(写真左から)
石村 和彦
社外取締役
取締役会議長
石黒 成直
社外取締役
筆頭社外取締役 指名委員長
モデレーター
梅田 智博
コーポレート・セクレタリー
リコーグループは、企業価値向上に向けてガバナンスの強化に継続的に取り組んでいます。2026年4月には、資本市場との建設的な対話を経営やガバナンスに反映し、取締役会の実効性を一層高めるため、コーポレート・セクレタリーを新設しました。今回の対談では、コーポレート・セクレタリーの梅田をモデレーターに、石村社外取締役、石黒社外取締役が、取締役会の役割、21次中経の振り返りを踏まえた課題認識、中経’26での実効性向上、さらに社外の視点でのガバナンスや監督機能のあり方について意見を交わしました。
梅田: 本日は私が進行役を務めます。私はコーポレート・セクレタリーとして、ガバナンスや取締役会の実効性向上、意思決定と監督機能の高度化を支える企画・運営を担っています。足元では、資本市場からの評価も踏まえ、取締役会に求められる役割が一層重要になっていると認識しています。本日はお二人に率直にお話を伺えればと思います。
まずは、新体制についてです。6月に石村さんが取締役会議長に、石黒さんが筆頭社外取締役と指名委員長に就任されました。リコーの取締役会やガバナンスに関して、どのような問題意識や思いをお持ちでしょうか。
石村: リコーのガバナンスは全体としてよく考えられており、効果的に機能していると認識しています。取締役会でも、社内外の多様な意見を公平に引き出し、意思決定につなげる仕組みが機能していると感じます。議論の場では、全員が率直かつ忖度のない意見を交わしています。真剣に議論するオープンな雰囲気があり、執行側も取締役会の議論を真摯に受けとめています。こうした姿勢はボードカルチャーにも表れており、リコーならではの強みと捉えています。議長として、この土壌を深化させ、議論の質を一層高めていきたいと考えています。一人ひとりが適度な緊張感を持ち、主体的に考え、自らの責任で判断できる取締役会であり続けられるよう、支えていきます。
石黒: 筆頭社外取締役として、必要以上に取りまとめ役を担う意識はありません。一方で、社外取締役の存在意義や役割を明確に示し、イニシアティブをとることは重要だと考えています。そのためにも、取締役一人ひとりが、それぞれの問題意識に基づき、自由闊達かつ率直に発言できる土台を整えることが、私の役割だと認識しています。また、指名委員長としては、社長の選解任にとどまらず、執行体制全体が適切に機能しているかを俯瞰的に見ることが重要です。単なる人事ではなく、執行部門をどう活性化し、経営力の向上につなげるかを命題にしていきたいと考えています。
梅田: リコーのガバナンスや取締役会は、これまでも社外取締役が主導し、実効性を高めてきました。直截的な言い方になりますが、社外取締役にいかに効果的に機能していただくか、という観点で運営や支援をしていくこともコーポレート・セクレタリーの重要な役割の一つであると認識しています。
梅田: 次に、21次中経を振り返って伺います。今年実施した取締役会の実効性評価でもさまざまな議論がありました。この3年間をどのように評価されていますか。また企業価値や資本収益性の観点から、株主・投資家の皆様の期待にどう応えていくべきとお考えですか。
石村: 21次中経の財務目標の達成に至らず、業績や資本収益性の面で株主・投資家の皆様のご期待に応えられなかったことを取締役会として非常に重く受け止めています。中経’26では資本収益性の向上を主眼に議論を進めてきました。一刻も早く、株主・投資家の皆様のご期待に応える業績を実現し、責務を果たさなければならないと考えています。
石黒: 私も同じく、中経の財務目標が達成できず、株主資本コストを下回るROEが長く続いていることは、取締役会として取り組むべき最大の課題であり、社外取締役として真摯に向き合うべきものと捉えています。振り返ると、リコーの新たな成長の道筋を十分に示し切れなかったことが大きな反省点です。成長への確信は計画達成の原動力になりうるからです。一方で、すべてが不十分であったわけではありません。企業価値向上プロジェクト、固定費削減、リスキリングの推進、エトリアを通じたオフィスプリンティング分野の開発・生産体制の強化、包括的なインセンティブ制度の見直しなど、収益基盤を支える取り組みは着実に進展しました。今後は、その基盤を成果につなげる実行力が問われます。
梅田: インセンティブ制度の見直しは、2024年10月から、指名委員会と報酬委員会の合同委員会として進められてきました。社外取締役が中心となってリードしてきた取り組みです。石黒さんは指名委員長として改革を主導されましたが、当時はどのような認識をお持ちだったのでしょうか。
