水口哲也×LIFE STYLE
ストーリー1/3
2036年5月30日 「A day in my surf life」:水口哲也
February 16, 2016
クリエイター・水口哲也さんが想像する、2036年の「ライフスタイル」を全7回(短編小説4本+対談記事3本)にわたって紹介。短編小説の本編(1/3)となる本記事。モバイル(自律走行車)によって自由に移動し、ARで空間さえも越える時代……。人々のライフスタイルは彩りに満ち、人生を楽しむための選択肢は無限に広がっている。
朝、波の音で目が覚めた。
昨日、寝る前に波情報アプリの最新版をインストールしたのを思い出した。
気象用ドローンが有機的にスマートグリッド化したおかげで、
観測精度が格段に進化して、リアルタイムに風と波を読むのが可能になった。
なるべく人がいないところを望むモードをONにしながら、辿りついた海岸。
車の外に出ると、最高の日の出と、最高の波。
車載の3DVRカムをオンにして、SNSでシェアしながら、静かに夜明けの海に出る。
太陽が少し昇った頃、SNSの3DVR映像を観た友人が合流してきた。
9am。地元の朝獲れコールドプレスジュースが、ドローンの宅配で届く。
どこにいても、いつも正確。妻が車内のキッチンでクックしてくれて、
皆で波を眺めながら、気持ちのいいオフショアの風の中で、朝食をとった。
10am。今日は一コマだけ、やらなきゃいけない授業がある。
車の3DVRカムから、大学のクラウドに接続。
クラウド内には、TokyoとNew York、Londonの学生達がつながっている。
今日のテーマは、「Urban Design - 都市設計の量子的アプローチ」。
全員ARグラスをかけながら、皆の中央にTokyoの立体データを展開する。
リアルタイムでスキャンし、量子化した人々の潜在欲求データを
どう都市デザインに応用するか、が今日の授業のテーマ。
もはや大学の授業は、知識だけではなく体験の場に変わった。
学生の質も昔に比べ、格段に上がっている。
1pm。現在進行中のプロジェクト会議に遠隔参加。
最近は、各自が海にいようが、山にいようが、申し訳なさそうに会議に参加する奴はいない。
Anytime, anywhere, any style. (いつでも、どこからでも、どんなスタイルでも)
皆、それぞれ自分の最も気持ちのいい場所からジョインしてくる。
だからいつも、ミーティングはいい雰囲気で進行する。
3pm。周囲でゲリラ豪雨の発生予測がアラートされた。
雨雲をうまく回避しながら、Tokyoに戻るように車に指示。
自動走行の人工知能AI、Robby-5は、優しい声で、淡々と運転をこなしている。
本当に頼もしい限りだ。
車中で興味深いニュースを見た。
ついに日本の建設会社が、太平洋上に500メートル超えの巨大ビル群の
「メガフロート」を完成させたそうだ。
台風の影響を受けない赤道直下を、巨大なビル群が、ゆっくり連結しながら航行する。
ビルの屋上から地上よりマイナス5度の新鮮な空気を取り込んで、
中に暮らす人々に天然のエアコンを供給しつづける。
ビルの下部層には植物を配置し、人から排出されたCO2を酸素に替えて、洋上に放つ。
なんてエコなんだ!
南国の島を巡りながら日々を生きるなんて、最高だよね。
そろそろ都市の暮らしから、洋上の暮らしに切り替えようかなぁ。
そんな事をぼーっと考えているうちに、車はすでにTokyoの首都高を走っていた。
夕焼けのビル群を眺めていると、「Heavenly Star」という曲がリコメンドされてきた。
2019年にISS(国際宇宙ステーション)で生まれ、そのまま宇宙空間で成長し続けている、
17歳の少女Lumiが歌うラブソング。
ところで、宇宙で生まれた彼女の国籍って、どうなるんだろう……。