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近年、歴史的文化財の保護、継承を目的とするデジタルアーカイブ活動が盛んになっている。特に日本刀は、その美しさを示す特徴の観察、理解が難しいため、これらの特徴を正確に取得し、観賞できるようにした、画像記録および閲覧に対する要請が強い。専門家が日本刀を観察する場合、刀身、照明、および視線の相対姿勢を調整しながら、微妙な色合いや文様を読み取っている。これらの微妙な特徴をも表現できるように、照明角度と視線角度が調整可能なマルチアングル撮像光学系と、正確な色情報を取得するマルチバンド分光撮像系を搭載した日本刀デジタルアーカイブシステムを開発した。本稿では、本システムの機能、構成、およびアーカイブ画像における効果を示す。
Plenopticカメラのデザインスペースのためのシステムモデルを提案する。本モデルには、先端的な画像再構成手法と応用に応じた性能メトリクスに加え、光学および検出器サブシステムに関する詳細情報が含まれている。このモデルにより、物体から発せられた光からカメラセンサへの線形のマッピングを表現する、システム伝達マトリクスが求まる。画像形成に関するこの線形モデルに基づき、線形逆問題を解く理論の概念を活用することで、空間情報および分光情報の再構成法を提案する。さらに、異なるデータ再構成法の評価のための本システムモデルの利用法を示す。
光の波長より小さい金属微細周期構造を持つ「ナノ構造光学素子」は、近接場光の現象を利用して従来にない光機能を発現することができる反面、金属と光の相互作用が複雑で設計が難しいとされてきた。本研究では、FDTD法による計算機シミュレーションと遺伝的アルゴリズム(GA)による最適化を用いて高効率な偏光変換機能を持つ光学素子設計を行った。円形状を初期値とした金属単位構造は、最適化により2つの鋭い端部と滑らかな輪郭構造を持つ特徴的な形状に収束した。この結果により、本設計手法の有効性を示した。
近年、画像機器分野において、高画質化に向けた高精度紙搬送制御を実現するため、紙搬送量を高速かつ高精度にリアルタイム計測できるセンサが求められている。しかしながら、従来のセンサにおいては、広い環境温度範囲における精度や高速化に課題を残していた。そこで今回、これらの課題を解決する移動量センサを新規に開発した。本センサでは、レーザ光を被検物に照射することで発生するスペックルパターンをエリアセンサに取り込み、フレーム間の画像相関演算によって移動量を計算しており、相関演算における背景ノイズ処理とサブピクセル推定最適化、温度補償型撮像光学系システムの搭載、演算回路のパイプライン処理とFPGA一体化により、線速100mm/sec、環境温度5℃~50℃において、計測誤差0.042%以下の安定した精度で計測できるようになった。また、業務用印刷機クラスの高線速450mm/secにおいて、室温で計測誤差0.050%以下の精度で計測できるようになった。
インクジェット法とスピンコート法を用いて、酸化物半導体を活性層に用いた100ppiRGBアクティブマトリックスの薄膜トランジスタアレイをマスクレスで製造するプロセスを開発した。熱酸化膜付シリコン基板上に製造したTFTは、平均電界効果移動度7.49cm2/Vsを示した。また、ドーピングによる活性層のキャリア制御を検討し、特性ばらつきの少ない酸化物TFTアレイが製造できることを示した。さらに、新規の高誘電率酸化物絶縁体をゲート絶縁膜に用いた全印刷TFTは、平均電界効果移動度2.54cm2/Vsを示した。全印刷プロセスによって、ノーマリーオフの特性と立ち上がり電圧の揃った酸化物TFTアレイが実現できることを示した。
熱応答性材料の一種である熱可逆性ゲル化剤を含有した、電気泳動方式リライタブルメディアを開発した。リライタブルメディアが、今後多様化するニーズに対応するためには、従来のロイコ染料に頼らない新たな方式の実現が望まれる。本メディアは、電気泳動ディスプレイ技術と熱応答性材料技術とを組み合わせることによって、サーマルプリンタによる熱書込みを可能にした。今回、サーマルプリンタを用いて、本メディアに印字を行った結果、明瞭な画像を繰り返し印字できることが確認され、新規リライタブルメディアとしての実現可能性が示された。
