実行力・資本効率をともに高め
ROE10%超へ
川口 俊
取締役
コーポレート専務執行役員
CFO
2026年9月8日
1986年 3月
株式会社リコー 入社
入社以来、一貫して経理・財務業務に従事
2度にわたる長期の北米での勤務を経て、グループ各社のCFOを歴任
2007年 5月
InfoPrint Solutions LLC CFO
2010年 8月
Ricoh Americas Holdings, Inc. SVP(Senior Vice President)
2015年 10月
コーポレート統括本部 グローバルキャピタルマネジメントサポートセンター 企画部 部長
2018年 4月
経理法務本部 財務部 部長 兼 CEO室 室長
2018年 10月
リコーリース株式会社 執行役員 経営管理本部 本部長
2020年 4月
同社 取締役 専務執行役員
2021年 6月
財務統括部 部長
Ricoh Americas Holdings, Inc. 会長 兼 社長
2022年 4月
コーポレート執行役員
CFO(現在)
2023年 4月
コーポレート専務執行役員(現在)
2023年 6月
取締役 (現在)
2025年度の決算は、連結売上高2兆6,083億円(前年度比3.2%増)、営業利益907億円(同42.1%増)、親会社の所有者に帰属する当期利益556億円(同21.8%増)となり、ROEは5.1%に改善しました。利益水準は着実に回復したものの21次中経で掲げた目標には届いておらず、株主・投資家の皆様のご期待に十分お応えできなかったことを真摯に受け止めています。
一方、21次中経スタート当初に、従来の延長線上の取り組みでは中経の目標達成は難しいとの危機感から「企業価値向上プロジェクト」を立ち上げ、固定費削減、事業ポートフォリオの見直し、そしてオフィスプリンティングの構造改革を進めました。オフィスサービスを成長の柱と位置付け、ストック利益の積み上げを進めながら、市場縮小が続くオフィスプリンティングでは、エトリアの設立や販売・サービス体制の見直し、SCMの最適化などに取り組みました。この結果、2024年度から2025年度の2年間で578億円の収益改善効果を創出しました。
しかしながら、収益体質は改善したものの資本コストを上回るリターンを安定的に生み出す水準には至っておらず、収益改善のスピードと実行力には課題が残りました。米国の関税政策、欧州景気の低迷、中東情勢の緊迫化に加え、AIによって働き方も大きく変わりつつあります。こうした急激な環境変化の中では、持ち得るデータを活用し、課題を先送りせず具体的な打ち手につなげること、そしてそれらをスピーディーに実行していくことが重要であると考えています。
中経’26の策定にあたっては、「ありたい姿」から逆算して考えることを最も重視しました。5年後の将来像を起点に、その実現に向けて事業、組織、収益構造の何を変えるべきかを、役員が何度も集まり、約1年間にわたって徹底的に議論しました。さらに、ストック利益の拡大を起点にROIC・ROE・PBRへとつながる財務ツリーを整理し、各戦略・施策がどのように財務成果につながるのかを可視化しました。その結果、将来像から戦略、財務目標に至るまで一貫性のある中期経営戦略を策定することができました。
中経’26における財務成果としてのゴールは、ROE10%超の達成です。株主資本コストを7.5~8.0%と見ており、それを継続的に上回るROEを確保し、株価上昇と株主還元を含めたTSRの向上につなげていく考えです。
そのために、どのような環境変化が起きても持続的に価値創造できる財務基盤と経営の選択肢を準備しておくことが私の役割だと考えています。ROE10%超という目標も、そうした観点から検討を重ねたものであり、希望的観測で設定したものではありません。
事業環境の悪化や事業ポートフォリオの見直しなど、想定し得るさまざまなシナリオを織り込んだ上で、それでも達成すべき水準として掲げています。
その実現に向けて、「利益成長」「資産効率向上」そして「資本構成の最適化」の3つのレバーを同時に動かしていきます。
