代表取締役
社長執行役員 CEO
山下 良則
1980年 3月
株式会社リコー入社
資材部門に配属となり購買業務に従事
国内外で部品調達や工場の立ち上げなどに携わる
1995年 2月
英国 Ricoh UK Products Ltd. 管理部長
2008年 4月
米国 Ricoh Electronics, Inc. 社長
2011年 4月
株式会社リコー常務執行役員、総合経営企画室長
2012年 6月
取締役 専務執行役員
2014年 4月
ビジネスソリューションズ事業本部長
2016年 6月
副社長執行役員
2017年 4月より現職
新型コロナウイルス感染症は、社会や人々の生活を一変させました。モノ・金・情報が動く一方で、人が動かない経済の回し方、仕事の仕方を根本から考え直さなければならないという、本質的な問いを人間に投げかけているのではないでしょうか。働き方に関しても、在宅勤務やリモートワークの導入が半ば強制的に進み、それをそのまま定着させて新しい働き方を標準化しようとする企業も多くあります。また、なかなか進まなかった紙の書類やはんこによる押印を前提にしたワークフローを見直し、業務プロセスをデジタル化する取り組みが一気に加速したと感じます。これまで当たり前のように対面で行ってきた仕事に関しても見直しが進むなど、オフィスや現場の仕事をデジタル化してワークフローをつなぎ、仕事のやり方を変える、いわゆるDX(デジタルトランスフォーメーション)の機運が高まっています。
もうコロナ以前の世界に戻ることはありませんし、現在の状況がこのまま5年後も続いているということもありません。この災禍を経た世界では、増える需要と消えゆく需要があるはずで、そうしたお客様や社会の変化のスピードに対して、真摯に向き合う必要があります。だからこそ、新しい時代を私たちリコーの手で創り、切り拓いていかなければならないのです。
こうした認識のもと、2020年度は「危機対応」と「変革加速」の1年と位置付け、OAメーカーからの脱皮とデジタルサービスの会社への変革を一気に進めました。体質強化とオフィスサービス事業の成長を同時に実現し、厳しい経営環境下でも欧州での買収など将来に向けた体制強化にも取り組みました。さらには、カンパニー制の導入による事業競争力の強化とROIC導入による資本収益性の向上です。当初2020年度から3年間の中期経営計画で取り組もうとしていたことを1年で実行しました。そして、2021年度、2022年度の2年を第20次中期経営計画(以下、20次中計)として、本来2023年度からの3年で実行予定だったことを推し進めています。つまり6年かけて取り組むべきことを3年で実行するということです。
2020年度を振り返ると、これからの成⾧に向け大きな手応えを感じることができました。現場でお客様と向き合い寄り添い続けた社員や、事業や体制の変革に取り組んだ社員が、果敢にチャレンジしてくれたからこそ実現できたのです。人の力は無限だということと、やる気になれば何でもできるのだということを改めて気づかせてくれました。
20次中計と2025年度までの21次中計をあわせて「リコー飛躍」と位置付け、成長に向けて一気に舵を切ります。
2021年4月には前倒しでカンパニー制に移行し、事業ドメインごとの5つのビジネスユニットとグループ本社に組織体制を刷新しました。今後、各ビジネスユニットはそれぞれのお客様に寄り添いながら事業拡大を図るとともに、無駄な仕事や機能をなくして業務をスリム化し、リーンな体制をつくることで収益性の向上を図ります。加えて、権限を各ビジネスユニットに大きく委譲することで、スピーディーな業務執行を図ります。
一方グループ本社は、成長を実現するためにどのような事業ポートフォリオであるべきか、つまりどのような事業を通じてお客様や社会に貢献していくか、どのような事業ならリコーが勝てるのかを判断していく必要があります。そのために人材育成や技術革新など、将来のリコーを支える事業を育てるにはどのような手を打つべきかを考え、マネジメントしていきます。グループ本社が適切な牽制力を発揮し、各ビジネスユニットと緊張感をもった関係でいることが大切だと考えています。
こうした体質強化を確実に実行しながら、2025年度には「はたらく場をつなぎ、はたらく人の創造力を支えるデジタルサービスの会社」となることを目指します。そして現在のオフィスサービス事業が成長を続けて全社業績を牽引し、デジタルサービスの会社への変革を成し遂げます。20次中計の最終年度である2022年度にはROE9%以上を、2025年度には10%を超える水準を継続的に創出できる経営体質を実現していきます。
リモートワークに加え、地方自治体と連携し、地方創生を見据えたワーケーションも自ら実践
ルネサンス期の三大発明の一つである「活版印刷」により、人々は情報を正しく伝えることができるようになりました。私たちリコーは1936年に創業して以来、この「人々が情報を正しく伝える」ということを支えてきました。技術の進歩により複写機はデジタル化され、紙に書かれたアナログ情報をキャプチャリングしてデジタル情報に変換するエッジデバイス、つまり複合機へと進化しています。クラウドの時代となり、さまざまなデータがつながるようになった今、複合機というものがどのように社会に貢献し続けられるのかということを改めて考えなくてはなりません。キャプチャリングした情報を有効に取り扱うためにプラットフォームを用意し、そこに複合機がつながることで、業種・業務のフローの一部を担うことができます。そして複合機以外にもアナログ情報をキャプチャリングしてデジタル化するエッジデバイスを提供し、それをアプリケーションソフトやサービスと組み合わせてお客様の業務課題を解決するソリューションに仕立て、お客様の働く現場で価値を発揮するようにサポートしていきます。
