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Technology Innovation: Taking the Long View(2P/108KB) Andrew Isaacs
色素増感太陽電池の電解質を固体材料だけで構成することに成功し、室内の微弱な光源における発電性能を大幅に向上させた。特に電解質を固体材料にすることで、安全性及び耐久性の面で液体型色素増感太陽電池の実用化課題を解決した。
市場でトップレベルの性能とされているアモルファスシリコン太陽電池(6.5 μW/cm2)と比較し、新開発の完全固体型色素増感太陽電池は、13.6 μW/cm2とこれまでの2倍以上の優れた発電性能であった。また、85℃という色素剥がれが起きやすい高温環境下で約2,000時間放置しても、発電性能の劣化がないことを確認した。
本論文は、不純物およびゲート長Lの異なるゲート電極を持った、2つのCMOSトランジスタで構成されたリファレンス電圧(以下、Vref)回路にて、バックバイアス効果を利用した新しいLow Voltage Vref回路が、既に実用化されているConventional Vref回路と比べて、低電圧で動作可能であること、ウェハ面内ばらつきが良好なこと、温度特性が良好なこと、消費電流が小さくなることを示した。
フレキシブル基板上にフォトマスクと組み合わせた表面エネルギー制御インクジェット技術を用いて、トランジスタ1個と蓄積容量1個 (1T1C) からなる基本セルが全印刷としては世界最高レベルの解像度300 ppiを持つ、高精細有機薄膜トランジスタ (TFT) アレイを実現した。最小電極幅は15 μm(設計値)と従来のインクジェット印刷の解像度を大きく超え、最小電極間スペースは0.8 μm(設計値)とアライナーのレジスト解像度をも超える微細化を達成した。また、表面エネルギー制御インクジェット技術とレーザーアブレーションによるビアホール加工と合わせて、トランジスタ2個と蓄積容量1個 (2T1C) からなる基本セルが解像度150 ppiを持つ、高機能高精細な有機TFTアレイを形成した。更に、フォトマスクを用いた紫外線照射に代えてレーザー直描技術を用いることで、表面エネルギー制御インクジェット技術の利点を生かしつつ、デジタル性・オンデマンド性を高めた新規溝配線形成プロセスの可能性を示すことができた。
近年の携帯プレノプティックカメラの発展により、多くの実用的かつ低価格のイメージングアプリケーションにライトフィールド捕捉技術を取り入れることが可能となった。捕捉されたライトフィールドはカメラの開口部を通る光線の位置と角度両方の情報を含み、撮られたシーンの3D情報を本質的に捕らえている。しかし、ライトフィールドからの3Dシーンの再構築と分析は、高次元性とその特殊な構造のため、なお難しい問題である。この問題に取り組むため、ライトフィールドで記録された対象物のスケールと奥行きの両方からパラメーター化されたLight field scale-and-depth (Lisad) スペースを構築することで、ライトフィールドのスケール不変な3D分析のための新しい理論を提案する。
Lisadスペースの応用として、3Dキーポイントの検出と、稠密な奥行き予測の2つを示す。どちらのケースにおいても、Lisadスペースに基づくアルゴリズムはそれぞれ最先端の比較対象アルゴリズムを凌駕している。さらに、その実装はローカル処理しか必要としていないため、プレノプティックカメラのための将来のコンピュータビジョンアーキテクチャにLisadに基づいた手法を統合できる可能性が高い。
多バンドを用いた分光イメージング技術は、色・成分・温度など対象物の多くの情報を抽出することを可能とした画像情報多次元化の1つの手段である。これまで2次元画像の多バンド計測においては、フィルタ回転方式・グレーティング移動方式やプリズム分割方式が採用されてきた。しかし、画像を同時に取得できない、筐体をコンパクトにすることができないといった課題点が挙げられる。我々は、独自の微細光学技術および画像処理技術を融合させ、シングルスナップショットで高精度にマルチスペクトルイメージを取得できるカメラを開発した。カメラから得られた複数バンドの分光画像に重回帰分析手法を適用し、色度を推定した。サンプルとして工業用の色標を利用し、分光測色計との色度比較を行った結果、製造現場における色目視検査への適用可能性を確認した。
人の位置、移動経路および動作は非常に重要な情報であり、これらは人の位置に関連するサービスを提供するための基礎的材料となる。しかし、従来型の2D情報を取得するだけのカメラでは、実際の位置、移動経路、正確な動作を提供することができない。リコーは、通常のRGB情報以外に奥行き情報を提供することができるカメラを開発している。このカメラは、例えばMicrosoftのKinectのようなアクティブライト方式のステレオカメラに比較して、はるかに大きい視野を有している。
