2024年8月
メッセージ RICOH BIL TOKYOが探索する共創のかたちとは?
事業課題だけでなく、お客様との共創活動で社会の常識を変えていくために。RICOH BIL TOKYOの軌跡と挑戦
“体験と対話”から生まれたお客様のアイデアや未来構想の具現化を支援するRICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)。2018年にスタートし、これまでに経営者を中心に多くの方々との対話を重ね、共創活動を続けてきました。
「経済合理性限界曲線を引き上げていくことが私たちの使命」そう語るのは、RICOH BIL TOKYOを創設した菊地英敏。リコー創業者の市村清が提唱した三愛精神「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」を体現すべく、菊地はお客様の事業課題のみならず、お客様と共に社会課題に対してもアプローチができる状況をつくり出そうと日々動いています。
そこで今回は、あらためてなぜリコーでRICOH BIL TOKYOがスタートしたのか、またこれまでの共創活動の事例やRICOH BIL TOKYOの強み、そして今後の展望について菊地にインタビューを行いました。
イノベーションは必ずしも新しい技術を用いる必要はない。お客様と新たな価値を共創していくRICOH BIL TOKYOの取り組みとは
── あらためてRICOH BIL TOKYOの成り立ちについて教えてください。
2017年、リコーの中期経営計画にて「再起動」というメッセージが打ち出されたんです。あらためて私も自分自身の価値観や、やりたいこと、想いを整理して考えたときに、お客様と共に価値を創り出していく、これからは新しい問いを生み出していくことが必要だと思い、企画書にまとめたのがRICOH BIL TOKYOでした。
私自身、約10年間新規事業部門に携わってきたこともあり、新しく何か問いを見つけて解決するということに歓びを感じるタイプでした。我々は複合機ビジネスから長年培ってきた顧客基盤があり、お客様と常に寄り添いながら成長してきました。ここからは、そのお客様を起点とした様々な課題の共有から、新たな問いを立てて価値創造の連鎖を繰り返していきたいと思ったんです。
しかし、以前は社内でも事業部門ごとに異なる活動領域があったので、課題解決のために部門間の垣根を越えて連携を取るということがなかなか容易ではありませんでした。
当時、お客様のビジョン/課題に対して組織横断で価値仮説を検証し、ブラッシュアップしていくといった枠組みがなかった。であれば、リコーが持つデジタルサービスの仮説とお客様の発想の融合によって新たな価値を生み出す「場所」を作って自らが周りを巻き込もう、とチャレンジしたのが“初代”RICOH BIL TOKYO(2018年9月3日設立)の始まりなんです。
── これまでに、お客様との共創でどのようなことが生み出されていったのか教えてください。
イノベーションというのは、必ずしも新しい技術が必要なものではありません。既存事業に対して新しいフレームワーク、新しいプロセスで取り組むといったこともイノベーションであると考えており、そうした意味で印象に残っているのが、コスモスイニシア様とリコーの共創です。
コロナ禍でワークプレイスの在り方が模索される中、コスモスイニシア様とリコーでテレワークのためのスペース「コモリワーク」と「ドマワーク」を設置したリノベーションマンションを2020年に発表しました。
実は最初にコスモスイニシア様にお声がけしたのは2019年、パンデミックが起こる前で、当時はテレワークが徐々に普及し始めているといった状況でした。そしてインタビューやワークショップを行い、対話を重ねていく中で浮き彫りになったのが、テレワークでの仕事のオン・オフの難しさでした。
そこで様々なアイデアを出していく中、「仕事のスイッチが入る瞬間は靴を履いた瞬間では」ということで最終的に売り出したのがドマワークという、マンションの一室に玄関と一体となる土間のような空間をつくったものでした。そして「家の中にこもれる空間がある」というコンセプトのコモリワークの2つを販売開始したところ、緊急事態宣言のタイミングと重なったこともあり、即売。さらに多くのメディアでも取り上げていただきました。
しかし、これは何か新しい技術を使ったかと言われれば、そうではありません。むしろ、“土間”という昔からあるアイデアとワークプレイスデザインのノウハウを取り入れたもの。このように、古い技術やアイデアをリユースして新しい社会や文化をつくるということがもっと生まれていいと私たちは考えています。
AI活用に求められるデータの質。長年ワークプレイスのデジタル化を進めてきたリコーだからこその知見がある
── そうした共創活動は具体的にどのように進めているのでしょうか?