ワークプレイスサービスを中心としたストック利益の拡大により利益成長とキャッシュ創出力を高め、アセットライトな事業構造への転換を進めることで、資産効率を向上させます。さらに、安定的なキャッシュ・フローをベースに負債も適切に活用し、資本コストの最適化を図ります。これら3つを同時に進めることでROEの改善を進めていきます。中でも重要なのが、ストック利益の拡大です。収益の安定性を高めるだけでなく、資本収益性の改善にもつながるからです。
また、現在のネットD/Eレシオは0.3倍以下ですが、今後は0.4倍以下の範囲を適正レンジとして管理していきます。これは財務リスクを不必要に高めるものではなく、財務健全性を維持しながら資本構成をより適正な形にし、WACCの低減とエクイティスプレッドの拡大を図るためです。負債も適切に活用することで資本効率を高め、持続的に資本コストを上回るリターンを実現していきます。
格付を意識した財務規律を堅持した上で、成長投資を実行します。また、事業構造がアセットライト化する中で手元流動性の適正水準も含め、資産効率の最適化を図ります。また、グローバルでのキャッシュ・マネジメント強化にも継続して取り組んでいます。
本社財務部門がグループ全体の資金を可視化・一元管理し、資金の最適配分を実現することで、資金効率の向上と財務ガバナンスの強化を図り、財務基盤を一層強化していきます。
中経’26では、創出される営業キャッシュ・フローを原資に約3,500億円を成長投資枠として設定し、そのうちM&Aなどの投資には約2,500億円を配分する計画です。M&Aは、ソフトウェアの内製化やストック利益の獲得につながる領域として、WEやPAの領域に集中していく考えです。
私は全社の投資委員会において、「なぜその投資がリコーに必要なのか」を問い続けています。M&Aは売上規模の拡大ありきではなく、シナジーを創出しキャッシュ創出力と資本効率を高めるために実行します。買収過程でのPMI検討内容まで含めて厳しく評価し、必要な場合は早期の事業撤退も断行します。研究開発については、インクジェット分野やエトリアのシナジー創出に向けた投資を継続していく考えです。
リコーグループは、プリンティングを中心とした会社からワークプレイスサービスを中心に価値を提供する会社へと、事業構造の転換を進めています。成長領域であるワークプレイスサービスにおいては、各地域の販売サービス会社がインテグレーターとして顧客接点を活用して提供価値の幅と質を高めることでストック利益を拡大していきます。地域ごとの成功事例をグローバルに展開し、DocuWareやnatif.ai、Axon Ivyなどの買収企業のソリューションも各地域で得た知見をもとに横展開することで、成長のスピードを速めるとともに収益性を高めます。さらに、組み合わせる商品・サービスを可能な限りグローバルで共通化することで、収益性の改善も図ります。
財務面で重視しているのは、ストック利益の拡大を資本効率の向上につなげることです。各地域の販売サービス会社のROICを現在の5.3%から13%まで引き上げるとともに、2030年度までに各社の事業規模を15%拡大し、全社ROIC7%超およびROE10%超の実現につなげます。ストック利益の成長率についても2025年度の1.8%から2026年度には2.5%へ、さらにその先は3%水準まで高める計画です。なお、これらの成長率はプリンティングにおけるストック縮小も織り込んでいます。2030年度には、ストック利益に占めるワークプレイスサービスの構成比を21%から37%に引き上げます。
ワークプレイスサービスは在庫負担が小さいアセットライトなビジネスであり、継続的な契約を通じて安定的なキャッシュ創出が見込めます。サービス比率が上昇することで、収益の安定化に加え、運転資本効率やキャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善にもつながります。ストック利益の拡大を、成長戦略だけでなくキャッシュ創出と資本効率向上につながる重要な取り組みと位置づけています。