我々は、ステレオカメラを用い、人の位置を検出し、動作(立つ、歩く、座るなど)を分析することで、省エネルギー、監視カメラおよび室内の人流解析などのような人の位置関連サービスに向けた情報提供システムを目指す。3D情報、高さ検出による人の姿勢認識およびRandom Forests法による人の向き情報検出などによるアルゴリズムを適用することで人の特定、追跡、位置検出などを可能とするステレオビジョンを提案する。
我々が開発したソリューションでは、1つまたは複数のステレオカメラを用いてリアルタイムに人の位置情報と動作情報を提供することが可能である。
中国の展示会市場では、来訪者の現場での興味の度合いについてのデータ収集・解析サービスに強い需要がある。従来のアンケートによる調査方法では来訪者の会場での嗜好性を取得することが難しい。我々の手法では各ブースに無線センサーを配置することによって、展示品を中心にデータ収集エリアを限定することができる。来訪者がある展示品の限定エリアに入ると、その人の滞在時間や振舞いをリアルタイムで収集でき、それによって、来訪者の展示品への興味の度合いを判断することができる。無線センサーのほか、会場に配置した体感型インタラクティブシステムで来訪者の外見の特徴、振舞い、音声情報を収集する。これにより来訪者の会場での興味の度合いを判断するための補助的手段となる。来訪者の滞在時間やインタラクティブなやりとり、会話などの情報によって、アンケートより信頼性のある方法を構成できる。さらに、来訪者の会場での興味の度合いを分析することによって、客観的な統計データを得ることができるだけでなく、より深くデータを解析することができる。例えば、協調フィルタリングを通じて来訪者の嗜好を推測し、より適切な参観経路を推奨することができる。
現在では、照明制御技術によって明るさと消費電力を両立させて制御することが可能となってきている。ただし、このような技術によって明るさに対する要求を満たすことはできるようになっているが、より快適なオフィス環境を実現するためには明るさ以外の要求を考慮する必要がある。我々は、PSO (Particle Swarm Optimization) に基づき座席配置と照明制御とを組み合わせたシステムを提案する。ここでは、座席の位置、座る人の間の社会的関係性および明るさに対する要求を取り上げ、PSO手法を用いて座席配置と明るさを最適化する。シミュレーションの結果、この手法を用いるとランダムに着席する場合と比較して快適性が77%から96%まで向上した。必要な照度は33 lxから19 lxまで低減でき、この結果消費電力も149.5 W/hから126.6 W/hに減少した。これにより我々の手法の実効性・有効性を確認することができた。
オフィス内のワーカーの在位状態に応じて、照明を省エネルギーかつ最適な照度状態にする照明制御システムを提案する。従来、大規模なオフィスにおいて調光レベルを高速に最適化することは困難であった。本提案システムでは、LED照明を含む無線型照明制御システムと2次計画法による最適化を用いる。外光を考慮した目標照度と現状照度との差分を、2次計画法により最適化した後、照明を制御する。実証実験により提案手法は、照明を素早く最適に制御することが可能であり、大規模なオフィスに対しても実用的な照明制御システムであることを確認した。
画像処理アルゴリズムは、基本画像処理の組み合わせ(処理フロー)とその処理パラメータから構成される。アルゴリズム開発者は、基本画像処理の選択により処理フローを決定し、さらに処理パラメータの調整を行う。しかし、それらの組み合わせ数は膨大になるため、試行錯誤的な開発では開発時間を要していた。本論文では、進化的計算手法の一種である遺伝的アルゴリズム (GA) と遺伝的プログラミング (GP) を用いた画像処理アルゴリズムの自動最適化技術に関して報告する。画像処理の組み合わせの最適化にはGPを、その処理パラメータの最適化にはGAを用いて、GP最適化の中にGA最適化を組み込む形の入れ子構造で最適化を行うことで画像処理の組み合わせとその処理パラメータの同時最適化を実現した。
現像ローラの表面形状の抽出処理に本手法を適用して、画像処理アルゴリズムの開発期間の短縮と精度向上の両面を達成した。また、本手法を用いて、画像処理の専門家でない現像ローラの開発者自身が、表面形状の抽出処理のための画像処理アルゴリズムを開発できるようになった。その結果、仕様変更などの新たな表面形状に対しても柔軟に対応し、現像ローラの開発リードタイムの短縮につなげることができた。
印刷業界の短納期及び特注需要の増加に伴い、従来からのオフセット印刷業者は、油性の枚葉給紙式印刷から水性連帳デジタルプリンターへ、円滑な置き換えを模索している。オフセットコート紙は液体吸収性が極めて低いため、印刷表面インクの速乾性が印刷の成否を決定づける重要な要因となっている。現在多くの乾燥方法が様々なプリンターに実装されているが、それらの乾燥方法の相互作用とその効果について十分に理解されていない。そこで、最終的な乾燥品質を達成するため、幾つかの乾燥方法を組み合わせた実機検討に加え、数値モデルによる解析を行うことにした。本研究の目的は、乾燥システム全体だけではなく、乾燥に必要な用紙長及びエネルギーをより節約するための達成方法を獲得することにある。
