【Kawamata Ryota】
川又僚太
株式会社リコー
ワーク・ソリューション開発本部 第三開発室
1982年宮城県生まれ。2007年東北大学大学院工学研究科電子工学専攻修了。同年にリコーへ入社し、MFP向けのOS・ドライバなどベースシステム開発に携わる。その後、超短焦点プロジェクターのソフトウェア開発や無線LANを中心にしたプロジェクターのネットワーク機能を担当。現在は、引き続きプロジェクターの開発に携わりながら、システムズエンジニアリングの導入による開発プロセス改善にも取り込んでいる。
【Shikura Chiyomaru】
志倉千代丸
ゲームクリエイター
7月3日生まれ。幼少期よりプログラミングを学び、のちに株式会社ヒューマンにサウンドプログラマーとして入社。退社後は株式会社5pb.を立ち上げ、現在は株式会社MAGES.の代表取締役社長。音楽プロデュースや『CHAOS;HEAD』『STEINS;GATE』『ROBOTICS;NOTES』を代表とする科学アドベンチャーゲームの企画・原作を手がけるほか、レストランやカフェのプロデュースも務める。現在は自身初の小説『オカルティック・ナイン』を執筆中。またTwitter(@chiyomaru5pb)も随時更新。
川又: | ところで、この2036年の世界にも、データの記録やバックアップは必要になってきますよね? |
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志倉: | おっしゃるとおり。神経パルスとしてやりとりされる映像や音声などは現在のデジタルデータとはまったく異なる形態、しかも大容量になるでしょう。それは、ピアス型の「キャリアノード」には納めきれません。 |
川又: | だから、外付けデバイスとセットで、BMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)になる。 |
志倉: | ええ。そこで、従来の発想だと「バックアップはやっぱりデジタルなんだろうな」となると思うのですが…何かいいアイデアありますか? |
川又: | そうだなぁ…今ある磁気テープやSSDとは違うものが必要になるでしょうね。最近の研究では、有機分子の配列をメモリとして使おうとしているものがあるようです。どんなに小さいメモリでも、分子なら莫大なデータを記録できるし、保存環境さえ保てれば非常に有望だと思いますね。 |
志倉: | なんと! DNAとか、そういうのですか。それは2036年には実現できそうですか? |
川又: | さすがに分子メモリの実用化はもうちょっと先でしょう(苦笑)。でも、いまや量子コンピュータの実用化も見えてきたらしいですし、あと30年もするとリコーがつくる家庭用機器にも量子コンピュータが入っているかも。 |
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志倉: | 人間を超えた頭脳を持ったデジタル機器に囲まれて生きる世界か…地球環境や人間の思考、ありとあらゆる現象を演算できてしまうって考えると、ゾッとしますね。もしかしたら僕ら自身がそういうコンピュータの中のプログラムにすぎないかもしれないじゃないですか。 |
川又: | 映画『マトリックス』のような世界ですね。 |
志倉: | そこまで行くと、ただ単にコンピュータの演算能力を超えて、なにかビッグバン的な革命が起きているはず…。やっぱり進化しすぎたデジタルは危ないかも(笑) |
川又: | でも、2036年にデジタル技術や環境が激変していたとしても、きっと僕らと同じように、さらにその先の未来について、話し合ってる人たちはいるんでしょうね。そう考えると、ちょっと愉快になります(笑) |
※ 本Webサイト上で使用される会社名、製品名、サービス名は各社の商標または登録商標です。
志倉: | この時代の人でも、デジタルデバイスを埋めるために、外科手術まで受けるのは抵抗があると思うんですよ。現代のレーシック手術ですら、世にあまねく人すべてに浸透しているわけではないですから。ここではピアスをする感覚で、プラグをパチっと挟み込むイメージなんです。 |
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川又: | なるほど。プラグの物理的な接触でアクセス範囲を限定するのは通信セキュリティ的にも手堅い。公私を問わず脳内の情報が漏洩される危険性は、できるだけ減らしておきたいですもんね。 |
志倉: | これからセキュリティが本当に大事な時代になりますよ。もし近い将来、メガネ型や腕時計型のウェアラブル機器が、直接神経パルスへ繋がるようになったら、人間がデジタルに浸食されかねないですから。 |
川又: | 人間そのものがハッキングされるって、なんだか怖いなぁ。 |
志倉: | ですよね。でも、僕は、デジタル技術がこのまま「人間の五感の及ばないレベルまで進化していくこと」の方が怖いと思っているんです。 |