石黒: 私は石村委員長から引継ぎを受け、指名委員長として役員ポストや評価制度の見直しに取り組みました。また報酬委員として報酬制度の見直しにも関わりました。検討にあたっては、取締役会が責任を持って企業価値向上につながるガバナンス改革を進めるべきだという考えを委員で共有しました。経営陣の評価や報酬にとどまらず、経営全体の俯瞰的な点検が必要との考えから、執行体制や執行役員制度も含めて見直しました。企業価値向上には、経営力と執行の実行力を高めることが何より重要です。報酬についても、報酬委員会の谷委員長が中心となり、企業価値やROEに連動した報酬設計などを見直しました。新制度では社内役員だけでなく、社外取締役にもRSU(業績非連動型株式報酬)を導入するなど、株主・投資家の皆様の視点を徹底しました。
石村: 21次中経では、デジタルサービスの会社への転換を進めました。この方向性そのものは正しいと考えています。一方でそれが収益の柱として成長しているのか、十分なスピードで進展しているのかについては、取締役会でも幾度となく厳しい議論をしてきました。この3年間の議論を通じて、デジタルサービスの提供形態は市場特性によって異なることが明確になりました。日本、欧州、米州など各地域の実情に応じた最適なアプローチや体制が必要だという認識も共有できたと思います。株主・投資家の皆様に対しては、方向性を示すだけでなく、実績を積み上げ、進捗を明確に示すことが重要です。それが信頼につながると認識しています。
梅田: 株主・投資家の皆様の期待に十分に応えられていない現状について、取締役会では強い問題意識を持って議論してきました。真因を分析し、的確な対応を見極めようとするお二人の姿勢は、日頃の白熱した議論からも感じています。ここまでの振り返りを踏まえ、現在の取締役会における議論や監督の状況をどのように思われていますか。
石村: 取締役会では、デジタルサービスの会社への転換に向けて、どの事業領域に注力すべきかを継続的に議論してきました。リコーの強みは何か、取り組む意義はどこにあるのか、どのように差別化し、どのリソースを活用して競争優位を築くのか。こうした本質的な問いを取締役会で繰り返し投げかけてきました。執行側には的確な分析と説明を求めています。一方で、将来の成長に向けてどの領域に投資するかは、取締役会が責任を持って判断すべきだと考えています。重要なのは、収益構造や成長領域を可視化し、戦略の妥当性を継続的に検証できる状態をつくることです。中経’26では、これまで以上に踏み込んだモニタリングを行い、必要に応じて機動的な戦略修正を促すことが取締役会に求められていると認識しています。
石黒: 石村さんのお話のとおり、事業をより精緻に見ていく点では、中経’26において、大きな前進がありました。事業軸と地域軸が交わるレベルまで踏み込み、戦略や体制についてきめ細かく議論できたためです。一方で、今後はさらに一段深堀りした分析が必要になります。「どこに投資すればどのような成果が期待できるのか」「どの事業がキャッシュ創出を担うのか」をより粒度を上げて明確にしていくことが重要です。これまでのオフィスプリンティング事業は、複合機を中心とした強力な成功モデルでしたが、今後は、複数の事業と地域を組み合わせながら、成長性と収益性を見極め、戦略と体制を俊敏に最適化していく経営が求められます。こうした認識のもと、中経’26では戦略のローリング方式を採用しました。取締役会としても、必要に応じて執行と一体となって戦略の検証サイクルを回しながら、ポートフォリオマネジメントの実効性を一層高めていくことが重要であると考えています。
梅田: 取締役会では成長領域の収益構造や投資の妥当性について、相当踏み込んだ議論が行われてきました。一方で、十分に可視化されていない領域もあり、今後はより精緻な情報整理と分析が不可欠です。
梅田: 今後リコーにはどのような変革が必要だとお考えでしょうか。今回、事業セグメントやグローバルでの販売体制を大きく見直しました。昨年度から、取締役会でもこうした経営体制について多くの時間をかけて議論してきました。新たな体制で中経’26を実行するにあたり、取締役会に求められる監督のあり方についてもお聞かせください。
石村: 中経’26で重要なのは、地域戦略をいかに機能させるかという点です。リコーの強みは、これまで培ってきた顧客基盤とグローバルに展開できる組織力にあります。一方で、デジタルサービスそのものだけで差別化することは容易ではありません。だからこそ、各地域の市場特性に応じた最適なビジネスモデルを構築し、その有効性を迅速に検証することが重要です。こうした取り組みの成果は、比較的早い段階で見えてくるものと考えています。取締役会としては、設定したKPIを継続的にモニタリングし、その結果に基づいて、戦略の妥当性を適切に判断していきたいと考えています。
