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リコー 創業80周年に寄せて(4P/333KB) 株式会社リコー 代表取締役 会長 近藤 史朗
近年デジタルカメラにおいて、シーンに適した露出、フォーカス、ホワイトバランスなどの制御により高画質な画像を撮影する機能が望まれるようになってきている。しかし、従来の当社のデジタルカメラでは画像のシーン認識をする技術が限定的であった。そこで、最近有望な技術として非常に注目されているDeep Learning技術をデジタルカメラのシーン認識に利用することで、当社の従来のシーン認識よりも認識率を大幅に向上させ、認識対象も拡大することができる技術を開発した。また、1つの画像で複数のカテゴリが正解となる非排他的カテゴリ認識への対応として、Deep Learningの畳み込み処理のカテゴリ間共通化技術を考案し、単純に排他カテゴリ認識を並列に並べるよりも処理量とメモリ量を抑えることができた。
一枚超解像は、低解像度画像の細部情報を他の画像から抽出した高周波成分を加えることで復元し、画質を改善する手法である。一枚超解像の中でも、学習型超解像(Example-based Superresolution: Example-based SR)は復元精度の高さから長年研究されてきた。特に、スパースコーディングを用いた手法(Sparse-coding Superresolution: ScSR)は失われた細部情報を正確に復元でき、かつ従来のExample-based SRに比べて処理時間を大幅に削減できることから盛んに研究されている。しかし、ScSRは未だに低速であり、実用化に向けて更なる高速化が求められている。この課題を解決するために本稿では、ScSRで使われる辞書を複数の縮小基底辞書に分割し、低解像度画像から抽出した入力パッチと辞書に含まれる基底とのマッチング回数を削減することで高速化する手法を提案する。実験により、提案手法は精度低下を最小限に抑制し、処理時間を1/2以下に短縮できることを示した。
製造品外観の良否判定を、画像を用いた外観検査により自動化したいというニーズがある。近年の撮像技術や画像認識技術の発展に伴い、画像による自動外観検査の利用が広がりつつある。本稿では、リコーの有する画像による自動外観検査技術のうち、外観検査の性能を競う国内のコンテストで優秀賞を受賞した2つの手法を紹介する。1つ目の手法は、機械学習の一手法である、「半教師あり異常検知」を用いた手法で、良品のサンプル画像のみから良否判定を可能とするものである。一般に、機械学習を利用するためには大量の学習用データが必要となるが、製造部品の不良品は良品に比べて数が少ないため、十分な量を用意することが困難である。そこで、良品のサンプル画像のみで学習可能なアルゴリズムを開発した。2つ目の手法は、外れ度を表すZ-scoreを改良した、良品の形状などがばらついていても精度良く欠陥検出を可能にする手法である。この手法は、1次加工段階の部品や食品など、良品の形状ばらつきが大きい対象でも高い精度で外観検査が可能である。
キーポイント検出とマッチングに向けたデータ駆動の多視点特徴量学習のアプローチを提案する。我々は検知する対象と、マッチングの手法を同時に畳み込みネットワーク(ConvNet)に学習させることができる4重サイアミーズ・アーキテクチャを開発した。
この4重サイアミーズ・アーキテクチャは4つのConvNet を持ち、それらは2つのサブネットワークに分類される。最初の3つのConvNetは多視点特徴量学習のため、最後の1つはキーポイント検出学習のために用いられる。
我々の多視点特徴量学習は、異なるキーポイント間より、同一キーポイントの類似性をより高く得ることができ、位置精度が高いキーポイントマッチングを実現することができる。
我々が提案する新たなConvNet学習のフレームワークによって、キーポイント検知とマッチング性能が、キーポイント位置の正確性と偽陽性率において最先端手法より良好な結果が得られることを示す。
