて蓄積されたビッグデータを解析し、故障予測を行うという活動が活発化してきている。リコーは故障予測の【予兆検出ロジック】の開発に加え【予兆検出時のアクション】を明確に定めることでフィールドでの故障予測の活用を実現させた。その結果、実際のフィールドでの活用を通じたアンケート調査より、故障防止に効果があり、かつ、顧客満足度向上にも寄与できることが確認できた。
マルチ折り機は、自他社含め主にプロダクションプリンティング市場に展開されているが、MFP普及層市場にニーズがあることが分かり、大型で高コストのマルチ折り機ではなく、MFP普及層に合った小型で低コストのマルチ折りが必要と判断し、開発を行った。
しかしながら、従来機にて主流になっている方式(ストッパ突き当て方式)では小型化には限界があることが分かり、新しい挟持反転折り方式の開発に着手した。その結果、8つのローラの回転動作のみで4種類のマルチ折りを実現し、受け入れる用紙の条件(紙種やカール等のばらつき)によらず、安定した品質を実現することに成功した。具体的には、折りたい長さに対するばらつきは従来機の2分の1以下、折り高さは2分の1以下を達成した。さらに、大きさは従来機から90%削減、コストは85%削減を達成し、従来機に対して圧倒的な優位性を実現した。
そして、2016年10月に本技術を搭載し「紙折り中継ユニットC840」として業界初となる設置スペースレス(本体胴内に収まる)マルチ折り機の商品化を実現した。
タグチメソッドの代表的な技法であるパラメータ設計は、品質を改善することを目的として、幅広く活用されている。しかしながら、目的特性を使ったパラメータ設計は、開発の対象システムをブラックボックス化してしまうため、品質改善のメカニズムに関する情報を得ることが困難という問題があった。本論文では、この問題を解決する新たな技法CS-T法(Causality Search T-Method)を提案し、それが開発の上流段階で有効な技法であることを示す。CS-T法の実験計画は目的特性パート、T法パート、直交表パートの3つのパートからなる。T法パートに複数の現象説明因子を割り付けて、直交表パートの実験を1行追加実施するごとにT法解析を実施し、目的特性と現象説明因子の因果関係を最少実験回数で把握する。この因果関係を把握することによって、技術者がシステムや制御因子を考案する的確性が高まり、開発期間の短縮及び開発成功率の向上が期待できる。
インクジェットプリンターの開発において、微小なインク液滴であるインクミストにより重要部品が汚れ、不具合が発生することが問題となっている。従来、インクミスト汚れに対して、実験的なトライ&エラーの繰り返しによる対策が行われてきたが、対策の根拠を理解して効率的に汚れを抑制するには、インクミスト発生のメカニズムやプリンター内のインクミストの挙動を解明することが重要である。本報では、気流がインクミストの発生に及ぼす影響を明らかにするために、プリントヘッドを搭載したキャリッジと紙間におけるインクミスト挙動観察と時系列の気流速度場計測を行った。その結果、キャリッジ走査速度とインク吐出間隔の増加と共に、インクミストをキャリッジ走査上流方向へ運ぶ気流速度の増大と紙側への下降気流の低下により、インクミスト発生量が増加することを明らかにした。また、気流計算と粒子計算を組み合わせたシミュレーションを行い、プリンター内においてインクミストが拡散する過程を明らかにした。本シミュレーションを活用することにより、インクミストによる汚れを抑制する構造を設計段階で検討することが可能となった。
近年、画像表面への凹凸形状付与による立体表現により、油絵の複製や表面加飾が行われている。この立体感のある画像表現を2.5Dと呼んでおり、インク滴の積層時の積み上げ精度が高いという特性を活かし、UVインクがよく用いられている。しかし、通常のUVインクでは、形状再現性と表面平滑性がトレードオフの関係であるため、滑らかで形状再現性が高い画像が得られないという問題があった。本研究では、UV光量によりインク表面硬化状態と濡れ性を制御可能なUVインクを開発し、形成プロセスを組み合わせることで、形状再現性と表面平滑性を両立する高精細な2.5D画像を実現することが可能となった。
我々は、インクジェット技術を応用した微粒子作製技術“FDD技術”を開発した。インクジェット技術の大きな特徴の1つとして、正確な液滴サイズ制御性が挙げられる。FDD技術はこの長所を微粒子作製に応用したものであり、マイクロサイズの微粒子を、高い生産性をもって作製可能な技術である。
本検討では、このFDD技術を機能性微粒子の1つである医薬製剤に応用し、狭粒度分布の製剤粒子が作製可能であることを確認した。更に製剤機能評価において、原薬に対する水への溶解性の飛躍的な改善効果や、吸入製剤として良好な吸入効率が認められた。これらのことから、FDD技術が機能性微粒子の新たな作製技術となり得ることを実証したとともに、FDD技術の新たな価値を見出すことができた。
本論文では、医療臓器モデルを志向したMaterial Jetting法によるハイドロゲル立体造形技術を紹介する。近年、医療技術の高度化とともに医療従事者の行う手術手技が複雑化・多様化しており、安全で正確な技術を習得するために臓器モデルを使った手技トレーニングが重視されるようになっている。しかし、従来の3D造形技術においては、これら手技操作を実際に加えることのできる質感および内部構造を再現した臓器モデルを作製することは困難であった。我々は柔軟性が高く生体に近い強度を有する材料として、ナノコンポジットハイドロゲルに着目し、インクジェットで吐出可能なゲル前駆体インクを開発した。このインクをMaterial Jetting法に適用することで、中空かつ微細な構造を持ち、強度分布を内包するハイドロゲルモデルを造形することができる。この技術を用いて実際にハンドリング可能な医療臓器モデルを作製し、医師による評価により手技トレーニングおよびシミュレーションに有用であることを示した。
近年、個々の細胞の機能や性質を知るための単一細胞を対象としたmRNA(messenger ribonucleic acid:伝令RNA)発現解析が注目されている。しかし、濃度の測定精度が確保された核酸を用いた評価は十分に行われておらず、単一細胞のmRNA発現解析の精度は明確ではない。そこで、濃度が既知の認証標準物質である定量解析用リボ核酸(RNA)水溶液を用いて、mRNA発現量の定量可能な範囲の特定を行った。RNA抽出とcDNA(complementary deoxyribonucleic acid:相補的DNA)合成は、独自開発中の自動cDNA合成装置で行い、RNAから合成したcDNAをリアルタイムPCR(polymerase chain reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)装置で検出し、検出対象RNAの量を定量化した。その結果、単一細胞レベルであればmRNAは3~107コピーと少ないコピー数から定量的に解析可能であることが確認された。この定量評価により、認証標準物質を用いて、mRNA発現解析の精度の評価ができることを示すことができた。
2018年2月26日発行
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