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柴田勝家×EDUCATION

対談1/3

「見えている世界」の違いを捉えるテクノロジー:柴田勝家

October 22, 2015

「新進気鋭のSF作家」と「民俗学・文化人類学を研究する現役大学院生」という2つの顔を持つ柴田勝家さんと、リコーの研究者・山内拓也による、未来の技術や教育についての対談(1/3)。本記事では、人間の感性の定量化から、テクノロジーの進化が人間にもたらす“問題”へと、同世代の2人の想いやイマジネーションが発火(IGNITE)していきます。

人間の感性の“定量化”を、テクノロジーや学問に生かす

  • 山内

    私は学生時代から、視力を周囲の環境に合わせて調整する“順応”をはじめ、人間の目の特性を理解・応用する研究をしてきました。現在も同様に、人間の視覚特性の研究を通じて、デジタルカメラ向けの高画質化技術の研究開発を行っています。また、さらなる画質向上のため、視覚特性の研究だけでなく、プロカメラマンなどの熟練者と素人の方との“視点”の違いも研究対象にしています。

  • 柴田

    それは、すごく興味深い研究ですね。ワシは今、大学院で民俗学を専攻していまして、そこでも熟練者の技についてよく話題に上ります。「職人芸と素人芸との違いは、何だろう」と。

  • 山内

    アイトラッキングによる実験の結果、写真画像の色修正を行う場合、素人の方はほとんど顔だけを見て修正しますが、熟練者は全体のバランスを見ながら色を調整することがわかっています。“見る場所”が違うんですね。最近、日本の職人芸が失われつつあると言われますが、そういった熟練者と素人の視点の違いから、職人の“技”の定量化や保存のための研究も進んでいます。

  • 柴田

    職人芸をそんな形で定量化できるなんて、すごく新鮮です。民俗学ですと、たとえば伝統芸能には身振りや手振りもあるのですが、熟練者になると視覚以外の感覚にも違いが生じているのかもしれませんね。エキスパートと素人という2つの領域で、各々が見えている世界や感じているものが異なっていて、技術を使ってそれらを一つ一つ明らかにできるとは……。目から鱗です。

  • 山内

    文化人類学の研究といえば、“観察”が重要になってきますよね。

  • 柴田

    そうですね、「どこを見て、何を感じるか」という部分が大切です。

  • 山内

    今、私たち技術者も、人間の感覚や感性を“量”として捉えることで、新しい技術や観点が生まれるんじゃないかという研究を行っています。

  • 柴田

    まさに、民俗学が今一番注目しているのも、人間の感性に近づくアプローチです。「この場所に、こんな文化がある」という単純なデータではなく、「なぜ、その文化や慣習を大切に残し、伝承しているのか」といった感性に寄った研究が進んでいます。

  • 山内

    私たちの研究分野と柴田さんの専門分野は、近い部分がありますね。

  • 柴田

    ある意味、非常に近いかもしれませんね。また、たとえば1つの文化では「綺麗」とされるものでも、別の文化では「汚い」とされる場合もよく見られます。そのような差異も文化人類学では注目されていて、感性というものが非常に重要視されてきています。

  • 山内

    そういった人間の感性や文化の背景などを追究していくと、多くの人たちに受け入れられるような技術が創れる可能性がありそうです。

左:株式会社リコー ICT研究所 システム研究センター イメージ&インテリジェンス開発室 イノベーティブイメージング開発グループ 山内拓也、右:作家 柴田勝家

左:株式会社リコー ICT研究所 システム研究センター イメージ&インテリジェンス開発室 イノベーティブイメージング開発グループ 山内拓也、右:作家 柴田勝家

技術のアナザーサイドを見つめ、問題提起する意義

  • 山内

    実は、私はSF小説をきちんと読んだことがなくて、柴田さんのデビュー作『ニルヤの島』が初めて読んだSF作品でした。最初の素直な感想を言わせていただくと、「読みにくい」ですね(笑)

  • 柴田

    おっしゃるとおり、読みにくいです(笑)

  • 山内

    でも、そこが柴田さんの狙いなんだろうなと感じました。物語に、いろいろな人の思考が入り乱れてきますよね。それらを読みながら体感したことで、将来的に他人同士のさまざまな知見が共有されて、情報がどんどん自分の中に入ってきたときに、その状況に混乱する自分が想像できました。

  • 柴田

    それは、ありがたいことです。まさに我が意を得たり、という感じですね(笑)。デビュー作では「個人が他人のことをわからない」状態で、さまざまな情報が頭の中に入ってくる技術や世界を描いています。そして、2作目にあたる『南十字星(クルス・デル・スール)』では、「全員が全員のことをわかってしまう」という技術・世界への変化を表現しました。

  • 山内

    ニルヤの島では1つの技術がきっかけで争いが生じていく様が描かれていますが、そういったことは今の時代でもありますよね。原子力なども、その一例だと思います。

  • 柴田

    SFの世界ですと、基本的には“良い技術”を考える作家さんが多いんですね。でも、ワシの場合、物語を動かす都合上、どうしても戦争が起こったりします(笑)。技術の進化自体は決して悪い面だけではありませんが、ワシは問題提起する側の立場でいたいと思っているんです。

  • 山内

    私も技術者として、問題意識や倫理観を持っていなければいけないと感じることが多いです。

  • 柴田

    「技術で世界が良くなった」という状態も、見方によっては「どこかで良くない部分が生じてしまう」と捉えることもできるわけなんですね。そういった部分を抜き出したのが『ニルヤの島』で、ユートピアともディストピアとも言えない“中間”の世界観を描いています。

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