私たちはお客様がRICOH BIL TOKYOにいらっしゃる前に、事前に価値シナリオという仮説をつくり、お客様にとってどういったことが将来的に価値に繋がるのか、もしくはお客様の事業にどのように価値を提供するかをまとめ、そのシナリオをもとにご来場当日2時間のセッションを行っています。
以前までRICOH BIL TOKYOは田町にあったのですが、田町のときは約860社の方に来場いただき、当時は約3割が経営幹部の方々でした。役員の方々をお呼びするには理由があり、それは企業のありたい姿と現状のギャップを認識されているということです。
役員の皆様は中期経営計画などを策定するお立場である以上、会社としてのありたい姿を明確にお持ちです。そうしたありたい姿と現状のギャップをお持ちの方々と対話を重ねることで、新しい問いのヒントが見えてくるのです。
ただし、対話の中で新しい問いを生み出すということは、そう簡単なことではありません。特に田町事業所のときはスモールスタートではじまり、16坪しかないスペースであったため、2回目、3回目の来場が物理的にしづらい状況でした。2回目の継続来場でも、広い会議室で行なってしまうと一気に“打ち合わせモード”になってしまい、対話を重ねる雰囲気が出ないんですよ。
そこで田町事業所を1.0世代として、2.0世代へアップデートしようと生まれたのが現在の品川にあるRICOH BIL TOKYOです。ここは、リコーのエグゼクティブ・ブリーフィング・センター(EBC)として機能しており、今ではご来場の約8割が経営幹部のお客様です。同じ拠点をお客様とも共有し、コラボレーションを継続することで、企業間の垣根を越え、お客様からパートナーへ移行する場として位置付けられています。
── RICOH BIL TOKYOはどういったメンバーで構成されているのでしょうか?
現在、お客様と対話を行うメンバーは約20名ほどおり、その中には技術者も多くおります。ものづくりの未来を担うためにも、リコーとしては技術者がお客様の事情をもっと理解する必要があると考えています。
特に昨今はAIやDXといったキーワードで、明確な業務課題や経営課題を抱えていらっしゃる経営者の方が多く来場されます。そのため、RICOH BIL TOKYOは技術者が直接お客様と技術を語り、お客様のビジョンと課題をヒアリングし、その先の社会に対しても開かれた場にしていく必要があります。ここでは着想力、企画構成力、プレゼンテーション力、ファシリテーション力の4つを身につけた技術者がより多くのお客様と向き合い、価値連鎖するチームとして動き出しています。
── 様々なイノベーションハブが国内でも徐々に誕生していますが、RICOH BIL TOKYOはどういった点が強みであるとお考えですか?
今ではスタートアップ企業含め、多くの企業がDXやAIといったことに取り組まれていますが、機械学習において重要なことの一つは、いかに構造化されたデータをAIにインプットさせるかということです。
経済産業省はDXを、デジタイゼーション(データの電子化)、デジタライゼーション(個別プロセスのデジタル化)、そしてデジタル・トランスフォーメーション(全体のプロセスのデジタル化、変革)の3つの段階に分類しています。
オフィス向けの複合機の提供含め、リコーはワークプレイスにおける電子化、デジタイゼーションを長年行ってきた経験と実績があります。まさにテキスト情報に強いドキュメントカンパニーの経験値ですね。
また、テレビ会議システムを自社で開発していたことから音声認識の領域にも強く、さらには画像処理技術にも強みがあります。こうしたワークプレイスでAIを活用していく上で求められる元データを長年取り扱ってきた我々の強みが、今まさに役立つ新時代に突入したと実感しています。
── あらためて、どのような方にRICOH BIL TOKYOに訪れていただきたいですか?