石黒: 今後の変革において重要なのは、まずオフィスプリンティング事業の収益を可能な限り維持・強化することです。これが揺らげば、新たな成長に向けた投資余力に制約が生じます。取締役会としては、市場全体の縮小リスクと、その中での自社のポジショニングの両面から、事業の状況をしっかりとモニタリングしていきます。加えて、成長分野をきめ細かく見極めることも重要です。デジタル領域は差別化が容易ではない面もあるため、単一のビジネスモデルで全方位をカバーするのではなく、顧客との関係性を基盤に、地域やお客様に応じた最適な価値を提供していく必要があります。そのためには、事業の進捗を評価する際に、より細かな単位で成長ポテンシャルや収益性を把握する視点が欠かせません。
梅田: 中経’26では、ストック利益の拡大に向け、事業と地域の両軸での戦略と実行を進めています。取締役会には、KPIに基づくモニタリングによる戦略検証と、必要に応じた機動的な軌道修正が求められています。私自身も、情報の可視化と論点の明確化を通じて、議論の質とスピードの両立を支えていきたいと考えています。
梅田: 取締役会では強い危機意識のもと、取締役一人ひとりが率直に議論を重ねています。私からも、株主・投資家の皆様から寄せられた厳しいご意見を積極的に共有してきました。株主・投資家の皆様のご期待にお応えする上で、現時点での課題をどのように認識されていますか。また、「リコーは変わった」と評価いただくために、どのような指標や変化が重要だとお考えでしょうか。
石村: 資本市場に対しては、何よりも結果を示すことに尽きます。多くの株主・投資家の皆様は、リコーがデジタルサービスの会社への変革を目指す方向性に対しては一定の理解を示してくださっています。一方で、その成果が十分に見えていないことに懸念をお持ちなのではないでしょうか。だからこそ、目指す方向性だけでなく、具体的な結果を示すことが不可欠です。「リコーは変わった」と評価いただくためには、事業ポートフォリオの変化がカギになります。ワークプレイスサービスをはじめとした成長領域のストック利益の比率向上に加え、地域ごとの収益構造がどのように変化しているのかを継続的に示す必要があります。グローバルでの安定収益の拡大に伴い、資本構成も変化します。これらを通して、安定的に株主資本コストを上回るROEを実現し、資本市場からの信頼を獲得していかなければなりません。今回、資本市場に関する豊富な経験と知見を持つ林さんに取締役として加わっていただきました。議長としても、株主・投資家の皆様の視点を踏まえた議論が一層充実したと感じています。
石黒: 資本市場との関係において重要なのは、株主・投資家の皆様からどう見られるかだけではありません。リコー自身がどのような姿を目指し、どのような未来を実現したいのかを明確に示すことも重要だと考えています。その上で、社内でのみ通用する言葉ではなく、資本市場をはじめ社会に開かれた言葉で発信することが不可欠です。独立社外取締役は、資本を基点とする投資家と、人を基点とする経営が交わる接点に立つ存在だと認識しています。だからこそ、株主・投資家の皆様に加え、社員や取引先を含む幅広いステークホルダーとの関係性をどう活性化し、価値創造へつなげるかを見る必要があります。中経’26においては、成長領域における収益拡大、ROEの改善、経営スピードの向上を通じて、企業価値、株主価値に変革の成果が表れてくるものと考えています。
梅田: 今年の取締役会実効性評価においても、取締役会がステークホルダーにより近い存在となるべきとの議論がありました。リコーの取締役会は、資本市場から遠い存在であってはなりません。透明性を高め、株主・投資家の皆様との対話から得た知見や示唆を経営やガバナンスに反映し、その結果を適切に発信していくことが重要だと考えています。
梅田: 続いて、2026年度以降、議長として、また筆頭社外取締役および指名委員長として、特に意識して取り組んでいきたい点について教えてください。
石村: 議長としては、企業価値・株主価値の向上という本質的な目的を常に共有したいと考えています。その上で、忖度のない率直な議論が行われる場を何より重視していきます。ただし、それだけでは十分ではありません。これからのリコーは有言実行の会社へと変わっていくことが不可欠です。中経の未達が続いてきた中で、掲げた方針を着実に実行し、具体的な成果につなげていくことが求められています。そのためには、執行の実行力を一層高める必要があります。取締役会としても適切な緊張感を持ち、変革をしっかりと後押ししていきたいと考えています。
石黒: 私が意識しているのは、強い執行の実現です。強い経営は強い執行にこそ宿ると考えています。自社の現状を的確に分析し、的を射た打ち手を提案し、スピーディに実行できる経営が重要です。また、多様な意見の中から優れたアイデアを生みだせる組織であってほしいと思います。今回の改革で、経営機構を見直し、コーポレート執行役員と事業執行役員が健全な緊張関係のもとで対峙する仕組みを整えています。コーポレート執行役員は全社最適の観点から、事業執行役員は事業戦略の達成に向けて、それぞれの立場から議論し、互いの理解が進むことで、実行力の向上につながると考えています。また、それぞれが担当する執行に専念できる体制とし、その実績を厳格に評価する仕組みも整えました。これにより、経営が継続的に強化され、計画達成に向けたモチベーション向上にもつながっていると認識しています。