HBステッピングモータをブラシレスDCモータに置き換える、低コスト位置制御技術を提案する。ステッピングモータは速度・位置制御が容易で、かつ安価である反面、エネルギー変換効率や重量、大きさでブラシレスDCモータに劣る課題があった。ブラシレスDCモータは省エネ・省資源という特性を有しながらも、位置決め性能が不足していた。これを付加するためには、センサと制御器に高額のコストが必要なため、OA機器をはじめ、高精度な位置決めを要求する汎用機器には使えなかった。この問題を、制御シミュレーション技術を使ったエンコーダ仕様の最適化と制御理論・信号処理技術の最適応用による低Bitデジタル制御器の開発で解決した。結果、ステッピングモータ置き換え可能な駆動精度が実機評価で確認でき、コストと機能が両立したことから、フルカラー複合機imagio MP C5002シリーズに搭載した。
新開発した樹脂歯車の遊星歯車機構の感光体ドラム駆動ユニットを対象に、品質工学の機能性評価を用いた寿命予測手法を開発した。従来、市場実績がない新規駆動ユニットの耐久性評価は長期間を要し、開発期間短縮の大きな課題となっていた。本手法は、あらかじめ寿命が既知の駆動ユニットをベンチマークとして、市場を想定した温湿度環境、動作モードで劣化テストを行い、立ち上がり時のモータ消費電流波形から、駆動ユニットの機能ばらつきを示すSN比を求め、ベンチマークと遊星歯車機構のSN比の差から寿命を予測する。本手法により、半年以上掛かった従来のユニット耐久評価を約2週間に短縮することができた。
図面複写/出力市場では、電子写真方式のモノクロ複合機が市場を占めている。電子写真方式では、熱定着を利用するため消費電力が下げられない、また、カラー化すると高コストな装置になるという課題があった。そこで、インクジェット方式を採用し、消費電力の低減による環境貢献、図面のカラー化による顧客の業務効率UPを図ることを狙いとして開発を行った。本装置の開発では「省エネ状態から5枚目までの生産性で電子写真より速くすること」を条件に、電子写真以上の生産性を実現できる装置構成と、インクジェット特有の画像欠陥を最小限に抑え、印字精度を向上するために開発した制御技術について紹介する。
MFP市場の主流である低価格帯の中綴じ機構は、機構の簡易さから低価格を実現する一方、中綴じ冊子の折り高さが相対的に高くなるという品質上の弱点があった。そこで我々は、PP市場で用いられ、スクエア状の折り目を形成することで低折り高さを可能にしたスクエア折り技術を基に、同等の品質をより簡易な構成で実現する簡易スクエア折り技術を構築した。また、当該技術に対し、用紙の折り目に沿って主走査方向に移動するローラ対の軸芯をあえてずらすことで、より低い折り高さを可能にする新規の中綴じ折り高さ低減技術を加えた、いわゆるサドルシェイプ技術を構築した。これにより、低価格、高折り高さ品質という、MFP市場にもPP市場にも対応できるマルチロールな中綴じ機構の開発、商品化を実現した。
近年、プロダクトプリンティング市場では、コート紙特有の表面性により、用紙間が密着することで発生する押出しや座屈による排紙積載不良の改善が求められていた。トレイ等の補助部材を使用せずに幅広い紙厚のコート紙/薄紙をずらさずに積載できる方式を確立することを目指して検討した。積載紙後端を押え押出しを防止する機構と、送風によって排出紙と積載紙の間に空気層を作り、用紙間密着を防止する機構にて、機能性評価および気流シミュレーションの技法を使用し、機能範囲を明確化し、コート紙・薄紙の排紙積載性に関するロバスト性の高い技術を開発した。
プリンタや複写機の組み込みソフト開発では、用紙搬送制御を模擬するシミュレータを利用した開発が主流になっている。しかし、既存のシミュレータは、複雑なシステムでの用紙搬送制御を高速にかつ高精度に検証することはできなかった。そこで、開発プロセスの上流から下流まで利用可能なメカとソフトの協調シミュレータである“TIMES(Tool forInnovation of MEchatronics and Software co-development)”を開発した。TIMESは高精度な用紙搬送シミュレーションと、本体と数種類の周辺機とから成る複雑な組合せのシステムの検証を実現し、用紙搬送制御検証の効率を大幅に向上させるツールである。本論文では、実際にTIMESをプリンタや複写機の組み込みソフト開発に適用した事例を示し、その有効性を確認した。
MFPには多くの部品が搭載されており、その形状は微細形状を多く含み複雑である。したがって、従来は形状を大幅に簡易化しない限り、MFP機内全体の熱・気流シミュレーションを行うことができなかった。しかしながら近年のPCの性能向上により、このような大規模なモデルでも、詳細形状そのままでシミュレーションを行うことが可能になってきており、筆者らは、メッシュ数1億以上のボクセルメッシュを用いてこれを実現した。加えて、発熱源の発熱条件を正しく見積もれるようにするとともに、紙やベルトが熱を輸送する現象まで考慮したシミュレーションを行えるようにして、試作せずに温度仕様値を満足するか否かを評価可能とする解析精度を達成した。
