磯光雄×OFFICE DEVICE
ストーリー2/3
言語外情報を丸見えにする「丸見え超視覚化ツール」と「自分翻訳機」:磯光雄
November 25, 2014
アニメーター/脚本家の磯光雄さんによる「西暦2036年を想像してみた」、エッセイの本編【第2回】。身体的で言語化できない情報。これを視覚化することで見えてくる仕事の未来とは?
言葉にできない身体的な情報にこそ、新たな発見がある。
2036年には視覚以外の五感や、さまざまなデータを簡単に視覚化できる変換エンジンが発明されているとします。すでに嗅覚の可視化から新しい香りを開発している実例がありますが、触覚を視覚化するとどんなことができるだろう。
私は指先で紙の感触を触っていると考えが進んだりするのですが、たとえば会議中の触覚のデータをあとで調べてみると妙なピークを発見して、そこで自分が話していたログを確認すると、そのときは気づかなかった良いアイデアをしゃべっていたのを発見するとか。
私は絵描きなので似たような経験が多いのですが、身体から伝わってくる情報っていっぱいあるんです。でも、頭が切り捨ててしまうことも多い。だから、自分で描いてみた絵から「ああ、こうしたかったのか」と、自身の手に教えてもらう、みたいな経験が実際あるんですよ。
スポーツ選手も似たようなことを言いますね。絵描きじゃなくても、触覚や聴覚、ほかにも心拍や脳波といったものを総合的に視覚化することで、それまで自分でも気がつかなかった身体的な情報を発見できるかもしれない。
頭の中にあるアイデアはすばらしいのに、説明しようとすると壊れてしまうことって結構あると思います。人間の脳内や身体には言語的でないイメージが、資源のように埋蔵されてると思うんですが、そんな言語化しにくいアイデアを、自分の無意識を視覚化して発掘できないかなってね。前のトピックの「人格アバター」をかぶせてしゃべらせてもいい。これはいわば未知の自分から情報を取り出す「自分翻訳機」ですね。
五感を横断する不思議な「共感覚」に、未来を感じる
仕事場でも、プロジェクトの進行度合いを色や形状で表示して、ひと目で確認や編集できるツールがあると良いですね。スケジュールがショートしそうな部署は赤く表示されるとか。ボトルネックの部署も、形状が細く過密になっているのでひと目でわかるとかね。これはアニメの現場で切実にほしいですが、探し当てたボトルネックが自分だったら困りますね(笑)。
あとこれはエンターテイメントですが、たとえば絵を描くように音楽をつくれるツールができてもいいんじゃないか。音楽の形状を図形的に表現して、視覚で音楽をつくれるとしたら。これに近いものに「TENORI-ON」(ヤマハの製品)といった画期的商品が実在していますが、さらに飛躍させて、文章を図形や立体で表示したり編集したりする技術ができたらおもしろいですね。穏やかな場面は丸く、険しい場面はイガイガした形とかね。
こうした、色と言語、音と色など、五感を横断する不思議な感覚は「共感覚」として知られ、研究が進められています。こんな未知の感覚を再現してくれるツールがあったら、使いこなしてみたいと思いませんか。
自分にもこれに近い感覚があり、「物語」である脚本作業に、作画の「動き」の感覚を投影したりしていました。「動き」と「物語」の間に、共感覚があるのかもしれません。似たような例として、音楽からインスピレーションを得る経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
こうした身体性を生かした技術を、ものづくりであり紙文化の担い手であるリコーさんが発展させてくれるとうれしいですね。