山下 良則
代表取締役
社長執行役員 CEO
1980年 3月
株式会社リコー入社
資材部門に配属となり購買業務に従事
国内外で部品調達や工場の立ち上げなどに携わる
1995年 2月
英国 Ricoh UK Products Ltd. 管理部長
2008年 4月
米国 Ricoh Electronics, Inc. 社長
2011年 4月
株式会社リコー常務執行役員、総合経営企画室長
2012年 6月
取締役 専務執行役員
2014年 4月
ビジネスソリューションズ事業本部長
2016年 6月
副社長執行役員
2017年 4月より現職
2021年度を振り返って、改めて不確実だということが確実だということを痛感しています。コロナ禍での生活・行動様式はもはや常態化し、日本国内では人が動き始めているという実感もありますが、一方で半導体や樹脂の不足、あらゆる物品・サービスの値上げが続きました。そこに、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な原価上昇と物不足が起き、加えて上海のロックダウンが重なりました。中国で製造ができたとしても、輸出先のアメリカでの港湾労働者やトラック運転手の不足により、物流が滞るといった事態も起きています。
これだけの出来事が重なり、かつ長期で継続するという事態は、まったく想像を超えるものでした。もはや「去年までこうだったから、今年はこうなる」という予測はできなくなりましたし、その備えも困難になりました。もちろん、BCPの観点から徹底的な議論は重ねていますが、机上での議論だけでなく、いざ何かが起きたときの次の一歩を具体的に備えておかなければ、後手に回ってしまいます。常にゼロベースで想定し、選択肢を増やしながら意思決定を行える経営体質が不可欠だとの思いを、改めて強くしています。
また、グローバル化の進展には、平和が前提にあるということも気づかされました。リコーグループに限らず、世界で競争力を高めようとすれば、サプライチェーンは長く複雑になる傾向にあります。平和が保たれ物流が安定している状況では、それらは効果的に機能していました。しかしひとたび平和が脅かされ、サプライチェーンが寸断されるような事態が起きれば、安定供給は不可能になります。グローバルなサプライチェーンを構築してQCDS(Quality、Cost、Delivery、Service)のCを追求したとしても、Dが不能になれば全体が機能しなくなってしまう。このことを現実として突きつけられ、新たなプロセスの構築が待ったなしだと強く感じています。
リコーグループは、2020年度を『「危機対応」と「変革加速」の1年』と位置付け、全社一丸となって困難に対処してきました。それを乗り越えて、2021年度からの2年間で第20次中期経営計画(20次中計)を進めています。この中で最大とも言えるチャレンジは、2021年4月に社内カンパニー制を導入したことでしょう。当初は2〜3年先の導入を予定していたので、たった1年で成し遂げたことは変革加速の旗印とも言えるものです。事業ドメインごとに5つのビジネスユニット(BU)を設け、各BUプレジデントに権限委譲を行う体制としたことで、お客様の変化に合わせてスピード感をもって意思決定し柔軟に対応できる環境が整いました。
また、営業の最前線でも一人ひとりがよく頑張ってくれています。リコーグループは直売の比率が高く、お客様に直接接する機会が多いため、さまざまな困りごとをご相談いただきます。コロナ禍の影響もあって働き方改革が進みましたが、その過程で課題はお客様ごとに異なります。そうした課題に迅速に対応するために、限られた予算内でも導入しやすいスクラムパッケージを豊富なラインアップで提供できたことは、お客様へのお役立ちの一つと言えるのではないでしょうか。
働き方改革が進むことで、オフィスにおけるプリンティングの量は確実に減少しました。必ずしも必要ではないプリントを行っていたと気づいたお客様も多いはずです。経済が回復し出社する人がまた増えたとしても、プリントボリュームが完全に元に戻ることはないでしょう。コロナ禍前からプリントボリュームの将来的な減少を予測して対策を検討してきましたが、それが数年早く起きてしまいました。リコーグループの事業にとっては非常に厳しい状況です。しかしその一方で、この間に私たちは顧客接点の強みを発揮し、オンラインを活用しながら新しい寄り添い方で提案を続けました。これはコロナ禍がもたらしたチャンスだととらえています。まだまだスピード不足、力不足の面はありますが、私たちが目指している方向性は間違っていないという確信があります。お客様の“はたらく”に寄り添う姿勢を突き詰めていくことは、リコーグループの競争優位を高めることにつながると信じて20次中計を推進し、さらにその先の未来を拓いていきます。
現場のデジタル化の推進については、リコーグラフィックコミュニケーションズ、リコーインダストリアルソリューションズ、リコーフューチャーズの3つのBUが重要な役割を担っています。リコーデジタルサービス、リコーデジタルプロダクツと比較すると規模は小さく見えますが、それぞれが将来に向けた大切な事業を推進しています。これらの事業分野では、先進的な技術・テーマを扱うことも多いため、よりスピード感をもって成長を見極める必要があるのも事実です。リコーグループ単独か、他社との協業か、さまざまな方法が考えられる中で最も成功に近づける手段を早い段階から判断するのも、経営の重要な責務であると認識しています。
リコーグループが「デジタルサービスの会社」へと変わり、“はたらく”に寄り添うビジネスを追求することを掲げたところ、「メーカーであることを捨てるのか?」といったご意見をいただくことがありました。確かに、ハードウェアを外部化しサービスに特化する戦略をとる会社もありますが、リコーグループが目指しているのはお客様のパートナーとなることであり、そのためにはエッジデバイスも重要な役割を担うと考えています。