コスト構造改革は、21次中経で実施した「企業価値向上プロジェクト」で完了するものではなく、継続的に取り組みます。事業ポートフォリオが変化し続ける中で、構造改革も常にアップデートしていきます。インフレなどコントロールできない外部環境を踏まえ、商品・サービスへの価格適正化も実施していきますが、それ以上に重要なのは、体質強化によるコスト改善を継続的に進めることです。具体的には4つの改革を重点的に推進します。
第一は、本社機能を中心とした「バックオフィス改革」です。DX・AIの活用を通じて業務効率を高め、創出された人的リソースを成長領域へ再配置することで全体最適化を図ります。
第二は、「グローバルSCM改革」です。ワークプレイスのインテグレーターとして事業を拡大する中、グローバル調達力を強化するとともに、物流改革を通じてラストワンマイルの効率化を進めます。
第三は、「事業・個社のポートフォリオ最適化」です。市場環境や収益性を踏まえ、事業だけでなくグループ会社のあり方も見直します。地域によっては直販にこだわらず、販売パートナーの活用も含めた最適な事業モデルへの転換を推進します。
第四は、「資産整理と拠点最適化」です。拠点最適化では、グローバルに複数あるシェアードサービス拠点について、それらの統廃合だけではなく、どの機能をどこで担うのが最も効率的かという観点で見直します。全体最適の視点で体制を再構築し、より生産性の高いオペレーションを構築します。
これら4つの改革を一体的に推進することで、400億円超の経費削減と資産圧縮を実現します。
5年後に向けたマイルストーンとして、2026年度は連結売上高2兆7,000億円、営業利益950億円、親会社の所有者に帰属する当期利益620億円を見込んでいます。成長を牽引するのはワークプレイスサービスです。21次中経で推進した「企業価値向上プロジェクト」の効果も継続します。半導体メモリのコスト増を想定していますが、価格適正化やSCM・調達改革でその多くは吸収可能と考えています。
また、中東情勢などの地政学的要因に伴う部材費や物流費の上昇などのリスクへの対応も進めています。
株主還元については、総還元性向50%を目安としつつ毎期増配にこだわります。2026年度は年間配当44円を予定しており6期連続の増配となる見込みです。さらに250億円の自己株式取得を実施し発行済株式総数(自己株式を除く)の4%にあたる2,300万株を上限に取得します。総還元性向は約80%となる見通しです。
一貫して大切にしてきたのは、事実をベースに議論することです。数字の背景にある現場の実態や事業構造を理解し、将来に向けた課題を明らかにする。加えて、各部門がそれぞれの立場で最善を尽くしている中で、それが会社全体としての最適解なのかを俯瞰し、データで確認する。それを「整える」と言っています。こうしたことを積み重ねることで、実行力やスピードにつなげ、意思決定の質を高めたいと考えています。
また、経営と現場をつなぐ上で社員との直接対話も大切にしており、国内外の社員とラウンドテーブルの場を設けています。私から一方的に話すのではなく、社員が知りたいことを質問してもらい、課題に感じていることを率直に語ってもらうことを重視しています。そして、必ず伝えているのが「学習し続けてほしい」ということです。内容は何でも構いません。学び続けるという行為そのものが人を成長させると思うからです。AIが急速に普及し、読むことや書くこと、考えることを自ら行わなくても済む場面が増えていきます。そうした環境だからこそ、自分の頭で考え、手を動かし、知識を吸収し続けることが不可欠だと考えます。
Ricoh Franceでのラウンドテーブル
企業価値向上の重要なプロセスと位置付けています。株主・投資家の皆様は、財務成果だけでなく戦略の妥当性や実行力、そして経営としての問題意識を厳しく見られています。株式市場から中長期にわたりご支援いただくために、データの背景にある事業構造や市場環境を丁寧に説明し、リコーグループの取り組みがどのように企業価値向上につながるのかを理解いただくことが重要です。一方で、強みだけでなく改善すべき点や今後の課題も正直にお伝えします。私たちがどのような問題意識を持ち、どのような選択肢を準備しているのかを透明性高く共有するとともに、対話を通じて得られた示唆を経営に活かしていきたいと考えています。