電子部品は、私たちの生活と経済を支える重要な基盤として、スマートフォンや自動車、医療機器、AIなど、さまざまな先端技術に欠かせないものになっています。
近年、製品サイクルは一段と短期化し、設計変更への追従や、試作から量産立ち上げまでのスピードが競争力を左右する要因になっています。一方で、地政学リスクなどを背景にサプライチェーンの分断・不安定化が顕在化し、特定地域や特定工程に依存しない、安定した供給体制への関心も高まっています。
さらに、電子部品製造においては環境負荷の低減が強く求められており、資源使用量の削減や廃液・廃棄物の抑制といった課題も無視できません。
電子部品製造を取り巻くこれらの要請が同時に高まる中で、リコーはめっき・エッチングを中心とした従来の多工程プロセスを見直し、「必要なところに、必要な量だけ」機能をつくり込めるプリンテッドエレクトロニクスに大きな可能性を見出しています。しかし、電子部品で広く用いられる銅は、印刷後の焼成(焼結)を一般環境下(周囲に酸素が存在する環境)で行うと酸化して導電性が失われてしまうため、実装・量産に向けた大きな障壁となっていました。
リコーは、材料メーカー様との協業で銅ナノ粒子インクを開発するとともに、長年培ってきた独自のインクジェット技術を活用し、吐出・乾燥・焼結プロセスを最適化しました。その結果、銅配線を一般環境下で印刷から焼結まで完結でき、めっきやエッチングなどの薬液工程に依存しない、よりシンプルで環境に配慮した配線形成プロセスの実現を可能にしました。工程の簡素化に加え、短時間で導電性を得られるため、導入のしやすさと生産性の向上も大きな特長です。
本技術は紙やPETフィルムなど多様なメディア(基材)に直接印刷できます。これにより、自由形状でフレキシブル、かつ軽量な回路形成が可能になります。ウェアラブルデバイス、FPC(Flexible Printed Circuits:曲げられるプリント基板)、RFIDタグ、医療用やロボット向けセンサーなどへの応用も視野に入れています。
加えて、インクジェットは版を用いないデジタル直描方式です。設計データから直接パターンを形成できるため、設計変更への追従が速く、試作・評価・改版の反復を効率化できます。多品種少量や短納期の開発において、版を用いる印刷方式と比べて段取りの負担を抑えられる点も特長です。
図1:インクジェット印刷による銅配線のサンプル
| No. | 利用シーン | メディア | 寸法 |
|---|---|---|---|
| ① | フィルムデバイス用配線 | ポリカーボネート | 30 × 30 mm |
| ② | FPC | ポリイミド | 配線幅/配線間隔(L/S) = 100/300 μm |
| ③ | RFIDアンテナ | グラシン紙 | 70 × 14 mm |
材料メーカー様と協業し、一般環境下での印刷・焼結に対応したインクジェット用の銅ナノ粒子インクを開発しました。これにリコー独自のインクジェット技術である、液滴量や着弾精度の制御と、新たに開発した乾燥・焼結技術を組み合わせることで、印刷から焼結までを一連で行える銅配線形成技術を実現しました。
本技術は、導電材料を必要な形状にパターニングするためのインクジェット技術基盤として、銀インクをはじめとする他の導電材料への展開も可能です。
図2:インクジェット印刷による配線形成工程
インク設計と乾燥・焼結プロセスを一体で最適化した結果、250℃・1分間という短時間の焼結で、抵抗率10 μΩ・cm以下の導電性が得られることを確認しています。短時間で導電化できるため、生産性に優れた配線形成が可能です。
また、インクの乾燥挙動と熱の与え方を基材に合わせて設計することで、紙に加えPETをはじめとする樹脂フィルム基材にも適用できます。基材条件に応じて、補助的にレーザー焼結などの局所加熱手法を組み合わせることも可能です。
図3:インクジェット印刷後の焼結時間と抵抗率
焼結温度250℃、基材:ポリイミドフィルム、厚み:約4μm
リコーは、長年培ってきたインクジェットヘッド技術、インク・サプライ技術、プリンティングシステム技術の3つのキーテクノロジーを応用・発展させ、世の中の常識を変える“ものづくりデジタル変換”で、新しい価値の創出を目指しています。
今回の銅配線形成技術は、材料メーカー様との協業で開発した銅ナノ粒子インクと、リコー独自のインクジェットおよび乾燥・焼結技術の最適化を掛け合わせ、電子部品の製造現場で使えるプロセスとして成立させることにこだわりました。特別な設備や複雑な工程に依存しない技術は、導入のしやすさだけでなく、ものづくりの選択肢そのものを広げると考えています。
リコーは、印刷技術を核にしたプロセス革新を通じて、環境に配慮した製造と開発スピードの両立を支え、パートナーの皆様とともに次世代のプリンテッドエレクトロニクスの社会実装を進めていきます。
本技術は現在、さまざまな用途でご相談内容に応じたサンプル提供を行っています。評価やフィードバックをいただきながら、技術の有効性確認と適用範囲の拡大を進めています。また、本技術を活用した実証や共同開発に向けて、協業パートナー様との共創を推進しています。
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