川又: | たしかに、デジタル映像は4Kに達して、アナログ時代に最高の精密さを誇った35mmフィルムにも追いついちゃいましたもんね。今後さらにデジタルが進化すれば、人間には感知できない部分がさらに大きくなるかも。 |
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志倉: | まさにそれ。ゲーム機や音楽の世界も同じで、デジタルの画質や音質が人間に認識できる極限を突破するのも時間の問題でしょう。そうなったら、それは誰のための進化なんだ、という話ですよ。 |
川又: | 過渡期ならではの矛盾ですね。 |
志倉: | そうそう。デジタルの進化が人間の五感レベルを越えるのだったら、人間は次の段階として、第六感的なコミュニケーション方法へシフトできないと危険だと思うんですよ。 |
川又: | そのソリューションが、神経パルス接続。 |
志倉: | コンピュータと人間が「キャリアノード」を介して、直接コネクトできる世界では、ありとあらゆるデジタルデバイスがシームレスに人間の都合へ合わせた物となるはずです。その延長上で、人間同士のコミュニケーションも効率的で最適なものへと変換してくれるというわけですね。 |
志倉: | リコーといったらコピー機ですよね。ちなみに、いまリコーで一番スゴい技術といったら何になるんですか? |
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川又: | いまはコピー機というか複合機を起点にして、オフィス内のワークフローを改善するという提案も我々のビジネス領域になってきているんです。そういうサービスやソリューションが、現在のリコーの主力となっているんですよ。 |
志倉: | なるほど、なるべくしてなった進化ですね。ネットワークの進化もコピー機とは別のところで進んでいるので、そこに合流していくという。 |
川又: | コピー機が複合機となってネットワークに繋がった時点から、もうスタンドアローンではないですから。セキュリティにしてもそうですし。 |
志倉: | 今後、紙をまったく触らない世代になってくると、さらに変化が必要なんなんだろうなぁ。…ま、すでに変わりつつあるということなんですが。 |
川又: | 今回の未来予測では、そんなジェネレーションギャップについても触れられていましたね。2036年だと、私は中高年の部類に入っていますし…とても他人ごととは思えませんでした(笑) |
志倉: | 「ホログラムで見せてくれないと、ワシはわからんのじゃよ〜」ってね(笑) ジェネレーションギャップは、技術の進歩とともにシフトアップすることはあっても、なくなることは絶対にないですから。 |
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川又: | ええ、リコーもスマートフォンと連携するような「今っぽい」製品づくりもしているんですが、その一方で誰でも使える「世代の垣根のない」製品づくりもひとつの目標としているんです。 |
志倉: | 日々、いろんなガジェットが誕生するけれど、最終形態は必ずシンプルなところに行き着きますからね。 |
川又: | それにしても、五感でのコミュニケーションを飛び越えて、脳の神経パルスでやり取りするという今回の提案は、かなり大胆でした。ある意味、もっともシンプルな手段といえるかもしれません。 |
志倉: | これならプレゼンや会議の場で、もっとダイレクトにイメージを伝え合うことができますからね。もちろんすべて垂れ流しになって、見られたくない映像まで共有してしまう危険もあるのですが(笑) |
川又: | このシステムには、思考情報を選別するフィルタが必要みたいですね(笑) とても便利そうですけど、インプラント(埋め込み手術)まではしないんですか? |
第3回となる今回は、東京・恵比寿にあるゲーム制作会社MAGES.が対談会場。同社社長の志倉千代丸さんとリコーのエンジニア・川又僚太が未来について語り合いました。志倉さんの予測をもとに、さらなる考察を深めていった西暦2036年の“コミュニケーション”。「BMI」とはいかなるものか、またそれがもたらす世界とは? ふたりのイマジネーションが点火(IGNITE)します。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚−−基本的に人間同士のコミュニケーションは、この五感を通して行われます。なかでも重要なのが「視覚」
その視覚を機能拡張できるとすれば、どんな可能性を想像しますか?
デジタルの世界ではハードウェアや超高速ネットワークなどが、これからの数十年で想像を遙かに超える進化を遂げるでしょう。
しかし、それらを利用する人間の身体的進化はほとんど期待できません。
そこで先ほどの「視覚拡張」。デジタルから吐き出される情報を「脳で直接感じる」のです。
実際にこの分野の研究は、日々進化していて、さまざまな成果が発表されています。
こんなSF的でワクワクする技術はちょっと怖くもありますが、それを可能とする超小型端末の誕生は、そう遠くないはずです。
※このページのテキストは、志倉千代丸さんへの取材をもとに、リコーが構成いたしました。