リコーのデジタルサービスとは、ワークプレイスのITインフラを作り、ワークフローをデジタルでつなぎ、新しい働き方を実現するものです。お客様に寄り添いながらお客様ごとに異なる課題をくみ上げ、リコーならではの技術力で、そのお客様にぴったりな解決策を提供することが、リコーらしさである、私はそう考えています。
デジタルサービスの会社になるというとクールなイメージがあるかもしれませんが、まったく違います。お客様が何に困っていて何に苦労されているのかを理解し、どうしたらお役に立てるのかを考える。まさに血の通ったサービスです。「お客様に寄り添うこと」。これはリコーが創業以来変わらずに大切にしていることの一つであり、信頼関係があってこそお客様に寄り添い続けることができるのです。私たちが世界各地に有する約140万社のお客様との間に築き上げた信頼関係の価値を、まずは社員一人ひとりがしっかりと認識することが重要です。そしてリコーの強みとして、他社にはできない信頼をベースにしたサービスを提供することで唯一無二の存在になることを目指します。
2021年6月には、お客様からお預かりした情報資産を自然言語処理AIで分析し、業務の効率化や新たな価値創造につなげるサービスとして「仕事のAI」を国内でリリースしました。このサービスにより、従来は担当者の勘や経験に頼っていた暗黙知を顕在化させ、さらには動向把握や将来予測などを高効率・高精度で行うことが可能になります。お客様が私たちリコーを信頼しデータを共に利活用させていただけることで成り立つものであり、これこそが私たちならではの信頼をベースにしたサービスだと言えるでしょう。
デジタルサービスを提供する上でもう一つ大切なことは、アナログの価値をしっかりと理解することだと思います。デジタル化を進めれば進めるほど、アナログの魅力や大切さがあぶり出されます。最近ハイブリッドということがよく言われますが、それは単にデジタルとアナログを組み合わせるということではありません。デジタル化の推進と同時にアナログの使い方も研究していくことで、それぞれの良さを引き出し、うまく掛け合わせていくことがハイブリッドです。リコーは、お客様ごとに異なるハイブリッドの形を見つけ出して、「人にやさしいデジタル」を合言葉に、最適なデジタルサービスを提供します。
もう一つ、リコーが変わらずに大切にしていることとして、リコーの創業の精神である「三愛精神」があります。「人を愛し、国を愛し、勤めを愛す」というこの三愛精神は国連が定めるSDGsの原則である「誰も取り残さない社会」という考え方に通じるものです。この三愛精神に基づき、「事業を通じた社会課題解決」とそれを支える「経営基盤の強化」の2つの領域で7つのマテリアリティを特定し、それに紐づく17のESG目標を設定しています。私はこれらのESG目標を将来のビジネスにつなげるという意味で「将来財務目標」と呼び、財務目標とともに、企業価値向上を追求するための指標として重視しています。
デジタルサービスの会社への変革に必要なデジタル人材の量・質の確保や再生可能エネルギーの活用加速による温室効果ガスの着実な削減、取引先と一体となった人権問題への取り組みなど、バリューチェーン全体を俯瞰した活動を進めることで、サステナビリティやESGに関してグローバルでトップレベルの貢献を果たすことを目指しています。2020年度から役員の報酬をESG評価と連動させたことで、経営とESGを連動させる意識が一層高まったと感じています。
2018年にニューヨークで開かれた「Climate Week NYC」で基調講演を行ったとき、「私たちは祖先からこの地球を受け継いだのではない、未来の子どもたちから預かっているのだ」というネイティブアメリカンの格言を引用しました。私たちは未来への大きな責任を負って、この事業に取り組んでいるのであるという自覚をもち、これからもステークホルダーの皆様とともに、持続可能な社会の実現に向けて責任を果たしていきたいと考えています。
2036年にリコーは100歳を迎えます。私は100歳の次の1年を101歳ではなく、新たな1歳として迎えるようにしたいと考えています。そのために掲げたのが2036年ビジョン「“はたらく”に歓びを」です。リコーの次の100年は、お客様や社会に対して「“はたらく”に歓びを」を提供できる会社になっていたい。“はたらく”の未来を想像し、はたらく人の創造力を支え、人々の生活の質の向上、さらには持続可能な社会の実現に貢献していきたい。そう簡単なことではありませんし、「第二の創業」という強い覚悟で臨むことが必要だと考えています。まずは、お客様の生産性向上や効率化といった目の前にある課題解決を進め、その先にある創造的な仕事とは何か、はたらく歓びを提供する会社になるために何が必要なのかをお客様と共に考え、創っていきたいと思います。
そのためにも社員一人ひとりが、三愛精神の実践やリコーウェイで掲げた7つの価値観を自分ごととして実践していくことが何より重要です。そして社員自身がはたらく歓びという価値を理解して実体験し、そのはたらく歓びという価値を、今度はお客様に提供できれば、リコーは本当に強い会社になれると思います。良い会社であることは大切ですが、同時に強い会社でなければサステナブルではありません。今回の新型コロナウイルス感染症のように、想定をしていないような事態が起きたときに、自律型の社員が自分の判断で行動していくことで、社会から必要とされる、強い会社であり続けることができるのです。
リコーはこれからもステークホルダーの皆様との積極的な対話を継続し、デジタルサービスの会社としての事業成長と、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献していきます。そして人々のはたらく歓びを、生きる歓びへとつなげていくために、創業以来不変の三愛精神のもと、変わりゆく“はたらく”に変わらずに寄り添いながら、今後も未来への挑戦を続けてまいります。