水口哲也×LIFE STYLE
ストーリー2/3
2036年7月7日 「Think wellness」:水口哲也
February 23, 2016
クリエイター・水口哲也さんが想像する、2036年の「ライフスタイル」を全7回(短編小説4本+対談記事3本)にわたって紹介。短編小説の本編(2/3)となる本記事。現実以上のVR体験を重ねるほどに、実際に、その現場に行きたくなる……。インターネットが起こした革命は、さまざまな副産物をもたらしていた。
世の中では最近、延びた寿命をどう全うするか、それがよく議論のテーマになっている。
60歳定年というのは、いまや笑い話。
日本の平均寿命の予測は、120歳で推移していて、
100歳までは元気に働きたいという人も増えている。
少子化問題は相変わらずだが、日本のGDPはゆるやかに上昇を続けている。
量子数理を応用したスキャンシステムで、身体の固有の周波数が解析できるようになり、
身体異常の早急な発見とメンテナンスが可能になった。
このスキャンシステムのセンサーは、衣服へのインストールが可能になったため、
最近はほぼ、リアルタイムでスキャンとメンテナンスを行う人が増えている。
常時モニタリングしながら、波動治療で予防を続ける、そんな感じだ。
もはや人々は、薬を滅多なことで体内に入れたりしない。
僕自身、50才から始めたサーフィンは、70才を過ぎた今でも普通に続けられているし、
まだまだ上達過程にある。昔はあり得なかったことだが、今では普通のことだ。
来年、東京のシアターで共感覚的なミュージカルを演出することになり、
今日はその通しリハーサルと打ち合わせをAR上で行った。
映像と音楽、照明、3Dの効果測定など、ARで確認しながら、組み上げていく。
最近は、こういう打ち合わせが、ストレスなく、イメージ通りにできるようになった。
すべての素材やデータは、「Workflow AR」というアプリケーション内で統合され、
そのデータはAR上で自由に再生や修正が可能で、
完成したデータはそのまま実空間に反映され、そのまま本番に使用される。
このアプリケーションがすごいのは、クリエイションだけではなく、
打ち合わせも、仕事の流れも、契約も、フィーの支払いも、貢献度によるロイヤリティも、
すべて「Workflow AR」内で自動処理される、ということだ。
その昔、ビットコインは失敗したが、副産物ともいえるブロックチェーンのおかげで、
経済と、人の行動や気持ちとの融合が可能になった。
この技術の貢献は大きく、お金は以前よりももっと、社会のエネルギーのように循環している。
人間の身体も、経済も、社会のインフラも、やはり循環が命。
効率的で高速な循環が、その「体」を健康にする。
物質と、気持ちのような非物質的なものの融合が起こっている。
時代は、やはり量子化に向かっているのだと、つくづく思う。
インターネットが起こした革命とは、まだまだ序の口に過ぎなかったのだ。
明日はオフ。
夕方、車に乗り込み、草津温泉に向けて出発することにした。
今日はベルギーで音楽フェスがあり、車中からVR中継の特等席にダイブする。
VR中継もいまや、2020年を機に遥かに進化し、ARグラスは片目のディスプレイが8Kを超えた時点で、我々の肉眼の分解能を超えた。
これで映像も音響も3Dなのだから、もう本当に区別がつかない。
僕は実際にそこにいる。そんな気分だ。
不可侵なところに3D VR中継が入るというのは、現実以上の体験でもある。
そしてVR体験を重ねるほど、実際に、その場に行きたくなる。
不思議なものだ。
音楽フェスの3D VR中継は、ステージ上に複数セッティングされていて、
アーティストのすぐ周辺でたっぷりライブを楽しんだ。
そして、ライブが終わる頃に、草津の秘湯へ到着。
車は静かに深夜の自動チェックインを済ませ、温泉宿の離れにドッキングした。
明朝の予報は晴れ。日の出を拝みながら、露天に浸かろう。
朝、目の前にどんな世界が拡がっているのか、楽しみだ。