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水口哲也×LIFE STYLE

対談2/3

技術が進化しても、「幸せ」の実現にはリアルな体験が不可欠:水口哲也

March 15, 2016

ゲームや音楽、映像など多様な分野でグローバルな創作活動を続けながら慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科で特任教授を務める水口哲也さんと、リコーの研究者・増田憲介による、未来の技術やライフスタイルについての対談(2/3)。前編に続き、「技術」と「人間の幸せ」との関係、さらに疑似体験の先にあるリアル体験の価値へと、2人のイマジネーションは広がります。

「幸せになる」という人間の欲求と、テクノロジーとの相関性

  • 水口

    私は、メディアデザインの研究を通じて人間の欲求のリサーチを続けていますが、人間の最強の欲求は「幸せになりたい」ということなのだと思っています。幸せの形は人それぞれ違いますが、「なぜ幸せになりたいか」「どうやって幸せになりたいか」を因数分解していくと、それぞれにその理由が存在していて、多くの人はその実現のために生きていることがわかります。

  • 増田

    前回のお話に出たような仮想世界をVR (仮想現実)やAR (拡張現実)でシミュレートをして、そのなかから自分が納得するものを一つ選んで、それを現実のモノとして手元に残す。それが、自分の最終的な目標である「幸せ」をつかむための第一歩なのかなと感じています。

  • 水口

    そうですね。精神的に満足できることって、実際にたくさんありますよね。たとえば、お腹が空いたときに画像共有SNSで料理の写真を見ていると、なんとなく気分が満たされて、さっきほどハングリーじゃなくなる、とか(笑)

  • 増田

    ありますね(笑)。見るという体験によって、心理に影響が与えられるということですよね。そういう疑似体験によって、自分の考え方が変わったり、心理状況が良い方向に満たされたりするケースもあると思います。その体験が、次のアクションを起こすためのきっかけとなるんですね。

  • 水口

    ですね。たとえば、スポーツゲームで遊んでいる人は、実際に身体中の筋肉をフルに動かして得られる快楽ではなくて、脳的な快楽を充足させていますよね。でもそこから興味が膨らんで、実際にスポーツをはじめる人もたくさんいます。マンガに影響を受けてサッカーをはじめるとか。私も去年、50歳でサーフィンをはじめて、いまやすっかりハマっています(笑)

左:メディアデザイナー 水口哲也、右:株式会社リコー 未来技術研究所 研究企画室 戦略推進グループ 増田憲介

左:メディアデザイナー 水口哲也、右:株式会社リコー 未来技術研究所 研究企画室 戦略推進グループ 増田憲介

予定調和に終わらない、偶然が重なる実体験にこそ価値がある

  • 増田

    今回のストーリーの主人公は、リアルな水口さんなんですね(笑)

  • 水口

    恥ずかしながら(笑)。実は…私は子供の頃からずっと水が怖くて、でも「いつか50歳になったら一番苦手なことをやってみよう」と思って、サーフィンにトライしてみたんです。最初はまったく絶望的で、打ちのめされました(笑)。それからサーファーの友人にコーチをお願いするんですが、彼が最初に教えてくれたのはテクニックではなくて、「いかに水や自然と付き合うか」というメンタルなことだったんですね。そしてあるとき、恐怖感が消えた瞬間に、周りの海や夕空がすごくキレイに輝いて見えたんです。自分が自然の真っただ中にいて、一体化するという体験に初めて触れた瞬間に、心の底から感動したんです。そこからたまらなく好きになった。まだまだぜんぜんうまく乗れませんが、少しずつ身体が馴れてきています。

  • 増田

    私は入社してからダイビングをはじめましたが、それまでは「マウスピースを外したら死んでしまう空間に、なぜあえて飛び込む必要があるのか?」と思っていました。でも、実際に水中で無重力の感覚を体験して、その考えが一変したんです。落ち着いて周囲を見渡したときに、目の前に海の世界がバっと広がって見えたんですね。たぶん、水口さんの体験と似た感覚だったのかなと思います。

  • 水口

    それまで自分が勝手に限界とか、臨界点だとか思っていたものを取り外せた瞬間、新しい意識のスイッチが入りますよね。

  • 増田

    それって、シミュレーションのような「誰かが予定調和的な絵や映像を用意した」という状態では味わえないものなのでしょうね。たとえば、たまたま夕焼けがキレイだとか、たまたまイルカの大群が通りかかったとか、いろいろな偶然が重なるからこそ「体験する価値」があるのかなと思っています。

  • 水口

    そうですね。どうしてサーフィンの話をしたかというと、「自分が20年後の2036年、どんな生活をしているか」と考えたときに、年齢なんか関係なく、やはり新しい体験への好奇心というものが人生の中心にあって、自己実現を続けているんだろうなと思ったからなんです。テクノロジーの力を借りながら、自分自身の心と肉体は新たな発見を探し続けるのだろうと思います。

  • 増田

    私も、テクノロジーが進化する一方で、自分でいろいろな実体験をしながら、生涯学習というものを続けていくのかなと思っています。

  • 水口

    人間って、「幸せ」の瞬間を実感できないと、生きていけないのかもしれません。波に揺られているだけでも幸せ、みたいな。「何を以って幸せか」というところが大切で、それぞれの自己実現を互いに尊重している社会はマチュア(成熟)な状態なんだろうなと思います。

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