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「“はたらく”に歓びを」の実現を目指し
リコーが進める人的資本戦略の現在地

本コンテンツは、日経BPの許可により『日経ビジネス』2023年3月13日号の掲載内容より抜粋して作成したものです。禁無断転載

Mayuko Seto
瀬戸 まゆ子氏

株式会社リコー コーポレート上席執行役員 CHRO

日本の大学を卒業後、米国の大学院にて心理学修士取得。米国で働いたのち、2000年外資系製薬会社へ入社。その後、外資系金融を中心に人事関連の要職を務め、2020年リコーに入社し、翌年から現職。

リコーは、2023年4月に企業理念であるリコーウェイを改定し、創業100年の2036年ビジョンに掲げていた「“はたらく”に歓びを」をリコーの「使命と目指す姿」と定める。その実現に向けて、自らの“はたらく”を変革しながら、デジタルサービスの提供により顧客の“はたらく”も変革していく。その背景にある考え方やグループの取り組みについて、リコー コーポレート上席執行役員 CHROの瀬戸まゆ子氏に聞いた。

リコーは長年、OAメーカーとして複合機を中心とする事務機器を提供してきた。しかし今般のコロナ禍に先立つ時期から将来のペーパーレス化やオフィスの在り方、人々の働き方の変化を見据え、OAメーカーからデジタルサービスの会社に転換する方向性を打ち出し、その道筋として「人」「組織」「文化」を変革する新たな取り組みに着手してきた。

「2017年から、従来の働き方改革の延長線上ではなく“変革”という視点で取り組んできました。“はたらく”とは何かをゼロから問い直し、会社主体ではなく、社員が主役となり、一人ひとりがイキイキと働ける会社づくりを目指して“社員のための働きがい改革”を進めてきました」

組織風土の変革やRPAの徹底活用、働き方の選択肢増、人材の見える化、ジョブ型人事制度、リコーデジタルアカデミーの設立などの施策を順次導入。こうした新しい取り組みは、従来の働き方改革に見られがちだったリモートワークやハイブリッドワークといった“HOW”に注目したものではなく、「“はたらく”に歓びを」の実現というゴールに向かうための出発点のイメージだと瀬戸氏は強調する。

「働き方は、はたらく歓びの入り口です。ハイブリッドな働き方が社内でも広く浸透しました。リコーの働き方の制度は柔軟で、基本的には会社から細かく指示を出したりはしていません。ただ、社員が迷うことがないように、ガイドラインを定め、特に次の2点を強調して伝えています。全ての仕事はチームで共創するものなので、誰も取り残されることがないよう、チーム全員が協働して効果的に仕事ができるようなルールをチームで決めること、そして生産性・創造性を高めるために工夫することです。この2点だけはガイドラインとして伝えています。チームのコンディション変化を把握し、課題があれば必要な対策を早く打つために、ヘルスチェックのような取り組みも始めました」

自律型人材の活躍により「はたらく歓び」の好循環を実現

デジタルサービスの会社への変革にあたっては、「人」「組織」「文化」の変革が重要なポイントになると瀬戸氏。「これまでの製造業では、社員個々の役割を明確化・細分化した分業と、上からの指示に従うピラミッド型構造が有効でした。ところがデジタルサービスの会社になると、顧客それぞれの異なるニーズに応じて、プロダクトやサービスを組み合わせ、最適なソリューションを素早く提供していかなければなりません。となれば、社員一人ひとりが会社から回答を与えられるのではなく、自主的に考え、行動ができる自律的な業務への取り組み方が求められます」。

これらの変革に取り組む中、4月からは大山晃氏が新社長に就任し、新たな経営体制での中期経営計画が始まる。その人事戦略で重視しているのが人的資本への投資だ。デジタルサービスの会社として顧客に価値を提供するには、上述のマインドセットに加えて、社員個々に一定のデジタルリテラシーがあることも前提となる。同社では、デジタル技術とデータを使いこなし、リコーのデジタルサービスを創出・加速させる人材を「デジタル人材」と定義し社員の学びを全面的にサポートしている。

「社員一人ひとりが自律的に学び、スキルが向上することは、顧客へのサービス拡充、言い換えれば当社の成長に直結します。マインドセットの転換と習得したデジタル力を自分たちの業務に適用することがお客様への提供価値を生み出す筋力になりますし、お客様へはたらく歓びをご提供することにもつながります。そのような成功体験は社員のエンゲージメント向上にも好影響を与えます。このようなはたらく歓びの連鎖・好循環を『はたらく歓びのバリューチェーン』としています。さらに、自律のマインドとデジタルを使いこなす仕事のやり方が定着していくと、社内での部門の壁を越えた協業や、社外の同じ目的を持った人たちとの共創も今よりもっと活発になります。『共創』で社員も会社もより成長していくことができると思います」

“はたらく”にまつわる課題はSDGsにつながるテーマ

リコーは事業活動を通して社会課題の解決を目指している。また、ESGの取り組みを将来財務と位置づけ、経営戦略への統合を図っている。社会課題にも様々あるが、「働くことに歓びを感じられないこと」も日本が抱える大きな課題だと瀬戸氏は指摘する。すなわち、「“はたらく”に歓びを」の実現を目指すリコーの取り組みは、働きがいと経済成長が両立する持続可能な社会への貢献にもつながる。世の中の“はたらく”を変革していく人的資本戦略に、今後より一層力を込めていく。

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