磯光雄×OFFICE DEVICE
ストーリー3/3
「真実のウソ」をついて想像力を引き出してくれる「ウソつきコンピュータ」:磯光雄
December 2, 2014
アニメーター/脚本家の磯光雄さんによる「西暦2036年を想像してみた」、エッセイの本編【第3回】。「ウソ」の重要性と「物語の力」の必要性を、フィクションを手がける側からの視点で語ります。
「正しいウソ」が、物語の力を生み出す
映画はほとんどがフィクション、つまりつくり話ですが、アニメーションは実写と違い映像までつくり物なので究極のフィクションといえます。絵についてもお話についても、そもそもウソをつくる仕事なんですね。
しかしそのウソには質の良し悪しがあって、しかも最終的にはお客さん、つまりウソをつかれた側を幸せにしないといけない。つまり、価値を損ねるウソではなく価値をもたらすウソが実在するんです。
アニメーションのウソはシナリオ以外にもいくつかあり、まず動きに関するウソ。実写やCGは1秒24枚の絵がありますが、手描きのアニメでは全部描くのは大変なので、8〜12枚程度におさえています。飛び飛びの絵でも滑らかに動く「リミテッド」と呼ばれる技術ですが、少ない枚数でもちゃんと動いて見えるように、現実とは違う、誇張したウソの動きを描きます。
次に、光や空間に関するウソ。黒澤明監督の映画では、人物の手前にある笹林のシルエットをキレイに見せるために墨汁を塗った話が有名ですが、アニメではこれに近い手法が日常的に用いられています。プロになるとみんな気づくことですが、なぜか上手にウソを使いこなした映像のほうが、ウソをつかずにつくった映像よりリアルに、本物に見えることがあるのです。これがフィクションのマジックです。
このように、人間にとって有益なウソがあるわけです。フィクション以外でも、たとえば保育園の先生がウソをつく。すると園児が「先生ウソついてる!」とはしゃぐ。発見のエネルギーが発生するでしょ。すかさず「じゃあ本当は何かな?」と問いかけると大喜びで考えるわけです。これはある種の「正しいウソ」、別の言い方をすればフィクション、物語の力なんですよね。
「正しいウソ」の先には、エモーショナルな真実がある
しかしどんどん高度な教育になって、サイエンスに反する、つまりウソのある授業ができなくなるとどうなるか。最初から「こうすれば、こうなります。これが西暦何年に発見されました。おしまい。」という、おもしろくもなんともないものになってしまう。最初から出口の見えている迷路なんて意味ないじゃないですか。
やる気を引き出したり、想像力をかき立てる有益なウソを積み重ねて、最終的にはエモーションを伴った真実にたどり着く。出口を想像しながら自分で探すからおもしろいわけです。これが物語の世界で、サイエンスよりはるかに古い歴史があります。おそらく人類は言語を発見したときから、言語による描写と現実世界の食い違いが発生するという現象に気がついた。つまり言語とウソはほぼ同時期に発見されたんじゃないかと思うんです。
では実際に、仕事にフィクションを取り入れる方法にはどんなものがあるでしょう。最近ではゲーミフィケーションという手法が近い位置にあります。ほかにも、ストーリー性のあるプレゼンが増えましたよね。講師にもこれに近いパフォーマンスを持った人が大勢いる。
もちろん人を陥れたり悪意ある嘘がNGなことは変わりはありませんが、2036年にはこんなふうに上手にユーザーを啓発してくれるような「ウソつきコンピュータ」があったらうれしいですね。こういった流れを、もっといまの文明に沿った新テクノロジーとして構築して、イノベーションを起こせないかなって妄想しているんですよ。
PROFILE
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磯光雄(イソミツオ)アニメーター/脚本家
1966年愛知県生まれ。原作・監督を手がけたアニメ『電脳コイル』が、第29回日本SF大賞(日本SF作家クラブ主催)大賞や平成19年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞など多数受賞。 『おもひでぽろぽろ』『紅の豚』『新世紀 エヴァンゲリオン』『キル・ビル』などの大作にも参加している。
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YKBX(ワイケービーエックス)アートディレクター/アーティスト
映像作品の制作やイラストレーションなどを手がけ、国内外から注目されているアーティスト。最近では、ボーカロイドオペラ「THE END」を担当し、2013年11月に行われた海外公演でも高い評価を得ている。
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