頭部姿勢推定という研究課題はドライバの安全運転行動分析として必須である。単一のカメラでは視野が狭く人の頭部の動きを正確に推定することができないため、複数のカメラを配置することによって、より広い視野からドライバの頭部の動きを取得する方式が一般的に採用されている。本稿では最適化したマルチ視角による頭部姿勢推定の新方式を提案する。本方式では、運転席でのカメラとドライバの相対的な位置関係における姿勢制約条件を利用し、複数のカメラによる頭部姿勢の推定結果を融合させる。本方式の特徴は以下の3点である。1) 理想的な姿勢制約条件により、それぞれの視角での姿勢推定値を調整する。2) 2次元上に投影したエラーの平均最小化を最適化目標として姿勢推定値の調整を行う。3) 各視角における姿勢推定値の調整量を計算する。シミュレーションと実際の測定により、本方式がシステムの推定精度と信頼性を効率よく高めることを示すことができた。この頭部姿勢推定方式に基づき、我々は簡単なプロトタイプシステムを開発し、これを利用しドライバの頭部の動きについて分類を行った。
デジタルカメラには、ぶれの少ない良好な画像を撮影可能とする手ぶれ補正機能が搭載されている。これまでに、カメラの水平、垂直軸まわりの回転運動である角度ぶれを補正できるものが数多く発売されている。近年では、光軸まわりの回転ぶれや、水平、垂直方向のシフトぶれも補正できるものが登場し、5軸補正カメラとして発売されている。ユーザーの手ぶれ補正に対するニーズは益々高まっており、5軸補正機能の性能向上が望まれている。しかしながら、5軸の手ぶれ補正機能のうち加速度センサーで検出するシフトぶれは、検出誤差が大きく補正性能が低い。また、ジャイロセンサーを用いて検出する角度ぶれについても、長秒露光撮影では補正誤差がある。そこで本研究では、独自の加速度センサー配置とシフトぶれ検出技術を開発し、更にジャイロセンサー出力のフィルタリング最適化により、角度ぶれ補正を高精度化し、5軸5段手ぶれ補正技術を確立した。本カメラの手持ち撮影評価をした結果、自他社を含む従来カメラに対し、よりぶれの少ない良好な画像を得ることができた。
小型軽量や高耐久性などに優れるDLP (Digital Light Processing) プロジェクタの残課題の1つに投影色の個体差がある。今般、投影色の個体差を短時間かつ高精度、さらにコストアップなく補正できる新たな手法を開発した。DLPプロジェクタにはCCA (Color Coordinate Adjustment) やその他の色補正機能が一般的に使用されているが、異なるアプローチを用い、白色の現状色度と目標色度のみをパラメータとする独自の補正シーケンスを開発した。本手法を適用した結果、色温度の目標値に対する精度を100 K以内に抑えることも可能となり、既存の色補正機能を大きく上回る補正精度を実現した。本手法は専用メモリも必要とせず、プロジェクタのCPUで簡易に実行できるため、コストアップなく容易に実装できる。
レーザー点火における励起光源用として、808nm帯の高出力VCSELモジュールの開発を行った。高効率活性層の開発、放熱性を高める接合技術の開発、ファイバーカップリングを考慮した設計と光学部材実装技術への取り組みにより、従来よりも高出力化を実現した。製作したモジュールは非常にコンパクトかつアレイ出力311W、ファイバーアウト出力204Wという高出力を実現し、これまでに報告されたファイバー結合型VCSELモジュールの中で最大となる出力を確認した。また、このVCSELモジュールを用いてYAGレーザーを励起し受動Qスイッチ動作をさせて、レーザー点火の実用上必要な出力とされる2.5mJ×4パルスの出力を得た。
我々は光源に40チャンネルのVCSELアレイを用いた業界最高密度4800dpiの書込ユニットを開発し、カラープロダクションプリンタに搭載した。この4800dpiの書込ユニットにより、走査線ボー/スキュー補正、色ずれ補正、表裏倍率補正を行い、プロダクションプリンティングの要求を満足する高画質を達成している。
しかし、このような高画質をオフィス領域に広げるためには、書込ユニットの大幅なコンパクト化とコストダウンが要求される。
これに対し、光源そのものの数を半減するという世界初の光束分割書込ユニットを開発することで、大幅なコストダウンとコンパクト化を達成し、4800dpiの書込ユニットをカラー複合機に搭載した。