リコーでは「人を愛し 国を愛し 勤めを愛す」という創業者の市村清が提唱した三愛精神を原点に、「“はたらく”に歓びを」を実現できる会社になることを宣言しています。
そしてRICOH BIL TOKYOには多くの経営者の方が来場されますが、AIを語らない日はないというほど、常にAIが話題に上がります。AIでできることというのは無数にあると思いますが、三愛精神における「勤めを愛す」の領域では、タスクワークをAIで減らし、お客様がよりクリエイティビティを発揮できるようなワークプレイスづくりを支援することだと思っています。
さらに、経営者の方々は、日頃の経営課題だけでなく社会課題に対しても常に目を向けていらっしゃいます。しかし社会課題というのはなかなかアプローチが難しい。なぜなら、ビジネスというのは問題を抱える主体者がお金を払うわけですが、プロブレムオーナーが「社会」となってしまうと、これはなかなか如何ともし難いですよね。社会課題というのはお金の出どころが見えづらく、それゆえ課題解決に踏み込めないことが往々にしてあるわけです。
三愛精神の「国を愛す」というのは、いまであれば「地球を愛す」という意味になるわけですが、持続可能な未来をつくるためにも、自分たちだけでなく、お客様と一緒にできることがあるのではと思っています。
そして各々のケイパビリティを持ち寄り、「こういったモデルならできるのでは」と対話を重ねて解決策を見出す場所にしていきたいと思っています。
たとえば地方のデジタル格差が課題としてあるのであれば、遊休不動産を活用してFabLab(ファブラボ)をつくり、そこにSTEAM教育のようなソフトウェアを乗せ、さらにコミュニティマネージャーを採用することで、雇用が生まれ、さらにはワーケーション施設も併設してあげたりすると関係人口が増える。地域を支える次世代のデジタル人材だったり新しいビジネスが生まれる可能性が出てくるわけです。
全国47の都道府県全てに拠点があり、ワークプレイスデザインができるリコージャパンとSTEAM教育を行う事業者らが一緒になることで、こうしたことも実際に実現できるでしょう。
そうした様々な課題解決にチャレンジできる土台・材料がRICOH BIL TOKYOにはありますから、新たな取組みを始めたり、革新をドライブしていくタイミングでぜひ、経営者の方々には一度訪れていただきたいと思っています。
── 最後に今後の展望を教えてください。
社会課題に向き合うことは当然重要ですが、課題を解決するアイデアを思いついたとしても、1社、2社で解決できるほど容易なものではありません。持続可能な社会づくりこそ、オープンイノベーションで様々な企業が一丸となり取り組んでいく必要があります。
そうした状況があるからこそ、RICOH BIL TOKYOでお会いする企業経営幹部の方々との対話から、目指すべきゴールを再認識し、それぞれの企業がお互いのケイパビリティを補完しあうことで、一つでも多くの社会課題が解決できるスキームの構築を目指したい。
経済合理性限界曲線は、どれだけの人が困っているかが横軸にあり、解決できるかどうかの難易度が縦軸にあるわけですが、「多くの人が解決したくて、解決の難易度が低い」という曲線の内側がこれまでビジネスの対象になってきました。
そのため、曲線の外側には資本主義では解決できない社会課題の山が生まれているのが現状です。だからこそ、私たちは、この限界曲線を引き上げていくことこそがRICOH BIL TOKYOの使命だと思っています。
「そういうものだから仕方がない」と諦めるのではイノベーションではありません。社会にイノベーションを起こすために、企業・組織の枠を超えた共創活動をこれからも続けていきたいと考えています。