建物の維持管理の現場では、既存の図面、写真、台帳などの断片的な情報をもとに、熟練者がデータ整備、分析、判断をしています。これらは暗黙知で、ノウハウや知識の継承が難しいものでした。また、現場の情報が不完全なことから、調査や共有の手間がかかっています。
比較的新しい建築物は、BIM*1に基づいた管理がなされていますが、既にある建物をBIMとして扱えるようにするには大きな労力とコストがかかるのが現状です。
最近では、建物をデジタルデータに変換し活用するための技術が世界中で発展しています。これにより、熟練者でなくても、またその建物に立ち入らなくても空間を把握し適切に判断する、建物のデジタル管理が可能になります。
既存の建物を3次元復元したうえで、360度画像と合成してバーチャル空間として閲覧可能なデジタル建物を作成しました。さらに、建物内の建具・設備を分類し、既存の台帳と紐づけ、建物の所有者にデジタル建物を素早く提供します。
建物が通常稼働中でも、誰でも簡単に3次元情報が取得できる技術を開発しました。取得した3次元復元結果はWebブラウザやタブレット端末で閲覧でき、遠隔地の関係者ともすぐに共有できます。また、この技術は、修繕や改修で刻々と変化し続ける建物のデジタルデータの更新にも有用となります。
建物をデジタル情報化する目的は、コンピューターやAI(人工知能)の力を使って建物のライフサイクルコスト*2を削減し、経営資産としての建物の機能を最大化することにあります。リコーは、AI技術を展開し、取得した点群・画像の統合、そこからの3次元CADモデルの生成、またデジタル建物の中でさまざまに行われる計測・計画・シミュレーションを支援する機能などを開発しています。
これらの技術でデジタル建物を手軽に作成し、AIを掛け合わせることで、さまざまなシーンのDXをサポートします。
1ショットで360度画像を撮影できるカメラ「RICOH THETA」の光学技術を応用・発展させたリコー独自の3D復元デバイスを使い、物体に光を当て、生じた反射波が戻るまでの時間を測定して距離を計測し(ToF:Time of Flight(飛行時間)方式)、点群データを取得します。
通常の3次元レーザースキャナーは、ミリメートル単位の高い精度で点群データを取得できますが、取得に時間がかかり、大型かつ高価なものが一般的です。点群データの取得精度を数センチ程度に緩和することで、1秒という高速な取得時間とデバイスの小型・軽量化を実現しました。
カメラやレーザースキャナーなど光学デバイスから取得した点群と360度画像を自動的に位置合わせしてつなぎ合わせ、あたかもその建物内に滞在しているかのようにバーチャルに見て回ることのできる3次元復元を行います。また、建物に含まれている壁・床・天井・ドア・機材など建設・維持管理にとって意味のあるかたまりに自動分類(セグメンテーション)し、一部はCADで取り扱える3次元形状モデルを抽出(建具・設備モデリング)することも可能です。これらのデータ変換には一部AI技術も適用しています。
熟練者の暗黙知による高度な分析と素早い判断をデジタル建物の上で代替するには、複数種の情報(画像や言語など)を同時学習し複雑な推論を行う、マルチモーダルAIが有効です。例えば、デジタル建物の上で熟練者がバーチャル計測調査した結果や、シミュレーションに基づいた大型機材の搬入計画は、それ自体のデータをAIに学習させることができます。結果、工事目的に応じた的確な計測支援や、周囲のリスクを考慮した精度の高い搬入ルートを、デジタル建物自身が提案できるようになります。このAI支援を使うことで、経験の浅い技術者であっても短時間で適切な判断ができるようになります。
デジタル建物の活用は、建物オーナーにとってはライフサイクルコスト削減と経営オペレーション最適化に、現場での従業者にとっては、作業安全性から現場情報共有の手間削減にもつながります。
長年の複合機開発で培った光学技術やソフト・AI技術を通じて、建物を簡易にデジタル管理可能にし、建設・維持管理業務の変革を目指します。
本技術の分類:分野別「マシンビジョン」「画像処理・解析」「AI(人工知能)」