倉田タカシ×INTERFACE
対談1/3
「技術がどう変化しているか」を想像することから、発想が生まれる:倉田タカシ
January 12, 2016
独自の世界観で注目を集めるSF作家・倉田タカシさんと、リコーの研究者・油谷圭一郎による、未来の技術やデバイスについての対談(1/3)。前編では、次世代デバイスの開発から、研究開発における3Dプリンター技術の優位性、発想論、さらに作家と技術者の共通点まで、2人のイマジネーションが融合しながら発火(IGNITE)していきます。
裁断しても機能する次世代デバイスの開発が進行中
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油谷:
私は有機機能材料という電気を流すプラスチックを用いたデバイス開発に携わっていて、現在は電気信号で色が変わる「エレクトロクロミック」という材料やデバイスの研究を行っています。電気を流すとモノの色が変わるインクのような技術で、たとえばこの試作品のメガネではレンズに仕込んであって、ボタンを押すと透明のレンズが黒色に変わります。
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倉田:
液晶とちがって、色が徐々に変わるんですね。
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油谷:
この材料自体もリコーでつくっていて、液晶などと比べて透明性が高いのが特長です。
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倉田:
大学院では、生命先端工学を専攻していらっしゃったということですが……
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油谷:
はい。化学と物理がクロスオーバーする領域で、有機系トランジスタなどを研究していました。
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倉田:
なるほど、いまの研究内容との接点がとても多いんですね。
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油谷:
そうですね。いまも学生時代から進みたかった領域に携わっていて、やりたいようにやらせてもらっています。倉田さんが今回書かれたストーリーにも関連しますが、私は入社以来、次世代の電子ペーパーを開発してきました。このエレクトロクロミックも、電子ペーパー向けの技術として開発されてきたものです。
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倉田:
非常に薄いし、いろいろなモノの表現に応用できるわけですね。
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油谷:
形状の加工しやすさも有機機能材料の特長で、普通のデバイスは切ったり、折ったりすると壊れますが、このメガネのレンズは裁断しても機能します。本当に偶然ですが、今回のストーリーと共通する部分が多くて、すごく共感しました。
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倉田:
実は、そのような研究が進んでいたとは知らなかったので、自分で書いた技術に合理性があったことに驚きました(笑)
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油谷:
ちなみに、このメガネはフレームを3Dプリンターで製作しています。
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倉田:
最近は、こういう試作品はほとんど3Dプリンターでつくれてしまうんですね。
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油谷:
特に、研究過程で少数だけ試作したいときにとても便利です。デザイナーが図面を自由に描いて、それをプリンターに入力すると、すぐにその形ができあがりますから。
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倉田:
以前は、寸法を細かく決めて、三面図などをつくって、工場に発注して……お金も時間もすごくかかったんですよね。
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油谷:
おっしゃる通りです。個人的には「日常生活で3Dプリンターってどう使うのかな」と思っていたのですが、研究開発やモノづくりのプロセスでの利用価値は非常に高いと感じています。
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倉田:
僕も、その分野で力を一番発揮するのだろうと思います。家庭用だと、日常的に立体物を出力する場面は、まだ想像がつかないですね。
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油谷:
倉田さんが執筆された長編小説『母になる、石の礫で』は、3Dプリンターが進化を遂げた未来舞台としていますが、「3Dプリンターはどう使えるか」というところから着想されたんですか?
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倉田:
「いろいろな基礎技術というものが、50年、100年のスパンで発展したときにどうなるか」と考えました。たとえば、1900年代初頭の電話と、現代のスマートフォンは、まったく別物ですが、「電話」という同じ名前で呼ばれています。そういった技術を取り巻く変化を自分が想像できるか、それが発想のもとでした。個人的に、「遠く離れたところを見る」という思考実験にすごくおもしろさを感じるんです。
左:株式会社リコー 未来技術研究所 システムデバイス開発室 油谷圭一郎、右:作家 倉田タカシ
「発想をして、どこに向かうか」 ――技術者と作家の相違点と共通点
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油谷:
小説を執筆されるときは、まず書きたいものがあって、そこからはじめるのですか?
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倉田:
僕の場合は「こういうものを書きたい」というのが最初にあって、そのゴールに向かっていくケースが多いですね。
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油谷:
倉田さんの小説は、物語のスケールが「すごく飛んでるな」と感じます。僕たちも「要素技術を使って何ができるか」といろいろ考えますが、「電子ペーパーができるだろう」くらいの発想になってしまって(笑)。それに比べて、紙がオフィスになって、さらに街になっていくという発想はすごいなと思いました。
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倉田:
SFの場合は、「発想をして、どこに向かうか」という目的が、実際の産業のための研究と異なっていて、極論すれば「物語として派手になればいい」という側面もありますから(笑)。なので、「なるべく遠くへ飛ばして、荒唐無稽な方向に膨らませたい」と考えて、あとから「これはもっともらしいか?」と確認していきます。
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油谷:
倉田さんの作品は、フィクションではありますが、具体的な技術や科学に関する詳しい知識に基づいて書かれていますよね。そういうリアルさがなければ、荒唐無稽なだけでおもしろい物語にはならないのだろうなと思いました。
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倉田:
ありがとうございます。一応、SFなので、「科学的に、ある程度は実現可能そうだ」という印象を持ってもらえるように書くことは大切にしています。「物語的に意味があるか」ということは、たぶん研究開発でいうところの「社会的に意味があるか」「社会的に有用か」という視点にかなり近いんじゃないでしょうか。
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油谷:
お話をお聞きすればするほど、研究開発のテーマ設定や立ち上げのやり方に似ているように感じます。