人が働くことで、さまざまなデータが生み出されますが、その中で必要なもの、価値あるものをうまくキャプチャすることが必要です。質の高いデータがあれば、その後の分析やAIを活用した作業をより効果的に行えるようになります。良いプラットフォームを作ったとしても、優れたエッジデバイスがなければ空疎な情報しか取得できず、データが価値を生むエコシステムを確立することは難しくなります。リコーグループが提供する共創プラットフォームであるRSI(RICOH Smart Integration)をグローバル共通のサービス提供基盤として活用しており、今後はエッジデバイスの機能・性能を一層高めていくことが重要になるでしょう。
私は、はたらくことはあくまで人が主体だと思っています。人が創造性を発揮し、建設的なアイデアを生み出し、視野を広げようと行動することは“はたらく”において重要です。人の行動は非常にアナログなものと言えますが、それを支えるために、AIや各種システム・ネットワークなどのデジタルを身近にうまく使えるようにする。そんな役割を、リコーグループが果たしていくのだと考えています。従来はAIをはじめ機械にできることは限られていましたが、それが一気に発展したことで可能性は大きく広がりました。
リコーグループでは2018年からRPA(Robotic Process Automation)を導入し、社内の業務プロセス改革を進める中で改めて「人がやるべき仕事」について考えるようになりました。仮に、自動化した業務プロセス一つをロボット1体と換算するとしましょう。従来100人でやっていた仕事を、70体のロボットと50人が共存して行えるようになったとしたら、残りの50人はやることがなくなってしまうのでしょうか? 50人分の人件費の削減につながったと喜べばいいのでしょうか? そんなことは絶対にないと私は考えています。その50人は、これまでできなかった新しい創造的な仕事をできるようになったということなのです。そして、彼らが創造的な仕事をするために必要な教育や能力転換を行うことが、会社がなすべき人的投資なのだととらえています。
従来は、会社の成長のために社員が仕事をするという構造が少なからずありました。しかしこれからは、社員が成長した総和で会社が成長する、社員と会社の成長が両輪となる関係を築くべきなのです。そのために、将来どんな仕事をしたいのかを社員一人ひとりが明確に意識することが重要です。タレントマネジメントシステムを通じて個々のスキルや想いを可視化することはもちろん、サーベイなどを通じて社員の成長を感じる機会も増えました。一人ひとりの感覚が研ぎ澄まされ、新しいチャレンジを志向できる自律的な人材が会社を成長へと導くのです。
ラウンドテーブルで社員とコミュニケーションをとる様子
社員とのコミュニケーションや教育の手段が大きく変わったことも、コロナ禍から生まれたチャンスの一つと言えます。例えば、国内外の社員と私が直接対話するラウンドテーブルは、リモートワークの浸透によってコロナ禍前よりも開催回数が増え、対象地域も広がりました。また、2020年4月にはじめた「個別入社式」を継続しています。感染症対策に十分に配慮した上で一人ひとりの新入社員と言葉を交わす形式は、感染症の有無と関係なく今後も継続しようと検討しています。リモートワークによって取り残される社員がいないだろうかということは、常に私が心配してきたことです。しかし、リコーグループはコロナ禍以前から「働き方変革」を進め失敗からの学びも数多く積み重ねてきました。こうした経験があるからこそ、非常時を乗り越える対応ができ、今につながっているのだと感じます。
人材育成の観点では、2022年4月からリコーデジタルアカデミーを開校しました。リモートワークに慣れた社員は、学びもリモートで効果的、自律的に進めています。もちろん個人差はありますから、さまざまな選択肢を提供しながら、新しいチャレンジをバックアップしていきます。
これまで社内で当然のように実施してきたことがコロナ禍によって「なぜこれをやっていたのか?」とゼロベースで問い直すきっかけになりました。やらなくてよいことは止め、やるべきことは工夫し新たな方法で実施するなど、より効果的に運営できるようになったものもあります。その気づきや経験は、ビジネスの現場でも役立つものと考えています。
私たちの会社は、たくさんの方から「コピーのリコー」「環境のリコー」などと呼んでいただいています。それはとてもありがたいことで、過去の経営者や社員一人ひとりのたゆまぬ努力があったからこそだと感じています。1998年に環境経営を提唱し、以来活動を積み重ねてきたことが、現在世界各地のお客様やご販売店に「ESG領域で先進的なリコーグループから購入したい」と選ばれる根拠になっています。私がESGを「将来財務」と呼んでいるのにはこうした背景があるのです。
過去の投資や自分たちが成し遂げてきたことが、現在どのような成果を生み出しているかは事実として把握できます。そのデータを、将来を見通すための手段としても大切にしたいと考えています。また、今の財務を向上させるための投資と、あるべき姿に近づくための将来財務=ESG活動は必ずつながるはずだと確信しています。それがつながらないなら、投資をやめるべきでしょう。ストーリーがない活動は、株主・投資家に許されないでしょうし、成果にもつながりません。次期中計の策定においても、その観点を大切に議論を重ねていきます。
これらを踏まえて、私たちはこれからどう呼ばれていきたいのだろうと考えました。それが「“はたらく”に寄り添うリコー」だったら大変喜ばしいと思っています。「いつもリコーは寄り添ってくれるね、困った時に手を差し伸べてくれるよね」そうお客様に感じていただきたい。もちろん今までも寄り添い続けてきたという自負はありますが、これからもデジタルの力でお客様の困りごとを解決し、顔の見える存在でありたいと願っています。投資や人材育成、経営判断のすべてがその実現に向けたものとなるよう努め、商品・サービスという形で提案すべく、挑戦を続けます。
困難な時代だからこそ、チャンスに目を向け果敢に挑戦していく。その姿を、ステークホルダーの皆様に期待をもってご覧いただけるよう、リコーグループはこれからも「“はたらく”に歓びを」の実現に向けて歩み続けます。