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磯光雄×OFFICE DEVICE

対談2/3

ツールが「人間の脳が持っていない新発想」をもたらす:磯光雄

December 16, 2014

アニメーター/脚本家の磯光雄さんとリコーの研究者 齊所賢一郎による、未来の働き方についての対談(中編)。前編の「未来の仕事やオフィス環境」からさらに発展し、未来に向けた「人と機械、そして人と情報の新たな関係」へと話は広がります。

「人と機械、そして人と情報」の、新たな関わり方がはじまる

  • いま、仕事や作業をするときに、スマホやパソコンといったツールが、身体と同等レベルの存在になりつつあると思います。たとえばアニメーションでも、コンピュータソフトなしには成立しない状態になっていますし。

  • 齊所

    まさに私が研究開発している「人と機械、人と情報の新たな関わり方」も同じで、HUD(ヘッドアップディスプレイ)と身体の連動性や、人間の認知に働きかけるような構造に取り組んでいるところです。

  • アニメーションの世界では、映像を頭に思い浮かべる作業を、ソフト側に合わせた発想で組み立てたりします。ほかの職業の方も同じだと思いますが、ツール自体が「人間の脳が持っていない新発想」をもたらすことが当たり前になっている。

  • 齊所

    「ツールが行動を変えていく」ということですね。私たちがつくっているHUDも、磯さんのアニメ作品『電脳コイル』に出てくる電脳ペットのように、「AR(拡張現実)」によって人間の行為が変わり、その先に起こるストーリーが変わるというところまで見据えて研究しています。HUDのビジュアルイメージとしては、これまで自動車のメーターなどで表示していたデータ情報が空中に現れるような感じですね。

  • その“ビジュアル化”って、人間の脳内情報の“外部化”だと思うんですよ。知性をリソースとして取り出す“オブジェクト化”と言えるかもしれません。

  • 齊所

    そう、まさに、ドライバーの脳の“外部化”ですね。特に次世代HUDでは「人間が外界を見る技術」と「機械が人間を見る技術」の両方が不可欠。「何キロで走行中か」「対象物はどれくらい先にあるか」「いま、ドライバーがどこを見ているか」という情報をすべて特定させて、ビジュアル化していく。そして、そういうさまざまななデータ情報と人間の視界をシームレスに合わせることで、人間の機能拡張を実現しようとしています。

左:アニメーター/脚本家 磯光雄、右:株式会社リコー フォトニクス研究センター 製品開発室 映像モジュール開発グループ 齊所賢一郎

左:アニメーター/脚本家 磯光雄、右:株式会社リコー フォトニクス研究センター 製品開発室 映像モジュール開発グループ 齊所賢一郎

機械の導き出す“解”が、人間の行動と成果を変える時代に

  • それは、インターフェースの発達そのものですね。もし、自動車単体とそのドライバーのデータだけでなく、周りの自動車のデータともリンクしたらどうなっていくんですか? 「あのドライバー、居眠りしてるぞ」って、外からすぐにわかるとか(笑)

  • 齊所

    今後、自動運転の自動車が増えると、そんな風になっていくと思います。そのデータをどう可視化して人間に伝えるかが、今後の研究のテーマですね。

  • そういう情報が文字以外で伝達されたらどうなるんだろう、という妄想も膨らみますね。

  • 齊所

    そうですね。たとえば現状のカーナビでは文字や音声でメッセージを伝えますが、ナビの指示を誤解して、手前の交差点で曲がってしまうということも珍しくありません。私もよく間違えます(笑)。そうならないように、「文字や音声で理解させるのではなく、脳髄ですぐにわかる」ような研究が進行中です。「文字を少なくする」「図形にする」などのビジュアル化やノンバーバル(非言語的コミュニケーション)化は、そのひとつですね。

  • 「人と機械の関係」でいうと、最近気になったニュースが2つあります。ひとつは「将棋ソフトがプロ棋士にはじめて勝った」こと。もうひとつは、「サッカーのドイツ代表チームが、IT企業のデータシステムがつくった戦略を用いてW杯で優勝した」というニュース。どちらも、機械が勝手に情報収集して、勝手に解釈して導き出した、人間には発想できなかった“解”が勝因なんです。

  • 齊所

    人間が持つ有限な処理能力を超えたところにある“合理的な解”みたいなものを、機械が出してしまえるわけですね。

  • こうした 「機械学習」によって出た結論を人間が取り入れてみたら、案外いけた(笑)。これって、ここ最近になって、人類がはじめて遭遇した現象なのではないかと思います。人間以外の知性とやっと出会えた、というか。そういうものが、職場にも登場してこないかなと妄想してます。

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