EV(電気自動車)やデータセンターなどの先端分野では、半導体の高性能化に伴い、発生する熱が増加しています。この熱を効率的に放散・管理することはシステムの安定性や性能維持のために不可欠です。しかし、従来の熱交換部品は製造方法に制約があり、形状の自由度が限られていました。そのため、冷却性能のさらなる向上が難しいという課題がありました。
このような課題に対し、積層造形(Additive Manufacturing:AM)技術は、設計の自由度を高める革新的な製造技術として注目されています。ただし、レーザーで金属を溶かすパウダーベッドフュージョン(PBF)方式は生産性やコスト面で量産には不向きでした。
そこで、高い生産性で複数部品を同時に造形できるバインダージェッティング(BJT)方式が量産対応可能なAM技術として注目されています。
BJT方式は、金属粉末を敷き詰めた層に、インクジェットヘッドで「バインダー」と呼ばれる接着剤の役割を持つ液体を必要な箇所に噴射し、粉末同士を固着させて目的の形状を形成する AM技術です。
この工程を繰り返して立体形状を形成し、造形後にバインダーを付与していない部分の粉を取り除き、焼結炉で加熱することで、緻密な金属組織を持つ部品を作ることができます。
また、材料の観点からみると、次のような課題があります。
アルミニウムは、軽量で熱伝導性が高いため、熱交換部品の材料として広く使われています。しかし、アルミニウムの焼結は困難で、結果として、アルミニウム部品のBJT方式での量産は実現されていません。この課題を克服し、BJT方式の設計自由度を活かして複雑な形状の部品が量産可能になれば、従来よりも高い冷却性能を持つ熱交換部品の産業適用が期待できます。
リコーは、BJT方式でアルミニウム部品を製造するための材料や造形プロセスを開発しており、量産化を見据えた技術確立に取り組んでいます。
BJT方式で量産することを前提とした設計手法を適用することで、従来の製造方法では困難だった複雑なヒートシンクフィンや冷却流路の設計が可能になります。これにより、従来の製造技術の制約を超えた、冷却性能の向上が期待できます。
EVのインバーターや、データセンターのCPU/GPUなどの半導体の性能を最大限に引き出すための新しい冷却ソリューションの提供を目指します。
本技術で製造した部品の例
アルミニウム粉末は、粉末の表面を覆う酸化膜の影響で焼結が難しいという課題があります。リコーは、粉末の合金組成やバインダー処方、焼結条件を最適化し、アルミニウム部品の造形と焼結を可能にする技術を開発しました。
高性能な熱交換部品には複雑な流路が必要になることがありますが、造形後に流路に残った粉を完全に除去するのは難しい場合があります。リコーは、溶媒を使った粉除去技術を開発し、微細な流路でも確実に粉を除去できるようにしました。
溶媒を使った余剰粉除去技術の概略図
熱交換部品は用途によって300mmを超えるサイズが求められる場合がありますが、焼結プロセスで製造できるサイズには制約があります。リコーは、複雑な流路部分だけをBJT方式で造形し、従来工法で製造した外側のケースと接合する技術を開発しました。これにより、大型の部品も低コストで製造が可能になります。
接合技術の概略図
リコーは、BJT方式による部品製造を前提に複雑な冷却流路を設計し、銅製ヒートシンクに匹敵する冷却性能を有するアルミニウム製ヒートシンクを実現しました。
アルミニウムは銅に比べて軽量でコスト面でも優れています。銅製ヒートシンクをこのアルミニウム製ヒートシンクに置き換えることができれば、これらの利点を活かした高性能な熱交換部品を実現できる可能性が広がります。
本技術で製造したアルミニウム製ヒートシンク
既存の銅製ヒートシンクとの性能比較
リコーは、長年培ってきたインクジェットヘッド技術、インク・サプライ技術、プリンティングシステム技術の3つのキーテクノロジーを応用・発展させ、世の中の常識を変える“ものづくりのデジタル変換”で、新しい価値の創出を目指します。