インク滴の着弾精度などの影響を考慮したデジタルイメージを予測するシミュレータを用いた画質予測手法を紹介する。インクジェットプリンタにおける複数の誤差因子の画像へ与える影響を予測するために、複数の誤差因子の影響を考慮したデジタルイメージが予測可能な画像予測シミュレータを開発した。誤差因子を振った複数の条件下におけるシミュレーション結果の比較により、公差配分を検討することが可能になった。また、実機において出力の再現が困難であったサテライト滴を含む画像をデジタルイメージで再現できるシミュレータの特徴を活かし、サテライトの影響を定量評価できる画質予測式を新たに提案し、主観評価と高い相関性を有することを明らかにした。さらに、サテライト画質予測式はバーコード品質を予測することも可能である。
ゾルゲル法で作製したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)アモルファス膜を、波長980nm半導体レーザで下部電極の白金(Pt)部を加熱して結晶化させることを我々は討議した。膜の比誘電率測定により1回のレーザアニール処理で厚さ45nmのPZT結晶膜を形成できることが分かった。このため、毎回塗布した膜の厚みを45nm以下に抑え、かつレーザアニールパワーを制御することで、厚さ150nmPZT結晶膜を4回繰返して成膜した。得られたPZT膜の比誘電率は1,200、圧電定数は従来のラピッドサーマルアニール(RTA)法で結晶化したPZT膜と同等レベルを達成した。
産業用途でのインクジェット印刷における様々なタイプのインクの中でも、紫外線硬化型インク(UVインク)は強固な塗膜が得られ、プラスチック基材への印刷で需要が見込まれている。原材料が安価な「光ラジカル重合」方式において、課題となる硬化収縮に起因する基材への接着力低下などの不具合を、モノマーの分子構造の面から内部応力を制御することで改善できることを見いだした。処方するモノマーの分子量あたりの(メタ)アクリロイル基の数を最適化することで、硬化収縮と塗膜の特性を示すtanδとを制御できることを見いだした。その結果、用途に応じて塗膜特性を制御可能とし、適用範囲の広いUVインクを開発した。
交流高電界を用いた世界初の転写技術「AC転写技術」を開発した。本技術では、交流高電界を用いてトナーの往復運動を発生させ、トナー間に物理的・電気的相互作用を与えることによってトナーの付着力を低下させる。この効果を利用して、放電の発生しない直流電界成分でトナーを転写させることができ、テクスチャ紙のような凹凸紙でも、濃度の均一性に優れた画像が実現される。AC転写技術は、2013年6月に発売のカラープロダクションプリンター「RICOH Pro C5110S/5100S」に搭載されている。
本稿では、CMYKインクジェットプリンタの出力不均一性を補正する、自動化されたソリューションを提案する。このソリューションは、固定プリントヘッドアレイを用いたプリンタに適用される。アルゴリズムは最初に、所望の関心領域(ROI)を分離するための印刷出力のスキャン画像を前処理する。ROI情報は、印刷領域全体にわたって不均一性を抽出するために利用される。最後に、アルゴリズムは、識別された不均一性の補償を可能にし、所望の階調応答を提供する較正ステップで終了する。
多くの電気電子機器製品に用いられている樹脂は、石油が原料である。画像機器へのバイオマス樹脂の採用を促進することにより石油資源投入量とCO2排出量の削減を実現し、環境貢献を目指す。従来はポリ乳酸(PLA)とポリカーボネート(PC)をポリマーアロイ化することにより、難燃性5VBの材料を実現していた。この材料のバイオマス度は25%程度で、環境負荷の高いPCを使用している。我々は、石油系樹脂を用いない環境負荷の低いPLAの改質樹脂を用い、筐体部品を実現した。この樹脂はUL94難燃規格の5VBを取得し、新しいプロダクションプリンターに搭載した。この新しいPLAはバイオマス度40%という高難燃の電気電子機器部品用途としては最も高いバイオマス度であり、環境負荷削減に貢献している。
製品設計の初期段階から、ライフサイクルを通して製品の及ぼす環境負荷を確実に把握することが、環境負荷削減のためには重要となる。そのためには、設計者が容易に扱うことのできる環境負荷の評価手段が不可欠だが、実際の評価実行と結果の分析は、環境評価に通じた一握りの専門家だけに委ねられることが多く、彼ら専門家以外にとっては、環境負荷の評価は非常に困難だった。
