水口哲也×LIFE STYLE
ストーリー3/3
2036年9月22日 「Trip to Euro」:水口哲也
March 1, 2016
クリエイター・水口哲也さんが想像する、2036年の「ライフスタイル」を全7回(短編小説4本+対談記事3本)にわたって紹介。短編小説の本編(3/3)となる本記事。バイオ認証、新型AI、3Dプリンター……技術革新は世界をより身近にし、そしてライフタスイルを豊かにした。人は、今よりずっと生き生きとしている。
離陸の20分前に、羽田空港に到着。
ターミナルで車を降りて、そのまま飛行機へ向かった。
出国手続きはバイオパスポート。セキュリティチェックはバイオスキャン。
車を降りてから、一回も立ち止まることなく、直接、機内へ。
バイオ認証のおかげで、物事は本当にスムーズになった。
パリ行きの飛行機に乗り込むと、搭乗員が話しかけてくる。
「水口さんこんにちは、お待ちしておりました。座席までご案内します」
5時間後、シャルル・ドゴール空港に到着し、ターミナルの外に出る。
飛行機の中から予約した自動走行UBERが近づいてきて、僕の前でドアが開いた。
ドローンが僕のスーツケースを車に載せ、会食の場所に向かう。
会食用の服やタイはすでに3Dプリンターでプリントアウト済み。
最近は靴もプリントアウトできてしまうのだが、
どうしてもクラシックビンテージを履きたい気分だったので、
それだけは、ドローンデリバリーで注文した。
UBERの車中で着替えて、降りたらそのまま会食。
会食の翌日、40年来の友人Tommyと再会。
週末にTommy夫妻と一緒に、パリから自動走行車で欧州を旅することになった。
パリから一路北西に、ノルマンディ地方に抜け、海岸線をスペインに向かって移動し、
バスクの豊かな緑の森から、オリーブの木やブドウの木が並ぶ、乾燥した大地に抜けていく。
収穫直前の黄金色のブドウに囲まれ、芳醇な香りと、
乾燥した大地に吹く気持ちのいい風に、溶けるような幸せを感じる。
僕らはその場所で、農家のブドウの収穫を手伝い、
昼間の暑い時間は本を読み、夜は星を見ながら焚火をして、
2週間滞在し、その季節を堪能した。
「今晩、ピレネーの山頂に初雪だそうだ。今晩中に移動しないか?」
Tommyの提案で、僕らは夜間走行でピレネーに向かった。
自動走行UBERにインストールされた新型AIプログラムのRobby-5は、
雪山でもまったく問題なく、スムーズに安全に、僕らを山頂まで運んでくれた。
僕らはドローンでスキー装備一式をレンタルし、
3時間かけて初雪のピレネーを堪能しながら滑り下りた。
UBERは先回りして、山のふもとで、僕らの帰還を待っていた。
夫妻はそのまま、車でパリへ戻った。
僕はあと3日休みが残っている。
ちょっとだけ、スマートグリッド・ドローンの波情報を見てみよう。
どれどれ。ふむふむ。
サン・セバスチャンに、ちょうどハイタイドの、いいサイズの波の予報。
しかも、オフショアの気持ちのいい風が吹くらしい。
よし、明日の朝はそこで目覚めるとしよう。
ウェットスーツは、少し厚めの3mmをプリントアウトしておこう。
来年からは、ついに自分の車を飛行機に積載できるサービスが始まるそうだ。
自分の空間で仕事を続けながら、自分のベッドで寝て、
世界中を旅し続けられたら、最高だ。
車は一路、サン・セバスチャンへ。到着は7時間後。
このまま夜間自動走行モードで寝るとするか。
PROFILE
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水口哲也(ミズグチテツヤ)メディアデザイナー、レゾネア代表、米国法人 enhance games, CEO 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(Keio Media Design) 特任教授
ビデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。2001年、「Rez」を発表。その後、「ルミネス」(2004)、 キネクトを用い指揮者のように操作しながら共感覚体験を可能にした「Child of Eden」(2010)、Rez のVR拡張版である「Rez Infinite」(2016)など、独創性の高い作品を制作し続けている。2006年には、全米プロデューサー協会とHollywood Reporter誌が合同で選ぶ「Digital 50」の1人に選出。
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ざいん(ザイン)イラストレーター
エッジの効いた空間演出とポップなイラストの妙が、国内外から高い評価を受けているイラストレーター。米TOYOTAの広告で初音ミクのコラボイラストを描いたほか、『謎解きゲームCD 真・女神転生 明ケナイ夜カラノ脱出』や『ATLAS・EXIT TUNES』のジャケットイラスト、ライトノベル『されど罪人は竜と踊る』の表紙・挿絵など、幅広いシーンで活躍している。
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