近年求められている複合機の省スペース化を実現するために、スキャナに対しては薄型化の要望がある。薄型化には、一体型走査光学ユニット方式が有利であるが、従来は結像性能を得るため明るさを犠牲にしており、消費電力の増大や読み取り速度の低下を余儀なくされていた。我々は、両面非球面の樹脂製フィールドフラットナー光学系を適用することで、小型かつ広角でありつつ、従来の一体型走査光学ユニットに対してF5.3からF4.6と明るくし、「明るい・広角・小型」を兼ね備えたスキャナレンズを実現した。明るい光学系で課題となるピント位置の温度変動に対しては、温度分布を把握し、前群の屈折率温度係数と、前群と後群の距離を最適化することで解決した。
近年、インクジェットプリンターは小ロット多品種の印刷物を容易に扱うことができるようになり、徐々にオフセット印刷分野へと進出してきている。
当社は、普通紙だけでなくオフセットコート紙への小ロット多品種のアプリケーションという顧客要求にも対応できるRICOH Pro VC60000を市場投入している。アンダーコーティング、印刷、プロテクターコーティング、乾燥の4つに機能分離したサブシステムからなるプリンティングシステムを開発することで、水性インクの吸収性が乏しいオフセット印刷用コート紙においても高品質印刷を達成することができた。
本論文では、新たな粉末積層造形法として、樹脂をコーティングした粉末を用いる結合剤噴射方式を紹介する。本技術はインクジェットを使用するため、レーザーや電子ビームを使用する粉末床溶融結合に比べて低イニシャルコストで装置を提供できる可能性がある。加えて、本技術は結合剤となる樹脂を粉末にコーティングするため、材料種が変わってもインク浸透挙動の制御が可能であり、幅広い材料への展開可能性を有する。本技術で造形した焼結前駆体(グリーン体)は、粉末にコーティングされる樹脂量が少量であってもハンドリング可能な強度を示した。また、造形時のインク量を調整することで、グリーン体および焼結体の空隙率を制御できることを明らかにした。
二次電池内での酸化反応を利用する新しい手法により、入手の容易な試薬から二次電池用有機正極活物質を得た。カーボネート系電解液、リチウム箔(負極)と組み合わせて2032型コイン型電池を作製した。得られたコイン型電池を23℃の恒温漕内にて1.4V~4.5Vの電圧範囲で1Cレートの充放電を行い、各化合物の比容量を比較した。その結果、充放電100サイクル時点で200mAh/g以上の比容量を示す化合物を見出した。1Cレートの充放電において200mAh/g以上の比容量は世界トップレベルである。
様々な機能を発現させるために、電子写真用トナーには複数の材料が添加されている。トナー中では、これらの添加材料が、最も機能を発現できるような配置となるように設計・製造されるが、その分布状態は明らかでない。このため、出来上がったトナーの実際の形状や内部の分散状態を知ることは、設計どおりの製造を行う上で重要な情報となる。そこで、φ4-6μmのトナーの内部構造を調べるために、超高圧電子顕微鏡を用いたトモグラフィを行った。これにより、トナー中のWAX、着色剤と、トナー表面に位置する帯電制御剤の分散状態を3次元像として捉えることができた。
脊椎変性疾患を持つ患者では、MRI画像やX線画像などの形態的画像情報から推測される神経の異常部位と、神経の機能異常部位が一致しないことが多い。そのため、的確な診断を行うために神経機能の評価を行う必要があるが、無侵襲かつ高精度な機能評価を行うことのできる手法は確立していない。我々は、体表面より無侵襲に脊髄の電気生理学的活動に伴って発生する磁場を計測することにより、脊髄周辺の神経電気活動を可視化する装置を開発している。これにより、形態的画像情報と神経機能情報を組み合わせた情報を目視で確認することが可能となり、無侵襲的な神経機能診断の実現が期待されている。
本稿では開発中の装置、脊髄誘発磁場計測システムを用いて神経機能の評価が可能であることを示す。
2017年2月24日発行
発行 | 株式会社リコー リコーICT研究所・リコー未来技術研究所 〒224-0035 神奈川県横浜市都筑区新栄町16-1 TEL. 045-593-3411(代) |
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発行責任者 | 松浦 要蔵 |
編集委員長 | 金崎 克己、佐藤俊一 |
事務局 | 小林 一弘、進藤 由貴 |