よって、膨大な必要情報を収集し、分析し、それを評価としてまとめ上げる環境負荷評価の工程に対し、そのロジックとデータを調査・整理・モデル化し、システムとして整備することで、環境の専門家以外でも簡単に扱える評価手段を開発した。
一般に、照度と色温度の組み合わせによる照明システムは、異なる色温度を有する異なる照明源の照度に基づき色温度を比例配分し制御している。この技術は、各光源の色温度が照度に対して一定であると仮定している。しかし、この仮定は、実際には常に成立するとは限らない。複数の照明源がある環境では、従来の照明システムでは、結果が目標値とは大きく異なる可能性がある。
したがって、我々は複数の照明源の色温度と照度制御の問題を明らかにし、これに対処するために、新たなライティングモデルを構築することによって照度と色温度制御システムを開発した。
本論文では、照明システムを構成するそれぞれの単色光源(RGB LED)からの調光レベルに対応するCIE XYZ三刺激値を測定することで、照度と色温度の制御モデルを構成する。さらに、調光レベルに対する色温度と照度の変化の割合を利用することにより、測定対象位置においてどのように明るさと色温度が変化するのかを知ることができる。さらに二次計画法により、ユーザーの快適性を損なわない範囲でエネルギー消費を最小にすることができる。
現在中国では、外資系の塾(進学塾、言語塾)の進出により熾烈な競争が繰り広げられている。中小の塾ではIT化が遅れ、紙のテキストを用いた授業が中心となっている。塾間の差別化ポイントとして、良質の講師陣をアピールしているものもあるが、授業料の安さをうたっているものが大部分である。優秀な講師の引き抜きや金銭的な理由による講師の退職も多く、教育ノウハウが蓄積できない問題を抱えている。さらに授業料の引き下げ競争により塾の経営が悪化し、倒産する塾も多い。
我々はこのような塾の抱える問題(IT化、講師陣のノウハウの蓄積、価格競争)を解決するため、中国市場における塾向けクラウドサービスを提供するシステムを開発した。我々のシステムの特徴は、紙文書を利用している塾に対して、紙文書と電子文書をクラウド上で一元管理を行うサービスを提供し、さらにクラウド上の電子文書をベースにして塾と生徒間で情報共有を可能にしたり、インターネット経由でテストを実施するなどの学習を支援するサービスを提供する点である。
光切断法による3次元計測の理論は古くから知られているが、エリアカメラのフレームレートの限界や、撮像画像を高さに演算する処理に時間が掛かるなどの理由で、産業用の外観検査装置に応用するには、高価なカメラやコンピュータが必要となり、検査装置としての実用化が困難であった。しかしながら近年のカメラやコンピュータなどのデバイスの進歩に伴い、実用化されてきている。
これからは、従来の2次元画像による外観検査に加えて、3次元画像での外観検査の市場が大きくなることが予想され、より難易度の高いワークの3次元検査技術が求められる。我々は、3次元画像を用いた外観検査アルゴリズム設計に必要な技術を開発した。その特徴は、3次元画像から得られた形状を平滑化し、平滑化前の高さとの差分から表面に存在する微小な凹凸を抽出する技術と、3次元画像におけるマスター画像と検査品画像の平面座標を精度良く高速に一致させる技術から成る。これらの技術により、高速、高精度な外観検査を実現した。
光沢性は、色再現性、階調性、鮮鋭性、粒状性と並ぶ重要な画質特性であり、光沢性を評価するための研究が数多く行われてきている。しかし、印刷物に関する光沢性の従来評価技術をまとめた報告は少なく、評価技術の向かうべき方向性の議論が不十分である。そこで、印刷物における光沢性を分類し直し、標準化という観点で従来の評価技術の動向を概括した。さらに、我々が開発した新しい電子写真の光沢性評価技術についても紹介する。今後の展開として、主観的な見えと相関が高くかつシンプルな計測法の開発と、各光沢性評価法の標準化が必要と考える。また、感性や視覚認知のさらなる研究と、計測技術開発の両面から光沢評価技術を成熟させていくことが期待される。
2014年1月28日発行
発行 | 株式会社リコー 研究開発本部 〒224-0035 神奈川県横浜市都筑区新栄町16-1 TEL. 045-593-3411(代) |
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発行責任者 | 松浦 要蔵 |
編集委員長 | 金崎 克己 |
事務局 | 堀尾 尚史、進藤 由貴 |