商用印刷分野では、オフセット印刷と同様の幅広い種類の用紙対応力が求められている。特に表面に凹凸加工を施したエンボス紙は、その独特の質感から印刷物の表紙などに使用されることが多いため、エンボス紙へ印刷できる技術が望まれていた。リコーでは2013年6月発売のRicoh Pro C5110S/C5100SにAC転写技術と弾性定着ベルト技術を搭載し、エンボス紙への印刷を可能にした。今回、AC転写の新規非対称交流波形技術と、弾性定着ベルト層厚の最適化により、印刷可能なエンボス紙の種類を格段に広げると同時に、画像品質も向上させた。本論文では、上記エンボス紙印刷向上技術について報告する。
印刷業界では、出力物がエンドユーザに向けての商品となるため、電子写真方式のデジタル印刷機においてもオフセット印刷並みの印刷品質が必要とされる。用紙上の画像位置や表裏の位置ずれについても高い精度が求められる。
リコーの印刷業界向け商品では、高い画像位置精度を実現するため、1枚1枚の用紙位置を移動して画像に合わせるメカニカルレジスト機構を搭載している。
RICOH Pro 8100Sシリーズでは、従来のメカニカルレジスト機構を更に高速化するためにロータリーゲート方式という新たな機構を採用し、画像位置精度と高生産性を両立した。また、用紙後端シフト機構を新たに加え、装置の小型化を図りながら、薄紙から厚紙まで高い画像位置精度を実現した。
エコ環境や安全性への配慮から、針を使わないタイプの綴じ具が市場に出回っているが、複写機システムとして印刷から針無しスティプル処理までを行うオンライン化されたものは未だ商品化されていなかった。開発に先立ち、複数ある針無しスティプル方式に対してオンライン化に適した方式選定及び課題の抽出を行った結果、方式についてはオフィスでの使い勝手を考慮し「圧着綴じ方式」を選定したが、用紙に対して単純に加圧しているのみであるため用紙への依存度が高く、マルチファンクションプリンタ (MFP) の使用環境下、特に低温低湿での綴じ性能低下を招くことが課題として挙げられた。そこで、走査型電子顕微鏡(SEM) を用いた圧着部の観察により、用紙に対して効率の良い加圧条件を見いだし、MFPへ搭載できる胴内型フィニッシャの針無しスティプル技術を獲得した。
インクジェットプリンティングは、バリアブル印刷が可能なため、用途が拡大している。商業印刷では、オフセット印刷用コート紙に高速印刷され、この分野でもインクジェットの利用が期待されるが、現状はインク吸収性のある専用コート紙での印刷に留まっている。上記の期待に応えてインクジェット水性インクの吸収性が乏しいオフセット印刷用コート紙にインクジェットで印刷できるように、1) アンダーコート液 (UCL)、2) 速乾性インク(QDI)、3) プロテクターコート液 (PCL) と異なる機能を持つ3種のサプライ開発を行った。
1) アンダーコート液 (UCL) は、顔料凝集機能を有するカチオンポリマーを配合している。UCLを塗布した紙にインクを印字すると、電荷中和に基づいてインクが紙面上で凝集し、隣接ドット間合一のない、良好な画像が得られた。
2) 速乾性インク (QDI) は、蒸気圧が高く保湿性を有するアルコールをインク中に配合することにより、画像乾燥性とヘッド吐出信頼性を両立した。
3) プロテクターコート液 (PCL) は、最低造膜温度の低い樹脂および滑剤を配合している。画像上にPCLを印字した際、画像表面で樹脂が速やかに造膜し、また表面摩擦係数を低減することによって、オフセット印刷用コート紙における耐擦過性を向上できた。
プラスチック基材等の非浸透基材にインクジェットプリンターを用いて画像形成が可能な水性レジンインクを開発した。この水性レジンインクは、サイングラフィック用途に用いられる非浸透基材対応のインクとして普及している溶剤系インク (Solvent ink) に劣らない画像品質や吐出信頼性を得ることができる。更に壁紙などの用途に用いられる浸透基材に対しても安全で高い画像品質を得ることができる。水性レジンインクの画像品質向上にあたっては、インクの乾燥過程で粒子の凝集を抑制することが重要であり、溶剤のSP値 (SolubilityParameter) が大きく関連することを見出した。また水性レジンインクは、インクを吐出するノズル内のインク液面で、水分蒸発に伴いスキン層を形成し、吐出信頼性を低下させることがわかった。
分子運動性が評価可能なパルスNMR法を利用し、樹脂材料の評価技術を開発した。第一に、樹脂中の低温溶融成分は分子運動性が高いことに着目し、トナー用樹脂の熱に対する保存安定性の評価を行った。本法はDSC(示差走査熱量測定)法に比べ簡便かつ高感度に評価できることを示した。第二に、硬度の低いものは分子運動性が高いことに着目し、樹脂の硬度の評価を行った。本法は測定サンプルの形状を選ばず、結果を数値化できる点が優れており、鉛筆硬度試験法を補うような硬度評価法となることを示した。
2015年2月25日発行
発行 | 株式会社リコー リコー技術研究所 〒224-0035 神奈川県横浜市都筑区新栄町16-1 TEL. 045-593-3411(代) |
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発行責任者 | 松浦 要蔵 |
編集委員長 | 金崎 克己 |
事務局 | 谷川 哲郎、進藤 由貴 |