梅田: 執行の強化は、お二人が常に意識し、主導して改革を進めてこられた点です。CEOの戦略策定を支援する諮問機関の設置から評価・報酬設計まで、企業価値向上に向けた包括的な見直しが行われました。今後は、これらを確実に運用し、経営力強化へとつなげていくことが重要です。取締役会としてもその実効性をしっかりと監督できるよう支援していきたいと思います。
コーポレート・セクレタリーの役割について
取締役会直属の役職として、資本市場と取締役会、各諮問委員会との円滑なコミュニケーションを支援します。また、資本市場から寄せられる中長期的な期待や懸念を整理・分析し、経営やガバナンスに反映することで、取締役会の議論や意思決定の質を高めるとともに、ガバナンスの高度化と経営の透明性・信頼性の向上につなげていきます。
梅田: 最後に、現場視察や社員との対話について伺います。これらの活動は、リコーへの理解や取締役会での議論にどのような影響がありましたか。その上で、リコーの成長ポテンシャルについての手応えや期待をお聞かせください。
石村: 研究所や工場、買収先企業を訪問すると、リコーグループには高い専門性と熱意を持った人材が数多くいると強く感じます。対話が進むにつれてオープンに熱く意見を交わしてくれる点も印象的です。エトリアでも、現場の課題を的確に把握し、今後取り組むべきテーマや方向性について共通認識が形成されており、実行力の高さを感じました。また、ESGやリサイクルへの意識の高さに加え、AIを活用した工場改善など、自律的に改革を進める姿勢も確認できました。こうした現場の力こそがリコーの強みです。これを成長や新たな事業創出につなげることができれば、リコーには大きな成長の可能性があると、大いに期待しています。
石黒: 社員のレベルは高く、優秀な人材が多いと私も感じています。一方で、いわゆる「真面目で良い人」が多いという印象があります。より健全な競争環境や多様な人材が活躍できる機会をさらに広げてもよいと思います。この点は中経’26の議論にも反映しています。また、社員一人ひとりが当たり前のように取り組んでいることの中に、外部から見ると社会的意義が高く、大きな強みとして打ち出せる要素が数多く存在していると感じます。そうした価値を見出し、資本市場に伝わる形で言語化することも、社外取締役の重要な役割の一つです。リコーは今、複合機を中心とした事業で培った強みを基盤に、新たな成長領域へと事業構造の転換を進めています。これは、社員一人ひとりの力や可能性を、これまで以上に多様な形で発揮できるステージに入ることを意味しています。社員にとっても大きな挑戦であり、機会でもあります。変革の原動力は社員です。その力を引き出す環境づくりこそ、経営陣の重要な役割だと考えています。
梅田: 本日のお話を通して、お二人がリコーの新たな成長の可能性を見出されていることが印象的でした。株主・投資家の皆様との対話から得た知見を経営に反映すること。社員一人ひとりの力を引き出し、その力を結集できる環境をつくること。こうしたステークホルダーとの協働を通じた企業価値向上こそ、リコーらしいガバナンスのあり方だと感じました。本日は率直かつ貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
林 礼子
社外取締役
社会・経済環境の不確実性は、これまで以上に高まっています。その中にあっても、「三愛精神」を原点に、「“はたらく”に歓びを」を実現するべく、リコーウェイを実践し続けることが、企業価値向上の基盤になると考えています。
現在、リコーグループはワークプレイスにおけるグローバル随一のインテグレーターへの構造転換を進めています。生成AIをはじめとする技術の普及が進む今こそ、約140万社の顧客基盤、グローバルな顧客接点、蓄積された自社IPの強みを活かすことが重要です。お客様と共に未来のワークプレイスを構築し、構造転換と価値創出を着実に進めることで、競争力と収益性の向上につなげていくことが期待されます。
変革の道のりは決して容易ではありません。しかし、リコーグループが一丸となり、適切な投資と経営判断を継続することで、必ず成果を生み出せると確信しています。
私自身は長年、外資系金融機関において資本市場業務やサステナブル・ファイナンスに携わってきました。この経験を活かし、客観的な視点でリコーグループの課題とその根源を見極め、社外取締役として、ガバナンスの強化、ステークホルダーからの信頼確保、そして中長期的な企業価値向上に向けて、積極的に助言してまいります。